厳しい雇用情勢と政府の失業対策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年7月

4月の労働市場の動き

4月の失業率は、前月の5.8%から6.0%と上昇し、失業者数は880万人に及んでいる。米国経済は、イラク戦争が終結した後、多くのエコノミストたちが望んだような勢いを得るには至っていない。

5月2日に労働統計局が発表した統計によると、4月の雇用者数は、1億3770万人で、失業率は前月の5.8%から6.0%に上昇しており、失業者は880万人に上っている。これは2001年に5.6%を記録して以来の高い失業率である。成人男子の失業率が0.3ポイント上昇(5.6%)していることが目立つ。フルタイム雇用を希望しているが、パートタイムで雇用されている労働者は480万人で、一年間で60万人増加した。4月の労働市場動向で特徴的なことは、9万5000人の職が製造業で失われたことである。この減少は、過去12カ月における製造業の月間雇用減の平均(約4万人)の2.4倍にあたる。特に自動車、設備産業での雇用の減少(2万3000人)は工場労働者の雇用減の約4分の1を占める。自動車、設備産業では、最近では2000年6月に雇用者数が最も多くなっていたが、この時と比較して15万件の職が失われている。電機産業、部品産業でも引き続き職が減少し続けている。サービス産業全体では、2月、3月に雇用が減少していたが、4月には雇用の変化はほとんど見られなかった。建設、ヘルスケア産業などでは雇用が増加した。しかし、旅行関連産業では、雇用減が継続し、2001年1月以来17万7000人の職が失われている。

民間非農業部門の生産・非管理的労働者の平均週労働時間は、4月に0.3時間短縮され、34.0時間になった。これは非農業部門における雇用減と、労働時間短縮が同時進行していることを意味しており、十分な財・サービスへの需要が不足している状況を反映している。 ユトゴフ労働統計局長官は、「失業率が6%に上昇し、厳しい雇用情勢となっているが、これは、労働市場の軟化をあらわしており、さらに今後2カ月間厳しい状況が予想される」と述べている。なお、4月24日の労働省の発表によると4月19日の週の失業保険給付新規申請件数は、前週より8000件増え、45万5000件となっているが、これは過去1年間で最も高い要求件数であった。週ごとの変動を除去した、同統計の4週間移動平均も43万9250件とやはり過去1年間で最も高い。

同じく労働省の発表によると、非農業部門の生産性、すなわち労働者の1時間あたりの生産量の合計は、第1四半期で1.6%の伸びとなっており、これは昨年より低い数字ではあるものの第4四半期の0.7%からは改善されている。エコノミストの分析によると、企業は労働者一人あたりの労働生産性を高めるために合理化を徹底し、全体の労働生産性の向上に務めるため、当面のところ新規雇用が手控えられることを予想させる。

ブッシュ大統領は、失業率上昇の歯止め策として、経済を刺激する効果がある減税案のの議会通過を図っている。これに対し、アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)のスウィーニー会長は、5月2日に失業率が6%に悪化したことを受けて出したコメントの中で、「大統領が行うとしている減税パッケージは、富裕者の利益になるばかりで、一般労働者とその家族にとっては良いことはない。緊急失業給付措置も5月31日で期限切れとなるが、雇用を創出し経済を強化するためには、失業給付を本当に必要とする労働者を救済するプログラムを議会は動議すべきである。」と厳しい姿勢を示している。

雇用創出のための政府の方針

このような厳しい雇用情勢を背景として、議会は、まさに2004年度予算案編成に向け、議論を繰り広げている最中だが、それに先立ち、5月に入り、労働分野における大統領提案として次の方針がうちだされている。その内容は、1.21世紀の労働力を強化し、保護するため、雇用訓練プログラムの再構築を図ること、訓練と技能のニーズを把握するため経営者の参画をさらに促進すること、失業者がより良い仕事につけるように支援すること、すべての雇用訓練プログラムを適正に評価すること。2.州による管理を強化すること、利用者サービスの改善、経営者の拠出負担を減らすことなどを目的に、失業保険制度を改善すること。3.退職保障や安全衛生を含め労働者に関係する重点分野の保護を強化すること。以上の3つが柱である。さらに、これをうけて、労働省でも雇用職業事業指針として、以下の内容を重点目標にあげている。1.職業訓練プログラムをさらに効率的に結果重視の方向で行うこと、2.失業保険プログラムの見直しを行い、毎年各州の負担となっている同プログラムによる巨額の支出を軽減すること、3.非効率的な,労働集約的外国人労働許可プログラムを改善すること。このように、労働市場の軟化傾向に対して,失業保険制度の効率的運営と効率的な職業訓練プログラムへの取り組みを重要視している。

具体的アクションとしての職業訓練プログラム

一方、米国会計検査院(GAO)は、4月18日に「多様な雇用職業訓練プログラム」(“Multiple Employment and Training Programs - Funding and Performance Measures for Major Programs”)と題する報告を発表した。1999年度から2002年度までに内務、司法、労働、教育等9の省庁によって実施された44の職業訓練プログラムについて費用対効果を計ることを目的に調査した結果の報告書である。この報告によると、2003年度は、職業訓練のために375億ドルが予算化されており、これは、2002年度の305億ドル、2001年度の300億ドルの実績を大きく上回るものである。さらに、2002年度実績で最も多額の予算を受けたものは、以下の5つのプログラムであった。1.子供のいる貧困家庭が社会的に独立して自分たちで子供を養育できるよう支援するため州や地域を通じて行う貧困家庭のための一時的援助プログラム(Temporary Assistance for Needy Families)、2.障害者が雇用を得るための能力向上のため州を通じて支援を行う職業リハビリテーションサービス(State Vocational Rehabilitation Services)、3.失業者救済のための措置であるWIA失業者(WIA Dislocated Workers)、4.雇用のため複数の障害をもつ16歳から34歳までの青年を対象とした教育的雇用、訓練プログラムである宿泊型若年者教育訓練プログラム(Jobs Corps)、5.学術的,職業的、技術的スキルを高めるため訓練を行い中学卒業資格を授与することを目的として実施される職業教育プログラム(Vocational Education?Basic Grants to States)。同報告によると、2003年度は、このうち貧困家庭のための職業訓練援助プログラムが大幅に予算措置を伸ばしている。今回の調査対象プログラムの利用実績をみると、全米で2900万人が利用したことになっている。

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