(香港特別行政区)政府、公務員給与の抜本的再検討実施を発表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

政府は2001年12月18日、18万5000人の公務員給与の抜本的再検討を実施すると発表した。だが、財政赤字が600億ドルに達するとの予測がなされた後であり、また、経済界からの公務員給与減額の声が高まっている時期だけに、この発表に対して組合、立法会議員等から、政府は経済界の圧力に屈し、これが公務員給与の一律カットにつながるのではないかとの懸念が表明されている。

公務員給与の改革については、1999年4月に董建華長官によって公務員制度の抜本的改革構想が発表され、その一環として同年12月に公務員の初任給を減額する改革が決定されたが(本誌2000年3月号Ⅰ参照)、今回の再検討はさらに抜本的なもので、1986年に民間企業の賃金水準との均衡を保つための検討が加えられて以来のものとなる。

再検討は、公務員給与に関する既存の三つの諮問委員会によって、約6カ月かけてそれぞれ独立してなされ、2002年半ばを目処に第1次の答申が行われ、それを踏まえて第2次の検討が行われる予定で、最終期限は未定だが、約1年ほどの期間をかけて結論が出されることになる。

検討される内容には以下のものが含まれる(ただし、公務員の給与の減額には香港基本法100条による制約があり、同条では、公務員の給与、諸手当、勤務条件は、香港の中国への返還前の水準を下回ってはならないと規定されている)。

  • 27年間続いた、民間企業の賃金水準の動向調査に連動して公務員給与を決定するという従来の原則そのもの。
  • 賃金を決定する方法。
  • 等級と給与構造の可能な限りの簡略化。現システムでは、400の等級と1000以上のランクがある。
  • 給与とモチベーションの関係。
  • 毎年の給与水準調整のメカニズム。
  • 公務員制度の安定性の維持。

ジョセフ・ウォン公務員部門長官は、この再検討の実施に当たっても、公務員が魅力的で価値ある職種として維持されることを目指すとしているが、他方で、社会に対するコストや利益というより広い観点や政治・経済の現実を考慮に入れねばならないと述べている。

ところで、政府は12月5日、長引く歳入の減少で財政赤字が600億ドルに達する可能性があると警告し、この中で、公務員と政府補助部門全体への経常支出が全体の70%に当たることが明らかにされた。また、アントニー・ルン財務長官は社会全体に財政赤字の問題についての討議を呼びかけるとともに、この財政赤字に対処するために、増税よりも歳出の削減を優先させると述べてきた。他方、財界を代表する自由党のジェームス・ティエン党首は、かねてから公務員の人数を10%削減すべきだと主張してきたが、残りの公務員についても、民間と比べて給与が高くなっているから、公務員給与と民間企業の賃金の連動システムを変更すべきで、給与を10%カットすべきであると述べてきた。同党首は、それが財政赤字の削減にも役立つことになると主張してきた。

このような意見が表明される中で公務員給与の再検討が発表されたことで、労組からは懸念の声が上がり、チャン・チェ・クォン政府被雇用者連盟委員長は、再検討の究極的な結果が公務員全体の給与の減額になることを恐れると懸念を表明している。また、立法会議員のリー・チュク・ヤン職工会連盟(CTU)事務局長は、給与の削減により公務員全体の士気と安定感に大きな影響が及ぶことを指摘し、また、今回の政府の発表が公務員給与の削減を主張する財界の圧力に屈したものだと批判している。同氏はさらに、公務員給与の削減により、民間企業がさらに賃金カットをすることに口実を与えることになるとも述べている。

財政赤字との関連については、ウォン公務員部門長官はかねてから、公務員給与の再検討と財政赤字の問題は別問題であるとしてきたが、その後ジェスィー・ティン副長官は12月22日、給与の減額について、公務員全体につき10%の範囲で減額の余地があると述べている。同副長官は、1997年の香港返還以来、公務員の給与は約10%上昇したから、香港基本法の制約のもとでも10%の減額の余地があるとしている。ただ、同副長官は、政府は給与の削減を十分な理由があるときにのみ行い、その場合も合法で公正な、理に適ったやり方で行うと付け加えている。

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