景気回復で熟練労働者不足が深刻に
―40万人が不足

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2010年11月

今年に入って経済が順調な回復を続ける中で、熟練労働者不足が深刻さを増している。ドイツでは従来から少子高齢化を背景に、熟練労働者不足がもたらすマイナス要因を懸念する声が強いが、景気回復がこの問題に拍車をかけた格好だ。ドイツ商工会議所(DIHK)によると、現在約40万人の熟練労働者が不足しており、経済成長の阻害要因になっている。

移民の積極受入か失業者の訓練か

ドイツの主要な経済研究所は10月14日、合同で政府に提出した2010年秋季経済予測で、今年の実質経済成長率は3.5%増、2011年は2.0%増になると発表した。上半期の急速な成長実績を反映して、前回春の予測(今年1.5%、11年1.4%)から大幅な上方修正となった。

こうした景気回復に伴い熟練労働者不足が深刻になっている。ライナー・ブリューデレ(Rainer Brüderle)経済技術相は「すでにドイツ産業界の約7割が熟練労働者不足に陥っている。今後20年で人口が約500万人減少することを考えると、状況は悪化する一方だ。 現在の労働力を維持し続けるためには、年50万人の新たな移民が必要になるだろう。よって移民労働者の受入を拒むのは間違いだ」と語り、熟練労働者不足が原因で、2009年だけで150億ユーロの経済的損失を被っていると述べた。

しかし、経済技術相のこの意見には与党内からも異論が出ている。キリスト教社会同盟(CSU)のアレクサンドル・ドブリント(Alexander Dobrindt)事務局長は「このような懸念は不要だと考える。まずはドイツ人失業者に必要な訓練や資格を提供して、すでにドイツ国内にいる移民の社会的統合に着手しなければならない。さらなる移民労働者の受入は、より多くの統合上の問題を引き起こすだけだ」と反論した。

経済学者は長時間労働の増加を予測

ドイツの著名な経済学者らは、この深刻な熟練労働者不足が労働時間の増加につながると予測している。ドイツ経済研究所(DIW)のクラウス・ツィンマーマン(Klaus Zimmermann)所長は「労働者不足を埋めるために週45時間まで労働時間が増えるかもしれない」と話す。「現在の週労働時間の平均は37.5か38時間だが、今後は、専門技能を持つ労働者で成り立っている機械設備や医療介護などの分野で長時間労働が拡大していくだろう」との予測を示した。ハレ経済研究所(IWH)のウルリッヒ・ブルム(Ulrich Blum)所長も同様に「現在すでに幾つかの分野で極端な長時間労働がなされている。このまま景気回復や熟練労働力の減少が続けば週42時間、もしくは週45時間以上働くことが普通になるだろう」と予測する。

この背景について、与党CDU(キリスト教民主同盟)党執行部のヨゼフ・シュラルマン(Josef Schlarmann)は「熟練労働者不足は、現在の失業者などで簡単に穴埋めすることができない。そのため現在いる熟練労働者だけで対応しようとすると長時間労働にならざるを得ない」と説明する。

さらに、ケルン経済研究所(IW)のミハエル・ウッター(Michael Huether)所長は「少子高齢化で労働力人口が減少することを考えれば、今後は長時間労働の拡大のみならず、退職年齢(年金支給開始年齢)の更なる引き上げ、具体的には70歳にすることを真剣に検討していかなければならない」と語った。ドイツの年金支給開始年齢は現行65歳だが、2012年から段階的に引き上げて2029年までに67歳に引き上げることが決定している(注1)。

参考資料

  • Gemeinschaftsdiagnose Herbst 2010、Deutsche Welle(8月11日、10月18日付)、AFP(10月23日付)

2010年11月 ドイツの記事一覧

関連情報