新世代の農民労働者
―総工会『新世代農民労働者に関する調査報告書』より

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2011年4月

中華全国総工会(総工会)は2月20日、『新世代農民労働者に関する調査報告書』を発表した。報告書は、新しい世代の農民労働者の特徴、直面する問題点を明らかにするとともに、新世代農民労働者の就労環境を改善するための対策などを提言している。

新世代農民労働者の特徴

この調査で新世代の農民労働者とされる対象となったのは、1980年代以降に生まれた16歳以上の、農村以外の場所で主に農業以外の職業に従事する農業戸籍を持つ労働者。現在、全国に約1億人いると言われる。報告書は、彼らは次のような5つの特徴を持つとしている。

  1. 専門的技能の欠如
    教育を受けた期間は長いが、専門的な技能にはやや欠ける。新世代農民労働者のうち高校以上の教育を受けた者は67.2%に上る。また大学など高等教育以上の学歴を持つ者の割合も従来の農民労働者の2倍に達している。このように、教育を受けた期間は長くなっているものの、多くが義務教育や普通高校の教育レベルにとどまっており、専門的な技能が欠如している。
  2. 未婚者の増加
    半数以上が未婚で、生活面での経験が浅い。30歳以下の新世代農民労働者のうち59.9%が未婚者。従来の農民労働者の場合、同年齢の既婚率は93%と非常に高かった。労働者の74.1%が就労前は「学校で勉強していただけ」と回答しており、彼らの生活面での経験は従来の農民労働者と比較して単純化している傾向にある。
  3. 移住動機の変化
    出身地以外の土地で働きたいという願望が強く、彼らの多くが東部沿海地域で就職しているが、移住の動機には変化が見られる。出身地以外の土地で就労する新世代農民労働者の42.3%が「発展の機会を得るため」を動機としてあげており、「世の中を見てみたい」とする者も6%いる。一方、従来の農民労働者は55.1%が「お金を稼いで家族を養う」ためという動機であった。
  4. 製造業とサービス業に集中
    第二次産業、第三次産業に多くが集中している。新世代農民労働者の81.7%が製造業に従事し、2割近くがサービス業に従事している。
  5. 外資企業が人気
    外資企業への集中度が高く58.2%が外資企業で働いているが、国有企業における就職の割合も近年やや上昇している。2010年の外資企業への就職率は前年比で17.9ポイント上昇し、国有企業への就職率も同3.4ポイント上昇した。

新世代農民労働者の課題

新世代農民労働者は現在次のような問題に直面している。

  1. 低所得
    全体的に所得が低い。調査によると新世代農民労働者の平均月収は1,747.87元で、都市部企業従業員の平均月収(3,046.61元)の57.4%にとどまっている。同時に、従来の農民労働者と比較しても167.27元低い。
  2. 労働契約の未締結
    新世代農民労働者の労働契約締結率は84.5%で、都市部従業員を4.1ポイント下回っている。また契約締結の内容も悪い。68.2%の契約が賃金月額について具体的な取り決めを行っておらず、16.8%が正式な契約書を持っていなかった。使用者側との間に紛争が生じた場合、労働関係の認定および合法的権利を守る上で大きなリスクとなっている。
  3. 就労継続性の低さ
    新世代農民労働者は就労継続性が低い。調査によると、新世代農民労働者の平均転職回数は1.44回であり、毎年0.26回仕事を変えている。これは従来の農民労働者の2.9倍にあたる。また、新世代農民労働者は、自主的に契約を終了させる傾向があることも指摘されている。転職の内容を見ると、88.2%が自ら契約の解除を持ち出している。自ら解除を申し出る理由の37.6%が「発展の可能性がないから」である。新世代の農民労働者にはステップアップしたいという願望も強く、19.2%の労働者が近いうちに転職する希望をもっている。これらのことから、彼らが現状の仕事に満足していない状況が窺える。
  4. 社会保障水準の低さ
    社会保障水準が低い。調査によると、新世代農民労働者の年金保険、医療保険、失業保険、労災保険、出産保険の加入率はそれぞれ67.7%、77.4%、55.9%、70.3%、30.7%となっており、都市部従業員と比較してそれぞれ23.7ポイント、14.6ポイント、29.1ポイント、9.1ポイント、30.8ポイント低い。
  5. 安全面のリスク高
    労働安全面でのリスクが比較的高い。調査によると、新世代農民労働者の36.5%が高温、低温作業の問題を抱えている。また、41.3%が騒音、36%がけがに至りやすい機械の故障、34.7%が粉塵汚染の問題を抱えている。こうした状況にもかかわらず、使用者側が防護措置を講じている割合は従来の農民労働者の場合より低い。また、職業病についての検査や安全に関する訓練が徹底されていない。
  6. 企業とのギャップ
    新世代農民労働者に対する企業の人間的配慮が欠如している。新世代農民労働者の多く(96.1%)は企業の発展に関心を寄せるとしているが、企業側が自分たちに対して「関心を持っていない」あるいは「まったく関心を持っていない」と回答した者が16.9%に上る。また、管理側と従業員側の間の問題点として、多くが「管理者が従業員の苦しみに関心を寄せていない」と答えており、従来の農民労働者が「収入と福利待遇のギャップが大きい」とする回答とは異なる。これより、新世代農民労働者は企業の管理職が自分たちに関心を寄せてくれることをより強く願っているようだと分析する。この他、職業訓練が理想的でない、労働組合加入率が低いといった点も、新世代農民労働者の不満要因となっているようだ。

今後の対応策

報告書はまた、新世代農民労働者の今後に関して次のような提言を行っている。まず、報酬の問題はやはり農民労働者が関心を寄せる最大の問題であるとして、第一に、賃金支払い、賃金引上げ、共同決定制度を構築、整備し、賃金に対する監察を強化する必要がある。また、賃金支払い保障制度を構築し、賃金未払いを予防することも重要と指摘。このほか、賃金の正常な上昇メカニズムを構築し、最低賃金基準を引き上げる他、新世代農民労働者の就職が集中する非国有企業、中小企業を重点として、賃金の集団的交渉システムを構築、整備していくことが必要である。業界の集中度が高い地域では、地域レベル、業界レベルの団体交渉を展開し、交渉がカバーする範囲を広め、それが企業の賃金決定に反映されるようにすべきであると提言している。

第二に、社会保険をめぐる政策を推進し、農民労働者の保険加入率を拡大することが重要である。具体的には、非国有企業で働く農民労働者の保険加入に力を入れ、社会保険の順調な移転、引継が可能となるようにする。彼らの居住条件を様々なルートから改善し、条件を満たす農民労働者が都市部に定住した後、住宅面で現地の都市部住民と同等の権益を享受できるよう保障すべきとしている。

第三に、各地で戸籍制度の改革を進め、「第十二次五か年計画」と併せて、全国で毎年、少なくとも400万人の新世代農民労働者が都市部に移住し定住できるよう整備を進める。

第四に、照準を定めた職業技能訓練を実施し、新世代農民労働者を誘導して、彼らのエンプロイアビリティを高めるとともに、社会的な適応力も増強する。また、彼らの労組加入を促進し、農民労働者の権利を守れる環境を整えることが重要としている。

参考

  • 海外委託調査員、『京華時報』2011年2月21日

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