米サッカー代表チームの報酬を「男女同一」に

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  • 国別労働トピック:2022年6月

米国サッカー連盟(United States Soccer Federation、USSF)は5月18日、代表チームで活動する選手の報酬を男女同一にする内容の新たな労働協約(Collective Bargaining Agreement、CBA)の締結に、男女それぞれの選手会と合意した。報酬の格差をめぐっては、女子代表選手らが2019年3月、同一賃金法(Equal Pay Act、EPA)および公民権法第7編への違反を主張し、連邦裁判所に提訴。2022年2月に和解金の支払いとの新たなCBAの締結で大筋合意していた。

同一賃金法などへの違反で提訴

米国サッカー界では、2016年3月30日に5人の女子代表チームの選手らが男子代表チームよりも報酬や待遇で差別を受けているとして、両代表チームを管轄するUSSFを EPAおよび公民権法第7編違反と訴え、雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission、EEOC)に救済を申し立てた。2019年3月8日には集団訴訟に発展。原告の女子選手らは制度的な性差別(Institutionalized gender discrimination)の存在を主張し、損害賠償や格差是正措置の実施を求めた。

訴状によると、1年間に20の国際親善試合を行い全勝した場合の当時の報酬は、男子が平均26万3,320ドル(1試合あたり1万3,166ドル)に対し、女子は最大9万9,000ドル(同4,950ドル)にとどまる。

代表チームの成績では、女子が男子を圧倒する。女子はFIFA(国際サッカー連盟)世界ランク首位の常連で、2015年と2019年のワールドカップ(W杯)を連覇したのに対し、男子は2018年のW杯出場を逃している。ウォールストリートジャーナルによると、2016年から2018年の間に女子代表は約5,080万ドルの収益をUSSFにもたらしたのに対して、男子代表は4,990万ドルと100万ドルほど少ない。USSFも2015~19年に女子代表が男子代表を上回る収益をあげたと認めている(注1)。こうしたことからUSSFに対する女子選手の不満が高まっていた。

男女で異なる報酬支払い方法

USSFは男女それぞれの選手会(注2)と異なる内容のCBAを交わしている。スポーツメディアESPNによると、今回の合意前直近のCBAでは、親善試合の場合、男子には試合ごとの出場登録につき5,000ドルを支払う。これに加え、試合で勝利と引き分けの場合は対戦相手の世界ランクに応じたボーナス(6,250~1万7,625ドル)を支給する。女子には、(1)USSFと直接契約して、代表戦の試合数と関係なく、年俸にあたる10万ドルの「基本給(base salary)」を支払う、(2)1試合の出場登録ごとに3,250~4,500ドルを支払う、のいずれかの方法をとる。そのうえで試合に勝利か引き分けの場合に1,300~8,500ドルのボーナスを支給する(下位ランク国チームとの引き分けには支給しない)(注3)

なお、女子代表選手のほとんどは、ふだん国内リーグ(National Women’s Soccer League、NWSL)のクラブチームでプレイしている。USSFは国内リーグの発展支援のためとして、こうした代表選手の各チームでの報酬も負担していた(注4)。一方、男子の代表選手は、所属する欧州や国内のクラブチームとの契約で高収入を得ている。USSFからの報酬はあくまでも代表への選出・試合出場ごとの支払い(Pay for Play)を原則としている。

カリフォルニア中央地区の連邦地方裁判所は2020年5月1日、女子代表には保証された年俸(基本給)や福利厚生があり、ボーナスの少なさ自体をもって差別の証拠とはみなせないなどとして、原告の訴えを退ける判決を出した。ただし、遠征時の移動手段や宿泊、練習場など待遇の格差については原告らの主張を維持した。

原告らは判決を不服として控訴した。女子選手や支援者らは「Equal Pay, Equal Play(同じプレイには同一の報酬を)」をスローガンに抗議活動を展開。こうした運動は男女の賃金・報酬格差への批判を象徴する性格も帯びていった。男子代表の選手会も理解を示し、共同歩調をとった。その後、2022年2月22日にUSSFとの間で総額2,400万ドルの和解金の支払いと、新たなCBAを締結することで大筋合意した。

新協約の内容

USSFと男女各代表チームの選手会は2022年5月18日、2028年まで有効なCBAの具体的な内容を定め、その締結に合意した。USSFによると、新たなCBAでは「同一の経済的条件を通じて同一の報酬を達成させる」として、(1)FIFAW杯を含むすべての大会での男女の報酬を同じ額とする、(2)男女両チームに「同じ商業的収益分配メカニズム」を導入する、ことを定めた(注5)

国際大会などに出場した男女両チームの賞金はいったんUSSFで積み上げたうえで、両者に平等に配分する。例えば22年男子と23年女子のW杯の賞金はUSSFでまとめてプールしたうえで、協会の運営費などに10%配分した後、残りの90%を男女両チームで分割する。なお、ニューヨークタイムズなどによると、W杯の賞金総額は2018年男子が4億ドル、2019年女子が3,000万ドルと大差がある(優勝チームの賞金は男子3,800万ドル、女子400万ドル)。

女子代表選手の「基本給」は廃止し、男女の報酬支払い方法を統一する(注6)。例えば親善試合の場合、対戦相手の世界ランクと試合結果に基づき、男女同額の報酬やボーナスを支払う。世界ランク25位以内または近隣ライバル国(女子:カナダ、男子:メキシコ)と対戦する場合、男女とも出場登録給(Appearance fee)の8,000ドルに加えて、ボーナス(勝利1万ドル、引き分け3,000ドル)を支給する。

このほか、(1)遠征時の移動手段や宿泊施設、練習場の条件の同一化、(2)男女とも確定拠出型年金(401(k))プラン、有給育児休暇を提供、(3)女子の健康保険など福利厚生の維持、なども定めている。

参考資料

  • ESPN、ウォールストリートジャーナル、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、米国サッカー連盟、各ウェブサイト

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