基礎情報:ラオス(2018年)
5. 社会保障制度

2018年10月25日掲載

5-1 社会保障制度総論

ラオスの社会保障制度は公務員、軍人、警察官およびその家族に適用になる制度からはじまった。1993年11月公布の首相令178号でそれが定められた。民間の労働者およびその家族を対象とする社会保障制度は1999年12月公布の首相令207号に基づき、2001年6月1日から始まった。その根拠となっている首相令は2013年社会保障法に格上げされ、その実施のためのガイドラインが2015年7月24日に公布されている。この法律によって公務員、軍人、警察官と民間企業の両方をカバーする社会保障制度となっている。この制度設計にはベルギーやルクセンブルグの支援をうけてILOが技術協力をしている。

制度の運営は特別法人社会保障基金が担っている。この基金は事会によって運営されているが、理事長は労働社会福祉大臣、副理事長は財務省、保健省、労働総連盟、商工会議所からの代表、理事は労働社会福祉省、国防省、公安省、財務省、内務省、女性同盟、労働総連盟、商工会議所、もう1つ別の使用者組織代表、基金事務局長から構成されている(社会保障法61条)。

1人以上を雇用する民間企業が強制適用になるが、独立自営業者や任意に加入を希望する者も加入することができる。加入する者は使用者も労働者も社会保障基金に登録しなければならない(64条)。

基金は、保険料で運営されているが、民間の労働者が月給の5.5%、使用者が6%を支払う(55条2項、56条2項)。使用者負担が0.5%多いのは労災補償を使用者が負担しているためである。保険料計算の対象となる月給の上限は450万キープ、下限は最低賃金額の90万キープであり、最低賃金が上がると変更されるであろう。

政府が公務員、軍人、警察官の保険料として全給与の8.5%を支払う(55条1項)。公務員、軍人、警察官は月給の8%を支払う。独立自営業者や任意の加入者は9%の保険料率になっている。

図表:社会保障基金の中での保険料の区分け
基金名称 政府部門 民間部門 自営業等部門
医療・健康基金 1.5% 1.5% 1.5%
労災および職業病基金 0.5% 0.5%  
短期給付基金 2.5% 2.5% 2.5%
長期給付基金・年金 12.0% 5.0% 5.0%
失業給付基金   2.0%  
合計 16.5% 11.5% 9.0%

出所:国際労働財団編「2016年 ラオスの労働事情新しいウィンドウ
2016年9月9日に国際労働財団主催により開催された講演会におけるラオス人民革命党労働組合中央委員会対外関係委員会委員会・ボンニョン・ブッタボン氏らによる講演録に基づく。

給付内容は医療給付、出産給付、疾病等による休業手当、労災・職業病および疾病による傷病給付、障がい手当、老齢年金、葬祭料、遺族給付、失業手当の9種類である。

転職を繰り返して定期的に保険料を支払っていない者は、新に社会保障をうける資格を更新しなければならない(50条)。退職した者が仕事に復帰して保険料を納付する場合、保険料納付期間が合算される(51条)。

公務員、軍人、警察官およびその家族に対する制度によってカバーされるのは人口の15%、社会保障法によってカバーされる民間企業の労働者は人口の6%程度と想定されている

出所:WHO Representative Office, Lao People’s Democratic Republic ed., Health Financing.新しいウィンドウ

5-2 医療給付

医療給付は、最低1カ月の保険料を支払うと、加入者とその配偶者と加入者が生計を維持している子どもに労災による疾病や出産による疾病の治療を受けさせることができる(社会保障法12条1項)。最低3カ月の保険料を支払うと、加入者は労災以外の疾病の治療を受けられ、さらに18歳未満の子どもまたは勉学中で未婚の23歳未満の子どもが治療を受けることができる(12条2項)。

治療は指定された病院で現物給付として治療を受けることができる(13条)。医療費の支払いは疾病の程度や治療の質によって定められているが、病院ごとに登録人数に応じて定額医療費を支払うという人頭請負制度によって医療保障を行ってきたが、それだけでは不十分なので、医療機関との契約によって治療費を支払う別のやり方も導入している。

出所:漆原克文「ラオス、カンボジアの社会保障制度(PDF:519KB)新しいウィンドウ」『海外社会保障研究』国立社会保障・人口問題研究所150号、2005年春、91頁。

5-3 出産給付

最低6カ月保険料を支払い、妊娠3カ月以降の出産や流産、妊娠中絶をした場合に、加入者の月給の60%相当の額が子ども1人あたり給付される。妻が仕事を持っていない場合にも加入者の配偶者として同じ額が給付される(社会保障法18条)。出産によって仕事に復帰できないことが医学的に認定された場合には、過去6月の月給の平均の80%相当の額を3カ月間のみ受けとることができる。その後は疾病給付や障がい給付に移行する(19条)。

5-4 労災・職業病および一般の疾病による傷病手当と障がい手当

労災や職業病で治療が必要な場合は、医師の診断に応じて社会保障基金が支払う。

労災や職業病によって一時的に労働能力を喪失して、治療中やリハビリを受けている場合、労災や職業病による傷病手当が、過去6カ月間の平均月給の70%を最大6カ月間支給される。勤務したり退職している場合はその半額が支給される(社会保障法23条)。一般の疾病による傷病手当は平均月給の60%が最大3カ月間支給される。勤務したり退職している場合には、その25%が支給される(25条)。

傷病手当が支給された期間後も労働能力の喪失が続いている場合、労働能力喪失の程度によって8つのカテゴリーに区分して、障がい手当が支払われる(20条)。

カテゴリー1(81-100%)、カテゴリー2(71-80%)、カテゴリー3(61-70%)、カテゴリー4(5-60%)、カテゴリー5(41-50%)までは毎月の障がい手当、カテゴリー6(31-40%)、カテゴリー7(21-30%)、カテゴリ~8(1-20%)は一時金が支払われる(22条)。

労働災害や職業病によって移動が困難な者に義肢が提供される(26条)。カテゴリー1の労働者を介護する者には、その労働者に支払われる額の70%が労働者の存命中に支給される(27条)。

5-5 疾病による休業手当

最低3カ月の保険料を支払い、疾病のために入院等によって休職中の労働者に休業手当が支払われる(29条)。休職してから最初の6カ月間は、過去6カ月間の平均月給の70%に相当する額が支払われる。それ以降も休職する必要がある場合、次の6カ月間は、平均月給の60%に相当する額が支払われる。さらにそれ以後も休職が続く場合、治癒の見込みがないと判断されるときは、障がい給付に移行する(社会保障法30条)。

5-6 老齢年金

以下の者が老齢年金を受け取ることができる(社会保障法32条)。それぞれの組織から退職許可の証明書を取得する必要がある。

  1. 男性60歳、女性55歳に達し、勤続25年の者が年金を受ける権利を有する。
  2. 1975年以前に革命運動に参加した者
  3. 障がい度カテゴリー1から4までの者
  4. 男性55歳、女性50歳で最低20年勤務し、その中で危険な業務に5年以上継続して勤務した者、公務員、軍人、警察官で20年から25年以上保険料を納付した者
  5. 民間企業、自営業者、任意加入者で15年以上保険料を納付した者

年金額は、民間企業、自営業者、任意加入者の場合、退職前12カ月の平均賃金を基礎に保険料納入による獲得年金ポイントを算出して、それに1.5%をかけることによって計算される(34条)。年金額は小切手で受給者に支払われる。

年金を受ける資格を満たさない者は、過去6カ月の平均賃金の1.5倍に勤続年数をかけた額を一時金として受け取る権利を有する(36条)。

5-7 葬祭料

最低3カ月保険料を納付した者が死亡した場合、その葬式費用が支払われる(社会保障法38条)。過去6カ月間の平均賃金の12カ月分に相当する額が支払われる。加入者の配偶者が死亡する場合は6カ月分に相当する額、18歳未満の子どもが死亡する場合は3カ月分に相当の額が支払われる(39条)。

5-8 遺族給付

5年以上の保険料を支払った加入者によって生計を維持されていた以下の遺族が、加入者の死亡によって月々の手当を受ける権利を有する(社会保障法41条、42条、43条)。

夫が死亡した場合、55歳に達した妻が定期的に所得を得られず、さらに再婚しないときには、夫の最後の月給、老齢年金または傷病給付の30%に相当する額を受け取ることができる。逆に妻が死亡した場合、60歳に達した夫で障がいを負って定期的な所得がなく、再婚もしていないときに、妻の最後の月給、老齢年金または傷病給付の30%を受ける権利を有する。

死亡した加入者の18歳に達していない子ども、義理の子ども、養子(これらを総称して孤児と呼ぶ)は死亡者の最後の月給、老齢年金または傷病給付の20%に相当する額を受ける権利を有する。その人数に関係なく、総額で60%以上を受ける権利はない。身体的または知的障がいを負い働くことができない孤児は一生涯給付をうける権利を有する。

死亡者によって生計を維持されていた父で60歳に達した場合、または母で55歳に達した場合、それぞれに所得がないときには、死亡者の最後の月給、老齢年金または傷病給付の30%に相当する額を受ける権利を有する。父母ともにこの基金の受益者である場合には、死亡者の最後の月の給与の50%を超える額を受けることはできない。つまり、30%プラス30%の60%でなく、50%が上限となるということである。

国の防衛の戦いのためにすべての子どもが死亡した両親には、死亡した子どもが加入者かどうかは問わず、一生涯遺族給付をうける権利を有する。

5-9 失業給付

以下の場合に失業給付が支払われる(45条)。

  • レイオフされたり、企業が倒産した場合
  • 最低30日失業している者として登録された者。就業規則に違反して解雇された者や、許可なく任意に退職した者は失業給付を受けることはできない。

失業給付額は、失業する前の6カ月間の平均賃金の60%に相当する額である。保険料納付期間が12カ月から36カ月の場合は3カ月、37カ月から144カ月の場合は6カ月、145カ月以上の場合は12カ月間支払われる(46条)。しかし、合理的理由なく就職を拒否する場合や再就職先を見つけた場合は、給付が停止される(49条)。

失業給付を受ける者は、必要があれば、ガイダンスや職業訓練を受けなければならない(47条)。新しい職を得るための援助をうける権利を有する(48条)。

5-10 その他の医療に関する制度

5-1で既述の社会保障基金によってカバーされる医療保障の他に、インフォーマル・セクターの人々を対象とした地域医療保険制度がWHOの支援によって保健省のもとで試験的に2002年から実施されている。これは主に自営業者や農民を対象にしている。人口の56%をカバーするとされている。しかし、任意加入なので現段階でどのくらいの割合の人々が加入しているかは不明である。自営業者や農民でも2013年社会保障法によっても任意加入すれば、カバーされることになる。しかし農村には十分に病院が整備されていないので、医療給付の分野では社会保障法の利用価値は少ない。

貧困線以下で暮らしている貧困家族を対象とした健康平等基金(Health Equity Fund)が2004年から試験的に保健省の管理のもとで施行されている。この場合は保険料の徴収はなく、すべて税金で賄っている。医療費だけでなく医療機関に通う交通費や食事代も給付されている。これは医療施設まで遠いところに住んでいる人のために補助する制度である。これで人口の23%をカバーするとされている。

さらに母子の健康増進のために無料で妊娠中の女性や新生児の健康診断や健康教育がなされるスキームがいくつかの州で国際NGOの協力のもとで実施されている。

以上の諸制度を統合して将来的には国民皆保険制度を目指しているという。

出所:WHO Representative Office, Health Financing.新しいウィンドウ

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