弾力的労働時間制の単位期間延長問題等をめぐり文在寅政権と労働組合が激しく対立

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  • 国別労働トピック:2019年1月

文政権と労働組合との関係が悪化

「ろうそく集会」によって朴槿恵大統領を弾劾訴追に追い込み、文在寅政権誕生の原動力となった労働組合と政府との関係が悪化している。

文在寅氏は、2017年の大統領選挙において、公共部門を中心とする81万人の雇用創出、2020年までの最低賃金1万ウォンへの引上げなど、所得主導の経済政策を公約に掲げて勝利した。大統領就任後は、公共部門における非正規雇用20万5000人の正規雇用転換、2018年最低賃金の16.4%引上げ、週労働時間の上限を64時間から52時間に短縮する勤労基準法改正など、労働者寄りの政策を推進した。

しかし、最近は経済状況が芳しくなく、雇用情勢も悪化しているため、最低賃金の算入範囲に定期賞与と福利厚生費の一部を含める最低賃金法改正や、2019年の最低賃金引き上げ率を10.1%に抑制して最賃1万ウォンの達成時期を1~2年程度延期するなど、企業側に配慮した政策を実施している。労働組合はこれらの政策に反発し、政府に対し強く抗議している。

弾力的労働時間制の法改正を延期

週52時間労働制導入による労働時間短縮の影響に苦しむ企業側の意向を受け、政府は、一定の単位期間内に労働時間を調整することを前提に、法定労働時間を超えて勤務させることができる弾力的労働時間制の単位期間を延長する方針である。

現行の勤労基準法は、弾力的労働時間制の単位期間を、就業規則に基づく2週間以内(週48時間以内)又は労使協定に基づく3カ月以内(週52時間・1日12時間以内)と規定している。後者の場合、週労働時間は最長64時間まで延長できる。

国会では与野党が11月5日、弾力的労働時間制の単位期間を6カ月又は1年程度の期間に延長する法改正を2018年中に実施することに合意した。

これに対し、労働組合側は、弾力的労働時間制の適用拡大は、長時間労働の助長、残業手当の削減によって労働者の健康と労働条件を脅し、追加の雇用創出につながらない改悪であるとして強く反発した。全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、弾力的労働時間制適用拡大阻止、ILO基本条約批准等を掲げて11月21日にゼネストを断行し、全国14地域の集会に約16万人(民主労総発表)の組合員が参加した。

これを受けて、政府は、2018年末までの法改正を断念した。11月22日には、経済・社会政策に関する大統領の諮問機関である経済社会労働委員会(政労使公益員18名で構成)の第1回会議が開催され、民主労総の委員1名が欠席する中、弾力的労働時間制の拡大について議論する課題別委員会「労働時間制度改善委員会」を設置することを決定した。

週52時間労働制は2018年7月1日から従業員300人以上の企業を対象に適用された。政府は、準備期間が不足していることを考慮し、違反企業に対する処罰を2018年末まで6か月間猶予していた。さらに、政府は2018年12月末、この処罰猶予期間を、弾力的労働時間制の単位期間の延長に関する法改正が実施される時点まで延長することとした。

労組は光州型雇用事業にも反対

民主労総や全国金属労働組合等は、光州広域市と現代自動車が推進する光州型雇用事業にも反対している。

光州型雇用は、自動車企業の半分程度の年収で約1000人の労働者を雇用し、中央政府と光州広域市が住宅・教育・医療等の費用を支援する地域雇用創出事業である。光州市と現代自動車が出資する新設法人が自動車を委託生産し、現代自動車がこれを買い取って販売する計画である。実現すれば1998年以来の国内自動車工場が誕生する。

光州型雇用は、労使、市民社会、政府が協力して適正賃金、適正労働時間、労使責任経営、元請・下請関係の改善を条件に事業を推進し、地域の深刻な経済状況、若者の外部流出を克服して共生社会の実現を目指すものである。文政権もこの労使共生型雇用創出事業に注目し、光州型雇用モデルの普及を政策課題の1つに掲げた。

光州市と現代自動車は労組との協議を経て6月に投資協定を締結する予定であったが、民主労総が強硬に反対し、韓国労働組合総連盟(韓国労総)も一時、事業への不参加を表明した。

光州型雇用モデルは、社会統合的価値観に基づき、雇用創出と労働市場の二極化の解消を目指している。しかし、既存の賃金、労働時間、生産性等の決定方式の変更を伴うため、労組側は自らの賃金削減や雇用が脅かされることを危惧していると言われている。

光州広域市と現代自動車は12月4日、新法人による自動車工場設立に暫定合意した。合意内容には、労働者の年収3500万ウォン、週労働時間44時間、35万台を生産するまで賃金団体交渉を保留(約5年間)などが含まれていると報道されている。これに対し、現代自動車労組は「地域の低賃金企業誘致競争によって既存の労働市場の秩序が崩れ、賃金は下方平準化されて経済破綻を招く」として、12月6日にストライキを実施した。光州型雇用事業のゆくえは、団体交渉保留条項等に対する労働組合の反発により依然不透明な状況にある。

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