労働統計10年─メールマガジン創刊時と比較─
JILPT調査・解析部(情報統計担当)

※このページは、平成26年4月3日発行の「メールマガジン労働情報」1000号特別編集号を転載したものです。

統計レポート

メールマガジン創刊2003年からの10年は、リーマンショックで急激に悪化した世界同時不況(2008年~2009年)と東日本大震災(2011年3月)があった10年である。世界同時不況のときの‘雇止め’、‘派遣切り’は記憶に新しい。実質GDPは、2008年1.0%減、2009年5.5%減と未曽有の減少となった。2011年にも東日本大震災の影響で減少し、2007年の水準に戻ったのは2013年である(速報525兆円)。(図1

【図1】実質GDP(国内総生産額)の推移 図1グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 内閣府「国民経済計算」

注) 2013年は速報(2014年3月10日)

完全失業率…4~5%超で変動

完全失業率は、この10年、1ポイントを超える幅で上下した。2003年は5.3%と、過去最悪であった2002年(5.4%)に次ぐ高さであった。2003年はITバブル崩壊と言われた不況の底(2002年)から間もない時期である。2007年には3.9%まで低下したが、2009年には5.1%まで再び急上昇した。2011年からは低下し始め、2013年は4.0%である。(図2

【図2】完全失業者数、完全失業率の推移 図2グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「労働力調査」(基本集計)

賃金…全体では減少、パートタイム労働者増加の影響

賃金は、2013年は対前年横ばいとなったものの、2009年の3.9%減など減少した年が多く、10年間で計5.4%減少した。労働時間も同様な傾向である。これらは月当たりのもので、労働時間の少ないパートタイム労働者の動向に影響を受ける。パートタイム労働者比率は、2003年22.65%、2013年29.44%と上昇している。パートタイム労働者以外の一般労働者と、パートタイム労働者に分けてみれば、全体でみたときのような減少傾向はなく、パートタイム労働者の増大が、全体の水準を押し下げていることがうかがわれる。とはいえ、一般労働者の賃金も2009年に3.4%の減少があるなど、2013年は2003年に比べて0.9%下回る水準にある。(図3

【図3】労働者一人平均月間現金給与総額(左)、月間総実労働時間数(右)の推移 図3グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 厚生労働省「毎月勤労統計調査」(事業所規模5人以上)

注1) 毎月勤労統計調査のパートタイム労働者とは、一般の労働者に比べて1日の所定労働時間が短いか、週当たり所定労働日数が少ない者のことで、労働力調査のように事業所における呼称によるものではない。パートタイム労働者比率は1995年14.47%、2003年22.65%、2013年29.44%である。

注2) 本文中の賃金増減率は、サンプル替えに伴うギャップを修正した指数から計算したものである。

雇用全体は増勢に頭打ちが見られる中、パートタイム労働者を始め、非正規雇用が増加する、これがこの10年間の労働統計を特徴付けるポイントの一つであろう。雇用増の頭打ちには人口の動きも絡む。以下、人口と雇用の動きをみる。

減少し始める人口、少子高齢化の進展

戦後一貫して増加してきた人口は、1980年代半ばから増加幅が少なくなり、2005年には戦後初めて減少した(1万9千人減)。2009年に再度減少(5万2千人減)し、2011年以後は3年連続して年20万人以上の減少となっている。

人口の少子高齢化はさらに進展している。この10年は、1947年~49年生まれの団塊世代の先頭が60歳に到達し(2007年)、さらに65歳(2012年)に到達した10年である。2003年から2013年にかけ、65歳以上人口は746万人増加して3168万人となり、15~64歳人口は622万人減少して7920万人となった。15歳未満人口は152万人減少した。(図4

就業者、雇用者の動き…おおむね横ばい、65歳以上の増、女性の就業率上昇

就業者は2003年の6316万人に対し2013年は6311万人と、途中の増減はあるものの、おおむね横ばいであった。雇用者に限れば218万人増加した(自営業者、家族従業者の減少傾向が続いている)。増加はしたが、1990年までの10年間の864万人増、2000年までの10年間の521万人増に比べれば少ない。人口の動きをみれば、もはやかつてのような増加は期待できないであろう。(図4

【図4】人口、就業者数、雇用者数の推移 図4グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「人口推計」、「労働力調査」(基本集計)

注) 総人口は10月1日時点「人口推計」(なお2013年は概数)。他は労働力調査(基本集計)年平均値(15~64歳の数値は各年齢階級の合計値。2011年は全国補完推計値で、雇用者数の年齢階級別は補完推計値がない。)。なお本文の15歳未満の人口は「人口推計」10月1日時点のもの。

就業者は全体では横這いであったが、65歳以上が159万人増(雇用者157万人増)、15~64歳は164万人減(雇用者は59万人増)と、高齢化が進んでいる。

15~64歳層の就業者は減ったとはいえ、人口が622万人も減った割には減っていない。雇用者に至っては増加した。これは、女性就業者が増えたからである。この年齢層の女性就業者は、この間39万人(雇用者は160万人)増えた。

女性で、人口減にも関わらず就業者が増えたのは、就業率(人口に占める就業者の割合)が上昇した、つまり職場進出が進んだためである。女性の就業率は30歳代を中心に相対的に低いが、この10年で30~34歳層は56.3%から67.2%へ、35~39歳層は59.5%から66.9%へと、それぞれ10ポイント前後上昇した。他の年齢層も15~19歳を除き上昇した。

なお、男性の就業率も、60~64歳層で上昇した。(図5

【図5】2003年と2013年における各年齢階級の就業率 図5グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「労働力調査」(基本集計)

注) 就業率=就業者数÷当該年齢階級の人口×100%

雇用の内容…非正規雇用の増加

雇用の内訳をみると、非正規雇用の増加が進んでいる。10年間で正規の職員・従業員は142万人減少、一方、非正規の職員・従業員は402万人増加し、役員を除く雇用者に占める割合は、2003年の30.4%から2013年は36.6%まで上昇した。なお、正規の減少、非正規の増加は一本調子であったわけではない。世界同時不況となる前、景気拡大の最後の段階であった2006、2007年は、正社員が増加した。また、非正社員は景気が急速に悪化した2009年は38万人の減少となった。(図6

【図6】正規の職員・従業員数と非正規の職員・従業員数の推移 図6グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「労働力調査」(詳細集計)(基本集計)

注) 2012年までが詳細集計年平均値、2013年が基本集計年平均値。2011年は補完推計値。

非正規の職員・従業員の10年間の増加を年齢階級別にみると、60~64歳層123万人増、65歳以上層104万人増と、増加の半分は60歳以上層での増加による。これには人口の高齢化の影響もある。雇用者に占める非正規の割合は、どの年齢階級でも上昇している。(図7

【図7】2003年と2013年における各年齢階級の非正規職員・従業員の割合
(役員を除く雇用者=100)
図7グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「労働力調査」(詳細集計)(基本集計)

注) 2003年が詳細集計年平均値、2013年が基本集計年平均値。

若年者…若年非正規、フリーター

特に、職業キャリアの出発点である若年層の動向が注目された。25~29歳でみると、非正規の割合は2003年の22.0%から2013年は28.1%まで上昇した。従来、非正規(特にパート)の多い女性40~44歳層は、その間55.2%~57.7%でほぼ横ばいである。学校を卒業して正社員にならず非正規となっている層の増大がうかがえる。学卒の就職率は大卒でみると、2000年3月卒で91.1%と、統計の取れる範囲で最低となった。その後、2008年3月卒の96.9%まで上昇したものの、2010年3月卒で急低下し2011年3月卒は91.0%と、最低を更新した。2013年3月卒では93.9%である。

また、‘フリーター’と呼ばれる層が注目された。一定の要件を満たす34歳以下のパート・アルバイトに、パート・アルバイト希望の失業者などが加わったものである。該当者は2003年217万人、2013年182万人となる。人数は減ったが、その間、団塊の第二世代が35歳以上に移行し、15~34歳人口が2003年の3377万人から2013年は2684万人に減っており、人口比で下がっているわけではない。

多様な非正規雇用…パートに並ぶ契約社員・嘱託の増、増減のある派遣労働者数

非正規雇用の中身は多様である。統計上は、呼称が非正規の職員・従業員に該当する労働者が非正規の職員・従業員とされ、パート、アルバイト、労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員、嘱託、その他からなる。(図8

【図8】非正規の職員・従業員の雇用形態別内訳の推移 図8グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「労働力調査」(詳細集計)(基本集計)

注) 2012年までが詳細集計年平均値、2013年が基本集計年平均値。2011年は全国補完推計値。

この10年間の増加幅は、パート180万人、アルバイト50万人、派遣社員66万人、契約社員・嘱託152万人である。契約社員・嘱託がパートと同程度に増加している。契約社員・嘱託の増加のうち約3分の1は60~64歳層における増加(53万人増)である。60~64歳層の増加は、団塊世代が60歳に到達する2007年から2008年にかけて特に大きかった。

また、派遣社員は2003年の50万人から2008年には140万人まで増加した後、翌2009年に108万人まで急減、その後さらに減少し2012年には90万人となった。製造業務派遣が、2008年(6月1日時点)で56万人にまで達した後、翌2009年(同)は25万人に減ったことが影響している。(図9

【図9】派遣労働者数の推移 図9グラフ
画像クリックで拡大(新しいウィンドウ)

資料出所 総務省「労働力調査」(詳細集計)(基本集計)、製造業務への派遣は厚生労働省「労働者派遣事業の6月1日現在の状況」

注) 労働力調査は、2012年までが詳細集計年平均値、2013年が基本集計年平均値。


一部の労働者に見られた長時間労働、非正規雇用の処遇、育児休業、メンタルヘルス、個別労働関係紛争など、触れるべき統計はまだまだあるが、紙幅に限りがあり、ここでは非正規雇用の雇用者数の動きを中心に紹介した。

現在、完全失業率は低下し2月3.6%、有効求人倍率は上昇が続き2月1.05倍と、雇用情勢は着実に改善している。消費者物価は昨年6月から上昇に転じた。賃金がどうなるか、注目されるところである。

【注】
  1. 労働力調査の2005年~2010年平均は、2010年国勢調査に基づく遡及改訂後のものを使用。
  2. 労働力調査の2011年の数値は全国補完推計値である。全国補完推計値とは、東日本大震災の影響で3~8月分調査が岩手、宮城、福島の3件で困難であったことに対し、補完推計された全国値のこと。
  3. 本文にある大学卒の就業率は、厚生労働省・文部科学省「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」4月1日時点による。
  4. 本文にあるフリーターは、総務省「労働力調査(詳細集計)」年平均の統計を用いて、15~34歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者のうち、
    • 雇用者のうち「パート・アルバイト」の者
    • 完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者
    • 非労働力人口で、家事も通学もしていない「その他」の者のうち、就業内定しておらず、希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」の者
    をフリーターとしたものである。

平成26年4月3日掲載