2010年末までに失業者数500万人規模へ
―主要経済研究所、春季合同経済予測

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2009年5月

ドイツ主要経済研究所(注1)は4月23日、春季合同経済予測を発表した。実質GDP成長率は09年にマイナス6%、10年にマイナス0.5%、失業者数は09年に400万人、10年末には500万人近くに達すると予測。09年の景気後退が第2次大戦後最悪の規模となる可能性を明らかにした。

雇用関連指標、軒並み悪化の予測

今回の予測(表1)によれば、08年に7.8%だった年平均の失業率は、8.9%(09年)、11.2%(10年)に上昇し、失業者数は371万8000人(09年)、468万8000人(10年)に増加する。失業の増加に伴って、08年時点では10万2000人に過ぎなかった操短手当制度(注2)適用労働者数も、130万人(09年)、90万人(10年)へと急増する見通しだ。賃金も、09年にマイナス成長を予測している(名目賃金上昇率:マイナス2.3%、実質賃金上昇率:マイナス1.5%)。

また、一連の景気対策(注3)による財政出動や、失業の拡大に伴う雇用・社会保障関連支出の大幅増が見込まれることから、財政赤字の対GDP比が09年に3.7%(890億ユーロ)、10年に5.5%(1330億ユーロ)に膨れ上がると予測している。これは、単年度の財政赤字額制限として安定成長協定がユーロ加盟国に課しているGDP比3%を上回る規模だ。

※各一人当たり、名目賃金には税金、社会保険料負担分が含まれる。

(出所)主要経済研究所

DGB、第3次景気対策を要求/政界、経済予測に批判の声も

ドイツ労働総同盟(DGB)のゾンマー議長や次期雇用エージェンシー総裁候補のシュヴァン氏(SPD)は、こうした悲観的な経済予測にかなりの懸念を表明し、第3次景気対策を要求している。だが、政界からは今回の悲観的な経済予測に批判の声もあがっている。グッテンベルク経済相(CSU)は、「現下の状況で人々の不安を助長する見解を示すのは無責任だ」と今回の経済予測に反発したうえで、第3次景気対策の要求を「全く無意味なものだ」として撥ねつけ、当面二つの景気刺激策パッケージで対応する方針を明らかにしたまた、ショイブレ内務相(CDU)は、「社会保障システムが崩壊することはない。政府は経済危機の対応に向け最善を尽くしており、政情不安に陥る要因はない」などとコメント。SPDのシュトルック連邦議会議員代表も、「危機の社会への影響を緩和しようと政府が全力を尽くしている最中に、社会不安を煽るような経済予測は避けるべきだ」との批判を寄せている。

他方、政界内でもSPD左派、緑の党、左派党はDGBに同調している。緑の党のF・クーン氏は、「ゾンマー議長やシュヴァン氏の懸念ももっともだ。不平等や格差への国民の不満が高まっており、失業者や低所得者などの社会的弱者への支援を強化する必要がある」とコメント。また左派党のラフォンテーヌ氏は、「失業者の増加は、極右の温床になる。状況がさらに悪化すれば、政治的ゼネストのリスクも考えられる」などと警鐘を鳴らした。

連邦雇用エージェンシー、財源確保に向け議論

こうしたなか、操短手当受給者や失業者の急増を背景に、雇用エージェンシーの財源問題が浮上している。一層の景気後退を見込む今回の経済予測を受け、連邦雇用エージェンシーは4月23日に運営委員会を開き、5月にも新たな試算を行う方向を明らかにした。

政府が昨年12月に承認した当初予算案では、347億5000万ユーロの収入見込みに対し、407億ユーロの支出が計上され、両者の差額分59億5000億ユーロについてはこれまでの備蓄金で補填する合意だった。その後500億ユーロ規模の第2次景気対策で、雇用エージェンシー所掌分野の大幅な制度拡充が図られ、2月には特別補正予算が組まれた。50億ユーロを追加計上し、歳出見込み額を456億ユーロとした。

補正予算では、追加計上された50億ユーロのうち、18億ユーロを操短手当(失業給付IIの枠組み)、18億ユーロを失業給付I、8億1000万ユーロを継続教育訓練プログラムおよび資格取得プログラム、さらに2億ユーロを雇用エージェンシーの増員(2500名)措置に注入した。だが、この試算は09年のGDP成長率をマイナス2.25%として打ち出したもので、今回の経済予測をかなり下回る予測値に基づくものだ。この試算によれば、09年の不足分は約109億5000ユーロだったが、一層の景気悪化を見込むと、不足分が150億ユーロから200億ユーロに及ぶ可能性があるという。

不足分については、3つの資金調達手法が検討材料としてあがっている。一つは融資で、二つ目は2006年に廃止した国庫からの補助金を復活し、国庫負担とする手法。三つ目は、今年から2.8%に引き下げたばかりの雇用保険料の引き上げだ。このうち雇用保険料引き上げについては、ショルツ社会労働相が2010年までは2.8%で凍結する慎重姿勢を堅持していることに加え、秋に総選挙を控え、この選択肢が現実化する可能性は薄いという。他方、運営委員会の議論に参加した労組側は、景気対策による支出増大については国庫が全額負担する方向を主張している。

出所

  • 海外委託調査員月例報告、Handelsblatt(4月12日、21日、23日、24日)、ドイツ連邦政府HP。

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=131.05円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2009年5月7日現在)

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