3大教書、雇用政策に言及

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2004年3月

ブッシュ大統領が今後の政策方針を議会へ示す3大教書が2月までにすべて発表された。この大統領の3大教書は、議会に対して大統領自らの政策や方針を示すためのもので拘束力はない。しかし、大統領は議会の法案成立に対して拒否権を持つため、3大教書が議会審議に与える影響は大きい。大統領選挙を11月に控え、今年の3大教書すべてが、現政権の弱点といわれている国内の雇用政策について言及している。

一般教書

1月20日に、ブッシュ大統領の一般教書演説が議会両院において行われた。大統領は演説のなかで、国内政策で最大の懸案事項となっている「雇用なき経済回復」に対処するための施策について言及した。今後は失業者の再就職を促進するために、技術や知識を修得させるための職業訓練に力を入れて雇用創出を図り、そのための技術訓練や学校における職務教育などの対策にかかる費用を合計約10億ドルと見積もっている。そのうえで、今後失業者の多くを吸収すると期待されているヘルスケアやバイオテクノロジーなどの成長産業への、労働者のシフトを促す方針を示した。

予算教書

2月2日、2005年度の大統領の予算教書が議会に提出された。予算教書は、主に今年10月から始まる次期会計年度の予算編成を示したものであるが、それだけではなく数年にわたる中長期的な予算運営の方針や対外的な援助、国防に関する事項も盛り込まれている。議会は、これをもとに今年9月までの予算関連法案の審議や作成に取り掛かる。ブッシュ政権が重要視している雇用問題については、今回の予算教書では新たに「21世紀の雇用」計画というプロジェクトを立ち上げ、職業訓練や奨学金の拡大などに5億ドル以上を投入することを勧告している。

その例として、労働者が実践的な職業教育を受ける場としてコミュニティー・カレッジを利用する。コミュニティー・カレッジと企業とのパートナーシップを奨励し、最も労働需要が高い産業で求められている職業訓練を行った場合、補助金を与えるように提唱している。補助金総額は2億5000万ドルである。また雇用が急速に伸びている産業分野では、数学や科学の知識が不可欠であるため、中学、高校の教育の質を改善するよう求め、数学教育に1億2000万ドル、読解力養成に1億ドルの予算を提案した。

そのほか失業保険制度とは別に、個人再雇用口座の創設を議会に提案している。失業者は、この制度の下で支給された最高3000ドルを、職業訓練、あるいは仕事に出るために必要な育児支援費用などに用いることができる。失業者が13週間以内に仕事を見つけた場合には、同口座の残額をボーナスとして与え、失業期間を短縮するように促している。

経済報告

2月9日、米大統領経済諮問委員会は、2004年の経済報告と今後の経済見通しを大統領に提出した。この経済報告は、3大教書のなかで政策評価を示すための経済分析という性格を持つ。報告書は、ブッシュ政権が推し進めてきた減税路線が経済の回復に効果をもたらしたとしており、今後は年率4.0%の経済成長の予測をしている。そのうえで、経済回復を継続させるために引き続き減税を恒久化することを提言している。本格的な回復が未だに見えない雇用については、安定した経済成長を続けることにより2004年夏までには改善が顕著になり、10月から12月までには、失業率が5.5%まで低下して約260万人の新規雇用が創出されるだろうと予測している。

しかし、2月18日に行われたホワイトハウスのマクラレン報道官の記者会見では、同報告書の「260万人の雇用創出」をめぐり、記者団から質問が続出した。これまでブッシュ大統領は、支持者集会等において雇用改善予測に関して強気で楽観的な発言を繰り返してきた。しかし、今回議会に提出された経済報告はブッシュ政権の公式見解ともいえる重要な報告書で、今後実際260万人に達しなかった場合、大統領の“公約違反”とされる危険性もある。そのためマクラレン報道官は、記者団らの相次ぐ質問に対し「昨年8月以降、雇用者は計36万人も増加している」と過去の成果を強調したうえで、「今回の報告書の予測はあくまで現時点のもの」と回答し、今後の雇用者数達成についての確約を避けた。これに対し民主党側は「2001年に大統領が就任して以来、230万人の雇用が失われており、こうした非現実的で安易な予測による約束は失業者を混乱させるだけである」と批判している。

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