閉鎖される事業所の売却先探しなどの義務を強化
―フロランジュ法による大統領公約の法制化

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2014年4月

収益性の高い事業所の閉鎖を回避し、雇用を確保することを目的とする通称「フロランジュ法案」が2月24日に下院(国民議会)で可決成立した。フランスでは2009年以来、1000人以上の事業所の閉鎖が700カ所以上あったとされる。新規設立を上回るスピードで事業所閉鎖が進んでいるという調査結果もある。同法案は、従業員1000人以上の企業が事業所閉鎖を計画する場合が対象となり、閉鎖ではなく売却による事業継続の可能性の検討を義務づける内容となっている。

企業側の義務懈怠の場合には商事裁判所への提訴も

収益性の高い事業所の閉鎖を回避する目的とともに、雇用を確保する目的の法案注1、「実体経済再興のための法案注2」(通称:フロランジュ法案)が2月24日、下院(国民議会)で可決成立した注3。この法案の契機となったのは、2011年に鉄鋼最大手アルセロール・ミッタル社のフランス北東部モーゼル県フロランジュ製鉄所の閉鎖が発表されたことによる。製鉄所閉鎖に伴い従業員の解雇問題が生じたため、オランド大統領候補(当時)が大統領選キャンペーン中に同製鉄所を訪問して対処を約束した注4。そのため「フロランジュ法案」と呼ばれるようになった。

法律の対象となるのは従業員数1000人以上の事業所(または親会社の従業員が1000人以上)であり、3カ月間にわって売却先を探す義務を課す内容となった。法案策定当初、「売却の義務づけ」を規定することを想定していたが、売却先探しの努力義務へとトーンダウンしたかたちとなっている。違反企業には、従業員解雇者1人につき最大で月額法定最低賃金(SMIC)の20倍(2万8907ユーロ)の罰金が、年間売上高の2%を限度として科される。また、閉鎖前の2年間に当該企業が公的支援を受けていた場合に、返済を要求することができるという内容も盛り込まれた。

主な内容は以下のとおり注3

  1. 集団解雇を伴う事業所閉鎖を計画する企業は、その計画内容と売却先を検討するための方針を従業員代表及び行政監督官庁に通知し、最低3カ月間売却先を探さなければならない。
  2. 企業側は買収提案があった場合、企業委員会に8日以内に通知しなければならない。
  3. 企業委員会は、企業側の費用負担で売却先を探すための専門家の援助を受けることができる。
  4. 企業委員会は、企業側が売却先の検討を怠ったり、正当な理由なく買収提案を拒否したと判断した場合には、商事裁判所へ提訴することができる。
  5. 商事裁判所が、企業側による売却先の検討義務が遵守されていないと判断したり、企業側が正当な理由なく売却を拒否し企業経営に深刻な影響を及ぼすと判断した場合には、当該企業の年間売上高の2%を上限として、解雇する従業員1人につき最高で月額SMICの20倍の罰金を科すことができる。また、閉鎖に先立つ2年間で企業が受けた公的援助の返済を要求することができる。

集団解雇回避の抑止力とならないとの見方も

既述のとおり同法律のきっかけとなったオランド大統領候補(当時)のフロランジュ製鉄所注5訪問であるが、オランドは労働者を前にして「採算性の確保が可能な生産拠点の閉鎖を禁止し、売却先を探すことを企業に義務づける措置をとる」ことを約束していた。

今回成立した法律に対して左翼党や共産党は、当初の法案では買収先の決定を義務づける内容だったにもかかわらず、実際に成立した法律が内容的に骨抜きになったと反発。法案が形式的な内容になっており、工場閉鎖やリストラ回避の抑止力にはならないと抗議するかたちとなった。一方、保守野党の国民運動連合(UMP)は、修正後の内容でも企業の自由な事業活動を大幅に侵害する内容だと主張し、憲法評議会への審査請求を決定した。UMPは特に、企業委員会への通知や協議の手続きが煩雑であることや、労組による訴訟が乱発される懸念があると主張している。

憲法評議会の判断が3月27日に下され、制裁に関する条項の削除を命令した。憲法評議会は上記の法律の主な内容の5.に関する規定について、企業が経営環境の悪化への対応を柔軟に行えなくなる懸念があり、企業経営の自由という原則に抵触するとの判断に基づき、削除命令を下した。

フランス企業運動(MEDEF)をはじめとする経営者側は憲法評議会の判断を歓迎する一方、労組側は失望感を示した。特にフロランジュ製鉄所主要労組であるCFDTの元指導者は怒りをあらわにした。ただ、「売却先を探す義務」と「従業員代表に通知する義務」は残されており、労組はこれを根拠として商事裁判所に提訴することができるため、新法の施行によって事業所閉鎖の手続きは従来よりも複雑になると懸念する見方もある。

図表1:フロランジュ法可決までの経緯
2011年9月8日 フロランジュ製鉄所の第2高炉を10月3日から休止すると発表(第1高炉は、既に休止中で、2011年夏、休止延長が発表されていた)
2012年2月 選挙キャンペーン中のオランド大統領候補(当時)がフロランジュ製鉄所を訪問、事業所閉鎖を阻止するための法律の制定を約束。
2012年9月28日 フロランジュ製鉄所の2高炉の閉鎖を発表
2012年10月30日 ロシア鉄鋼セベルスタリからの買収提案の交渉
2012年11月27日 オランド大統領、経営トップと会見。モントブール生産回復相提案受け一時的国有化を提案。
2012年11月30日 エロー首相が政府とアルセロール・ミッタル社の間で合意成立と発表。国有化提案は退けられるとともに、高炉を第三者に売却する計画も変更され、同社が高炉を所持することを確認。
2013年4月11日 アルセロール・ミッタル社は、2高炉閉鎖を最終決定。
2013年5月15日 社会党議員団による議員立法でフロランジュ法案提出。
2013年9月から 下院にて審議開始。
2013年9月26日 オランド大統領は、フロランジュ製鉄所を訪問。
2014年2月21日 上院で可決注6
2014年2月24日 下院で可決

資料出所:現地新聞報道等を参照して作成

事業所閉鎖が設立を上回る傾向が続く

フロランジュ製鉄所は、買収先決定までに紆余曲折あった。一時、ロシア系製鉄会社が事業を継承する案や、国有化する案も取りざたされた。しかし、2013年4月に高炉閉鎖が最終決定された(図表1参照)。

昨年5月に社会党議員団によって提出された法案の冒頭には、従業員1000人以上の規模の事業所が2009年以来、700カ所以上閉鎖されたことが示されている注7。民間調査会社トレンディオ(Trendeo)による従業員規模10人以上の事業所を対象とする調査では、2009年以来の工場閉鎖は1350カ所である一方で新設は827カ所となっており、閉鎖が開設を大幅に上回っている。2013年の新規設立数は、2009年以来で最低の水準になっている(図表2参照)注8)(注9

図表2:フランスの事業所新設と閉鎖(2009年~2013年)

図

出所:Trendio発表資料より作成(注8等)

参考資料

(ホームページ最終閲覧:2014年4月11日)

参考レート

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