パネルディスカッション

趣旨説明
池田 心豪
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
パネリスト
矢島 洋子
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 CDIO 主席研究員
平野 友視
株式会社大和証券グループ本社 ダイバーシティ&インクルージョン推進室 室長
橋本 久美子
株式会社吉村 代表取締役会長
田上 皓大
労働政策研究・研修機構 研究員
コーディネーター
佐藤 博樹
東京大学 名誉教授/中央大学ビジネススクール フェロー
フォーラム名
第144回労働政策フォーラム「あらためて女性の働き方を考える─改正女性活躍推進法の施行に向けて─」(2026年2月19日-26日)

趣旨説明

池田 ちょうど1年前に似たようなテーマを見たなと思う方がいらっしゃるのではないかと思います。実は昨年度(2024年度)の同じ時期に、改正育児・介護休業法の施行に向けた労働政策フォーラムを企画し、私がコーディネーターを務めました。そのときも多くの方に関心を持っていただきました。

今回は、第1部で研究報告を行った当機構研究員の田上が、女性活躍推進法改正に向けた厚生労働省の検討会の委員になっていることや、当機構の研究員になってから長く女性活躍推進法に関わる研究を行い、現在も調査等を行っていることをふまえて企画しました。

昨年度のフォーラムと同様に、改正法の趣旨あるいは女性活躍施策の現状と課題について、踏み込んだ内容を皆さんにお届けできるのではないかと思います。今回も多くの方にお申し込みいただき、高い関心を持っていただいたことに深く感謝申し上げます。

本日は、第1部で基調講演をいただき、女性活躍推進に関する研究に長く関わっておられる東京大学名誉教授の佐藤博樹さんにもご参加いただきました。また、昨年のフォーラムに続き、厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会の公益委員をしておられる三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子さんにも来ていただきました。

本日お申し込みいただいた皆さんは、改正法についてまだよくわからない、あるいは、これからどういったことに取り組めばいいのだろうかといった、いろいろな疑問をお持ちだと思いますので、その疑問に少しでもお答えして、改正法が効果的に職場に定着していくお手伝いができたらと思っています。少し長丁場になりますが、どうぞ楽しんでいただきたいと思います。

では、まず2社の事例報告について、質問やコメントをそれぞれお願いします。

事例報告への質問・コメント

取り組みの意味・目的を明確に言語化している点がすばらしい

矢島 大和証券の平野さんの報告ですが、取り組みの意義や目的について明確に言語化されていることがすばらしいと思いました。また、管理職になりたい意向を女性だけに質問することへの疑問や、女性のみを対象とする研修の問題は説明不足ではないかという指摘について非常に共感を覚えました。

一方で、平野さんの大和証券への入社が2022年で、推進室長への着任が2023年というなかで、平野さんが思い描いている必要な施策と大和証券の現状の間には、まだギャップがあることも感じられました。ただし、入社前の大和証券の施策についても、平野さんのなかで位置づけがはっきりと整理されていて、特に、過去の19時退社励行は、男女の評価差をなくすために必要だったということがとても腑に落ちるご説明でした。

復職サポートで重視していることは?/評価体系の論点は?

2点質問します。1つめは、今年度(2025年度)から実施している復職サポートプログラム「COMPASS」の施策における働き方の多様化についてです。テレワーク、フレックス勤務、育児時間のサポート制度などで重視していることはありますか。特に、復職サポートの内容について教えてください。

2つめは、Pay for performanceの評価体制についてです。多様性を生かすという意味で、評価体系の中でどのようなことが論点になっていますか。

妊娠から出産、復職までのサポートの内容を「見える化」したのが特徴

平野 1つめの質問についてですが、COMPASSは2025年9月に導入した復職サポートプログラムです。このプログラムのすべてが新しい制度ということではなく、従来からある制度も含めて、一気通貫して示したものです。テレワークやフレックス勤務制度はもともと存在していましたが、育児をする社員にとって、特に妊娠から出産、復職までの間、どの制度やどのサポートを受けられるかについて「見える化」したことが特徴です。

制度のすべての内容が既存のものということではなく、一部補完した内容もあります。何が足りないかについてあらためて確認して、不足している部分は補いました。制度自体はかなり充実していると認識していますし、社員からも「満足している」という声を多く聞いています。

育休中の社員にとって課題となるのは、やはり制度自体よりも、会社との距離ができてしまうことや、疎外感を感じることです。育休期間が長くなればなるほど、会社との距離が生じてしまって復職しづらいという課題があることがわかりました。この課題への対応では、コミュニケーションが大事です。現在働いている社員は少なくとも年に2回は上司と「1on1ミーティング」をする制度があります。多ければ年4回、あるいは随時行っています。これについて、育休取得者にも同様の取り組みを行っています。育休期間中も上司や会社との距離を縮めて復職しやすい環境にしています。

短時間でも成果を出している人をしっかり見て評価する

2つめの質問のPay for performanceについてですが、成果を評価することについて、男女の差は時間でよく表されると思っています。育児をしている人は残業ができない、早く帰ってしまうとか、時間で何となく人を評価してしまっている時代が続いてきたと思います。今も若干残っているとは思いますが、そうしたことを是正しなくてはいけません。短時間でも成果を出している人を、1人ずつしっかりと見て評価をしていくべきですので、Pay for performanceの指針に基づいて評価しています。

まずは両立を可能にして安心感をつくり、チャレンジ環境をつくった

矢島 吉村の橋本さんの報告は、国の制度やあるべき論ではなく、社員の皆さんが何を望んでいるかをつかみ、社員のアイデアを生かしながら取り組みを進めてきたということが印象的でした。まずは両立を可能にして、その安心感をベースに今度はチャレンジできる環境をつくり、そこから選抜したリーダーを積極登用して、ロールモデルをつくるという意味では、結果として、大企業の取り組みにも共通する王道の進め方になっていることもすばらしいと思いました。経営会議の「未来枠」という取り組みなどは、課長相当だけでなく、それ以上の部長や役員への女性の登用の道筋をつくることを検討している企業にとっても参考になるアイデアです。

働き方にあまり左右されない仕組みとして、ブランドオーナー制度やプランニング手当を導入したとのことでした。時間に関係なく、成果を出したことに報いる制度のようですが、もう少し詳しく教えてください。

橋本 ブランドオーナー制度は、例えば「この茶器のブランドを私はこれだけ増やします」とか、「これだけの件数のお客さんに売ります」としっかりとコミットメントした人をブランドオーナーに任命して、月数万円を支給する制度です。プランニング手当は、パソコンに向かっていなくてもアイデアは考えられるので、プランニングを考えたことに対して支給する手当です。ただし、いずれの制度も裁量労働に対して法律が厳しくなったことで現在は廃止しています。

課題分析の蓄積がうかがえた2社の事例

田上 事例報告の2社の規模は大きく異なりますが、いずれも参考になる取り組みが多いと感じました。法律的な話になりますが、女性活躍推進法は各社での課題の分析が重要と位置づけています。やはり課題は企業で異なり、対応も異なるので、現状をしっかり把握することがポイントになります。2社の報告からは、課題分析が長い年月のなかで蓄積されてきた様子がうかがえて、それぞれの状況に応じた取り組みによって改善してきていることが興味深いと思いました。

女性活躍が進むなかで管理職に求められるものは何か?/マネジャー以外の活躍の仕方は?

矢島さんからは「両立」についての質問がありましたが、私からは2社に共通する「登用」について質問します。大和証券の平野さんの報告では、女性はマネジャーになりたい人が少ないという問題を指摘していました。このマネジャーへのイメージが、吉村の橋本さんの報告を聞いてみても、一様ではない可能性があると思いました。

吉村では、「人を評価したくないので、マネジャーを私はできないかもしれない」という従業員の事例紹介がありました。そうしたマネジャーのイメージについて、たしかに一般的に世の中で共有されている管理職が何をして、何を期待されているのか、あまりよくわからないと思います。そうしたことを考えていくうえで、管理職についてどのように考えているのか教えてください。女性管理職が増えてきて、いわゆる女性活躍が進んだ状況で、管理職に求められるものがどのように変わったのか教えてください。

2つめの質問として、マネジャー以外の活躍のあり方について教えてください。大和証券の平野さんの報告によると、課長補佐レベルの女性の約25%がマネジャーになりたくないと思っています。はたしてこの人たちはどのようなキャリアを歩むのでしょうか。会社を辞めてしまうのでしょうか。それとも、それ以外の活躍の道を企業が用意することはできるのでしょうか。一方で、吉村の橋本さんの報告にあったように、いわゆる女性の活躍というのがホスピタリティー精神にあふれ、意思決定に関わらないような美徳があることになってしまうと、それを本当に活躍と言っていいのかとも思います。

必ずしも強いリーダーでなくてもよい

平野 昔の金融機関、特に証券会社は男社会で、管理職は「男性の強いリーダー」というイメージが強かったです。今もそのイメージが若干残っています。そのような上司たちをみているがゆえに、女性たちも「あんなふうにはなれない」とか、「あんな強くみんなを引っ張っていけない」と思ってしまい、マネジャー志向が減っているのが現状です。

人事部、特にD&I推進室が女性キャリア研修などで女性社員に伝えているのは、「強いリーダーでなくていい」ということです。みんなをサポートしながらチームとしてパフォーマンスを上げていけるのであれば、自身が強く引っ張らなくても、優秀な人をもっと生かすというリーダー像があることを伝えています。最近よく耳にする用語で「サーバントリーダー」があります。傾聴力があり、みんなを生かすリーダーです。

また、自分らしくやっていけば、目の前のことを一生懸命やっていけば、おのずと次のステップがみえてきて、自然とリーダーになっていくこともあるでしょう。立場が人をつくるではありませんが、「必ずリーダーを目指さなきゃいけないわけじゃないよ」ということは伝えています。

結論としては、リーダー像は本当に変わってきていますし、私たち自身が変えていこうとして社員に伝えています。女性管理職が徐々に増えていますが、強いだけではない女性リーダーが増えています。

人を引っ張るだけの「リーダー」でなく、自分の感情をリードしてほしい

橋本 「リード」という言葉があります。犬を引っ張るリードです。もし、あのリードで自分が引っ張られたら嫌ですよね。だから「リーダー」といったときに、そのような引っ張るリーダーだけをイメージしないでほしいです。最初にリードすべきは、自分の感情だと私は思います。自分で自分をリードできない人間にリードされることほど、屈辱的なことはありません。それが土台だと私が思っていることは、社員に必ず伝えています。

「リーダー」と「マネジメント」は少し違うものだと思います。リーダーとしてどうあるべきかと考えるときには、自分がどんなフォロワーに支えてほしいかということを考えたいですね。リーダーを批判して突き上げるような、そういうフォロワーだったら、その人がリーダーになったとき、同じことが連鎖します。何でもイエスと言うのがよいフォロワーではなく、「もうちょっとこちらの角度から考えられませんかね」という言葉がけができるようなフォロワーでありたいよね、と話をしています。

一方、マネジメントは、限りあるお金や経営資源、時間のなかで、成果をあげるためにやりくりする要素があります。そのやりくりとは、部下を変えるだけではなく、環境改善として仕組みを変える、手法を変えることも含みます。全体を俯瞰して、部下だけではなく仕組みや手法を考えることも大事であると社内で伝えています。

当社では、必ず1度はマネジメントを経験してもらい、ダメだったらエキスパートに進むようにしています。マネジメントを経験しないでエキスパートになると「批判者」になってしまいます。人をまとめることの大変さをわかったうえでエキスパートに進んでもらい、マネジメントを支える人になってもらう仕組みとしています。

男性にも多様なキャリア志向があっていい

佐藤 マネジャーを目指す女性が少ないことに関連して、男性が単一的なキャリア志向であることも課題だと思います。つまり、女性のキャリア教育を考えることとあわせて、男性にももう少し多様なキャリア志向があっていいと思います。

管理職の状況の国際比較調査をすると、部下をマネジメントするいわゆるピープルマネジャーではない、専門的な知識でサポートする管理職がアメリカでは35%程度います。しかし日本は10%強です。日本でももう少し、エキスパートとしてのマネジャーが存在していいと思います。例えば証券会社なら、資金の運用をアドバイスする非常にレベルの高い人です。

男性の立場からみると、女性の管理職が増えるということは、男性がますますマネジャーになれなくなるということでもあり、男性のモチベーションが落ちる可能性があります。そうした意味では、男性のキャリア志向を多元化しながら、女性にはいわゆる組織を引っ張るマネジャーを目指してもらうという意味で、マネジャー像を変えていくことが大事です。

矢島 当社には部下を持つ部長などの役職とは別に、部下を持たない管理職相当の主任研究員というポジションがあります。従来、主任研究員の期待役割はプロジェクトの業務遂行管理でしたが、その人たちにも採用や育成、あるいはリスク管理などのマネジメントを助ける役割を付加するように変更しました。そうすると部長などが楽になりますし、単なる批判者にもならなくなります。こうした取り組みは大事です。

パネルディスカッション

池田 それでは、以降は佐藤さんにコーディネーターをバトンタッチして、パネルディスカッションに入りたいと思います。よろしくお願いします。

論点1:短時間勤務とキャリア形成について

短時間勤務はキャリア形成にマイナスになる側面もあるが・・・

佐藤 ここからは4つの論点を議論します。1つめは「短時間勤務とキャリア形成について」です。

育児・介護休業法の改正により、子どもが3歳までは6時間勤務をすることができるようになりました。この制度以前は、産休・育休の取得後にフルタイム勤務に戻ることがなかなか難しい状況もありました。フルタイム勤務に戻ると、残業を期待される場合もあります。さらにワンオペ育児の場合は、「とても2人目は無理」とか、「2人目なら仕事を辞めなきゃいけない」ということもありました。そうした意味では短時間勤務ができるようになったことで、田上さんの報告にあったように、キャリアの中断が減少して、就業継続する女性が増えてきました。

法定での短時間勤務は子どもが3歳までとなっていますが、大企業では小学校3年生まで、あるいは小学校6年生までと、かなり長期に利用できるようになってきました。こうした制度は、セーフティーネットとしては選択肢を増やすものです。しかし、短時間勤務を長くとるということは、仕事の経験量が減るわけです。短時間勤務はキャリア形成にマイナスになる側面も否定できません。

そのため、本人が希望すればできるだけ早くフルタイムに戻り、仕事の経験をしっかりと積んでもらうことも大事です。例えば短時間勤務を8年間とったとすると、フルタイム勤務の6年分の仕事経験量にとどまります。また、フルタイム勤務に戻っていれば担当できた仕事も、短時間勤務ではなかなか担当しにくいということもあります。こうした課題の状況について教えてください。

よかれと思ってつくった時短勤務だったが・・・

橋本 以前は小学校3年生までの時短勤務として18人が働いていましたが、ある従業員がフルタイムに戻ったところ、その後に16人がフルタイムに戻りました。私がよかれと思っていた時短勤務の制度でしたが、ある従業員が「いや、そういうことをやるから、お父さんは(子育ての)お手伝いになっちゃうでしょ」と言い、それにみんなが同意して、状況ががらりと変わりました。

短時間勤務で大事なのはマネジメントや評価のほう

平野 短時間勤務はキャリアの中断を防ぐために重要な制度です。本人のキャリアにマイナスにみえる部分もあるかもしれませんが、大事なのはマネジメントや評価のほうです。会社として、働く時間が短いイコールマイナス、悪という姿勢を変えなければいけません。上司がそう思い続けてしまうと、女性はなかなか活躍しづらいです。短時間でもがんばって成果を出しているということにフォーカスしていくべきで、マネジャーや会社側の評価制度が変わっていくべきです。

佐藤 短時間勤務であったとしても、時間当たり生産性がフルタイムで残業する人より高ければ評価する仕組みにしておくことで、短時間勤務で働く人が仕事にやりがいや面白さを感じて、早くフルタイムに戻ろうと思うかもしれません。そうした意味では、短時間勤務を長くとってしまうというのは、短時間勤務をとっているなかであまり期待されない、がんばっても評価されない、「じゃあ、どうせ戻ってもそうだろう」と思ってしまうこともあるかもしれません。

短時間勤務の「量の問題」にどう対応しているのか

田上 キャリア中断と短時間勤務について視点を少し変えて、時間の「量の問題」と「質の問題」が気になっています。短時間勤務で仕事の時間が減少して、経験不足になるというのは一般的な理解です。一方で、重要なタイミングにいないことが短時間勤務の場合はあり得ます。例えば、夕方以降の時間にいないことが特定の場合に不利になることがあり得ます。また、休日勤務を免除されていることが仕事の「質の問題」になり得ます。

多くの企業では、仕事終わりにフィードバックの時間があると思いますが、短時間勤務の場合は社内の定例ミーティングや終礼に参加する割合が低くなり、統一的なフィードバックをなかなか得られないかもしれません。また、消費者向けの顧客がいるビジネスでは、週末に仕事に出向くことができないと、質的にも違いが生まれてくると思います。そのあたりの職場の現場の状況や対応はいかがですか。

会議に出られなくても情報共有をしっかりしていれば問題はない

平野 子どもを保育園に送り出すために出社が遅くなり、朝会に出席できない人はいます。しかし、出社してから朝会の議事メモをみたり、情報共有をしっかりとしていればまったく問題ありません。夕方以降に大事な会議がある場合も仕事はチームでやっているので、他の人が対応できれば問題ありません。会議に出席できなかった人は別のときに別の役割を果たせばいいので、「絶対にこの時間にいないと何か問題が起こる」ということは、実はあまりありません。

土日に働けないことについては、「パートナーは今どこにいるんですか」という問題です。女性だけが子どもの面倒をみる必要はないので、パートナーが「子どもの面倒は僕が1日みるよ」と言えばいいと思います。

この10年間で時間制約のある人が活躍できる環境整備はあまり進まなかった印象

矢島 以前、病院の看護師で短時間勤務の導入の議論をしていたときに、「短時間勤務の人が日中の仕事しか経験できなくて、夜勤をまったく経験しなくなってしまうのはどうなのか」ということがあり、夜勤にもチャレンジしてもらいました。そうすると、子どもはだいたい寝ているし、夫に任せやすいなど、意外と夜勤もできることがわかりました。そのように工夫する余地もあると思います。

2016年の女性活躍推進法施行に際して、短時間勤務者のキャリア形成の問題は、日本において最も重要な問題ではないかと私は主張しました。というのも、女性活躍推進法は「管理職を増やしましょう」という趣旨の法律と受け取られもしましたが、育休取得後に短時間や時間外免除で復職することがある程度普及してきたタイミングで、そのような時間制約のある人も活躍できるような環境をつくるという課題に直面していたからです。

しかしこの10年、あまり進まなかった印象です。その結果、2016年当初にそれまで滞留していた管理職候補層の人たちを一気に登用した企業は多いですが、その後の候補層の形成があまりうまくいっていないという問題があります。その背景には、育児期に制約がある人たちをしっかりと生かす制度やマネジメントの見直しができていなかったことがあると思います。

まずは周囲の同僚の働き方を変えることが必要

必要な施策としては、基調講演で佐藤さんがおっしゃっていたように、まずは周囲の同僚の働き方を変えることです。管理職も含めて残業が多くない環境と、テレワークなどの柔軟な働き方ができることが大前提です。そのうえで、やはり短時間勤務の継続的なニーズが一定程度はあると思います。

また、最終的に組織や社会がどのようなD&Iの形を目指すかということも関係しています。今はまだ日本の企業で年功管理や画一的な単線型のキャリアモデルが残っているので、フルタイムでないことで昇進が遅れる問題はかなり深刻です。しかしながら、最終的に男性も女性も多様な働き方をする先に多様なキャリアがあるという状態を目指すのであれば、短時間勤務を前向きに受け止めつつ、短時間勤務の人が活躍できる組織のあり方を目指すのが大事だと思います。

論点2:女性の活躍と男性の家庭参画の関係

男性社員をどのように家事・育児に参画させるか

佐藤 女性の社会進出と男性の家庭進出は表裏一体です。男性が家事・育児になかなか参加しないと、子ども1人ならワンオペでどうにかなっても、子ども2人になると、仕事と子育ての両立はとても無理です。そうすると、「2人目はちょっと無理」ということにもなります。1人目は勤務先の会社のサポートでどうにかなり得ますが、2人目はやはりパートナーのサポートが不可欠です。

企業としては、自社の男性社員の子育て参加について、「できれば育児休業を取得してください」と努めてきましたし、これは大事です。しかし大企業の場合、結婚して子どもがいる男性社員をみると、妻がフルタイムで働いている人は3分の1程度で、妻が専業主婦の人も3分の1程度います。そうすると、妻が専業主婦で「家事、育児は私がやります」と言われていると、「なんで自分が育児休業を取らなきゃいけないのか」と思う男性もいます。女性社員のほうは、結婚して子どもがいれば、パートナーの男性はフルタイム勤務が多いです。ここに男女の非対称性があります。

もちろん、妻が専業主婦であっても、子育てを男性に担ってもらうことは大事です。産後6週間は強制休業ですので、母体保護上、専業主婦の人でも産後6週間に相当する期間は家事・育児をしてはいけません。自社の女性の活躍推進として、自社の男性社員に子育てのことを理解してもらうことが大事です。しかし、女性社員の夫の家事・育児参加については、自社ではなかなか取り組みにくいです。このあたりのカップルの子育てについての企業の取り組みはいかがですか。

子育てと両立する男性社員のロールモデルがいると心強い

橋本 世代によって状況が違うと思います。当社には子どもが2人いる30代の男性社員がいます。彼は8時15分に始業のところ8時10分頃に駆け込んできて、そして17時5分頃に退社することを週3回は絶対にキープして子育てをしており、それがモチベーションとなっています。彼は仕事ができて、営業で数字を取っており、周りからはかっこいいと思われています。そのようなロールモデルがいるのは心強いです。

佐藤 女性社員が産休・育休を取得するときに、子育てだけでなくキャリアについても夫婦で話し合うことが大事です。短時間勤務をどのくらいの期間、取得するのか。「私は早くフルタイムに復帰したい。そのときに、あなたも保育園の送り迎えをしなきゃだめですよ」と話し合うことも大事です。

育休は「働かない」状態になるので、男性はたいへんになったイメージが持てない

矢島 育休中の女性は、これまで働いていた状態から、働かずに子育てをする状態になります。男性側からみると、今までよりもたいへんになったというイメージが持ちにくいです。女性側もそのように受け止めてしまい、「自分は仕事を休んでいるから、子育ては自分がするのは当然だ」と考えて、その意識のまま育休から復帰します。夫が育休を取得することなく妻が復職すると、その関係性が維持されてしまうので、そうしたところも改善していくことが大事です。最近の企業の研修ではこうした心理への注意喚起なども行われています。

佐藤 夫と妻が同時期に育休を取得していると、やはり育児、家事のメインは妻がやってしまう気がします。単独育休、つまり妻が仕事に復帰するタイミングで夫が育休を取れと最近は言われています。大和証券では、男性の育休の取得時期について情報提供をしていますか。

パートナーの出産直後だけでなく復職時の取得も奨励

平野 当社では、なるべく出産直後に取得することを推奨していますが、それとは別に、パートナーが復帰するときにまた取ることも推奨しています。実際にそのように育休を取得している社員は多いです。出産直後は女性に身体的な負担感がありますし、産後うつもありますので、そうした面をフォローする意味も含めて出産直後を推奨しています。しかし、やはり女性にとっては、仕事に復帰するときに一番助けてもらいたいので、そのタイミングで取る社員が多いです。

佐藤 育休を取ることも大事ですが、子どもを保育園に送る男性は多い一方、定期的に迎えに行ける男性はほとんどいません。週2日は保育園に迎えに行って、夕食を作って妻の帰宅を待っていると、妻は喜ぶと思います。男性の子育てへの関わり方はいろいろあっていいと思います。

男性がワンオペですべての育児を回せるようにすべき

池田 男性が1人で育休を取って、ワンオペですべての育児を回すことが男性育休の重要なポイントです。去年の夏に出張でスウェーデンに行きましたが、スウェーデンではそのような育休の取り方が政府に推奨されています。日本では夫婦で同時に取ると説明したところ、「それで男女平等は無理だ」と言われました。

先ほどの田上さんのコメントと関係しますが、仕事の重要度について考えると、例えば飲食業では、ランチよりもディナーのほうが客単価が高いです。小売業では日中よりも夜遅い時間や、仕事終わりにゆっくり買物する人のほうが多くのお金を使います。あるいは、B to Cでは日中の販売ですが、B to Bになるとお互いの仕事が終わった後や週末にも接待の仕事などがあるとなったときに、女性がそこに関わっていけるかという観点があります。

やはり夜はきついとか、あるいは遠方の大きな取引への出張をちゅうちょしてしまうときに「夫がいるでしょ」と言えるためには、夫にも最初に育休段階で一通りすべて経験させておくことが大事です。そうした意味では、男性社員のワンオペ育休が浸透してきているとお話を聞いて思いました。

論点3:女性のみを対象とした研修への批判への対応

佐藤 男女でキャリア志向に差があり、女性社員が「自分は管理職になるのが無理じゃないかな」と思うような状況を解消するために、女性のキャリアデザイン研修や早期育成の研修に取り組む企業があります。

吉村では経営会議に女性クオータ制があるとのことです。私はとても大事な取り組みだと思いますが、他方で、「なぜ女性だけ」と社員から思われるかもしれません。吉村ではそのような意見はありましたか。あるいは工夫したことはありますか。

経営会議の定例枠に交代制の「未来枠」を加えて視野を多様に

橋本 経営会議に参加する課長以上の人はほぼ男性でした。その定例のメンバーとは別に「未来枠」として、交代制で2人を参加させることにしました。未来枠としては女性だけでなく、入社数年以内の男性や、女性で勤続年数は長いが主任で止まっている人などをピックアップしています。誰が参加するかについても話し合ってもらいました。「誰が経営の意思決定をすると、視野ががらりと変わりそうか」という観点などです。うまくいった取り組みだと思いますが、始める前は「結構センシティブだな」と思って、いろいろと考えました。

佐藤 大和証券ではいかがですか。

女性だけのキャリア研修はなるべく早くやめたい

平野 女性だけのキャリア研修は、実はなるべく早くやめたいと思っています。将来的には男女一緒の研修をしたいです。それでも、今はまだやめられません。女性管理職比率や部店長・役員等の女性比率が少ないからです。

この研修は女性だから実施するというわけではなく、過去の評価、配置、育成のなかで生じてきた構造的な不均衡を是正するための戦略的な投資と認識しています。女性のためだけに行うのではなく、もっと視座を高めて、会社、組織としての戦略的な研修であるという周知が必要だと思います。

佐藤 女性の場合、総合職で採用されても、現場で経験する仕事内容が男性と異なる時代もありましたので、そうしたものを解消しようという意図があると思います。上席者、あるいは社員全般への情報発信は行っていますか。

平野 女性キャリア研修の対象者の上司には、研修の背景や趣旨を伝えています。また、経営陣が社外に発信するメッセージにもその内容を記載しています。

将来的には必要なくなる状況を目指していると説明する

矢島 今までの不均衡があるから今は女性向けの研修が必要で、将来的には必要なくなるところを目指している、ということをしっかりと説明することが大事です。いろいろな会社の人事担当やD&I担当に話を聞くと、それを説明できていないなかで、「国が言っているから」とか、「法律だから」と言ってしまうのが一番問題だと思います。「それは男性差別じゃないか」という声に押されて、「じゃあ、やめましょうか」となっている企業もあるので、自社の置かれている状況のなかでの必要性をしっかりと説明して実施することが大事です。

女性のアクションラーニングに取り組んでいる企業をみていると、初年度は苦労するけれども、そこでしっかりと女性たちが結果を出していくことで、2年目以降は前向きに受け止められることもあるので、まずは目的を明確にして、しっかりと成果を出していくことで解決していくと思います。

本来あったはずの機会を奪っていないか確認するためにもまずは分析を

田上 女性優遇ではないかという懸念が出てくる背景にあるのが、「男性に不利に働く」という懸念です。法律のポジティブアクションでも、女性を有利に取り扱うことによって男性側が本来持っている機会が不当に損なわれてはならないことが重視されています。女性を対象とする仕組みのなかで、それがほかの人の本来あったはずの機会を奪っていないか、確認することが重要です。

その点で、大和証券の平野さんが報告したように、分析がまず重要になります。同時に、吉村の橋本さんの報告にもありましたが、会社のなかで新しい領域が生まれて新しいポストや役割が必要になったときに、積極的に女性を登用していくことが考えられます。これは、男性が本来は得ていたはずの機会を損なうわけではないし、企業が成長して拡大するなかで女性社員自身が関わっていくことがあると思いますので、そうすると会社の成長にもつながりますし、機会の実質的な均等および格差の是正にもつながります。

佐藤 商社では「キャリアの早回し」ということで、従来は30代前半で海外勤務を経験していたところ、その時期は結婚、出産の時期なので、特に女性を20代から海外に送り出すことに取り組んでいます。こうした取り組みでは、目的を説明することと管理職登用の基準は変更しないことが大事です。つまり、教育訓練と機会の提供は、これまで女性は少なかったから提供するけれど、昇進基準を変えるわけではないということです。これをしっかり伝えることが大事だと思います。

論点4:女性の健康課題への職場対応

晩婚化、未婚化というライフスタイルの変化のなかで考えるべきこととは

佐藤 女性活躍推進法に基づく事業主行動計画の策定指針が改正されて、女性特有の健康課題についての望ましい取り組みが示されました。この背景としては、結婚、妊娠、出産後も正社員として就業継続する女性が増えてきましたが、管理職になる時期と更年期の時期が重なることがあります。また、未婚化や子どもが1人だけという状況が進んでおり、女性が生涯で経験する月経の回数は以前よりも増えています。

そうしたなかで、月経関連症状などをうまくコントロールしながら働き続けることが大事になってきています。あるいは晩婚化も進んでおり、30代後半から40代で不妊治療を選択する人もいます。こうした晩婚化、未婚化というライフスタイルの変化に対して、企業として女性により活躍してもらうために考えなければいけないことが増えてきています。

月経関連症状によるパフォーマンスの低下は、そのことだけで低下するのではなく、職場のストレスが媒介することがわかっています。職場で強いストレスを感じるような状況では、よりパフォーマンスが落ちる確率が高いということです。

そうした意味で、職場のマネジメントが大事です。女性特有の健康課題について、女性本人に情報提供して自分自身でのマネジメントを求めるのではなく、上司の理解や職場の働き方の変更も大事になってきます。

不妊治療については、不妊の原因の半分程度は男性にあるので、男性の課題でもあります。センシティブな課題ではありますが、やはり、女性活躍を考えるうえで取り組む必要があります。大和証券の状況やこれまでの経験、苦労を教えてください。

女性の健康について全社員のリテラシー向上に取り組む

平野 当社では、Daiwa ELLE Planとして2018年から女性の健康課題への取り組みに注力しています。例えば、以前は生理のための休暇を「生理休暇」としていましたが、直接的ではない「エル休暇」に名称を変更しました。名称の変更以前は20~30人程度しか休暇制度を利用していませんでしたが、変更後は数百人が利用するようになりました。ちょっとした工夫で制度利用者が大幅に増えて、みんながオープンに使えるようになった取り組みです。

昨年度からはDaiwa ELLE Plan+(プラス)に拡充しました。フェムテックなどの女性社員をよりサポートする内容も加えましたが、一番大きなポイントは女性の健康について全社員のリテラシー向上を図ったことです。女性社員だけでなく男性社員も研修動画を視聴することを必須にしました。

女性のからだについて知ることで、「部下が月に1度、体調がちょっと悪くなるんだな」とか、マネジメントとしても配慮ができるようになり、チームのパフォーマンスが下がらない工夫ができることもあります。女性の問題ですが、実は周囲が知って対応すべきことですので、昨年度から研修を徹底しています。

佐藤 女性を対象とした研修に参加する人の上席者へのメッセージでは、女性特有の健康課題に関する内容も含まれているのでしょうか。

平野 記載しています。また最近は、人事担当の男性役員が生理痛体験を行いました。「実際にすごく辛かったです」というメッセージを、人事担当の役員からマネジャー向けに発信しています。

いろいろな人がさまざまな両立の課題を抱える可能性がある

田上 健康課題について2つコメントします。まず、健康課題は働いている人の理想的な人材イメージに関わるものです。近年は、健康課題がない人がある種の理想的な労働者像として想定されていました。カテゴリーとしてはおそらく男性正社員です。しかし、男性でも健康課題を抱えている人は大勢います。いろいろな人が育児、介護、健康などのさまざまな両立に関する課題を抱える可能性があることが、働き方を考えるうえで一番重要です。

2つめとして、不調で仕事から離れる時間が長ければ長いほど、経験の観点では不利に働くことが想定されます。不調が原因で100%のパフォーマンスを出しにくい、あるいは出せない状況でのキャリア形成のあり方は、今後の女性の健康課題支援において注視すべき流れです。

1つのよくないシナリオとしては、ある種のマミートラックではありませんが、女性が低位にとどまってしまうようなキャリアとして、健康課題が多い女性は昇進しにくい、その制度を利用することでネガティブな印象がついてしまうということを危惧しています。

男女とも性差に基づく健康課題があり、両方取り組むべき

矢島 健康課題への職場対応については、女性活躍推進法の改正の審議会のなかでも何度か議論されましたし、私も意見を言いました。基本的には、男女ともに性差に基づく健康課題があるということです。女性活躍推進法ですので、女性の健康とは言っていますが、企業が男女双方に対して施策を取ったとしても支障はありませんので、両方取り組んでいただくのがいいと思います。

例えば、私たちが実施した健康に関する調査において、男性は自分の健康をコントロールすることについて女性よりも意識が少し弱く、無茶をしてしまう傾向にあることがわかりました。そうした意味でも、今までは男女一律での対応だったが、男女双方に性差に基づく配慮が必要ではないかという視点で取り組みを進めてもらうのがいいと思います。

男女の賃金格差について

佐藤 4つの論点についてはほぼ議論できたと思います。そのほかのテーマとして、女性活躍推進法に基づく男女の賃金差異の公表義務は、従来は301人以上の企業に義務づけられていましたが、改正により、2026年4月1日からは101人以上の企業に義務づけられます。社員数が約240人の吉村も対象となります。橋本さんは今回、自社の男女の賃金格差(差異)の計算など大変でしたか。

平等だと思っていても計算してみたら賃金格差があった

橋本 私が参加している中小企業家同友会のなかでも、男女賃金格差は話題にあがっています。参加者に「男女賃金格差はあると思いますか」と聞くと、皆さんが「就業規則上では男女平等なので、ないです」と答えています。実はこれは、パートであるかどうかや、昇格の有無によって格差が生じるという根深い問題なので、これは面白いなと思いながら計算してみました。

私自身も、知識がないときは「うちは平等だよね」と思っていましたが、計算してみると男性の賃金に対する女性の賃金は80%台でした。また、部署によって大きく異なりました。工場では100人以上の社員が働いていますが、若い社員が多く、また女性社員の比率が高くて勤続年数が短いです。その部分が関係していることが分析によってわかりました。将来的には差が埋まっていくだろうということもわかりました。計算はそれほどたいへんではありませんでした。他の中小企業では抵抗感があるかもしれませんが。

佐藤 会社全体での賃金格差だけでなく、職場ごとにも分析したんですね。

橋本 部門ごとに分析しました。

佐藤 賃金格差を小さくするために、女性の勤続年数を伸ばすとか、あるいは昇格といった取り組みにも踏み込んでいますか。

部門の意識、マネジメントの意識の差が格差を生んでいる面も垣間見えてきた

橋本 生産部門での賃金格差が相対的には大きいので、そこは課題を感じています。生産部門で働く女性はまだ昇格していません。そこに対してリーチしなければいけないので、プロジェクトが立ち上がったという状況です。また、こうしたことに取り組むと、実際の実態の数字ではなく、実は部門の意識の差、マネジメントの意識の差が賃金格差を生んでいるということも垣間見えてきました。そこを変えるというのは、会社としてリーチができることだと思います。

佐藤 今回の改正により、人事専任の人がいないような企業規模も対象となりました。総務と人事が一緒のような企業です。

橋本 当社に人事部はありません。

佐藤 たいへんな面もありますが、取り組むことで女性の活躍拡大につなげる課題がみえてくることもありますね。

橋本 当社は女性比率が高くなってきたので、「もう女性はいいんじゃないか」「もう活躍しているだろう」という機運もあります。しかし数字があると、気分だけではないことがわかるので、具体的な手段を取れます。

賃金格差では数字だけでなく、なぜ差があるのかを考えることが大事

佐藤 男女間の賃金格差の数字を出すだけではなく、なぜ差があるのか考えることが大事です。女性の勤続年数が短い、あるいは短時間勤務を長く取っていてキャリアが伸びないのかもしれません。課題がどこにあるか考えて、それを変えていくために何をするかを行動計画に入れることが大事です。

女性の管理職比率が高い大企業は、すべてとは言いませんが女性従業員の比率が高い企業が多い状況もあります。例えば、管理職に占める女性比率が4割でも従業員に占める女性比率が7割なら、4割は全然高くない。そうした意味では、管理職に占める女性比率をみるのも大事ですが、女性従業員に占める管理職比率と男性従業員に占める管理職比率を比較することも大事です。

また、伝統的なメーカーでもここ10年ほどで女性の活躍が広がっており、主任や課長になる人が増えてきましたが、それでも、上のほうの課長や部長はすべて男性という企業も多いです。しかし、これは女性の活躍の場の拡大のための努力をしていないわけではありません。たしかに管理職に占める女性比率は高くないけれども、最近10年でみると主任から課長に登用した人は男女でほぼ五分五分ということもあります。こうした数字を公開することが大事です。

大和証券では、男女の賃金格差などの数値を改善につなげる活用はしていますか。

平野 なぜ賃金格差が生じているかについて、細分化して分析しています。そうすると、女性管理職比率が低いとか、労働時間が短いといったことがわかってくるので、それに1つずつ対応している状況です。

行動計画のなかで取り組みと指標を一貫させることが重要

田上 今回の法改正で、男女間賃金差異の公表をする企業の範囲がかなり拡大しました。もともと女性活躍推進法ができた当時から、男女の賃金差は非常に重要な指標だという認識がありましたが、今回の改正の背景にあるのは、行動計画のなかで各種の取り組みと指標の関連を一貫させることが重要ということです。

こうした制度や法律が先につくられてしまうと、どうしてもその対応に頭が行ってしまいがちで、形式的なものが多くなってしまうこともあります。やはり本質的には、女性の能力発揮を行うために、賃金を最も重要な指標としてみたうえで、どのような要因があるのかという分析と、数値目標を一貫させた行動計画をつくることが大事です。

今回の改正では公表義務の対象を拡大したうえで、説明欄の記載も推奨しています。そうした流れで、またこの次の10年間の行動計画の中身をつくっていけるといいと思います。

最後に:企業の人事担当者向けメッセージ

佐藤 最後に、企業の人事担当者に向けたメッセージをお願いします。

法律の半歩先を行く気概で取り組むと経営は面白い

橋本 当社は人事専任の担当者がおりませんので、経営者向けに言います。法律の後追いをしている限り、経営はつまらないです。だから、法律の半歩先を行くつもりで、社員の夢を実現していくという気概で取り組むと経営は面白いと思います。

社員がモヤっとしたことを言える関係性をつくり、モヤっとしたことの根っこにあるものをつかんだうえで、それを聞いて会社が整えてあげるのではなく、社員自身が制度をつくって、「世の中を変えた」と思えるように、そんな形で社員を動かしていくと面白いことが起きると思います。

女性活躍には周囲を巻き込むことが大事

平野 D&Iに数年取り組んできて最近特に思うのは、女性活躍の推進をしたいと思ったときに、どうしても女性にフォーカスしてしまいがちになるということです。女性のために研修をしようとか、女性の健康課題に対して何かしようと思ってしまいますが、実は女性が活躍するには、むしろ周囲も巻き込むことが大事であると、しみじみと感じています。

過去に取り組んだ19時前退社では、全社員を対象としたからこそ女性も働きやすくなり、継続して働き続けることができるようになりました。何かを解決したいときに直接的にアプローチをするのではなく、視野を広げて上司や組織全体を変えることが女性活躍推進の一番の近道だと思います。

田上 行動計画のなかで一貫性を持って取り組みをするほうが、社員の納得性が得られますし、結果としてもうまくいっている実感が出てくると思います。そうした視点で、今回の法改正の情報公表や賃金差異の分析に取り組んでほしいです。

成果を還元できるところまで実感できるよう取り組むことが大事

矢島 女性活躍推進イコール女性優遇のように思われて、それによって進めるのが難しくなっているという話を担当者の方から聞くことがあります。なぜうちの会社では女性の管理職が少ないのかという問題に向き合い、事例報告の2社のように真摯に取り組むことで、ライフイベントに直面しても柔軟に働くことができる、柔軟に働いても公正に評価される、あるいはキャリアの前向きな展望が持てる、周囲の労働者との間で不公平感がない、組織としても成果を還元できる、といったことにつながっていくことを実感できることが大事です。そうした施策を賃金差異の分析などをきっかけとして進めてほしいです。

女活法と次世代法の行動計画をセットで作成すればよい

佐藤 今回の女性活躍推進法の改正により、行動計画をつくる対象となる企業規模が引き下げられたので、新たに作成しなければならない企業も増えています。あるいは、2016年から10年間の時限立法として2026年で終わると思っていたが、2036年まで続くことになったため、本当は今年度までの計画だったところ、これから作成する大企業もあるかもしれません。これについて、意外に知られていないことを説明させてください。

女性活躍推進法での行動計画とは別に、次世代育成支援対策推進法での行動計画があります。これらは別々に作成しなくてもよいです。両方セットで作成して、まとめて届け出ればいいのです。意外に知られていません。

次世代育成支援対策推進法の行動計画の中身は、女性活躍推進法と重なっている部分もかなりあるので、働き方改革の内容もまとめて計画は1本でいいわけです。これまで対象の期間が違ったならば、期間を変更してこの機会にぜひ1本化してはどうでしょうか。大企業ではそれぞれの行動計画を別の部門が作成しているかもしれませんが、話し合って1本にすれば両者の連携も進みます。

池田 当初の構想をはるかに上回る、活気のある、かつ有意義なディスカッションになったと思います。行政として期待しているのは、これを機に職場の社員の方とよく話してくださいね、労使でコミュニケーションをとってくださいね、管理職とよく話してくださいね、ということです。

そして、会社の中のいろいろな問題をあぶり出す、そのきっかけとして男女間賃金差異や女性管理職比率を1つの入り口として取り組んでくださいねということです。そうした意味で、企業の皆さまには今日の議論を持ち帰って、各社で話し合っていただけたらいいなと思います。本日はどうもありがとうございました。

プロフィール

矢島 洋子(やじま・ようこ)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 CDIO主席研究員

1989年慶應義塾大学法学部卒業後、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社。現在、執行役員/主席研究員であり、女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室室長。少子高齢化対策、男女共同参画の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティマネジメント関連の調査研究・コンサルティングを行っている。近著は『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題 人財多様化時代における企業の対応』、『新訂介護離職から社員を守る』、『シリーズダイバーシティ経営 仕事と子育ての両立』等(いずれも共著)。

池田 心豪(いけだ・しんごう)

労働政策研究・研修機構 副統括研究員 ※2026年4月より大正大学 人間学部 教授

慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程単位取得退学。博士(経営学)(法政大学)。2005年入職、2023年より現職。専攻は職業社会学・人的資源管理論。主な著作に『介護離職の構造─育児・介護休業法と両立支援ニーズ』(単著、労働政策研究・研修機構、2023年、第46回労働関係図書優秀賞受賞)、『社会学で考えるライフ&キャリア』(共編著、中央経済社、2023年)。