岐路に立つ「外国人雇用許可制度

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2011年7月

韓国の「外国人雇用許可制度」が6月23日、「公共行政における腐敗の防止と戦い(preventing and combating corruption in the public service)」分野における「国連公共行政賞(United Nations Public Service Awards)」大賞を受賞した。国連が優れた公共政策を表彰するもので、この分野では最も権威のある賞とされる。施行から7年。雇用許可制のいまを追う。

研修生制度から雇用許可制度へ

今回受賞の対象となった「外国人雇用許可制度」は2004年8月17日から施行・運営されてきた制度で、目的は単純技能人材の不足を賄うための外国人労働者の雇用にある。

韓国は戦後、労働力の輸出国であったが、1980年後半から外国から労働力を輸入する立場に逆転した。特に単純技能分野の労働力不足は深刻で、それを解消すべく、1991年11月から「外国人研修生制度」を運用し始めた。この制度は当初、海外投資を行っていた大企業だけが認められたが、次第に中小企業もその制度を利用するようになった。1993年政府は国内労働者が敬遠する業種、いわゆる3D業種(注1)に2万人の外国人研修生を受け入れた。

当時、外国人労働者の受け入れに関しては激しい論争があった。労働力不足に悩まされていた事業主が積極的に賛同を表明した一方で、自分たちの雇用を脅かす事を懸念する労働組合は反対した。その結果、韓国政府は現実問題である人手不足解消のため外国から労働者を受け入れるものの、強い反発を避けるために研修生制度の延長である「産業技術研修生制度」を導入するとした。しかし、事実上これは外国人単純技能労働者の国内就業を認めた制度だと評されている。このようにして表面上韓国政府は外国人の単純技能職への就職を禁ずる政策を維持した。この制度は次第に外国人の不法就労を量産することになり、不法滞在の外国人労働者に対する人権侵害が拡大する端緒となった。また、外国人労働者本人が韓国で就職するために多額の支払い(以下、送出費用)をしていたことも問題になった。これらの問題は外国人単純技能人材を合法的に国内就労させる制度が必要だという認識を強めた。

雇用許可制度の成果

韓国政府は2003年、外国人の単純技能人材を合法的に認める「外国人勤労者の雇用などに関する法律」を制定し、2004年8月より「外国人雇用許可制度」を施行した。2006年まで「産業技術研修生制度」と並行運用された後、2007年からは全面的に雇用許可制度へと移行した。

雇用許可制度は既存の産業技術研修生制度の問題点とされていた、(1)中小企業の人手不足の解消、(2)外国人送出時の不正、(3)外国人労働者の人権保護という面で一定成果を上げた。(1)に関しては2011年2月現在46万人の外国人単純技能労働者が約8万カ所の中小企業で就業し、労働力不足を補っている。(2)に関しては労働者の斡旋業務を韓国の雇用労働部が送出国政府と協定を結び、当該政府が担う事で送出費用を大幅に下げたとされる。(3)に関しては韓国の国内労働者と同じ労働関係法を適用するため、事業者による賃金未払いが減った。また、外国人労働者の退職金保証のため事業主が出国満期保険や出国満期一時金信託に加入する。国民健康保険法によって、雇用された外国人労働者は加入者として見なすとしている。

一方、外国人労働者の人権保護団体は雇用許可制に批判的だ。送出費用はまだ高額で、事業主の賃金・退職金未払いも改善されていないと見ている。しかし、以前の制度で大きく取り上げられた諸問題は制度によって相当改善されたと言える。

制度の試練はこれから

雇用許可制はこれから大きな山場を迎える。雇用を許可された外国人労働者の期限満了に伴う不法滞在の大幅な増加が予想されるからだ。不法滞在者はすでに2010年7月から急増し始めている。これは全体の不法滞在者が減少してきた事(注2)とは、明らかに異なるベクトルを示す。もちろん、雇用許可制によって入国した外国人労働者の不法滞在率6.9%(2011年2月現在)は、産業研修生制度による外国人労働者の不法滞在率63.8%(2002年12月現在)と比べると、まだ低い水準である。しかし、2008年1月には9153人に過ぎなかった不法滞在者が2010年12月現在1万3725人と50%増えた事には留意が必要だ。増加の主な理由は雇用許可の期間満了にある。2010年7月から本格的に雇用許可が切れた外国人労働者のうち、毎月400~600人が不法滞在となっている。このままだと、2012年までに約9万人の期限切れの外国人労働者のうち、3万2000人から4万5000人の不法滞在者が発生するという見方もある。

なぜ外国人労働者は不法滞在するのか。これには構造的な要因が存在する。現在の雇用許可制はローテーション方式に基づくため、一度許可された外国人労働者は期間終了後再び雇用許可を受けることができない。一方、事業主にとっては労働力不足を外国人労働者に頼らないと解消できないため、違法と認識しつつ不法滞在の外国人労働者を雇う。そして、行政側も中小企業の人手不足の事情を良く知っているため、厳しく取り締まりができない。これが不法滞在の増加の実態である。外国人労働者の人権保護団体や研究者らは熟練の外国人労働者に永住権を付与する事も視野に入れた制度の再検討が必要だと主張している。

国連公共行政賞の大賞を受賞した韓国の「外国人雇用許可制度」。真の制度の評価が下されるのはこれからのようだ。

参考

  • 雇用労働部 外国人力政策課「外国人雇用許可制及び関連法令解説」2011.5
  • 雇用労働部・産業人力公団の報道資料及び各種WEB page
  • 大韓民国国会 国会報4月
  • サムソン経済研究所 SERI経済フォーカス 第326号 2011.2.15
  • 韓国経済新聞2011年5月29日、連合ニュース1月5日・4月29日など各種の新聞

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