建設業に関する王立調査委員会の中間報告書をめぐって

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

建設業に関する王立調査委員会は、約1年間にわたり建設業の労使当事者による不正行為について審理してきた。そして王立委員会は中間報告書を公表し、その中で不正行為を一掃するために特別の権限を持った特別委員会の設立を勧告した。労働組合サイドは、王立委員会自体が主要労組である建設・林業・鉱山・エネルギー労組(CFMEU)に打撃を与えるための政治プロセスであると批判している。

中間報告書の内容とそれへの対応

その焦点となっている不正行為とは、贈賄、脅迫、不適切な報酬そして組織強制の実施等で、労組側でこの問題に関わっていると見られているのがCFMEUである。同労組幹部は、これらを根拠のない主張であり、裁判所でも支持されることがないであろうと反論している。加えてこうした主張が政治的意図を持って展開されていると指摘した。

中間報告書は政治的な波乱を引き起こしている。問題とされているのは、産業平和を維持し、プロジェクト完成の納期を守るために業者や下請けが労組幹部に報酬を支払っているのではないかということである。加えて建設業者や下請業者が非組合員を採用すれば、ストライキを実行するといった脅し等も行われているという。ある事例では、建設業者が下請業者の労働者の組合費まで負担したと伝えられている。

最も深刻なのが、労組に対する金銭の提供に関する申立である。いくつかの証拠が提出されており、例えば労組の財政状況が挙げられている。すなわち、1996年のCFMEUの運営欠損金は84万1241豪ドルであったが、新指導部が組合運営基金への寄付を使用者に迫ったことで、組合財政は翌年黒字に転換したという。使用者はCFMEUのピクニック基金や闘争基金、キューバ連帯基金に寄付をしたという。旧労組幹部がこうした行為を裏付ける証拠を提出している。

ここで強調しておきたいのは、以上はあくまでも当事者の申立に過ぎないということであり、労組幹部は法廷で争えばほとんどの主張が退けられると力説している。実際労組に不利な主張を行った旧労組幹部の1人は自らの主張が嘘であったことを認めている。

特別委員会設置の真の意図とは

王立委員会や特別委員会設置の真の意図は、CFMEUに打撃を与えることにあると指摘されている。1998年の港湾労使紛争以来、CFMEUは政府の「標的」にされ、特に職場関係省長官は建設業におけるパターン・バーゲニングを取り締まることを望んできた。将来自由党の指導者となることを考えているアボット長官にとって、「組合つぶし」の功績は何の不都合にもならないであろう。

しかし労組も一歩も引かず、労組に弁明の機会を与えなかったことで王立委員会が手続的公正さを欠いていると主張した。そして労組に対する偏見を理由に委員長の排除を求めたが、結局労組は同委員長に対する訴訟を提起した。

現在の状況を客観的に捉えると、王立委員会やその中間報告書にはある方向性が伺える。同様の勧告は1999年の生産性委員会の報告書やニューサウスウェールズ州の王立委員会でも見られた。この種の様々な調査は、保守政権による労組に対する攻撃と捉えられている。

建設業の労使関係は、こうした敵対的な行為をひき起こす構造的体質を持っている。同産業は好不況の波が強く、仕事の性質上労働者と使用者の関係は一時的なものになりがちで、加えて何重にも及ぶ下請・孫請関係により競争が激しい業界でもある。そのため、中小の業者は職場の安全衛生を軽視し、労働者の賃金や労働条件を切りつめようとする。このことは、中央集権的な労使関係を求める労組の主張を正当化する。その意味でパターン・バーゲニングは評判の高い戦略なのである。

もちろん贈収賄は許容されるべきでないが、同様の行為であっても政府の労組への対応とビジネス界への対応はあまりにも対照的であり、政府の攻撃的な対応と戦略は有益ではないと考えられる。

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