緊急コラム
第2ステージに入った欧州各国の雇用対策

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JILPT研究所 副所長 天瀬 光二

2020年7月6日(月曜)掲載

新型コロナウイルス感染拡大により停止されていた経済活動を再開させる動きが各国で活発化している。世界は、緊急事態下の感染拡大阻止を最優先した第1ステージから、コロナの感染リスクと経済活動が共存する第2ステージに入ったように思われる。各国は、第1ステージにおいてとった政策をどのように修正して対応していこうとしているのだろうか。各国における最近の動きを紹介する。

雇用維持スキームを延長へ【イギリス】[注1]

国家統計局が6月に公表した雇用関連統計指標によれば、イギリスの2-4月期の失業者数は前期比8000人減の133万6000人、失業率は前期と同じ3.9%であった。雇用関連の指標で見る限りコロナの影響がそれほど色濃く感じられるわけではない。しかし経済指標に関しては、4月のGDP成長率はマイナス20.4%(3月マイナス5.8%)と大きく低下、その大部分はサービス業における生産額の減少によるもので、とりわけ卸売・小売業や宿泊・食品サービス業などの影響が顕著となっている。統計局は、事業の一時的な休止や、工場等の閉鎖、あるいは建設プロジェクトの中断などが生産額減少の主な要因ではないかと見ている。

雇用主負担を段階的に引き上げ

イギリスは、4月に新規導入し支給を開始していた「コロナウイルス雇用維持スキーム(Coronavirus Job Retention Scheme)」の対象期間を10月末まで延長することを決めた。ただし7月以降は、労働者の職場復帰を想定したより柔軟な制度の適用が図られるとともに、雇用主の負担が段階的に引き上げられる予定となっている。対象期間について当初は、5月までを一定の目途としていたが、ウイルスの感染収束の先行きが不透明であることから、延長に踏み切った模様だ。しかし、経済の影響も顕在化しており、できるだけ早期に職場復帰を促さざるを得ないことと同時に、政府の負担軽減も図る必要があった。

同スキームは、企業向け支援策の一環として、事業に支障が生じた雇用主が従業員を一時帰休(furlough)にして休業等の期間における雇用を継続する場合、賃金の8割(月額2500ポンドが上限)を補助する制度である。3月27日付のコラム[注2]でも言及した通り、イギリスにおけるこうした(政府が賃金の支払いに補助を行う)制度の導入は史上初であり、特異な状況下での特筆すべき政策決定であった。

4月20日の導入以降、スキームの累計申請件数は6月28日まででおよそ110万件、対象労働者数は930万人に達しており、申請ベースでの賃金助成の支給額は255億ポンドにのぼる。制度を所管する歳入関税庁が公表した申請状況の業種別データによれば、対象労働者は卸売・小売業、自動車等修理業や宿泊・食品サービス業、製造業、建設業などで多い。政府が奨励する在宅就業によることが難しいこうした業種では、スキームの適用を受けることで解雇あるいは無給での休業を免れている労働者も多いとみられる。

部分的失業制度を見直し【フランス】[注3]

フランスの失業者数は4月には457万5000人に達し、これまで一度も超えたことのなかった400万人の大台を大幅に上回る結果となった。増加数は、2月までは2万人程度の減少で推移していたが、3月には前月から24万6100人増、4月には前月から84万3000人増となり、1996年に現行の「カテゴリーA~E」の統計枠組みを導入して以来で史上最高の増加幅となった。これまでの増加幅の最高値は、2013年2月(7万6100人増)、13年3月(7万7300人増)程度だったので、今年の3、4月の増加幅はこれまでに経験したことのない規模であった。

制度改正も視野に

こうした状況から、フランスの雇用維持の枠組み「部分的失業制度」の利用が急増している。部分的失業の申請件数は、3月9日時点で企業数900社、従業員数15000人であったが、1次補正予算の決定に際して、申請条件の緩和や支給可否の判断期間を短縮する措置を実施したこともあり、補正予算閣議決定直後の3月19日の時点で2万6000社、56万人へと急増した。当初予算の85億ユーロは、2カ月間の拠出額として計上したものであったが、この時点で必要な費用はすでに17億ユーロと試算され、予算増額の必要性が指摘されていた。4月9日の時点では、62万8000社、690万人に達し、民間部門で就労する雇用労働者の3割程度に相当する数となった。さらに2次補正予算案の検討時の4月16日時点においては73万2000社、870万人となり、部分的失業制度向け予算を85億ユーロから240億ユーロへ増額することが決定された。その後、4月22日には雇用労働者の約半分に相当する1020万人にまで達した。

制度の利用者が急増する一方、主に財政支出抑制の観点から、政府は部分的失業制度の適用条件を厳格化する方向で議論を開始している。これに先立ち、6月1日から、政府の負担率を引き下げることが決定された。従来は、法定最低賃金の4.5倍までの労働者を対象として、給与額面の70%を補償し、手取りの84%の収入を確保できるというものだったが、外出制限が解除されたことを受けた特別措置として、6月1日から給与額面の60%補償へと引き下げられた。ただし、外出禁止解除後も営業が禁止されている部門(カフェやレストランなど)に関しては、特別措置が継続とされた。また、6月8日には部分的失業制度の利用抑制に関して政労使で協議が開始された。部分的失業制度は、コロナ危機の労働市場に対する影響を緩和するという意味では大きな貢献をしたが、政府と失業保険会計による拠出が大きな負担となっているため、今後、長期的に継続することは困難との見方が強い。また、特別措置を維持することによって従業員の通常の就労への復帰を妨げる弊害があると指摘されている。政府は、部分的失業制度の利用条件を今後段階的に厳格化していくことを踏まえて、代替となる新制度の導入も視野に検討するとしている。

操短手当で雇用を支える【ドイツ】[注4]

経済、雇用情勢の先行き不透明感から、雇用を維持するスキームの条件を見直す方向に舵を切り始めた上記2国と一線を画し、逆にスキームの補填率を引き上げるとしたのがドイツだ。

連邦雇用エージェンシー(BA)が7月1日に発表した労働市場報告によると、ドイツの6月の失業者数は294万3,000人で、前月比で6万9,000人増となった(季節調整後)。5月に続いて増加したが、その増加幅は前月ほどではない。失業率は6.4%で、前月比で0.1ポイントの上昇であった(季節調整後)。一方、新規の操短手当[注5]の申請労働者数は、急増した4月の802万人から、5月は106万人、6月はさらに減少して34万人となった。連邦雇用エージェンシーのシェーレ長官はこうした状況に関し、「労働市場は依然として、(新型コロナウイルスの)パンデミックによる強い圧力を受けている」とした上で、操短手当が労働市場の安定化に大きな役割を果たしていると評している。

操短手当の補填率引き上げへ

こうした状況下、ドイツ政府(労働社会省)は、新型コロナウイルス危機克服のための追加支援策を、「社会保護パッケージⅡ(Sozialschutz-Paket Ⅱ)」にまとめ発表した[注6]。この社会保護パッケージⅡは、失業給付の期間延長や低所得家庭への支援等、総額30億ユーロに上る雇用・社会対策だが、操短手当の補填率の引き上げもこの中に盛り込まれた。政府は、雇用に関しては、コロナ第2ステージにおいても対策の支柱となるのはこの操短手当と見定めているようだ。

ドイツは操短手当の補填率を従来の原則60%から、4か月目から70%に、7か月目からは80%とする補填率の引き上げに踏み切る。引き上げの対象となるのは、労働時間が通常時の50%以上減少した労働者で、支給開始から3か月間は、従来通り休業により減少した手取り賃金の60%(子がいる場合は67%)だが、4か月目からは同70%(子がいる場合は77%)、7か月目からは同80%(同87%)に引き上げられる。2020年限りの時限措置で、2021年1月以降の申請については、今年9月に新たな規定を定める。今回の補填率引き上げの背景には、欧州の他国と比して賃金の補填率が相対的に低くなっていることがあると見られる。

欧州諸国の補填率は60~100%

経済社会研究所(WSI)が欧州15カ国を対象に、操短手当と類似する賃金補填制度を調査したところ、アイルランド、デンマーク、オランダ、ノルウエーの4カ国では補填率が100%で、オーストリア、イギリス、イタリア、スイスでは同80%、スペイン、ベルギー、フランスでは同70%となっており、ドイツの60%(子がいる場合は67%)は、調査対象国の中で最低水準であることが分かった。なお、ドイツでは、操短手当の他に、労働協約に基づいて雇用主が独自に追加の賃金補填をする産業もある。しかし、今回新型コロナウイルスによって特に深刻な打撃を受けたホテルやレストラン等のサービス産業では、雇用主による独自の賃金補填を規定した労働協約がない場合が多い。そのためWSIは、ウイルスの危機が収束するまでの間、操短手当の補填率を一律最低80%、低賃金労働者に対しては90%に引き上げるべきだと提唱していた。今回のドイツにおける操短手当の補填率の引き上げは、こうした調査や議論が行われる中で実施された模様だ。


以上のように、欧州主要各国の雇用対策はコロナと共存する(せざるを得ない)第2ステージにはいったと見られるが、その内容は、出口を睨んで条件を段階的に厳格化しようとする英仏に対し、より条件を引き上げ雇用維持の姿勢を崩さない独と、対応に若干の違いが表れてきているようだ。もちろんこれらの違いは、各国の感染状況や財政事情等さまざまな要因を反映してのものだろう。各国それぞれのアプローチに、正解か不正解かの答えが今下されるわけではない。コロナの終息が依然見えない中、各国とも、ウイルスの感染状況と経済・雇用指標を睨みながらの難しい舵取りがしばらくは続くものと思われる。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。