頻発する格安航空会社におけるストライキ
 ―背景にはコスト削減と過酷な労働条件

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2022年7月

新型コロナウイルス感染拡大が落ち着きを見せ、航空機利用が回復する中、ライアンエアーやヴォロテア、ヴエリングなど格安航空会社におけるストライキの予告や決行が相次いでいる。その背景には、フルサービスキャリアと比べて労働条件の厳しいことや、経営側が労使協議に応じない姿勢の問題がある。また、これまでフランスベースのパイロットと客室乗務員は、コロナ禍の経営危機を乗り越えるために賃下げを受け入れてきたが、航空業界が回復する中で賃金をコロナ禍以前の水準に戻すことや労働条件の改善を求めている。

コロナ禍前の賃金水準回復を求めるスト

アイルランド企業であるライアンエアーのパイロットは、2021年に新型コロナウイルス感染拡大による旅客数激減という危機的な状況を乗り越えるために、20%の賃金引き下げを受け入れた。しかし、2022年に入って航空機の運航が回復してコロナ禍前と同様に就労しても、賃金は下げられたままとなっているため、パイロットの労働組合であるフランスのSNPL (syndicat national des pilotes de ligne)は、賃金を速やかに以前と同じ水準に戻すことを求めたが、経営側は労使協議に応じなかった。2021年の賃金引下げの労使合意では、2025年までに緩やかに業績が回復することを想定し、徐々に賃金を以前の水準に戻していくことで合意していた。ライアンエアーのマイケル・オーレアリー社長は、2022年4月現在では期待していた非常に力強い業績の回復には達しておらず、徐々に賃金を以前の水準に戻すことは受け入れ難いとして、労使協議を拒絶した(注1)

労組側の要求に経営側は全く応じないため、4月9日には労働条件に関する労使協議の開催などを求めて、客室乗務員によるストライキが行われた(注2)。これに対して経営側は、ポーランドやリトアニアをベースにする乗務員を呼び寄せて対応にあたったが、同社の運航は大幅に乱れ、最大10時間の遅れと1便の欠航に繋がった(注3)

さらにSNPLは、マルタ・エアー(ライアンエアーの子会社で実質的にライアンエアーが運営)のフランスをベースとするパイロットの賃金や有給休暇の復活や時間外勤務手当の計算方法や搭乗時間(就労時間)等に関してフランス法の遵守を求めて、4月16日のストライキ実施を予告した。その後、パイロットの67%がストに参加する意向が明らかになり(注3参照)、経営者側は労使交渉に応じる姿勢を示したため、4月14日にストライキ通知が解除された。同社は、特にパイロットの給与の引き上げを検討するとともに、年次休暇の改善や残業割増賃金に関する要求に対しても早急に対応することを約束した(注4)

客室乗務員への解雇通告に対するスト実施通告

ライアンエアーでは、前述のストライキに先立つ22年3月、客室乗務員の解雇通告に抗議するストが通告されていた。フランスで採用された客室乗務員2人が、勤務中に乗客提供用の炭酸飲料水とポテトチップスを代金の4.3ユーロの支払いをせず食べたことを知った客室責任者が問題視し、その数日後の3月8日、この客室乗務員は出勤停止を言い渡され、解雇手続きが開始された(注5)。会社側は、乗務中の飲食は明確な規則違反となるため解雇手続きを開始したとしている。なお、ライアンエアーはフランスで雇用された従業員に関係する場合でもフランスの労働法の適用を認めていない。そのため、航空会社の客室乗務員で構成される労働組合SNPNC (Syndicat national du personnel navigant commercial)は、民間航空法典(Code de l’aviation civile)で規定されている休憩時間の遵守するように求めることも視野に入れて、抗議を行った(注6)

SNPNCはまた、今回の解雇手続きは利益至上主義の企業姿勢と客室乗務員の日常的に劣悪な待遇によって引き起こされたものだとして、会社側の考えを強く非難した。その上で、解雇手続きの中止と乗務員の飛行中の飲食物の提供を求めて、3月13日からのストライキを通告した。このような労組側の厳しい姿勢は、フランスのライアンエアーでは初めての経験だったこともあり(注5参照)、経営側は解雇手続きを撤回する意向を示した(注6参照)。

なお、ライアンエアーでは、ベルギーにおいても同じ4月に賃金引上げなどを求める乗務員によるストが実施されたほか、スペインにおいても7月に客室乗務員による労働条件の改善を求めるストが実施された(注7)

コロナ禍の賃下げ、さらにウクライナ情勢の影響による賃下げ提案

スペイン系の格安航空会社のヴォロテアでは、コロナ禍の経営危機を乗り越えるために、機長の賃金を25%、副操縦士は10%削減することに労使で合意した。この賃金引き下げは、2022年初めまでの労使合意であったが、3月になって経営側は、ウクライナ情勢などを理由に、新たな賃金引き下げを求めてきた(注1参照)。

SNPLは、同社の賃金は業界内でも低い水準にあるにも関わらず、パイロットの更なる賃金引き下げを求めていることは、受け入れ難いとしつつ(注8)、2022年の同社の業績予想は、2019年の実績を大きく越えていることを挙げて、経営側の姿勢を批判した。さらに労働条件がここ2年間に悪化し続けている上、格安航空会社はコロナを理由に更なる労働条件の悪化を強いて、いわゆるソーシャル・ダンピングを引き起こしていると指摘している。そのような背景から、SNPLは、基本給の見直しと、夜間労働の割増賃金の支払い、フライト予定の早期固定(現行制度では、24時間から48時間前の直前の変更があり得る)などの労働条件の改善を求めた(注1参照)。しかしながら、経営側は労使協議を拒否して、従業員に新たな賃下げを受け入れるように改めて求めたため、SNPLは4月16日の週末のストライキに突入した。

ストライキに参加したフランスベースの従業員の中には、同社が極めて低価格で航空券を販売している影響で、従業員によっては賃金がフランスの法定最賃(SMIC)の水準である上に、昇給さえもないと主張する者もいる。この従業員によると、同じ格安航空会社のヴエリングでは最低でも月額賃金が2000ユーロであるのに対して、ヴォロテアはそれより低い水準であるにもかかわらず、更なる人件費削減を提案するのは理解しがたいと強く非難した。経営側は業績が赤字であると説明しているが、実際には好調で利用客増加によって便数が30%増加したにもかかわらず、25%の賃金引き下げを求めたことに対して従業員は不満を募らせている(注9)

ヴォロテアの経営側からは、ストライキによるフライトスケジュールへの影響を最小限に留めるよう努力をするという表明のみが示された。だが実際には、大きな混乱が見られ、同社のフランスとスペインとの航路で、複数の便が遅延または欠航となった。この週末は、復活祭の祝日に伴う連休が含まれていたことも混乱を大きくした(注9参照)。ストライキは、翌週末にも行われたため、同社は組合との労使協議の場を維持するためにあらゆる対応をすると説明したが、労組側の不満は収まらずストライキの通知は5月の1カ月間延長された(注10)

ヴォロテアに対する35万ユーロの罰金

ヴォロテアに対しては以前から、フランス当局による労働時間規制違反が指摘されている。労働監査を実施した結果、フランス中西部の都市・ナントをベースとするパイロット及び客室乗務員に関して、2018年4月から9月の間に76件の労働可能時間の上限規制違反と、2018年7月に89件の勤務間インターバル規制違反が認定さ、2022年4月5日、35万ユーロの罰金を科せられた(注8参照)。監査を行った労働監督官は、自身が行った他の航空会社に対する監査経験と照らし合わせて、ヴォロテアほど飛行(就労)時間が長い企業はないと指摘した。また、労働時間が長いため飛行の安全性を危ぶむ機長がいることも明らかにした。さらに同社に対しては、2021年9月の就労地偽装も認定されている。実際にはフランスのボルドーでの就労を、スペインで就労したものとして賃金を支払っていたため、20万ユーロの罰金が科されている。ただ、この件について同社は控訴している。

ヴエリングやイージージェットに対する労組の要求

この他、スペインを拠点とする格安航空会社のヴエリングは、SNPNCが労働条件の改善と賃上げを求めて、4月22日からのストライキを予告した。このストには従業員の98%がストライキに賛成であることが明らかになり、経営側は1年以上勤務する全ての従業員の賃金を150ユーロ引き上げることを提案した。この提案に対して、従業員投票を実施した結果、過半数を僅かに超える52.4%の賛成で労使合意が成立しストライキは回避された(注1参照)(注8参照)。

また、イギリスの格安航空会社イージージェットでも、フランスベースの従業員に対する労働条件の改善と賃上げを要求して、7月1日、2日、3日など7月31日までの休暇で利用客の多い9日間に24時間ストを実施するとの労組側から通告が出されている(注11)

(ウェブサイト最終閲覧:2022年7月8日)

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