雇用維持スキームの最終評価報告書
 ―内国歳入庁及び財務省

コロナ禍による企業や労働者への支援策として、期限付きで導入されたコロナウイルス雇用維持スキームに関する評価報告書が、実施を担った内国歳入庁及び財務省により公表された。スキームは、雇用主に対する賃金補助を通じて、企業の廃業を防止し、約400万人分の雇用を保護したほか、所得保障による消費拡大などで経済を下支えし、また速やかな経済回復に寄与したと分析している。

約400万人分の雇用を直接保護、利用企業の2割の廃業を防止

「コロナウイルス雇用維持スキーム」(Coronavirus Job Retention Scheme)は、新型コロナウイルスの影響を被った雇用主が、労働者を一時帰休にする場合、その期間の賃金等について最高で8割(注1)を雇用主に助成する制度だ。感染拡大初期の2020年4月に導入され、翌2021年9月の終了までに対象となった労働者は延べ1170万人(注2)、支給総額は700億ポンドとされる(注3)。イギリスでは初めての全国的な雇用維持スキームの実施となった。

図表:スキームの対象労働者の推移
画像:図表
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出所:HM Revenue and Customs 'HMRC coronavirus (COVID-19) statistics新しいウィンドウ'、Johns Hopkins University 'COVID-19 Dashboard新しいウィンドウ'ほか

今回、歳入関税庁と財務省が公表した報告書(注4)は、2022年10月の中間報告(注5)に続き、スキームの実施状況やその影響等について分析している。これによれば、スキームの実施によって直接保護された雇用は約400万人分(注6)で、その効果はコロナ禍の影響が最も厳しかったスキーム開始当初で特に強かったとみられる。分析によれば、スキームの実施期間中に適用対象となった労働者の83%が2022年6月時点(スキーム終了から9カ月後)で就労しており、うち54%は制度適用時と同じ雇用主に雇用されていたとされる。また、スキーム導入による世帯当たりの所得(税引き後)への効果(注7)は、ピーク時の2020年5月時点で、平均10%と、特に中位階層で大きな効果があったと分析している。

一方、雇用主調査の結果によれば、スキームを利用した雇用主の20%(約25万組織相当)が、スキームにより廃業を免れたと回答、さらに10%が一時的な休業をせずに済んだとしている。スキームがなければ整理解雇が必要となっていただろうとする雇用主は84%、うち68%が、労働者を解雇せずに済んだことで、経済活動の再開に際して必要となったであろう採用や訓練のコストが抑えられたと回答している(注8)。加えて、雇用主の多く(53%)が、スキームにより円滑な回復が可能となったとしている。なお、期間中に実施された雇用主負担の増加や、部分休業への適用拡大(注9)といった制度変更は、雇用主のスキームからの離脱を促したとみられる。

また、直接保護された雇用や企業以外にも、スキームはより広く経済を支える役割を担ったとしている(注10)。雇用主調査によれば、非常に不確実性の大きい状況にあって、スキームは企業にとっての確実性を増加させた、と述べている。一方、労働市場への潜在的なマイナスの影響をめぐっては、労働移動の阻害による生産性への悪影響は見られず、また近年の非労働力率の上昇にも影響した証拠はほぼなかったとしている。なお、スキーム終了時には114万人の対象者が残っていたが、終了による失業状況への影響もほぼ見られなかった(注11)

速やかな提供と誤給・不正受給リスクの管理のバランスを実現

報告書は、スキームの速やかな提供(注12)や制度の使いやすさと、誤給・不正受給リスクの緩和との間のバランスを取ることができた、と評価している。スキームの実施期間を通じた誤給・不正受給額の比率は、当初想定された5~10%の下限に近い5.1%(35億ポンド相当)と推計されている。スキームが不正の標的になることや、一定の誤申請の発生は、導入当初から想定されており、このためスキームの設計を通じて、できる限り支給に先立って誤給・不正受給を防止することが目指された(特に組織犯罪に関連したリスクを懸念)。結果として、2万2000件超(約1億ポンド超相当)の疑わしい申請が支給に先立って防止されたほか、コロナ関連の取り締まり活動のために設置されたタスクフォースが、現在も引き続き回収にあたっているという(注13)。このほか、自発的な申告や返納により10億ポンド超が回収されたとしている。

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