州や市の一部が最低賃金を引き上げ
 ―物価上昇反映し、時給19ドル超えの市も

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  • 国別労働トピック:2023年7月

米国の州や市などの一部が2023年7月1日、最低賃金を引き上げた。物価の上昇を反映してワシントンD.C.では時給17ドルに到達。カリフォルニア州のウェストハリウッド市では時給19ドルを超え、全米で最も高い水準になった。

首都や西海岸都市部などで引き上げ続く

米国では連邦政府のほか、各州やその州内の主な市、郡などが独自に最低賃金を設定している。特定の業種や職種を対象にした最賃を設けるところもある。労働者には原則として、それぞれの地域で最も高い水準の最賃が適用される。連邦政府の最賃は2009年7月以降、時給7.25ドルで変わっていないが、全米50州のうち約半数は毎年のように引き上げを行っている。

最賃の改定方法や改定時期は各地で異なる。改定方法は、(1)毎年の消費者物価指数等をもとに所定の計算式を適用し、物価に連動した額へと自動的に改定する、(2)目標額を定めて毎年段階的に引き上げる、(3)連邦最賃の改定時など必要に応じて改定する、におおむね分かれる。

改定時期としては、暦年の下半期が始まる7月1日が年初に次いで多い。6月1日改定のコネチカット、9月30日改定のフロリダの両州を含めると、この時期に4つの州と首都コロンビア特別区(ワシントンD.C.)、西海岸カリフォルニア州の主要都市(サンフランシスコ市、ロサンゼルス市など)、イリノイ州シカゴ市などが最賃を改定している(図表1)。

図表1:米国の各州・市等における最低賃金の引き上げ状況(2023年6~9月) (単位:ドル/時給)
画像:図表1
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注:引き上げ時期(改定額の適用日)は備考欄に記載の2州を除き、いずれも2023年7月1日。

出所:経済政策研究所(EPI)ウェブサイト等より作成

各州の改定状況

コネチカット、ネバダ、フロリダ各州の引き上げ額は、いずれも州法に定めた段階的引き上げのスケジュールに基づく。コネチカット州は2023年6月1日に時給15ドルと引き上げの目標額に達し、次回(2024年1月1日改定)からは、労働者の雇用コスト指数(賃金・給与)の上昇に連動する形で改定する。

ネバダ州の最賃(健康保険非提供事業者対象)は2024年7月1日に目標額の時給12ドルに届く。その際、健康保険を提供する事業者か否かで設けていた時給1ドルの差を撤廃し、時給12ドルに統一する予定にしている。

オレゴン州は昨年(2022年7月1日改定)に段階的引き上げのスケジュールを終え、今回から物価連動方式へと移行した。同州では「都市部」「非都市部」「ポートランド都市圏」でそれぞれ異なる水準の最賃を設定。「都市部」に比べて「非都市部」は1ドル低く、「ポートランド都市圏」は1.25ドル高い水準としている。

首都ワシントンD.C.は2020年7月1日に時給15ドルへと改定し、段階的な引き上げを完了した。2021年からは物価に連動する方法で改定しており、今年は時給17ドルに乗せている。

ウェストハリウッド市が全米最高額に

市や郡などの最賃改定状況を見ると、物価上昇に連動した引き上げが目立つ。イリノイ州シカゴ市(21人以上規模対象)では、一昨年の時給15ドルへの到達後、物価連動方式で改定している。ただし、改定額の算出に用いる物価上昇率はどんなに高くても2.5%を上限(「消費者物価指数の上昇率」か「2.5%」のどちらか低い方)とし、算出額は0.5ドル単位で四捨五入する。前年の時給15.4ドル×1.025(物価上昇率の上限)=15.785→時給15.80ドルという計算式で算出したとみられる。

カリフォルニア州ウェストハリウッド市では「50人以上規模」「50人未満規模」「ホテル従業員」をそれぞれ対象とする最賃を設けていたが、最も高い「ホテル従業員」対象の水準に統一した。今回の「ホテル従業員」の最賃は物価連動方式で改定した。改定額の算出に用いる物価上昇率は4.0%を上限(「消費者物価指数の上昇率」か「4.0%」のどちらか低い方)とし、算出額は0.5ドル単位で四捨五入する。このため、改定前の時給18.35ドル×1.04(物価上昇率の上限)=19.084→時給19.08ドルという計算式で算出したとみられる。

時給19.08ドルはワシントン州シアトル市の時給18.96ドル(2023年1月1日発効)を抜き、特定の業種や職種を対象としない最賃としては、全米トップの水準となった。このほか、時給19ドルを超す最賃としては、国際空港があるワシントン州シータック市の接客・運輸労働者等対象(19.06ドル、2023年1月1日発効)、ロサンゼルス市の客室60室以上のホテル従業員対象(19.73ドル、2023年7月1日発効)などがある。

ウェストハリウッド市では2022年1月、それまで「ホテル従業員」と「50人以上規模」が時給14ドル、「50人未満規模」が時給13ドルだった最賃を、それぞれ段階的に引き上げて今回の統合に至るスケジュールを組んだ。その際、企業が改定後の最賃を適用した場合、(1)破産や閉鎖、(2)従業員の20%以上の削減、(3)労働時間の30%以上の減少、のいずれかを招くことを証明できれば、適用を1年間免除(州最賃を適用)する措置を設けている。企業はこの措置の適用申請について従業員に書面で通知したうえで、必要な書類を作成して市当局に提出する。市は財務状況等を調査のうえ適用の可否を判断する。なお、カリフォルニア州の最賃(州最賃)は2023年7月1日現在、企業規模にかかわらず時給15.5ドルとなっている。

参考資料

  • シカゴ市、ウェストハリウッド市、経済政策研究所(EPI)、日本貿易振興機構、各ウェブサイト

参考レート

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