メンタルヘルス対策に取り組む事業所割合は63%
 ――厚生労働省の2024年労働安全衛生調査結果

国内トピックス

厚生労働省は8月7日、「2024年労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を公表した。それによると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は 63.2%。事業所規模別では、労働者数50人以上の事業所で94.3%の事業所が取り組んでいるものの、30~49人の事業所は69.1%、10~29人の事業所では55.3%と、規模が小さくなると取り組みが遅れている様子がうかがえる。一方、労働者調査の結果からは、今の仕事や職業生活に関する強い不安・悩み・ストレスがある労働者の割合が68.3%となっており、3人に2人以上が強いストレスを感じていることがわかった。

調査は、事業所が行っている安全衛生管理と労働災害防止活動に加え、そこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレスなどの実態を把握することが狙い。常用労働者を10人以上雇用する民営事業所から無作為に抽出した約1万4,065所と、そこで働く労働者および受け入れた派遣労働者から無作為に抽出した約1万8,533人を対象に、2024年10月31日現在で実施。有効回答を得た8,304事業所および8,596人について集計した(有効回答率:事業所調査59.0%、労働者調査46.4%)

<事業所調査>

目立つ小規模事業所のメンタルヘルス対策の遅れ

まず、事業所調査でメンタルヘルスに関する状況をみると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.2%(前年比0.6ポイント減)。事業所規模別では、労働者数50人以上の事業所が前年より3ポイント増えて94.3%に達しているのに対し、30~49人の事業所は前年より2.7ポイント減って69.1%と7割を割り込み、10~29人の事業所は55.3%(同1.3ポイント減)で5割台にとどまるなど、規模が小さい事業所の取り組みの遅れが目立つ。

集団分析の実施割合が上昇

具体的な取り組み内容(複数回答)は、「ストレスチェックの実施」が65.3%で最も高く、次いで「職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析を含む)」(54.7%)、「メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮の実施」(47.9%)、「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」(46.1%)などが続く。

取り組みが進んでいる「ストレスチェック」を実施している事業所割合を規模別にみると、労働者数50人以上の事業所では89.8%(前年比0.2ポイント増)、30~49人の事業所で57.8%(同0.3ポイント減)、10~29人の事業所で58.1%(同0.5ポイント減)と、いずれの規模も前年からほぼ横ばい。ただし、ストレスチェックの集団分析も含む「職場環境等の評価及び改善」の実施割合は、前年比6.0ポイント増で前年から最も伸びた施策だった。

そこで、ストレスチェックを実施した事業所のうち、結果の集団分析を行った事業所割合をみてみると、こちらも前年の69.2%から6.2ポイント伸びて75.4%。しかし、このうち、分析結果を活用した事業所割合は76.8%で前年(78.0%)より少し下がっている。

過去1年間に休業・退職者がいた事業所は12.8%

事業所がこうした対応を行うなか、過去1年間(2023年11月1日~2024年10月31日)に、メンタルヘルス不調で連続1カ月以上の休業または退職した労働者がいた事業所の割合は12.8%(前年比0.7ポイント減)だった。このうち、休業者がいた事業所割合は10.2%、退職者がいた事業所割合が6.2%で、それぞれ前年より0.2ポイント減っている。また、メンタルヘルス不調で連続1カ月以上休業した労働者の割合は同0.1ポイント減の0.5%、退職した労働者の割合は前年と同じ0.2%だった。

8割弱の事業所で転倒防止のための設備・装備などの対策を実施

事業所調査では、労働災害防止対策に関して、転倒防止対策の取り組み状況も報告している。それによると、「物理的対策」では「設備・装備などの対策(職場内の手すり、滑りにくい床材の導入・靴の使用、段差の解消、照度の確保等)、整理・整頓・清掃の徹底など」に取り組んでいる事業所の割合が77.7%で前年(78.1%)より若干減ったものの高かった。その半面、「身体的要因を考慮した対策」では「転びにくい、又はけがをしにくい身体づくりのための取組(専門家等による運動指導、スポーツの推進等)」をしている事業所の割合は13.6%(同0.2ポイント増)に過ぎず、「骨密度、ロコモ度等のチェックによる転倒やけがのリスクの見える化」に取り組んでいる事業所の割合も5.8%(同0.8ポイント減)だった。

なお、労働安全衛生法に基づく雇入れ時教育を実施している事業所の割合は54.5%(同1.6ポイント減)で、実施している労働者の就業形態(複数回答)としては「正社員」が52.0%(同2.9ポイント減)、「契約社員」が22.5%(同4.3ポイント減)、「パートタイム労働者」が33.4%(同0.8ポイント減)となっている。

エイジフレンドリーガイドラインを知っている事業所は2割

調査は、高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組状況も調べている。60歳以上の労働者が業務に従事している事業所のうち、エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)を知っている事業所の割合は21.6%(前年比1.5ポイント減)。そのなかで、高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は18.1%(同1.2ポイント減)だった。

具体的な取組内容(複数回答)は、「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(高齢者一般に見られる持久性、筋力の低下等を考慮した高年齢労働者向けの作業内容の見直し)」に取り組んでいる事業所の割合が62.9%(同6.4ポイント増)で最も高く、次に高かったのは、「個々の高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応(健康診断や体力チェックの結果に基づく運動指導や栄養指導、保健指導などの実施など)」で47.8%(同1.9ポイント増)だった。

外国人労働者に対する労災防止対策が進展

また、在留資格を持つ外国人労働者が業務に従事している事業所のうち、外国人労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は84.7%で、前年(75.9%)から8.8ポイント伸びた。その取組内容(複数回答)は、「外国人労働者に分かる言語(母国語ややさしい日本語等)により災害防止の教育を行っている」が60.4%(同10.5ポイント増)でトップ。以下、「災害防止のための指示などを理解できるように、必要な日本語や基本的な合図を習得させている」が42.9%(同1.2ポイント増)、「免許の取得や技能講習の修了が必要な業務に従事させる際には、必要な資格を取得させている」が36.7%(同9.3ポイント増)などの順となっている。

<労働者調査>

3人に2人以上が強いストレス感じる

次に労働者調査の結果をみると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安・悩み・ストレス(強いストレス)になっていると感じる事柄がある労働者の割合は68.3%。前年調査(82.7%)から大きく減少しているものの、依然、3人に2人以上が強いストレスを感じている。

強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者に、その内容(主なもの3つ以内)を尋ねると、「仕事の量」が43.2%(前年比3.8ポイント増)で最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が36.2%(同3.5ポイント減)、「仕事の質」が26.4%(同0.9ポイント減)などとなっている。

契約社員は「会社の将来性」、派遣労働者は「雇用の安定性」への不安が急伸

強いストレスと感じている事柄がある労働者割合を就業形態別にみると、正社員(74.6%)と契約社員(73.0%)が7割超だったのに対し、派遣労働者(54.1%)は5割台、パートタイム労働者(43.5%)は4割台にとどまった。

その内容(主なもの3つ以内)は、正社員が「仕事の量」(45.0%)と「仕事の失敗、責任の発生等」(37.7%)、パートタイム労働者も「仕事の失敗、責任の発生等」(32.0%)と「仕事の量」(31.7%)が高い。契約社員は「仕事の量」(47.9%)が最も高く、2番目に「仕事の質」(39.2%)が高かった。パートタイム労働者は3番目に多い内容に「顧客、取引先等からのクレーム」(26.6%)があげられていることや、契約社員の3番目の理由として「会社の将来性」(38.8%)が前年比24.2ポイントも高くなっていることが目を引く。他方、派遣労働者は、「雇用の安定性」が前年より23.0ポイント増の54.7%でトップ。次いで「対人関係(セクハラ・パワハラ含む)」が36.9%となっていた。

ストレスの相談ができる人は「家族・友人」と「上司」

こうしたなか、現在の自分の仕事や職業生活での不安、悩み、ストレス(以下「ストレス」)について相談できる人がいる労働者の割合は94.6%。相談できる人(複数回答)は、「家族・友人」が68.6%と最も高く、次いで「上司」が65.7%となっている。男女別では、男性は「上司」(70.6%)と「家族・友人」(66.2%)、女性は「家族・友人」(71.1%)と「同僚」(63.2%)の割合が高い。

また、ストレスについて相談できる人がいる労働者のうち、実際に相談したことがある労働者の割合は74.7%と4人に3人を占め、このうち、実際に相談した相手(複数回答)は、「家族・友人」(62.1%)が最も高く、次いで「上司」(58.9%)となっている。男女別にみると、男性は「上司」(62.5%)と「家族・友人」(59.1%)、女性は「家族・友人」(64.9%)と「同僚」(58.9%)の割合が高い。

月80時間超の時間外労働があった労働者は1.5%に

なお、過去1年間(2023年11月1日~2024年10月31日)に1カ月間の時間外・休日労働が80時間を超えた月があった労働者の割合は、1.5%(前年比0.7ポイント減)。このうち、医師による面接指導の有無をみると、1カ月間の時間外・休日労働が80時間を超えたすべての月について医師による面接指導を受けた労働者の割合は12.6%で前年(6.1%)から倍増している。

(調査部)

2025年10月号 国内トピックスの記事一覧

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