基調報告 若年就職困難者と個人特性に基づくキャリア支援の可能性
- 講演者
-
- 深町 珠由
- 労働政策研究・研修機構副主任研究員
- フォーラム名
- 第83回労働政策フォーラム「若者と向き合うキャリアガイダンス─若年の就職困難者支援の現場から─」(2016年1月25日)
1 若年者を取り巻く環境
若年者を取り巻く雇用環境について、完全失業率(労働力調査)から見ていきます。それによると、若年層の失業率は、ほかの年代の平均よりも高い傾向が長年続いている状況にあります。どの年齢層も90年代後半、また、リーマン・ショック後の2008年以降で急激に上がっており、経済状況や景気の影響を受けやすいのが失業率の特徴です。
大卒者の進路状況を見ると、90年代後半以降、就職氷河期によって大卒後も無業・失業となる人が拡大し、進路の多様化が進んでいます。また、新規大卒者の全就職者41万人(2015年)のうち、非正規雇用への就職を決めた人が約2万人おり、一時的な仕事に就いている人が約1万人となっています。
年代別の非正規雇用の状況と、不本意に非正規雇用に就いた人がどれ位いるかを見ると、20代半ばから50代前半ぐらいまでの年代で、男性は40%以上ないしは50%弱が、「不本意だ」と答えています。不本意という回答は、女性よりも男性で多くなっています。
若年者の、仕事に就いた場合の具体的な悩みを尋ねた調査結果(厚生労働省)を見ると、どの年代も、やはり「人間関係の問題」というのが一番大きな悩みとなっており、「仕事の質の問題」、「量の問題」と続きます。20代では、「仕事への適性」に悩む人もかなりおり、こうした若年者がいるからこそ、キャリア支援、キャリアガイダンスが重要な意味を帯びてくるわけです。
若い人はなぜ就職でつまずきやすいのか。キャリア発達の面から考えてみたいと思います。スーパーという職業心理学者の理論によると、人間が「成長」し、仕事に就こうと「探索」し、仕事に就いて立場を「確立」し、「維持」していくという流れのなかで、最も重要な時期が「探索」から「確立」までの成人前期であり、この部分がちょうど若年者という時期に当たります。
つまり、この成人前期は、人生の中で一番難しい意思決定が凝縮されていて、非常に忙しい時期でもあります。そのため、安定した職業生活が確立するまでに困難が生じやすい。この時期は、移行期(トランジション)と言われていますが、この時期のガイダンスが非常に重要な課題であることは昔から認識されているところです。
しかし、若年者はみな就職に困っているのではないかと思ってしまいがちですが、必ずしもそうでもないというデータもあります。
2010年にリクルートが就職活動中の大学生に実施した調査によると、現在の就職活動に対する心境で、「楽しい」という回答も4分の1ぐらいありました。理由を見ると、いろんな人に会えるとか、大人とやりとりすることが勉強になるなどと回答している人もいます。よって、就職困難性の程度は個人の感じ方、捉え方によって異なることを、まず認識しておく必要があります。
若年就職困難者の実態は捉えどころがなく、調査することはとても難しい。当機構では、ヒアリング調査で一つひとつ実態を明らかにしていくとのアプローチで研究を始めました。
まずは、若年者向けの就職支援機関に対するヒアリング調査を2012年に行い、大学の就職課・キャリアセンターに対する調査も2014年に実施しました。どういう人が就職困難になりやすいのかというところから調べていきました。
調査結果
- 資料シリーズNo.123「若年者就職支援機関における就職困難者支援の実態」(2013年6月)
- 資料シリーズNo.156「大学キャリアセンターにおける就職困難学生支援の実態」(2015年5月)
2 若年就職困難者とは何か?実態は?原因は?
こうしたヒアリング調査で、若年就職困難者が一体どういう人たちなのかを調べていき、定義を研究の中で設けました。まず、就職困難であることを必ずしも本人が自覚しているわけではないというところがポイントです。また、何らかの原因で就職活動がうまくいかないとか、意欲を失っている人も該当します。それから、定着ができず、数カ月、数日で辞めてしまうような人がいます。このような人たちについて、支援担当者が「もしかしたら就職決定まで時間がかかるのではないか、あるいは支援するのが少し難しそうではないか」と察知した人を「若年就職困難者」とわれわれは定義したわけです。
なぜこのように定義したのかというと、やはり支援者の見立てによる就職困難性が一つのポイントになります。本人は困っていると思っていなくても、客観的な状況から見ると何らかの手を差し伸べたほうがよいという状態にあるという人も結構いるからです。
支援者が、どのような形で就職困難性を察知するのかについてですが、いろいろな形があります。大まかに、A:本人の客観的状況・外的環境から察知、B:本人自身の問題から察知、C:本人と支援者との相談の場で発覚、D:セミナー等の集団行動から発覚、に分けることができます。
Aは、本人の置かれた状況から困難性がわかる場合です。Bは、本人自身の問題から察知する場合で、社会的なマナーを知らないという場合も含まれますし、心理面で落ち込んでいるとか、自己肯定感が低いという状態から察知する場合です。Cは、本人と支援者とのやりとりの中で、コミュニケーションがうまく成り立たないことで察知する場合です。Dは、受講の態度の問題や、作業スピードがとても遅いなどの状況から察知されることがあります。
実際に、支援の現場ではどのように対処しているのでしょうか。基本的な態度と心構えで最も大切なのは、やはり傾聴です。しっかり話を聞くこと。また、先入観・経験則の排除、つまり、相手の状況を察知する敏感性を高めつつも、決して決めつけをしないことが重要です。
現場では対応も工夫されています。困難者には、自尊心が傷ついている人も多いので、その回復を目指して、小さなことでも褒めるといった対応をしています。自己決定の支援も挙げられます。本人が進みたい道について、支援者が一つひとつ全部先回りして決めるのではなく、本人が決めたい道に対して支援者が支援していくことが重要です。
就職困難の原因ですが、私も、当初は本人に関わる原因が大きく作用しているのではないかと思ってこの研究を始めたのですが、結論として、必ずしもそれだけではないと言うことができます。周辺環境、例えば家庭、学校、職場などによって、困難性が高められてしまうケースがあります。
特に若年者は就職経験が浅いため、家庭、特に親からの影響を強く受けがちです。それがプラスに作用すればうまく回っていきますが、逆に本人の気持ちを押し下げるようなことになってしまった場合には困難性が生じます。
それと同時に、支援者側からの影響というのも、実はあるのではないかと思います。支援者がいるから悪いという話ではなく、支援者との関わり、つまり相性の問題は大きいのです。また、支援者が所属している組織など、外部環境からも影響を受けることがあります。ですから、支援者同士でなるべく緻密なネットワークを構築して、複数の適切な支援者や機関が困難者を支援できるような柔軟な体制をつくることも重要です。
3 個人特性に基づくキャリア支援の可能性――アセスメントの活用
今日の報告テーマである「個人特性」への働きかけという点について着目していきたいと思います。
目の前に来られた求職者に対して、まずどう支援していくか。ポイントは、個人特性を測定するアセスメントを上手に活用することです。GATB(厚生労働省編一般職業適性検査(注))、VRT(職業レディネス・テスト)以外にも様々なアセスメントがありますが、それらを使って、目の前にいる求職者のいろいろな特性をきちんと把握した上で、それに対してどううまくアドバイスをしながら支援していくか、最後に考えていきたいと思います。
ここで一つ事例を取り上げます。ある20代後半の女性なのですが、子供が好きで、教育学部系の大学を卒業したということもあり、小学校低学年の子供を扱う施設に就職しました。ところが、実際の仕事は、子供向けに切ったり貼ったりの工作をすることが多い。本人は一生懸命やっているのに、てきぱきとできないことから、同僚からいじめられてしまいました。ショックを受け、結局、仕事を休みがちになってしまって、相談に来たそうです。
表面的に見ると、人間関係の悪化という原因が考えられますが、どうもそれだけではなさそうです。この女性が、GATBという能力面を測定するアセスメントを実際に行いますと、指先の器用さなど、運動系の部分があまり得意ではないという結果が出ました。それに比べて、一般的な知能や学力を反映する、数理・言語能力は高いという特徴がわかりました。この女性の場合、作業が苦手だという意識を抱く経験がこれまで全くなかったのです。なぜかというと、これまでに経験してきた入学試験や就職試験では手先の器用さを見るような試験はありません。しかし、このアセスメントのおかげで、ようやく自分の不得意分野に気づく機会が与えられたのです。
このように、アセスメントは、特徴を客観的に示すことから本人の納得を得られやすい長所があります。同じ内容を言葉だけで伝えようとすると反発を買うこともあり、なかなか本人の理解を得ることは難しいものなのです。
4 アセスメント活用の留意点
アセスメントを活用する際には、まず、本人が受けたいと希望している場合に受けてもらうことが重要です。タイミングを見極めることも重要です。
限界を知っておく、つまり、アセスメントで何がわかるのかをきちんと理解した上で正しく使っていただきたいと思います。アセスメントは非常に鋭い「物差し」でもありますので、間違って使うと本人が傷ついたり、あるいは、重く受け止める可能性がある点を、ぜひ知っていただきたいと思います。
注 GATB(General Aptitude Test Battery)厚生労働省編一般職業適性検査
15種の下位検査(紙筆検査11種、器具検査4種)から9種の適性能(知的能力、言語能力、数理能力、書記的知覚、空間判断力、形態知覚、運動共応、指先の器用さ、手腕の器用さ)を測定し、適性職業群を示す。提供は社団法人雇用問題研究会。
プロフィール
深町 珠由(ふかまち・たまゆ)
JILPT副主任研究員
2004年より現在までJILPTにて、キャリア支援、職業適性、職業情報に関わる研究を担当。主な研究成果は、「キャリアシミュレーションプログラム」(2011)、「若年就職困難者の適性検査ケース分析に関する予備的検討―GATB適性能プロフィールによる検討―」(2014)、「大学・短期大学・高等専門学校・専門学校におけるキャリアガイダンスと就職支援の方法―就職課・キャリアセンターに対する調査結果―」(共著/2014)、「PIAAC(国際成人力調査)から読み解く近年の職業能力評価の動向(PDF:775KB)」(『日本労働研究雑誌』2014年9月号)、「大学キャリアセンターにおける就職困難学生支援の実態―ヒアリング調査による検討―」(2015)等。