食事宅配会社に社会保険料追徴命令
 ―配達員と雇用契約の締結を命じる判決も

カテゴリー:労働条件・就業環境労使関係

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  • 国別労働トピック:2022年10月

パリ地方裁判所は2022年9月2日、フードデリバリーサービスのデリバルー(注1)に対して、社会保険料の納付漏れとして、追徴分を含む970万ユーロをUrssaf(社会保険料徴収機関)に支払うよう命じた。同社は22年4月に、雇用契約を締結すべき配達人を独立自営業者の身分で就労させた「偽装請負の容疑」で有罪判決を受け、経営者や管理職の者に対して多額の賠償金の支払い命令が出されている。また同6月には労働裁判所から配達員と雇用契約を締結すべきとする判決も出された。

拡大するフードデリバリー市場

コロナ禍で食事の宅配事業は拡大を続けており、外食・中食市場の調査会社NPDグループによると、食事の配達件数は2021年に3.18億回に上り、コロナ前と比較して85%も増加した(注2)。その後も増え続け、2022年第1四半期に食事の宅配サービスは、前年同期比で35%増加した(2021年第1四半期は、テイクアウトを除き、レストランの営業が禁止されていた)。他方、レストランやカフェ、惣菜店など中・外食産業の2019年の売上は570億ユーロだったが、21年は19年と比べて35%減少した。コロナ禍で食事宅配サービス業が拡大し、フランス人の日常に根づいてきた証と言える(注3)

宅配専門料理店では、注文をインターネットのみで受けつけて時間短縮を図り、配達時間もAIなどを活用して交通状況も加味した受注密度の最適化を行っており、これが食事宅配事業の発展につながったとNPDグループは分析している。

社会保険料支払い命令の判決(22年9月)

パリ地方裁判所は2022年9月2日、食事宅配サービス大手デリバルーに対して、970万ユーロの社会保険料をUrssafに支払うよう命じる判決を下した(注4)。これは2015年4月1日から2016年9月30日までの期間の納付漏れと追徴分を含めた額である。なお、デリバルー側は判決を不服として控訴する意向を表明している。

デリバルーはこれに先立つ4月に、パリ司法裁判所での偽装請負の容疑で有罪判決を受けた。デリバルーはこの判決を不服として控訴したが、Urssafは有罪判決を根拠に、デリバルーを相手取って未払いの社会保険料の支払いを請求する訴えを起こしていた。

偽装請負に関する刑事裁判(22年4月)

偽装請負に関する裁判は、3月8日からパリ司法裁判所(軽罪裁判所、tribunal correctionnel de Paris)で開かれ(注5)、デリバルーが独立自営業者の身分の配達人を用いる雇用隠しに関して審理された。この裁判では、独立自営業者としての自由がないと主張する2,000人以上の配達員との間に「従属的関係」があるか否かについて、内務省の不法就労対策本部(OCLTI)が2015年から2017年の期間に関する事実を調査した。その結果、検察側は、デリバルーが懲戒(罰則)を設けて配達員に一連の義務を課していたことから従属関係があると判断した。デリバルーは配達員に対して、制服の着用、受注ノルマの割り当て、顧客やレストランのオーナーの前でとるべき態度などをルール化し従わせていた。これについて、デリバルー側は、販売員は独立した自営業者で協力関係にあると説明している。配達員の要望に応じて発注しており、雇用契約の関係にはない柔軟性があるとデリバルーは説明している。

だが、裁判所が下した4月19日の判決では、デリバルーにとって配達員は毎日見積もられる注文数に合わせて調達する要員であり、配達に対応させる「調整変数」« variables d’ajustement »に過ぎないとして、デリバルーと配達員には恒常的な従属関係が存在すると判断した。さらにこうした行為は、労働法で規定される社会保険料の支払い義務を意図的に回避する行為だとして、刑事罰を与えた(注6)

具体的には、法人としてデリバルーに対して、同種の違法行為における最高額である37万5,000ユーロの罰金の支払いを命じ、2015年から2017年にかけて経営者であった2人についても有罪と認定し、執行猶予付きの1年の拘禁刑及び3万ユーロの罰金と、5年間は会社経営者となることを禁止する判決を言い渡した。さらに、別の元管理職1人に対しても、違法労働の共犯者として執行猶予付きの4カ月の拘禁刑と1万ユーロの罰金の判決を下した。

その上で、同社と3人の被告には、刑事告訴した原告人(約120人の元配達員)へ精神的苦痛に対する損害賠償金として1,000~4,000ユーロの金額を支払うよう命じた(注7)。また、原告の5つの労働組合(CGT、Union SolidairesSud commerces et servicesSud commerces et services Île-de-FranceSyndicat des transports légers)に対して、損害賠償金として各労働組合に5万ユーロずつ支払うように命じた。さらに、この判決内容を現在の配達員へ周知するために、同社のホームページ及び事業所で1カ月間掲示するよう命じた(注8)

この判例と同じように雇用契約の締結を求める70人以上の配達員の権利擁護に取り組む弁護士は、「今回の判例はあくまでもデリバルーの案件だが、他の配達員が訴訟を起こす予定もあり、同じ原則で運営され独立自営業者の地位を濫用するすべての企業への警告となるだろう」としている(注9)。だが裁判官は、同じデジタルプラットフォームを介する事業に対して区別なく雇用契約を締結すべきとの判断を下すわけではないとしている(注10)。デリバルーの食事配達には特異性があり、商品のオンライン販売(Vinted または eBay)または宿泊サービスの提供(Airbnb)などの他のプラットフォームとは性質が異なるとしている。

雇用契約の締結を命じる判決(22年6月)

デリバルーに関連する被用者の地位をめぐる裁判は、2021年4月のパリ控訴裁判所の判決をはじめとして6件あり、これらはデリバルー側の主張が認められ元配達員は敗訴している(注11)。デリバルーはこれらの判決に基づき同社の主張の正当性を訴えかけている。22年4月の判決にしても、2016年以前の契約に関するもので、対象期間が比較的古く、近年は配達員が自由に就労時間を選べるような体制を整えたと反論している。だが、22年6月の判決では2017年以降の期間についても、元配達員が求める雇用契約の締結し直しを認める内容となった。

パリ労働裁判所は、6月3日に行われた審議で、配達員4人と2016年2月から2019年4月までの期間の業務委託契約を雇用契約として締結し直す必要があると判じた。その上で、同社は配達員4人に対して合計で約24万ユーロを支払うよう命じた(注12)。これには4人のうち1人の元配達員に対して12万8,548ユーロという記録的な金額の支払い命令が含まれている。この判決内容に従って、他の10以上の雇用契約締結を求める案件が改めて審議された結果、労働裁判所の6月24日の判決は、6月3日の判決と同様にデリバルーは雇用契約を改めて締結すべきであるとの判断が下された。

(ウェブサイト最終閲覧:2022年10月14日)

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