研究報告 在宅勤務の課題──近時の実情、組織と個人が心がけるべきこと

講演者
池添 弘邦
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
フォーラム名
第110回労働政策フォーラム「テレワークをめぐる課題」(2020年9月29日)

この報告では、はじめに、在宅勤務・テレワークのコロナ禍での広がりや傾向を確認し、次に、在宅勤務・テレワークを実施するに当たっての課題について触れ、最後に、今般の状況での実務的な課題をお話しします。

Ⅰ 近時の実情

新型コロナウイルスの拡大で在宅勤務・テレワーク実施率が増加

当機構では2020年5月、6月、8月に、新型コロナウイルス感染症拡大が仕事や生活、また、企業経営におよぼす影響について調査しました。これらの調査で明らかとなった在宅勤務・テレワークの状況について見ていきます。

まず、在宅勤務・テレワークの実施状況を確認します。5月に行った個人を対象とした調査の結果を見ると(シート1)、職種、業種、従業員規模によって違いはあるものの、全体の29.9%の人が、「在宅勤務・テレワークの実施」を、勤め先の会社で就労面の対応がなされた事がらと回答しています。これは複数回答の設問ですが、他のどの項目よりも高い回答割合となっています。また、6月に実施した企業を対象とした調査でも、「在宅勤務(テレワーク)の実施」の割合は、新型コロナウイルス感染症拡大前の2月は5.3%でしたが、3月には19.8%、4月には47.1%と上昇し、5月は48.1%にまで上がりました。

5月の個人調査から、在宅勤務・テレワークの実施日数の変化を見ると(シート2)、感染症拡大前と比べ、拡大後の在宅勤務・テレワークの実施率は2倍以上に増加しています。例えば、週に「1~2日」の在宅勤務・テレワークの実施率は、感染症拡大前は14.6%だったのに対して、拡大後は38.0%となりました。同様に、週「5日(以上)」も、感染症拡大前は11.7%でしたが、拡大後は30.9%にまでのぼっています。

緊急事態宣言解除後の実施率は減少

しかし、緊急事態宣言の解除(5月25日)以降は縮小傾向を辿ります。8月に実施した個人調査では(シート1)、緊急事態宣言期間までに行われた勤め先の就労面での対応状況と 7月末時点でも継続して行われている対応状況を比較しています。在宅勤務・テレワークの実施率を見ると、緊急事態宣言期間までは26%でしたが、7月末時点では18.3%にまで減少しました。

また、在宅勤務・テレワークの実施日数の変化を見た数値で(シート2)、在宅勤務・テレワークを「行っていない」と回答した割合は、感染症拡大前の「通常月」では73.1%でした。これが、「4月第2週」では25.2%、「5月第2週」では5.7%と大きく減少しています。しかしその後、「5月最終週」では25.8%、「6月第4週」では43.3%と、時間の経過とともに高くなっていきます。そして「7月最終週」には51.2%となり、緊急事態宣言期間終了後の実施状況は拡大前の状況に近づきつつあると言えます。

しかし、「7月最終週」の数値は「通常月」の数値と比べて20%以上の開きがあるので、「行っていない」割合が再び高くなってきたからといって、在宅勤務・テレワークが全く実施されなくなっているかというと、必ずしもそうとは言えません。また、東日本大震災の後にも話題となった、事業継続の問題や、従業員の健康確保あるいはワーク・ライフ・バランスをどのように進めていくかという問題を考えるうえでも、導入が拡大した在宅勤務・テレワークは今後も継続していく意義があると考えます。

Ⅱ 在宅勤務・テレワーク実施の課題

企業が考える課題は労働時間の管理が最多

それでは、在宅勤務・テレワークを今後も継続していくための課題とは何でしょうか。当機構で2008年と2015年に実施・公表した調査結果から見ていきます。

まず、2008年調査(企業調査)でのテレワークの状況を見ると(シート3)、在宅勤務・テレワークを、「会社の就業規則に記載があるなど会社の制度として認めている」(制度実施)と、「会社の制度はないが、上司の裁量や習慣として実施している」(慣行実施)を合計した割合は5%超にとどまっていました。実施するうえでの課題としては、回答割合の高い順に「労働時間の管理」「情報セキュリティの確保」「業務進捗の管理」「会社の上司や同僚とのコミュニケーション」「評価」が挙げられていました。また、在宅勤務・テレワークを実施していない企業に対して不実施の理由を尋ねたところ、「適した職種(仕事)がない」が最も多い結果となりました。

その後、2015年にも同様の調査(企業調査、従業員調査)を実施し公表しました(シート4)。企業調査結果によると、テレワークの状況について、制度実施と慣行実施の合計割合は4%程度と、2008年調査と大きな違いはありませんでした。また、実施するうえでの課題としては、2008年調査から順番は入れ替わっていますが、項目としては全く同様で、「労働時間の管理」「業務進捗の管理」「会社の上司や同僚とのコミュニケーション」「情報セキュリティの確保」「評価」となっています。在宅勤務・テレワークを実施していない企業の不実施の理由も、2008年調査と同様に「適した職種(仕事)がない」が最多の割合となりました。

従業員は見えないプライベートな空間での業務遂行を課題に

従業員調査の結果では、在宅勤務・テレワークをすることがある者の割合は、20.6%となりました。テレワーク従事者の就業場所とそこでの就業日数について見ると、就業場所を「自宅」と回答した人のうちの25.1%は、週1日以上、自宅で仕事をすると回答しています。これは、テレワークをするための就業場所として挙げられた他の選択肢(顧客先、電車のなか、喫茶店など)と比較しても高い割合となっています。しかしここでは、純粋な在宅勤務だけではなくて、持ち帰り残業も回答に含まれることに留意が必要です。

また、テレワークのデメリットを尋ねたところ、「仕事と仕事以外の時間の切り分けが難しい」「長時間労働になりやすい」「仕事の評価が難しい」「上司等とのコミュニケーションが難しい」などが上位に挙がっており、導入・継続するうえでの課題が示されています。

これまでの調査結果を見ると、企業においては、労働時間管理を中心とした課題、労働者においては、上司や同僚から見えていない場所で仕事をすることや、プライベートな空間で仕事をすることへの懸念が示されています。ちなみに、2020年6月公表の内閣府の調査でも、実質的にほぼ同様の回答傾向になっています。

Ⅲ 課題の質的変化について

職場や家族との関係性に影響が

在宅勤務・テレワークは現在、やや縮小傾向にありますが、今後は以前よりも常態的に活用されていくと思います。その場合にどういった問題が起きてくるかを考えてみたいと思います。

まず、職場との関係ですが、社員同士が交流する機会や対面コミュニケーションが減ったり、なくなったりしますので、そうした機会を通じて得られる様々な情報量がお互いに減ってくると思います。また、自宅で仕事をしている分、お互いに見えないのですから、特に仕事にかかわる様々な面でお互いに不安感が増してくるのではないかと思います。

一方で、在宅勤務の方は、家族との関係も問題になってきます。内閣府の調査では、テレワークを経験した人は経験していない人に比べて約2倍、生活を重視するように変化したという回答結果があります。通勤時間がなくなり家で過ごす時間を確保できる分、家事、育児等の時間や負担は増加するのではないかと思います。

コロナ禍を受けて社会的な問題に

もう一つ注目したいのが、当機構の2008年調査・2015年調査の時点では企業・従業員ともに、あまり在宅勤務・テレワークは活用されていませんでしたが、今回のコロナ禍で、在宅勤務・テレワークが広がりを見せていることです。これに伴って生じる様々な問題というのは、マイノリティーの問題ではなく、広く社会的な問題になってきたのではないかと思います。職種や業種、働き方によって程度の差はあるとはいえ、在宅勤務・テレワークは経営や従業員の健康確保に対するリスクヘッジとして非常に重要な位置を占めるため、こうした視点に着目することも重要でしょう。また、同居の家族も巻き込んだ業務遂行の在り方を自分自身で考えていかなければなりませんし、同時に、家庭生活の在り方を考え直し、再構築・再構成していくことも必要でしょう。

Ⅳ 何を心がけるべきか

企業は柔軟に在宅勤務・テレワークを管理する

こういった様々な状況を踏まえて考えるとき、企業や従業員は、どういったことを心がけて在宅勤務・テレワークを行っていけば良いのでしょうか。10年ほど前になりますが、私が行った企業ヒアリングの調査結果も踏まえてお話しします。

まず、会社や上司の方は、シート5に記載の①から⑧までを意識することが重要だと考えられます。今回のコロナ禍で急遽、在宅勤務・テレワークを取り入れたという会社も多いと思いますが、まずはやってみることが重要です。何事も初めては失敗がつきものですので、導入してみて、その都度修正していくというスタンスで取り組む必要があると思います。また、会社は基本的な最低限のルールを押さえれば良く、実行は各職場に委ねるのが適当と思います。これは、各職場でカルチャーや仕事の内容・仕方が異なるため、全社的に厳し目のルールを最初から設定すると、在宅勤務・テレワークの良いところが失われてしまいかねないという懸念があるからです。実施は各職場に委ね、会社としては柔軟な対応をすれば良いと思いますし、その際会社は、管理職に適切な指示をしていくことが非常に重要になってくると思います。その意味で、管理職の果たす役割が、在宅勤務・テレワーク実施のカギになってくると思います。

また、労働時間管理に関しても、もちろん現行法令遵守が前提の話なのですが、在宅勤務・テレワークの良さを失わないように、実行上は柔軟な管理を行うのが良いと思います。ただし、長時間労働の懸念や、経済的な面で言えば深夜労働の割増賃金の発生など、労使双方にデメリットが生じる可能性もあるので、事前にきちんと最低限のルールを決めておくといった工夫が必要でしょう。

従業員を信頼してタイムリーなコミュニケーションを

会社や管理職は、在宅勤務をする従業員を信頼することもたいへん重要です。職場では普段は対面で仕事をしている関係性があるので、その延長線上で、在宅勤務でも与えられたタスクをしっかりこなしてくれると思って仕事を任せるのが良いと思います。

その際はコミュニケーション、いわゆる報・連・相を守ることが大切だと思います。現代では電話、メール、ウェブ会議ができるツールが様々にあるわけですから、これらを活用して、タイムリーに必要な情報をお互いに共有し合うことが、信頼関係を維持したり、さらに醸成する要素になるのだと思います。ネットリテラシーの向上や、勤怠管理などの日常的な業務の進捗をお互いに適時に確認できるように「見える化」することも重要です。

一方、セキュリティの確保が心配という声も先行調査から明らかになっていますので、いま一度、在宅勤務で扱うことができる業務上の情報は何かを確認しておく必要もあるでしょう。

従業員は公私のバランスを取り自律的な習慣を身に付ける

在宅勤務・テレワークをする従業員が心がけることはシート6にまとめています。

まず、家庭生活の在り方をどのように再構成していくかを考えることが大切です。プライベートな空間で仕事をするので、家族の構成や状況に従って家庭生活の在り方を見直す、空間的・時間的に公私の区切りをつけることが重要です。ただし、厳密な区切りではなくて、柔軟な取り扱いも企業側は許容した方が、在宅勤務の良さを失わずに従業員はパフォーマンスを向上できるのではないかと思います。従業員側からすれば、プライベートの時間を有効に使いたいという気持ちが出てくるかもしれませんが、あまり欲張らないようにすることも大切でしょう。身体を壊しては元も子もありませんので、公私でバランスを取れれば良いと思います。

また従業員は、業務遂行や家庭生活のことを自律的に行う習慣を身に付ける必要があります。上司や同僚に見えていないから余計に仕事を頑張るという気持ちが湧き出るかもしれませんが、自分自身で時間、仕事、生活に対するコントロールを利かせ、頑張り過ぎない、欲張らないということが大事ではないかと思います。

企業との情報共有やルールを守る

コミュニケーションに関しても企業側と同様で、自ら発信して、タイムリーに適切な情報を共有し、業務に関して判断を下すことが必要です。与えられたタスクだけを行っていれば構わないという考えではなくて、会社側が心配していること、上司が懸念を持っていることを推察して、コミュニケーションを積極的に取ることが必要ではないかと思います。

ネットリテラシーの向上や情報セキュリティも企業側と同様に考えなければなりません。会社側が定めている既存のルールにプラスして、在宅勤務・テレワークに特有のルールがあれば、それも含めてきちんと守るということです。情報セキュリティのルールも今一度きちんと確認した方が良いでしょう。

こうしたことを会社・上司と従業員がお互いに心がけることによって、これからも在宅勤務・テレワークが首尾よく運用されていくのではないかと思います。

プロフィール

池添 弘邦(いけぞえ・ひろくに)

労働政策研究・研修機構 副統括研究員

働き方と雇用環境部門所属、労働法専攻。上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得後、日本労働研究機構(現 労働政策研究・研修機構)入職。著作に、「改正労働時間法制の意義と課題」(PDF:667KB) 『第17回北東アジア労働フォーラム報告書 労働時間とワーク・ライフ・バランス』海外労働情報20-03,(労働政策研究・研修機構, 2020年)、『情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査結果(企業調査結果・従業員調査結果)』調査シリーズNo.140,(労働政策研究・研修機構, 2015年)、「裁量労働のみなし制」土田・山川(編)『労働法の争点』所収(2014年, 有斐閣)など。

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