募集時の差別行為への対策強化

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  • 国別労働トピック:2019年5月

従来、男女雇用差別に関する様々な法規制が導入されてきた。しかし状況は改善されず、むしろ悪化しているとの報告もある。今年2月、人力資源・社会保障部、教育部など9部門が合同で、「募集行為の規制による女性の就職促進通知」を発表した。募集時の差別行為を禁じ、法的な救済メカニズムを整備する他、女性の就職支援等も定めており、男女雇用平等を促進する政策となっている。

就活中の男女差別

「2017年中国女性職場現状調査報告」(注1)によれば、就職活動中、女性は男性より男女差別を強く感じている。アンケートを受けた女性の22%が「深刻な差別」を受けたとし、この割合は男性より8%多かった。逆に、「男女差別がない」と感じたのは、男性の27%で、女性より9%多かった。年齢別では、25~35歳の女性が就職活動中に男女差別を比較的強く感じた。この年齢層は結婚、出産、育児の適齢期にあたるため、企業は女性の雇用に消極的な傾向がある。また既婚・未出産者の女性は未婚者や既婚出産者に比べると、男女差別を強く感じた(34%)。さらに、女性は高学歴であるほど就職活動中に「男女差別が深刻だ」と感じる。大卒未満女性の12%、3年制大卒女性の18%、4年制大卒女性の28%、修士以上の女性の43%が、深刻な男女差別を感じたとする。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ (HRW)は、2018年4月、「男性限定―中国求人広告の男女差別」報告書(注2)を発表し、高速成長期以来、中国の職場では職場の男女差別が遍在し、しかもその問題が悪化しつつあると警告した。2017年には女性就業率は63%だったが、この数字は2007年の65.5%より低下した。世界経済フォーラム(WEF)の公表する男女格差指数ランキングで、中国は2008年の57位から、2018年は103位まで下がった。HRW報告によれば、「男女差別の雇用慣行」は性差別拡大の重要な要素の一つである。中国では、民間企業の雇用広告だけでなく、政府の公務員募集さえも「男性限定」「男性優先」などの広告が掲載されており、たとえば、2017年の公務員の職位募集の13%、2018年の19%を占めた(注3)

大きな訴訟負担と小さな見返り

雇用にかかる男女差別を禁ずる法律のひとつ、「就職促進法」(2008年)は、「本法の規定に違反し、雇用差別を受けた場合、労働者は人民法院(裁判所)に訴訟することができる」と定めている(第62条)。しかし、2012年に男女差別にかかる初の訴訟(注4)が行われた以降も、この種の訴訟は増加しなかった。メディア報道により確認できたのは、「男性限定」という雇用条件で女性の応募を拒否したことを訴えた3件の訴訟のみであった。判決により企業は謝罪と慰謝料の支払いを命じられたが、訴訟の高い経済的負担、時間的拘束に対して、見返りは極めて低い状態となっている(注5)

新たな規制および支援制度

上述の差別の実態を背景に、2018年2月、「募集行為の規制による女性の就職促進通知」(注6)が発表された。主な内容は次の通り。

【募集時の男女差別の禁止】
①募集中の性別限定、性別優先、②女性の婚姻・出産状況の聴取、③入社健診における妊娠検査、④女性の募集条件の差別化、⑤募集条件における出産制限、⑥性別を理由とした女性の求職制限、女性の募集拒否-を禁ずる。

【女性が声を挙げやすい環境の整備】
女性の就職活動中の差別に関する起訴を法律に従って受理、差別を受けた女性に法律相談などの法的援助や(条件を満たせば)法律援助を積極的に提供、司法救助を提供-などの司法救済メカニズムの完備。就職活動中の男女差別の通報やクレームを受ける窓口相談およびホットライン(人力資源と社会保障部の12333,中華婦女連合会の12338,中国総工会の12351の3つ番号)の設置。

【企業への罰則】
人力資源は広告等の市場監査を強化。是正勧告を受けた企業が改善を拒否する場合、企業は罰金1万元~5万元(約17万円~83万円)を支払う。

【女性の就職支援や出産・保育支援】
女子大学生対象の女性に特化した職業指導や職業紹介の提供、3歳以下の子供の保育サービスの展開、小中学の放課後保育サービス、女性のワークライフバランスの支援。その他、出産保険の保障機能の充実、女性の妊娠・出産・哺乳期間における権利侵害行為の処罰、婦人と雇用企業の間に労働人事争議における仲裁時の迅速かつ適正な処理等。

(出所)[注]記載の他、北京週報(2017.3.9)等。

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