雇用保障と引換えに賃下げ容認
―フォルクスワーゲンの労使交渉で新モデル

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

10月下旬、ブラジルのフォルクスワーゲン社サン・ベルナルド工場は、自動車業界の競争激化を理由として、1万6000人の労働者の内、3000人の解雇を目指して組合側と交渉に入った。

同社は既に1998年に、2万人の労働者の内、7500人の解雇を目指して希望退職者を募った経緯がある。これによって達成した解雇者の数は、4000人であった。残りの3500人は、組合との交渉で、解雇と引換えの労働時間の短縮と平均15%の賃金カットにより、辛うじてコスト引下げの目標を達成することが出来た。

しかしその後、ホンダ、トヨタ、ルノー、ニッサン、プジョーなどの乗用車市場参入、フィアットの増産などが相次ぎ、しかもこれら各社はいずれも、労賃の高いサン・パウロ近郊地区を避け、ミナス・ジェライス州、パラナ州、サン・パウロの地方部に工場を設けて低コストで生産しているため、サン・パウロ近郊地域で生産しているフォルクスワーゲンは、これらと競争が困難になっている。(フィアット社の工場があるミナス・ジェライス州ベチンの労働賃金は、サン・パウロ周辺の約半分である。)

以上を理由として、同社は、3000人の解雇、就業日数の削減、幾つかの部門の分社化(特に鋳造部門と物流部門)と新しい労働契約の際の賃金引下げ、13月賃金(ボーナス)、利益参加計画の12カ月分割支払などを求めてきた。

組合側は、会社側の申出を一応拒否するとともに、集団休暇中の組合員の復帰する11月10日頃を待って、正式に態度を決定しようとしたが、会社は11月8日、郵便により、サン・ベルナルド工場の労働者中、3075人に解雇通知を送付した。組合は直ちにストライキに入り、同時にサン・ベルナルド・ド・カンポの金属労連組合長ルイス・マリーニョは、ドイツ本社に飛んで、会社側の翻意を促した。

結局、フォルクスワーゲン本社、組合、現地会社の協議により、会社側が譲歩して、3000人の解雇を取消すとともに、下記条件を新たに、組合側に提案した。そして11月21日、組合員1万5000人がサン・ベルナルド・ド・カンポ工場に集合し、75%の賛成を得て、新たな会社側提案を承認、暫定的に合意が成立し、ストは中止されたのである。

労使の合意

  • 解雇した労働者中、半数の復帰を認め、あとの半数は翌年1月31日まで有償の休暇を与え(自宅待機)、景気の回復を待つ。
  • 希望退職者700人を募る。希望退職者には、本年の取得賃金に40%の割増を加え、3カ月の医療サービスを供与する。退職者が解雇リストに載っている者には、さらに、3000レアルの割増金を与える。
  • 週勤務日数を15%減らし、4日とする。
  • 賃金を15%低減する。現行月額賃金高を維持するために、賃金改定の基準日における調整率8.16%の内2.72%を算入しない。交渉済みの2002年の会社利益参加額2800レアルの内、1800レアルは、12カ月の分割払とし、賃金に算入する。
  • 新規契約の賃金は現行の平均30%安とする。新規雇用者の賃金最低額は、現行の995レアルから748レアルに引き下げる。職種別賃金の上限に達する月数は、現行46カ月を64カ月とする。
  • 交通費及び食費の手当の調整率は、8.16%とする。(合意前は18.16%を予定していた。)
  • 労働者の成績の評価には、企業内労働者委員会と企業が当たり、成績不良の者は2カ月内に適応できないとき解雇する。
  • 鋳造、小部品製造、テスト・ドライブ、物流、バネ製造などの部門は分社化され、約1800人の労働者が転籍される。

争議の影響

この争議を通じて、会社側の態度が著しく強気であったこと、資本側のこの態度は、他社にも波及しそうであることが注目されている。

1950年代のフォルクスワーゲンの進出、1980年代の近代的労働関係の樹立を経て、今日まで、同社を中心とするABC(サント・アンドレ、サン・ベルナルド.ド.カンポ、サン・カエターノの頭文字をとったブラジル最大の工業地帯の名称)の金属労働組合は、ブラジルの労働運動の最前衛と言われていたが、ここに、賃上げより雇用と言う新しい労働関係の先例を作ったことになる。

あたかもこの先例にならうように、11月20日、トラックを製造しているスカニア社のサン・ベルナルド・ド・カンポ工場は、来年1月から、20%の労働時間短縮とそれに伴う賃金引下げの提案を組合に対して行った。この提案を組合がのまなければ、2300人の従業員のうち、400人を解雇すると会社は主張している。この措置は、本年予定されたトラック販売台数1万500台が、8500台で終わりそうなこと、市場の好転の様子が見えないことからとられたものである。

ここ当分、資本側が雇用の継続を条件に労働者側の要求の抑制、縮小を求める傾向が続きそうである。

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