最高裁、雇用審判サービスの料金制度は違法と判断

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2017年9月

最高裁判所は7月、2013年に導入された雇用審判サービスの有料化について、高い料金設定が司法へのアクセスを阻害しており、違法であるとの判断を示した。政府は判決をうけて、料金制度の停止を決め、これまでに支払われた料金を返金するための措置を進める、としている。

有料化以降、申し立て件数が7割減少

雇用審判サービスの有料化は、保守党・自由民主党の前連立政権が導入したもので、政府は導入に際して、審判サービスの提供に要する費用を当事者負担とすること、裁判に至る手前での当事者間の和解を促進すること、また不適切な申し立ての削減などを目的に挙げていた。現在、雇用審判所への申し立てには、相対的に簡易な内容(タイプA:賃金不払い、不正な控除など)の場合で390ポンド、より判断の難しい内容(タイプB:不公正解雇や差別など)では1,200ポンドの料金を要し、また雇用控訴審判所については1,600ポンドとなっている(注1)。なお、低所得層については料金の減免制度がある(注2)。料金制度の導入と前後して、政府は全ての申し立てについて、任意参加により斡旋をはかる段階を設けることとし、公的機関である助言・斡旋・仲裁サービス(ACAS)がこれを担うこととなった。

料金の導入以降、審判サービスへの申し立て件数は急速に減少した(図表参照)(注3)。当初から制度の導入に反対していた労働組合や法律支援団体などからは、とりわけ低賃金層のサービスへのアクセスが阻害されているとして、制度の廃止を求める声が強かった(注4)。また、料金制度の導入自体は歓迎していた経営者団体からも、料金の高さをめぐっては違和感も聞かれた。庶民院の司法委員会(Justice Select Committee)が昨年6月に公表した報告書も、料金の高さが審判サービスの利用を阻害している状況に懸念を示し、料金の引き下げを政府に要請するとともに、制度導入後の影響評価を実施するとしながら結果を示さない政府の姿勢を批判していた。政府はこれに対して、今年1月に公表した報告書において、料金制度は設定された目的を適正に達成しているとして司法委員会の提言を斥けつつ、想定を超える件数の減少について、低所得層への支援の強化を検討するとしていた。

図表:雇用審判所への申し立て件数の推移
図表:画像

  • 出所:Ministry of Justice (2017) "Review of the introduction of fees in the Employment Tribunals"

既に支払われた料金は返還

公共部門労働組合のUnisonは、有料化をめぐって既に2013年から行政審査の申し立てを行っていたが、高等法院(High Court)と控訴裁判所(Court of Appeal)で敗訴、最高裁判所への控訴は認められたものの、見通しは厳しいとされていた。しかし最高裁判所は、料金制度は司法へのアクセスを阻害しており、違法であるとの判断を示した(注5)。判決文はその根拠として、制度導入以降の申し立て件数の減少が、賠償額の小さい案件や賠償を含まない案件で主に生じていることや、原告が料金の捻出のために、生活水準の維持に必要な支出を削減せざるを得ない状況に直面している可能性などを挙げ、実態として、高い料金設定が不適切な申し立てだけでなく、正当な申し立ても阻んでいる状況を指摘。裁判費用が回収できるかどうか(判決が裁判費用を含む賠償を被告側に求めるかどうか、また賠償金が実際に支払われるかどうか)によって、司法へのアクセスの権利が制限されるべきではない、としている。受益者である当事者が費用を負担すべきであるとの政府の主張については、審判サービスを通じた法律の実施は公共の利益であるとしてこれを退けている。加えて、差別等の申し立て(タイプB)に関するより高い料金の設定が、原告の多くを占める女性に対する間接差別に相当するとの原告側の主張を認めている(注6)

現地メディアによれば、司法担当相は判決を受けて、料金制度を即時停止し、既に支払われた料金について返金のための措置を早急に進める、と述べている。Unisonの試算によれば、返金の総額はおよそ2700万ポンドにのぼるという。

制度の廃止を求めていた労働組合や法律支援団体などは、判決を歓迎している。一方、経営側は、料金制度の廃止により申し立て件数が再び拡大し、不当な申し立てへの対応で企業の負担が増しかねないとして、懸念を示している(注7)

参考資料

参考レート

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