パネルディスカッション

パネリスト
池添 弘邦、中川 祥太、近藤 恭子、なかむらアサミ
コーディネーター
濱口 桂一郎 労働政策研究・研修機構 研究所長
フォーラム名
第110回労働政策フォーラム「テレワークをめぐる課題」(2020年9月29日)
パネリストの様子

濱口 第1部の研究報告と事例報告を受け、視聴者の皆様から膨大な数の質問をいただきました。できる限りお答えしたいと思いますので、通常と少しスタイルを変え、メインを質問へのお答えとし、その答えをめぐってパネリスト同士が討論するという形で進めたいと思います。

多くの企業が今回のコロナを契機にテレワークの問題に直面

はじめに私から、現在のコロナ禍でのテレワークの問題について若干、頭の整理をさせてください。この問題は、もう40年ぐらい前から課題として取り上げられてきました。2019年11月にILO(国際労働機関)が『21世紀のテレワーク』という報告書を出しましたが、報告はテレワークの歴史を、「今から40年前から始まったホームオフィスの時代」、「今から20年ぐらい前に始まったリモートオフィスの時代」、そして、「今のAI革命のなかで始まっているバーチャルオフィスの時代」と表しています。コロナ禍の前から大変注目を集める問題であったのですが、テレワークは日本でも世界でも、どちらかというと一部のマイノリティーの人々の働き方でした。それが今回の緊急事態宣言のなかで、多くの人が強制的に在宅勤務・テレワークをすることになり、あちこちで大きな議論が巻き起こっています。

キャスターやサイボウズは、先進的に全社を挙げてテレワークを運用されてきた会社で、日立製作所は、かなり前から取り組んでいたとは言いながら、何十万人という社員におよんでいったのは今回のコロナが契機だということでした。このフォーラムを視聴している企業の多くが、今回のコロナ禍ではじめてテレワーク・在宅勤務という問題に遭遇したのではないかと思います。その意味で、3社からどのようなアドバイスが得られるのかということが、皆さんの関心事であると思いますので、ぜひそういう観点から率直なお話をいただければと思っています。

パネリストの皆様は視聴者からの質問に1問ずつお答えください。お答えのあと、ほかのパネリストが追加的にお話しすることがあれば議論に参加していただければと思います。それでは、キャスターの中川さんからお願いします。

リモートワークでも勤務時間固定なら難しくない

中川 「テレワークを進めるうえで、特に労働時間管理など、労働法規上の対応で苦労した点についてお伺いしたい」との質問がありました。また、「今後さらにテレワークを柔軟化していくうえで障害や課題となる点があれば教えてください」というような質問もいただいています。シンプルに言うと、リモートワーク・テレワークとフレックスタイムなどの自由な働き方を混同して考えている場合が非常に多いです。お客様の企業からもこの質問をよくいただくのですが、リモートワークを単純に9時~18時の固定勤務で行うのであれば特に法令上も難しいところはないと思います。

もちろん、フルリモートではない会社や、オフラインからリモートワークに切り替えるときの対応は大変かもしれませんが、当社は創業期からリモートワークでしたし、また、勤務時間を固定さえしてしまえば特にリモートワークだから障害となるという点はありません。

ただ、フレックスタイムを導入すると非常に難しくなります。5分休憩とか、ちょっと子どものお迎えに行ってきますみたいなことがあるわけです。当社も社員の約9割は女性ですので、そうしたことがあれば全部打刻しなければいけない。全部ですよ。正直、当社はフルリモートで、かつ一部の部門ではフルフレックスとなり、自由度を高くしているのですが、それでも全部勤務実態に応じて打刻している。また、勤怠時間を長くしたり短くしたりすることもシステム的には対応できるのですが、柔軟に働きたい人たちもいるというところと、法律との整合性をつけるのが難しいと思います。

濱口 池添さん、今の点について何か付け加えることはありますか。

池添 創業期から現在でも9時~18時の固定勤務なのでしょうか。

中川 最初はそうでしたが、だんだんと変えていって、今では多くの社員が柔軟な勤務時間で働いています。

池添 フルフレックスを導入する際には、手続的には労使協定を結んでいるのですか。

中川 そうです。

池添 打刻をその都度している社員の方がいらっしゃるということなのですね。

中川 法律を守っているので、そうです。

池添 煩雑さが相当、会社と社員お互いにあるということになりますね。

中川 かなりあります。

池添 人事では、勤怠はシステム上で管理しているのですか。

中川 クラウドシステムで全部管理しています。クラウドになっている分、大分管理はしやすいですが、それでも打刻する方は大変ですよね。

池添 賃金との関係はいかがでしょうか。日給・月給制、あるいは残業代込みの固定給など、支払い形態によって賃金の計算も大分変わってくるのではないかと思いますが。

中川 様々な支払い形態の人がおり、人事で全部切り分けて管理しています。勤務が深夜帯に入らないようにする制限は全社的にかけています。

池添 その制限もシステム上でかけているのですか。

中川 今は、大きな残業などは起きていないのでシステム上では制限していませんが、システム的に深夜残業を止めることもできるようにはなっています。

池添 繁忙期では、チームのなかでうまく仕事を割り当てるなど、バランスよく仕事を与えるというような取り組みもされているのですか。

中川 もちろん、BPOの会社ですので常に繁忙期はありますが、調整は行われています。

社員に正しく申告してもらえれば良いという考え方

濱口 今の点について、サイボウズでは、かつて勤務時間は9時~18時だけとしていたのが、その後、制限なしにしていったと聞きました。なかむらさんの方から何かコメントがありましたらお願いします。

なかむら サイボウズの場合は、テレワーク導入当初は、時間管理についてはほぼ7~8割の社員が裁量労働制でしたので、ほとんど時間管理はしていない状態でした。ただ、労基法への対応も考えると、フレックスの方がいいのではないかということから、現在は、ほぼ7割、8割の社員がフレックス型の働き方をしています。

働いた時間を正しく申告してもらえれば良いだけのことなので、それが深夜になろうが、休日になろうが、申告してもらった範囲で全て対応しています。当然ながら、勤怠管理は自社システムのkintone(キントーン)を使っていますので、クラウドを使って管理しています。

濱口 結構これが大きな問題だと思います。たまたま今朝の新聞にテレワークの記事が載っていたのですが、読んでみると「常に監視されているみたいで嫌だ」というような、少し違う切り口から捉えた内容になっており、なかなか面白い記事でした。きちんと時間管理することが労働者を守るために必要であるとともに、あまり監視が強過ぎると、かえって、労働者にとっては嫌になる。テレワーク・在宅勤務という働き方がもつ両面性を示しています。

なかむら 一つ加えてお話しすると、大事なのは、当社では任意なのですが、始業するときにほぼ全社員が「今日は何時から何時まで働きます」と言うようにしているところです。そこには、「午後3時~4時は病院で抜けます」とか、「子どもと公園に行くため抜けます」ということまで書いています。会社として、そこまで書けと言っているわけでは全然なく、そういうふうに書くことで「あっ、○○さんはこの時間帯はいないのね」とわかれば、チームのメンバーも安心して働くことができる。そういうことを言って働く方がおそらく、お互い精神衛生上、気持ち良く働けるのではないかと思っています。

池添 サイボウズでは、普段、職場で仕事をしているときからお互いに声をかけ合っているのでリモートでも実践していると理解すべきなのか、リモートでお互いが見えていないから普段よりも丁寧にコミュニケーションを取ろうと思って行っているのか、どのように捉えたら良いでしょうか。

なかむら もともと全社員が会社に集まって仕事をしているということがほとんどなかったので、チームのなかで誰かが必ずリモートワークをしている状態だったということが前提としてあります。リモートで働く人は大体、「中抜けします」ということを書いていましたし、オフィスで働くときも、「何時から何時の間、通院で抜けます」といったことは、その人のスケジュールを見れば書いてある。つまり、情報をオープンにするというところを徹底していれば、安心して周りも自分も働けるという感じですね。

上位職が率先して新しい働き方に対応

濱口 それでは、次に日立の近藤さんに、質問にお答えいただければと思います。

近藤 「この新しい環境、新しい制度になじめない人とか、これまでのやり方を変えたがらない人がいるのではないか」という質問がありました。2016年に働き方改革を始めたときは、確かに、どうしてもテレワークをやりたくないという人はいました。そういうときは、上の職位である部長職といった人たちから、新しいやり方を率先してやっていってもらいました。また、そういうことを行った職場ほど、変化のスピードは速かったと感じています。今回のコロナ禍でも、社長以下は基本的に在宅勤務とし、社員の感染防止を徹底してきました。トップダウンは、新しいやり方を進めていくときにはやはり必要なことかなと思っています。

濱口 普通の企業から見ると、やはり日立が行ったようなトップダウンが、進め方の一つの柱になるのかなと思いますが、今の点について何かコメントはございますか。

中川 当社では、リモートワークに移行する際のコンサルティング事業が、コロナのタイミングから急拡大しています。名の知れた企業さんからの相談も多いです。本気で動いていく企業さんは、やはりトップダウンです。これは当たり前で、ボトム側の社員の人たちはリモートワークをしたいので、特に反対する理由がない。相談に来た企業さんに「どうぞ、やったらどうですか」と言ったときに、1番苦労するのは中間層の社員ですので、トップが「ちょっと頑張ろうよ」と言ってくれないと、会社として動いていかないのは当然だと思います。

池添 私は、ほぼ10年前になりますが、テレワークや在宅勤務を実施している会社にヒアリング調査をしたことがあります。調査結果報告書(労働政策研究報告書No.106『働く場所と時間の多様性に関する調査研究』)にケースレコードを載せていますが、私もこの結果からトップダウンで実践することがテレワーク・在宅勤務をうまく運営していく肝の一つではないかと考えています。視聴者の皆さんでご興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひJILPTのHPで報告書にあるケースレコードをご参考までに見ていただければと思います。

通勤しなければならない人のためにも在宅勤務の促進を

濱口 ちょっと追加しますと、日立の場合は雇用や人事管理のあり方全般について新基軸を打ち出しており、そのワンアイテムとして、テレワークを打ち出している面があると思うのですが、今回のコロナ禍で在宅勤務を強制的に進めたような企業では、緊急事態宣言が終わったら元に戻っているような気がします。となると、恐らく日立のように人事管理全般の改革が、テレワークを進める一つのモメンタムになっていくのかなと思うのですが、モメンタムをなかなかつかめない企業に何かアドバイスみたいなものがありましたら、お願いしたいのですが。

なかむら よく、工場や現場を持つ企業さんからできない理由として「うちはやっぱり現場があるんで」ということを言われるのですが、現場社員の皆さんにも在宅勤務をしろと言っているわけでは全然なく、すごく大事なのは、むしろ今回、医療従事者やインフラなど現場の社員のおかげで生活が成り立っているということがわかったことだと思います。ですから、そうした人たちが安心して通勤できるようにするためにも、テレワークできる人はしなければいけないねという考え方に転換したいと思っています。池添さんの研究報告のデータを見て、在宅勤務の状況がそんなに以前のように戻っていると知って、私には衝撃的だったのですが、これから冬が来て第3波があるかもしれないというときに、電車に乗らなくて良い人が乗らなくて良い環境をつくれれば良いと思っています。

中川 1点だけアドバイスするとしたら、リモートワークを推進するためにできた当社がこれを言うのもおかしいのですが、リモートワークにこだわらず、せっかくの機会ですし、何かいろいろつくったら良いのではないかと言いたいです。状況的には厳しいかもしれませんが、今までと違う状況だからこそ、いろいろなことができる。リモートワーク、フレックス、副業など決まった取り組みを踏襲する必要性は全くない。

池添 やはり各企業の工夫とか努力とか、熱意にかかっていると思います。中途半端に手をつけるとやけどをすると思うので、長い目で見て、少しずつ改善できるところに取り組むという姿勢こそが今の状況では大事なのかもしれません。なかむらさんのお話にもあったように、この冬、2021年がどうなっているかわからないですし、日本は自然災害も多いので、事業継続のリスクヘッジという意味でもリモートワーク・テレワークに今から少しずつでも取り組んでおくというスタンスが必要だと思います。

「ザツダン」の方がマネジャーの負担が軽くなる

濱口 ありがとうございました。それでは、サイボウズのなかむらさんに質問にお答えいただければと思います。

なかむら いただいた質問のうち、まず、二つについて答えようと思います。一つは、「社員の業務進捗管理や成果管理はどのような方法、ツールを使って行っていますか。どこまでが部署任せで、どこまでを全社のルールとしていますか」というもの。これは「サイボウズ」というツールがございますので、それで行っていますとしか言いようがないのですが、基本的には全社統一のルールみたいなものは、先ほど言ったスケジュールにちゃんと登録することぐらいしかなく、あとは各部署でやりたいようにやっているところです。

もう一つは、「ザツダン」についていただいており、「雑談を導入することにしたきっかけ、経緯、効果を知りたい」というもの。また、「雑談自体が業務として認められていることが新鮮なので、教えて欲しい」という質問もいただきました。私たちは「ザツダン」という言い方をしているのですが、いわゆるワン・オン・ワンですね。ただ、ワン・オン・ワンのやり方ではあるのですが、違うのは、いわゆる一般的なワン・オン・ワンに関する本を読むと、当然、教えなければいけない、そして、カウンセリング、コーチング、それらのスキルが必要ですよというようなことが書いてある。マネジャーにとっては、何か新しい仕事が増えたみたいな感じになって、難しそうだなと思われる方が多い。

ワン・オン・ワンの目的は部下の成長ですよということがほとんどの本に書いてあるのですが、「ザツダン」は部下の成長が目的ではないですし、カウンセリングやコーチング、ティーチングは、マネジャー本人がやってみたければやっても良いのですが、まさに雑談の場なのです。それを週に1回、30分、オンラインに切り替わってからもテレビ会議システムを使って変わらず行っています。

導入歴は結構長く、2005年以前からやっているので15年ぐらい続いている慣習なのですが、効果は、リーダーからするとメンバーが何を考えているかがわかるようになったと言います。一方、メンバーからすれば、リーダーに話を聞いてもらえたとなる。悩みなどを抱えているメンバーをチーム内につくらないというのが1番の効果です。

雑談が業務として認められているというところが大事で、普段オフィスにいるときも社員は普通に雑談していると思うのですが、それをあえて、オンラインで何をやっているか見えにくいなかでしっかりと30分時間を取って、テレビ会議のカメラを必ずオンにして話す。カメラをオンにするというところもすごく大事です。

「最近、子どもの学校でコロナ感染者が出て。ちょっと心配で」といった話も出てきます。そういうことを知っておくと、もしかしたら子どもたちがまた家にいる可能性が出てくるかもしれないなということが、マネジャーとして把握できる。そのうえで仕事の配分や、本人の環境を考慮したマネジメントができようになります。すごくお勧めしています。

場合によってはカメラオフにする工夫も

濱口 恐らく多くの、今回初めてテレワークを始めた企業からすると、変に構えてしまって、成果をどう評価するのか、進捗管理でも社員の一挙手一投足を見張らなければいけないのか、というような方向に行きがちです。テレワークではなく職場で仕事をしていたときには、別に業務とは関係なくとも、ふらっと来て、他の社員と雑談していたのに。そこが一種の盲点というか、欠落してしまう点なのかもしれません。そういう意味で、とても良い点を指摘していただいたのかなと思います。この点について、どなたかコメントはございますか。

中川  雑談は大事だと思うのですが、当社では、雑談も含めほとんどチャットに移行していますし、必ずしもWeb会議で雑談するべきであるとは捉えていません。ミーティングに関しても、実は当社ではカメラオフも推奨しています。その理由は、カメラオンにしているととても疲れるのです。ですので、歩きながらのミーティングも結構推奨しています。歩きながらとなれば、カメラオフにしながら参加するしかない。

雑談が習慣化するまでは、カメラオンにして行う場合と、オンにしない場合を分けて考えてもいいと思います。ただ、最初は雑に導入していったほうが浸透しやすい面もあると思います。

池添 キャスターではカメラをオンにするときと、オフにするときは、各自で判断しているのですか。

中川 そうです。もちろんチームの間で、このミーティングはしっかりした内容だから顔を出して話そうとか、これはみんな歩きながらでも良いよねというのも自然に決まります。というか、普通の仕事場はそうじゃないですか。この話、たばこを吸いながらちょっと話そう、みたいなことが昔はあったわけですよね。それが何で急にリモートワークになった途端に駄目になるのですかということです。

濱口 仕事のなかではあっても、しゃちほこばらずに物事を動かしていくのには、いろいろなやり方があるのかなと思いました。では、池添さんからも質問への答えをお願いします。

職場でもリモートでも普段の延長でよい

池添 すでに私のなかでは、今日の話の落ちがついたような気がしています。先ほども若干触れましたが、職場でもリモートでも普段やっていることをそのままやれば良いのではないかということです。社員の評価も、見えていない場所でやっているからということではなく、ジョブアサインメントをしっかり普段からやっていて、その延長線上にリモートがあるだけで、アウトプットが出てくるという考え方を取る。きっちり上司と部下のコミュニケーションを取っていれば何も問題は生じないのではないかと思っています。

ちょうど「パフォーマンスが悪い人にはどうしたら良いのか」という質問があります。それにお答えすると、職場でパフォーマンスが悪い人にまで在宅勤務を広げなければいけないのだとすると、管理職や同僚が頻繁にコミュニケーションを取って、「いま仕事はどんな感じ?」とケアすることが必要なのかなと思います。

また、業務の計画性や見通しについて、管理職の役割として、部下がどういう進捗状況にあるかというのを情報共有したうえで、きちんと差配することも重要です。一方でその分、どうしても管理職の役割は肥大化せざるを得ないと思います。管理職もプレイングマネジャーとして働いていますから。管理職の長時間労働の傾向はやはり出てきますし、メンタルにも悪影響をおよぼしますので、これを機に職場での職位の役割を1回見直してみるというのも必要かもしれません。リモートワークにおける管理業務と、本来的な役割を仕切り直すなどといったことです。業務のそぎ落としも必要だと思います。

コミュニケーションについては、研究報告のなかで、対面して獲得できる情報量よりも減るので問題ではないかとお話ししましたが、減るのはしょうがないと思います。一方、これはコミュニケーションを取らなくても大丈夫かなとか、これは絶対必要だから取っておこうなど、職場で働いていた時と同じように、必要か必要でないかを一人ひとりが考えていく。管理職や会社だけではなく、リモートワーク・在宅勤務する人、一人ひとりの自律性が大事になってくるのだろうと思います。

リモートワークを定着させるのに、法律上こうしなさいなどという絶対的なものはないわけで、各企業のカルチャーや既存の制度をどうモディファイしていくかは、それぞれの創意工夫によるのだと思います。他社と同じようにするばかりでなく、他社はこういうふうにやっているけれど、自分たちはもう少し味つけをしていこうというような創意工夫が求められているのではないかと思います。

リモート下での人材育成はまだ手探り状態

濱口 パフォーマンスの悪い人をどうするか。特に日立では、テレワークだけでなく人事管理のあり方全般を抜本的に見直そうとされているので、ローパフォーマーの話に必ずしも限らなくてもいいのですが、ジョブアサインメントのあり方や仕事の進め方について、何かコメントされることがあればお願いします。

池添 それに加えて、もし可能でしたら人材育成について、何かヒントになることがあれば教えていただけるとありがたいと思います。

近藤 パフォーマンスが低い人は、出社だろうとテレワークであろうと変わらないと思いますので、テレワークになると、より目につくのかなということだと思います。そういった社員には、しかるべき評価をして、必要な指導を繰り返していくことに尽きますが、それは出社であっても同じことだと思っています。

育成については、個人の感覚として1番難しいところだと思っています。2020年に入社した新人をどう育成していくかも含め、若手の育成をいま各職場で、手探り状態で実施しています。一律にこうしたら良いというものはまだつくれていませんが、新人がいるような職場では、比較的出社を織り交ぜて、なるべく教える時間をつくって指導していると聞きます。

濱口 初めから全員リモートでやっていらっしゃるキャスターでは、どのような形で人材育成をされていますか。

中川 大企業と違って当社は新卒採用していないので、新卒採用者については未経験です。中途採用で言うと、実は採用の時点でかなりフィルタリングがかかっている状態です。ありがたいことに採用倍率で100倍、200倍を常にキープしているので、最初からある程度、人材の粒を揃えやすい。また、BPOを受ける会社なので、オペレーションを担う方がほとんどで、教育のマニュアルフローも、自社で「Remote Academy(リモートアカデミー)」という名称の研修プログラムを外販できるレベルで持っているので、ほぼ問題ありません。

バーティカルに仕事の領域を区切って、各領域に研修プログラムもあって、こういう人が欲しいよねというのが明確になっていれば、いざ入社した後にどうやって育てようかみたいなことにはなりません。

池添 社員の年齢や経験値が上がって大きなタスクを与えようとしたときに、リモートという働き方だと困難だというような場面はありませんか。

中川 当社で働いている社員の9割以上は完璧に生産管理されています。どんなタスクをしたのか、いつからいつまで、どういう形でやっているのかというのがトラッキングされている。その報告が上がってきて、本人も認識できるようになっています。

生産量が高い人たちがやはりどんどん上に上がってチームビルドしていくので、上がってきた人たちが次のタスクに挑戦できないというようなことは多くはありません。

池添 各自のオペレーションのトラッキングは、その人だけが見られるのですか。それとも、チームや全社で共有しているのですか。

中川 全社で共有しています。

池添 誰でも見られるのですか。

中川 はい。

池添 ということは、この人のパフォーマンスは良いけれど、この人はちょっといまいちだなという比較が、お互いにできる状況なのですね。

中川 できます。ただこれは、この業態上の特徴ですので、全ての会社でできることではないと思います。

池添 大企業である日立では、こうした仕組みはやはり難しいですよね。業種・業態としても。

近藤 そうですね。一定の研修の教材や研修コースがあったりしても、それだけでは教えられない部分とかありますので。そこがやはり難しいです。

ただ、若い世代はチャットになじんでいるので、チャットでどんどん質問を送ってくださいと連絡をするようにして、職場の人が気兼ねなく相談できるような体制を整えると、比較的指導などもやりやすいという話を聞きます。職場のコミュニケーションを工夫すれば、もしかしたら、当社の若手社員も懸念するほどは苦労しないのかもしれません。

池添 チューターや管理職などの部下を育てる職責を負っている社員の負担は増えていくのではないかと思うのですが、会社として管理職に望んでいることは何かありますか。

近藤 会社として、劇的に環境が変化したなかでマネジャーが手探りでマネジメントしているというような状況を把握しています。リモートワークをするときのマネジメントについての研修を用意して、ちょうどこれから実施するところです。出社が前提であった働き方と、今後、在宅勤務も主な働き方の一つになっていくというなかで、どういうふうにチームマネジメントしていくかということを、研修を通じて学んでもらおうと考えています。

リモートワークでもシスター制・ブラザー制は効果大

濱口 残った時間でパネリストの皆様から一言二言ぐらいずつクロージングのコメントをいただければと思います。例えば政府に対して、こんなことをして欲しいというような要望がもしあれば、それも併せてお願いします。

中川 最後に、当社で明らかに1番効果があるんだけれどコストが最もかかるので、できる企業があればやってくださいという方法があるのでお伝えしたいと思います。それはシスター制・ブラザー制で、新人に対して1人先輩が完全についてOJTを行うというものです。リモートワークでも抜群の効果があります。当社はこれを定常的に行えるようにして、ルーチン化して全体に導入しています。ただ、コストだけでなく、中間層の負担も高くなります。

「テレワークを急遽始めた企業が、その後テレワークを止めてしまったケースが多い。そのボトルネックは何ですか」という質問もいただいたので最後にそれにお答えすると、「雰囲気」です。たくさんヒアリングさせてもらってわかったのですが、ほとんどの会社が雰囲気で決めています。理由はありません。国がもし動くのであれば、導入した企業に何らかの加点をすることなどが考えられると思います。

池添 税控除の優遇制度などですか。

中川 何でも良いと思います。何か指針があると企業は急に動きますので。ぜひ政策として検討いただけると助かります。

濱口 ありがとうございました。今、テレワークの器具を導入すると費用を補助する助成金はありますが、導入したら加点するなどといったアイデアはなかなかユニークだと思いました。では、次に日立の近藤さんお願いします。

テレワークだからこそチームで仕事をする

近藤 テレワークについては、サボるんじゃないかとか、いろいろ否定的な意見があることは承知しています。当社でもコロナより前に、在宅勤務をなかなか認めない職場があるという話がありました。その職場で話を聞くと、上司と部下との間で仕事の進捗管理をめったにしていないということでした。何カ月に1回しか進捗管理していない職場では、日々の仕事の管理をしていないので、監視することが管理になってしまう。どんな人でも毎日やるべき仕事、仕事の締め切りを持っているはずです。まずはチームのなかで日々仕事内容を共有し、進捗を確認し、チーム全体で仕事を進めていくという体制をつくり、そのうえでテレワークを前向きに使っていただきたいと思っています。

濱口 ありがとうございます。では、サイボウズのなかむらさん、お願いします。

なかむら 緊急事態宣言直後は、当社にも、どう環境を整えれば良いかとか、パソコンがないなどのハード面の問合せが非常に多かったのに対し、今では社員の評価はどうすれば良いか、どういうふうに部下の進捗管理をすれば良いか、一体感がなくなった感じがするけれどどうすれば良いかといった内容が増えてきています。

自分たちの経験の範囲内でしかお伝えできないのですが、やはりテレワークは、部下をあまり見ていないなど、今までやっていなかったことがすごく露呈しやすい。また、自分のキャラクターと雰囲気でマネジメントしていたのが、テレワークでは言語にするということが必要になりますので、文字でしっかり伝えないといけない。今まではオフィスで「よう、やれよ!」みたいなことを言っていたのが、それをその都度言葉に書かないといけなくなる。それが、マネジャーに仕事が増えたと思わせてしまうという面が大きな難しさだと思っています。マネジャーが、部下が意見を言いやすい場づくりとチームづくりを再度やることが1番大事なことだと思っていて、今すごく力を入れているところです。

コロナ対策だけでなく、会社として長く人材を確保するなどの視点でテレワークというものを一度考えていただいて、そのために今、自分たちができることは何かを考えるということが、私たちも10年ずっとやってきたことですし、やはり1番大事なことかなと思っています。

濱口 それでは、最後に池添さんお願いします。

池添 今日は大変興味深い、先進的なお話を伺うことができて、私自身もたいへん勉強になりましたし、今後の研究の参考になった部分もたくさんありました。また、今日のみなさんのお話のおかげで、普段からの人事労務管理がやはり重要なのだという思いを上書きできました。繰り返しになりますが、普段からきちんと仕事をしている人こそがきちんと在宅勤務もできる。企業側は急場しのぎの小手先の対応ではなく、普段通りの仕事をリモートワーク・在宅勤務にモディファイしながら移行していくことが大事なのではないか思いました。

濱口 企業のお三方、そして池添さん、ありがとうございました。今日は、1,000人におよぶ視聴者の方々もいろいろなことを学ぶことができたのではないかと思います。また、企業だけでなく社労士の方も視聴していらっしゃいますので、社労士の方々にとっても企業にアドバイスするうえで役に立つものが多くあったのではないかと思います。大変中身のあるパネルディスカッションができました。ありがとうございました。