タイにおけるジェンダーの平等とディーセントワーク(ECOTレポート)

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

アジア諸国の中で女性の社会参加率が高いといわれるタイにおいてさえ、男性労働者と女性労働者の地位にはギャップが存在し、それを埋めていくための試みが、タイ政府、経営者、労働組合、NGOなどによってなされてきた。しかし、その格差は未だ課題となっている。以下タイECOT(タイ経営者連盟)からのレポートをご紹介する。

タイの女性労働者の概況

アジア・太平洋諸国のその他の国々と比べた時に、タイの女性労働参加率は経済発展の度合いに関わらず常に高かった。女性が仕事のために家を空けることは、タイの農村・都市部両方の社会において容認され、時には家族に勧められることさえあった。

産業化の過程において、新たな雇用機会が提供されるにつれ、更なる女性が労働市場に参入していき、工業部門だけでなく商業部門やサービス部門へも進出していった。都市に偏向した経済発展は農村部の女性を都市部へと押し出す重要な要因となり、特にバンコクへ向かう15?19歳の未婚女性の労働力移動が顕著に見られた。タイにおける労働力移動の特徴は、このような未婚の若い女性が家族から離れても労働力として社会から認められることにある。

学校教育におけるジェンダーギャップ

職業訓練校を除いて、全ての学校教育過程で男女の差別はない。しかし、大学進学の際の学科・学部の選択には、伝統的な性差が表れる。大学には男女の割り当て制度は存在しないが、学校事務・行政側が女子学生の科目選択や、ある特定の学問分野への進学という選択をさせることに関わっている。更にその選択は、ジェンダーの役割をはっきりと規定した学校教育、教科書といったところで影響を受けている可能性がある。

女性が不利な点は職業訓練にも現れている。女性の参加はある特定の伝統的な分野の訓練に集中しており、その結果、職業の選択にも偏りができてしまう。また、技術訓練の際の装備器具が不充分であったり、クラス自体が女性が参加しづらいといった問題もある。

法律の問題点

女性が職場で責任のある職務につけない理由の一つに、子供や高齢者の世話が挙げられる。働く女性の子供は、時に地方の両親に預けられ、親子と別々で暮らしているケースもよく見られる。

また、多くの女性が従事する「内職業(home-based workers)」は、現在の労働保護法や社会保障法の規定外になっている。内職業であっても、経営者-従業員関係が認識されているにもかかわらず、制度がそれを認めていないのである。このような内職業の女性達は、民法に頼ることになるが、この民法では、「財を生産する契約」に関する状況にのみ対応しており、様々なトラブルに対応できない時代遅れのものとなっている。

女性の労働組合への参加

女性労働者の組合加盟率は男性とほぼ同じであるにもかかわらず、執行部を見ると幹部のほとんどが男性である。いくつかの労組で、女性の地位向上と社会参加を促進するための部署や特別なプログラムを設けている所もあるが、稀である。

また、労使紛争の解決にも女性の姿は見られない。労働裁判所や三者委員会にも、副裁判長として女性が登場することはあっても、三者委員会に女性が参加することはほとんどない。

政府に対する提案

タイにおけるジェンダー平等に関して、政府に以下のような提案をしたい。

  1. 職場の男性従業員と女性従業員に関する統計の収集

    ジェンダー平等が存在するのか、またはどの程度それが進んでいるのか、またその傾向とパターンを把握するために、男女別の統計が必要とされている。具体的な統計がない場合、行政や民間にジェンダーの不平等が存在することを証明し、その問題点に関して説得するのに、多大な努力をしなければならないだろう。

  2. ジェンダー平等に沿った雇用機会を促進し、監視すること

    政府機関においては、雇用と昇進に関する公式の障害は存在しないが、非公式の障害が存在する。不公平な扱いが報告されている例もある。継続したモニタリングが必要とされている。一方、民間企業においては、ジェンダー差別がより公に行われているといえるだろう。ECOTの組合員にインタビューを行ったところ、女性従業員は仕事に対する責任感が強く、粘り強く、会社に対する貢献度も高いと、女性の採用を積極的に行いたいと答えていた。

  3. 教育と訓練システムにおけるジェンダーステレオタイプの是正

    教科書の中に、女性と男性の多用な役割を掲載し、改訂することが必要だ。このような試みが何度かなされたことがあったが、具体的な結果がまだ表れていない。又、教科書の改訂は1度きりではなく、継続して行うことが必要だろう。

キャリアガイダンスのカウンセラーに対してもジェンダーを意識した訓練を提供することが大切だ。タイの労働者の大半が6年間の義務教育終了程度かそれ以下の教育水準で労働市場に参入してくることを踏まえ、職場の生産性を向上させるためには技術と一般的な知識の両方を高める必要がある。経営者は従業員に対して中等教育程度の非公式の教育を提供することが望まれている。現在タイでは、多くの工場で学校が設立され、女性従業員やその子供達に教育の場が提供されている。

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