労働法改正案の先取りとして注目
―VW社の労使交渉

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

VW社の労使が、賃金と労働時間を15%削減する代わりに大量解雇を取り消す交渉を成立させたことは、現在政府が国会に提出している総合労働法に柔軟性を持たせようとする改正案を先取りするものだと労働問題の専門家たちは分析している(本誌前号参照)。

政府は1943年に発令した総合労働法が、時代の変遷に応じた調整を加えずに、時代遅れになっている結果、労使に必要以上の負担をかけて、ブラジル特有のコストとなり、国際競争力を失わせている上に、雇用の増加を阻止し、正式雇用を減少させて非公式就労を増加させる原因になっている、と主張している。

労働省は労使団体に、労働法に柔軟性を持たせる改正案を討議するよう提案して、使用者団体と2大中央労組の一つであるフォルサ・シンジカルから支持をえたが、政府野党である労働党と直結している中央労組CUTは、労働者の既得権を奪うものであるとして、全ての改正案に全面反対を唱え、国会の改正案審議を阻止している。

しかしCUTの中心的存在であると同時に労働党の発祥の地となっているサンバウロ首都圏のABC地帯金属労組が、VW社と給料と労働時間の15%の削減協定を成立させたことは、労使交渉による決定は労働法の規定以上の効力を持たせると、政府が労働法改正案に盛り込もうとしている条項を先取りした形になっており、CUTの改正反対姿勢は立場を失っている。

もともと総合労働法は、弱い立場にある労働者を保護するという名目により、労使を政府のコントロール下に置き、政府はさまざまな名目の労働分担金を設けて、労働問題の専門家の計算では労働者に支払う給料と同額を別に企業が支払うような負担を企業にかけて、正式契約による雇用を回避させるような規制で縛り付けている。

実際には労使ともに労働法が現状に合わなくなっていることを認め、労使交渉により企業の実情に応じた方法を各所で採用しており、労働法は改正以前に現実に先を越された形になっている。

労働法が正式登録を義務付けていながら、給料生活者の半分以上が正式契約を交わしていないことに見られるように、ブラジルの法令は守られる部分と守られない部分があり、法律を守らせるために存在する監督官庁も法令と国家の現状を考慮して、監督範囲を制限している。

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