年金制度改革の成立と全国的な抗議行動(2)
 ―ITUCは労働者の権利が政府によって尊重されていないと指摘

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年7月

3月20日に国会で可決成立した年金制度改革に対するストライキは、主要業種において従業員のスト参加率が5割に迫る勢いとなった。3月には数日間継続するストライキが製油所や廃棄物収集部門で行われ、国民生活に影響が出始めた。そのため、政府はサービス再開のために従業員の徴用に着手した。国民生活に対する影響は決して小さくなかったが、ストライキに対して国民の支持は一定数得られており、労組は責任ある行動をとっていると評価する国民も少なくなかった。一連の年金制度改革に対する労働者の抗議行動に対する政府の対応については、ITUC(国際労働組合総連盟)が6月30日に公表したレポートにおいて、フランスを労働者の権利が政府に尊重されていない国に挙げている。

主要業種で4割を超える従業員スト参加率

1月19日から6月6日までの全国的な抗議行動にあわせてストライキが行われたが、主要業種のストライキの従業員参加率を示したのが図表5である。SNCFはフランス国鉄、EDFはフランス電力公社、エンジーはフランスガス公社を前身とするガス・電力供給会社である。

図表5:主要業種のストライキ参加率 (単位:%)
  SNCF EDF エンジー 教員
(初等教育)
国家公務員 公立病院
1月19日 46.3 46.5 40.0 42.35 29.5 19.6
1月31日 36.5 40.3 34.3 26.66 21.0 7.8
2月7日 25.0 39.9 24.6 14.6 11.4 4.5
2月16日 14.0 23.1 18.5 7.9 4.9 2.6
3月7日 39.0 47.65 39.4 35.35 24.4 9.4
3月14日 15.0 27.4 19.2   3.0 4.5
3月23日 25.0 25.3 27.2 23.22 15.9 11.2
3月28日 16.5 21.5 21.0 7.6 6.3 5.1
4月6日   19.9 19.2 7.87 6.6 7.2
4月13日   20.0 15.3 4.13 3.97 5.7
6月6日   17.8 12.5 4.56    

出所:Le Figaro, Publié le 28/03/2023等を参照して作成。

年金制度改革法案の発表後、最初に行われた抗議行動に合せて行われた1月19日のストでは、鉄道、発電、教員など公共部門においてストライキが行われ40%を超える職員が参加するストライキとなった。2回目の1月31日のスト参加率は、鉄道、エネルギー部門、教員、公務員ともに下落したのに対して(図表5参照)、デモ参加者の規模は拡大した(図表1参照)。これは民間部門の従業員が合流したためとみられている(注1)

4回目(2月11日)の抗議行動は、2回目(1月31日)の抗議行動参加者よりも少なかったものの、3回目(2月7日)よりも増加したが、これは大都市だけでなく中小規模の地方の町において抗議行動が広がったためであり(注2)、全国230都市において行われた(注3)。この日の抗議行動では、より多く人が参加できるように、交通関連のストが行われなかったことが功を奏したと言える(注4)

空港のストによって国内線の20~50%減便

図表5に挙げた以外にも空港や港湾、製油所においてストが実施された。

1月19日から6月6日までに行われた全国的な抗議行動に合わせて、空港では、特にパリ・オルリー空港(国内線)においてストライキの影響を受けて20%~50%の減便となった(注5)。3月7日、8日には国際線のシャルル・ド・ゴール空港でも20%の減便となり、3月23日には空港に向かう道路が封鎖されたため混乱が生じた。また、3月28日と4月6日にはオルリー空港以外の国内線(マルセイユ、ボルドー、リヨンなど)でもストライキが行われ、それぞれの空港で20%の減便となった。

製油所における政府によるストライキ介入

公共サービスを担う労働者によるストライキは、国民の日常生活に影響を与える場合があるため、関連部門の労働者のストライキ権は一定程度制限されている。今回の年金制度改革のストでは、製油所と廃棄物回収部門において政府がストライキに介入し徴用が行われた(注6)

CGTは3月7日、国内のすべての製油所への燃料輸送の遮断を発表した(注7)。CGT化学によると、トタル・エネルジー、エッソ・エクソン・モービル、ペトロイネオス各社の製油所は抗議行動の影響を受けた。

トタル・エネルジーのフランス最大のノルマンディー(ゴンフルヴィル・ロルシェ)製油所では午前勤務のオペレーターの75%がストに参加したほか、ラ・メード(ブーシュ・デュ・ローヌ県)のバイオ製油所では90%の従業員が参加、ドンジュ(ロワール・アトランティック県)のバイオ製油所でも多数の従業員がストに参加した。フランス北部ノール県のトタル・エネルジーの倉庫では、勤務担当の職員全員がストライキに参加したため、出荷は完全に停止された。エッソ・エクソン・モービルのグラヴァンション(セーヌ=マリティーム県)製油所ではストライキ参加者は40%に過ぎないが、労組側は燃料輸送を阻止するには十分な人数だとしている。

トタル・エネルジーの製油所におけるストライキは幾度か延長されたため(注8)、3月20日の時点で、フランス南部ブーシュ・デュ・ローヌ県などの給油所の半数で燃料が不足しており、37%で在庫が枯渇している状態になった(注9)。そのため3月21日には、県の命令により、フォス・シュル・メール石油貯蔵所の人員のうちガソリンの供給に必要な最低限の従業員に制限して徴用を開始した(注10)

3月23日の時点において、最も影響を受けていたのはフランス西部ロワール・アトランティック県で、53.37%のガソリンスタンドで少なくとも1種類の燃料が不足した状態となった。同県のドンジュ製油所が燃料の出荷停止を続けているためだ(注11)

3月24日になってCGTは3月31日までのストライキ継続を決定したが、同日、ドンジュ製油所では、午前勤務と午後勤務の従業員それぞれ3名計6人が県知事によって徴用された。労組はストライキ権の侵害だと主張し、スト参加者らはバリケードで製油所の入口を封鎖したが、3名が現場に到着するとバリケードが解除され、車両基地につながるパイプラインのバルブを開ける作業が行われた(注12)

ノルマンディー地方セーヌ・マリティーム県ゴンフルヴィル・ロルシェ製油所でも3月24日、パリの空港に対する灯油供給を再開するためにエネルギー移行省が徴用の措置をとった。同省によると、この供給は最重要であり、再開のために必要な最小限の従業員4人を徴用し、作業に当たらせたとしている(注13)。同製油所では4月3日も午前5時から徴用が開始され、6日午後9時まで行われる予定だったが、ルーアンの行政裁判所は4月6日、ストライキ権に対する重大かつ明らかな違法が確認されたとして、徴用の中止を命令し、予定時間に先立って徴用を終了した(注14)

廃棄物収集において672人を徴用

パリの廃棄物収集部門において、労働者が23年3月7日からストライキを行ったため、路上に置かれた廃棄物が回収されず、3月15日の時点でパリ市内の街路には約7,600トンの廃棄物が山積した(注15)

2023年3月16日になって市内の最低限の衛生を確保するために、県警察によって管理・運営会社11社が接収され、674人のゴミ収集員および運転手が徴用された(注16)。4つの廃棄物分別センターが警察によって一時的に封鎖が解除され、206台のトラックが廃棄物収集の作業を開始した。

徴用はスト権を規制することになるが、健康と安全に関する国家の特権を定めた1884 年の法律(loi de 1884 qui fixe les prérogatives de l’État en matière d’hygiène et de sécurité.)に基づいて、ストライキ権を尊重しつつ、最低限の国民サービス提供を可能とする範囲内で行ったと県は発表している(注17)

国民の反発の大きさ

年金制度改革の骨子が発表された1月11日の直後に行われた世論調査によると、国民の59%が改革の内容に反対と回答した(注18)。1回目の全国的な抗議行動が実施された1月19日の後の調査では反対する国民の割合が上昇し72%になった(注19)。31日には年金改革に反対する127万人のデモ行進とストライキが行われたが、経済紙Les Echosなどによる世論調査では、国民の56%が年金制度の改革の必要性は認めているが、61%が改革反対の抗議行動を支持すると回答している(注20)

この国民の改革に反対する意向は、国会での審議が始まった23年2月になっても大きく変化することはなく、1月に2回の全国的な抗議行動が展開された直後に行われた世論調査の結果によると、抗議活動への動員を72%が支持しており、69%がストライキの実施を支持すると回答している(注21)。また、労組に対しても支持する声が大きく、国民の54%が「労組は責任ある態度を示している」と回答している一方で、この時点で年金支給開始年齢を64歳に引き上げる改革案を支持する国民は26%に過ぎなくなっていた(注22)

法案が上院で審議されていた3月11日の時点での調査では、国民の82%が大統領は改革について労働組合と協議を行う必要があると回答している(注23)。また、運輸や製油所など経済の特定部門におけるストライキや封鎖についても、国民の半数以上に支持されている(ストライキに全く賛成が32%、「どちらかといえば」が22%で合計54%)(注24)

年金改革法案が国会で通過した後の時点でも国民の反発は収まることはなく、23年3月末の時点の世論調査では、国民の69%が年金制度改革に反対すると回答し、70%が労組による抗議行動を支持すると回答している(注25)。また、年金制度改革関連の法律に関する憲法評議会の判断が出て官報に掲載され公布が行われた後の調査結果でも、国民の64%が改革になおも反対していると回答し、そのうち45%はより厳しい抗議行動を望んでいると回答している。年金改革に対する国民の反発の大きさを伺い知れる調査結果である(注26)

労働組合の国際組織からの批判

ITUC(国際労働組合総連合)が6月30日に公表したレポートによると、世界の42%の国々において抗議活動を行う労働者が警察の暴力に直面しているため、表現と集会の自由の権利はで制限されている。その上で、フランスは、ミャンマー、韓国、エスワティニ王国(旧スワジランド王国)、ペルー、イランとともに、労働者の権利が政府に尊重されていない国に挙げられている(注27)

レポートでは、フランスにおける年金制度改革をめぐって、議論の尽くされていないまま非民主的な政治手法によって改革が決定されたことに対して、労働組合は合法的な抗議デモを行ったが、政府は警察による暴力、無差別逮捕、治安部隊による催涙ガス攻撃等の対処を講じたことを重く受け止め、フランスは労働者の権利が制限されている国だと批判している(注28)

参考資料

(ウェブサイト最終閲覧日:2023年7月19日)

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