新たな移民の社会統合案、12月中の成立を目指す 

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2010年11月

ドイツ政府は10月18日、新たな移民の社会的統合案を策定すると発表した。ザイバート政府報道官によると新たな案は、移民のドイツ語修得の強化や、「イスラム社会の強制結婚」などドイツ基本法に反する習慣の規制、外国教育機関の資格認定の簡略化などを盛り込む予定で、12月中の成立を目指す。

首相発言「多文化主義は完全に失敗した」

シュテフェン・ザイバート(Steffen Seibert)報道官は18日、新しい移民の社会的統合案について「ドイツの『多文化主義』とはこれまで、移民を無理に統合させようとせず彼らの自主性に任せるということだった。しかし、今後はドイツ社会全体の利益のために行動しなければならない。ドイツは外国にルーツをもつ人々とその社会的統合を歓迎する。しかしドイツ社会への統合を拒む外国人に対しては、政府は明確に受入を拒否するだろう」と述べた。

ザイバート報道官の発言は、その2日前に内外で大きな反響を呼んだアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相の言葉を反映している。首相は16日、与党CDU(キリスト教民主同盟)の会議で「ドイツは移民を歓迎する」と前置きしながらも、ドイツの多文化主義を「完全な失敗」と言い切った。その上で「ドイツの40年にわたる移民の社会的統合の失敗はすぐには埋められないが、移民はドイツ語を学びドイツ社会に融合しなければならない。ドイツ社会で生きていくのであれば、法に従うだけでなくドイツ語を習得すべきだ」と説いた。

この首相の発言についてメディア(Deutsche Welle)は、この夏から議論が続く移民の「受入規制派」と「受入寛容派」の両主張を汲みながら中立を保とうとする政治的意図が見え隠れすると分析している。

遅れた移民の統合政策

ドイツでは、1960年代に労働力不足を補うためトルコなどから大量の移民を受け入れた。当時、移民労働者は最終的に自国に戻ると考えられていたが、予想に反して大半がドイツに留まったまま数十年が経過した。現在までこうした移民の多くがドイツ社会に融合せずに閉鎖的なコミュニティを形成し、教育水準の低さや失業率の高さなどが問題になっている。

また、近年まで「ドイツは移民国家ではない」という認識のもと、移民を一時的な外国人滞在者として扱い、社会統合政策をほとんど実施してこなかった。主な契機となったのは98年に誕生したシュレーダー政権の取り組みで、2000年の国籍法(Staatsangehörigkeitsrecht)改正や2005年の移住法(Zuwanderungsgesetz)制定などが挙げられる。ドイツ国籍の取得は、従来から血統主義を原則としていたが、2000年の改正で生地主義の要素を加味した。これによりドイツ国内で生まれた移民の子どもはドイツ国籍を容易に取得できるようになった。また、2005年の移住法では、移民の社会的統合の促進原則が明記され(第43条第1項)、ドイツ語、法秩序、文化、歴史などを学ぶ「統合講習(Integrationskurs)」の導入が定められ、徐々に移民の社会的統合政策に進展がみられるようになった。

2008年の移民の実態調査によると、ドイツの移民人口は1557万人で、全人口の約2割(19.0%)を占める。このうち半数以上の830万人はドイツ国籍を有している。出身国別にみると、トルコ系が全移民の約16.1%と最多で、次にイタリア系、ポーランド系、ロシア系と続く。

早ければ2011年に新制度適用へ

アネッテ・シャヴァーン(Annette Schavan)教育研究相は、今回の外国教育機関の資格認定手続きの簡略化によって、新たに約30万人の移民が専門分野で就労可能になると見込んでいる。現行では、外国教育機関等で資格を得た者は公式に認定されるまで試験、実習、面接など一連の過程を経なければならない。場合によっては数年かかる場合もある。しかし、早ければ2011年から適用される新制度では、全ての過程を3カ月以内に終わらせることが可能になる。

参考資料

  • Spiegel online(9月17日付)、Deutsche Welle(8月24日、10月18日付)、Time.com(10月21日付)、AFP(10月25日付)、International Migration Outlook:SOPEMI2010

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