年金問題でストライキ勃発か
―TUC大会でも中心テーマに

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年11月

企業年金を見直す動きが広まるなか、一部の労組は使用者による年金制度の一方的な廃止・変更に対してはストライキで対抗する意向を表明しており、大規模な労使対立に発展する可能性も出てきた。9月に開催された労働組合会議(TUC)大会でも、年金問題は中心テーマの一つとなった。

廃止へ向かう「ファイナル・サラリー年金」(確定給付型)

多くの企業が見直そうとしている企業年金は、給付額が最終給与と勤続年数に基づいて決まる確定給付型の「ファイナル・サラリー年金」。勤続年数が40年であれば最終給与の約3分の2が保証され、イギリスでは最も充実した企業年金である。同年金を廃止する場合でも、これまでは新規雇用者に限るのが一般的だったが、最近では既存の従業員についても廃止する企業が出ている(イギリスの年金制度をふくめて、最近の年金問題の動向については本誌2002年9月号を参照)。

940社を対象にした英国産業連盟(CBI)の最近の調査によれば、24%の企業がすでにファイナル・サラリー年金を廃止しており、12%が廃止を検討している。また民間部門で同年金の権利を有している労働者は、1991年に560万人いたが、2001年には380万人まで減っている。

さらに資産運用会社JPモルガン・フレミングの調べでは、退職後に生活難に陥る可能性のある労働者は過去12カ月に345万人増えており、労働力人口の54%にあたる1600万人以上が十分な年金を受け取れない状況にある。最終給与の4割以下の年金しか受け取れない労働者は、1996年以来、年100万人のペースで増えている。

一部労組はストで対抗 ―TUC大会では年金キャンペーンを立ち上げる

労組幹部らによると、年金問題は労働者にとって目下、最大の懸案事項である。鉄道海上運輸労組(RMT)、輸送一般労組(TGWU)、アミカス、公共商業サービス労組(PCS)などは、年金切り捨ての動きに対してはストライキで対抗する意向を表明している。労働組合会議(TUC)のモンクス書記長もこうした動きを支持しており、9月に開催されたTUC年次大会では「年金全額支払い」キャンペーンを新たに立ち上げることが決まり、年金問題で政労使のそれぞれが果たすべき役割を提案していく。

モンクス書記長は、ファイナル・サラリー年金の廃止について、賃金・労働条件を見直す使用者側の試みとしては戦後で最も重大であると述べ、労働者が裏切られつつある現実に「イギリスを目覚めさせる」と並々ならぬ決意を表明している。対立よりも協力を重んじてきた穏健な組合人として知られてきただけに、年金廃止を計画している使用者は不安を隠せないでいる。

TUC年次大会で立ち上げた年金キャンペーンでは、対案として、年金積立金の拠出を労使双方に義務づけ(拠出率は労使併せて従業員給与の最低15%)、企業が破産した場合の特別準備金制度を設置するよう政府に求めている。

使用者はストライキ回避のため対策を協議

CBIは、株価の低迷や新会計制度の導入などを理由に、ファイナル・サラリー年金の廃止以外に選択肢はないとの立場をとり、TUCの案についても、経営が悪化している企業、とくに中小企業をかえって倒産に追い込むことになり、現実的でないとの立場をとってきた。しかしTUC大会後に、一部労組のストライキ路線に追随する動きが広まりつつあることを重く見て、ファイナル・サラリー年金の廃止に代わる対策について、全国年金基金協会(NAPF)との協議を始めている。

たとえば、年金制度がとくに経営の足枷になっている中小企業が複数集まって、全従業員を対象とする単一の年金制度を設置する案などが浮上している。

2002年11月 イギリスの記事一覧

関連情報