政府が「機会平等法」の草案を発表
―さらに難航が続く労働市場改革への取組み

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2006年3月

政府・労組・使用者団体間のいわゆる「社会対話」の枠組みにより、労働市場改革をめぐる交渉を続けているスペイン。有期雇用の大幅な減少を求める労組と、そのためには無期雇用の解雇コスト引き下げが必至とする使用者団体との間で激しい対立が続いている。そうしたなか政府が発表した「機会平等法」の草案内容をめぐり、さらに労使間の意見が対立。労働市場改革への道はさらに難航が続いている。

2006年1月12日、カルデラ労働大臣は、有期雇用契約の安定雇用促進無期契約への転換を労組が受け入れたことを挙げ、「交渉は大きく前進し、合意も間近」との見解を示した。この「安定雇用促進無期契約」とは、解雇の際に支払う手当を賃金33日分×勤続年数に抑え、女性や若年者など特に雇用促進プログラムの対象となる労働者のみに限るもの。この契約の大きな特徴は、より安価な「解雇金」であり、この条件が通常の無期雇用契約にまで広げられることを労組は懸念。合意間近という政府の楽観的な見解に強い反発を示している。

そうしたなか労働省は、現在準備中の「機会平等法」の草案を労組及び使用者団体に示すとともに、マスコミにもその主な内容を発表した。草案の主なポイントは以下のとおり。

  • 労働者数250人を超える企業に対し、性別による労働者の差別(採用、昇進、労働条件等の面で)を是正するプランを策定するため、労使間で交渉することを義務付ける。ただし合意に達しなければプランは策定しなくてもよい。250人以下の企業では、プラン策定は任意とする。
  • 子供の出生時に、父親が有給育児休暇10日をとれるようにする(労働時間短縮の方式を選択すれば短縮期間は18日まで認められる)。同制度は、公務員に対しては既に導入されており、これを民間労働者にも広げようというもの。使用者側負担はこれまでどおり出生時の2日間のみとし、残りは社会保障制度が負担する。ただし父親が実際にこの休暇をとるか否かは任意であるため、社会保障制度の負担がどれくらいの額になるかは不明。
  • 労働者がフレックスタイムを選択する権利について言及。ただし実際には集団交渉を通して労働協約での導入となる。具体的な内容は、出退勤時間の自由化や、小さな子供を持つ労働者が労働時間短縮を選択できる権利を子供が12歳になるまで延長する等。

これに対し、使用者団体は父親の育児休暇の拡大について、強い反発を示している。労組側は、改革の実施が法律として導入されるのでなく、あくまでも集団交渉の結果次第である点を指摘。政府が使用者側の意向をそのまま取り入れてしまっているのではないかとの懸念も示している。

これまで政府は、各種草案を五月雨式にマスコミに発表し、その都度大きく取上げられるものの、実際に法律が成立した例は少ない。こうした事実を受け労組側からは、「政府は、労働市場改革をめぐる交渉をプロパガンダ的に利用している」という批判の声も出ている。スペインの「社会対話」の枠組みによる労働市場改革は、難航が続くことが予想される。

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