研究報告
若年労働者が追い詰められる職場の共通点

私からは、ハラスメントなどによって追い詰められていく職場とはどういうものなのかということを、JILPTの「正社員の労働負荷と職場の現状に関する調査」(2014年、対象:正社員、調査概要参照)の結果から、探っていきたいと思います。まず、「職場での本人の状況」と「正社員全体の職場がどういう働き方となっているか」を見ていき、さらに、最終的にそれが離職とどうつながるのか、関係性を見てみたいと思います。

シート1は、「現在、あなたは仕事上、以下の事項についてどのように感じていますか」と4段階で聞いた結果。シート2は、お互いの変数がどういうふうに関係性を持っているのか分析したものです。

分析の結果、選択肢と関係がある因子を3つ読み取ることができました。第1因子は、「将来やキャリアに対する不安」。第2因子は、「物理的な労働負荷が過重状態であること」。第3因子は、「精神的負荷が過重状態であること」です。

シート1 本人状況の把握

参考:配布資料3ページ(PDF:655KB)

シート2 本人状況の把握 選択肢同士の関係性

参考:配布資料4ページ(PDF:655KB)

精神的負荷の過重さが離職に影響

選択肢の「身体的に体調を崩すかもしれない」「精神的に不調になるかもしれない」については、第2因子も第3因子も選択する可能性があるということが見て取れます。また、関係性の高さを示す因子の数値を見ると、身体的不調の方は第2因子のほうが高く、精神的不調の方は第3因子の方が高い。

これを離職率との関係で見ると(シート3)、第3因子、つまり精神的負荷が過重状態の人の、入社から3年で半分以上が離職する割合の平均値が高くなっている。つまり、精神的に追い込まれている状況が一番離職につながりやすい。

シート3 本人状況と離職状況の関係②

参考:配布資料6ページ(PDF:655KB)

パワハラは精神的不調に繋がる

次に、職場の状況を把握するため、「あなたが働く事業所の正社員の状況について該当するもの」を選んでもらいました。選択肢は職場のネガティブ要素ばかりで、ブラック企業の働き方を意識した設問群になっています。

これも同じように、因子で分解しました(シート4)。4つぐらいに分かれ、第1因子が「長時間労働で休めず、精神的に不調になる職場」。第2因子が、「ノルマや目標管理が厳しい、販促・売り上げ達成の自己負担が大きい職場」。第3が、「セクハラ・パワハラが横行する職場」。第4が、「大量退職で苛烈に働かされる職場」です。

ほとんどの因子で、「精神的に不調になり辞める人が多い」との関係性が高いことが分かりました。また、第3因子と第4因子では非常に共通点が多いことが分かります。

シート4 職場の正社員の状況
 選択肢同士の関係性

参考:配布資料8ページ(PDF:655KB)

これについても離職との関係を見ると、「入社から約3年で半分以上が離職する」割合の因子別平均値は、第4因子が最も高く(59.5%)、第3因子も比較的高い(44.8%)。

また、パワハラ・セクハラと苛烈に働くということは比較的関係性が強く、セクハラ・パワハラと長時間労働はそれほど関係性があるわけではないのですが、両方とも精神的不調には繋がっていく関係性が見られます。

求人情報とのギャップも離職に影響

シート5では、離職率が高い職場の傾向を抜き出してみました。例えば、「労働組合に入っていない人のいる職場」「残業時間が長く、月60時間以上」「持ち帰り残業がある」「残業の理由として無駄な仕事がある」などで離職率が高い。

興味深いのは、求人情報と労働条件とのギャップの有無で、離職率が変わってくるという結果です(シート6)。これを見ると、労働条件と求人情報のギャップがあればあるほど離職率が高い。

シート5 離職率が高い職場の傾向

参考:配布資料12ページ(PDF:655KB)

シート6 求人情報と実際の労働条件とのギャップ

参考:配布資料13ページ(PDF:655KB)

職場で話せる環境も重要

今回のフォーラムのテーマである職場のコミュニケーションとの関係も見てみたいと思います。

シート7にあるように、仕事上の相談を上司にしない人は、離職が多い職場で働いていることがわかる。上司と仕事以外の日常会話やおしゃべりをしない人が多い職場も、離職率が高い。

なお、「仕事上の相談を上司にしているか」と、「仕事以外の日常会話・おしゃべりを上司としているか」、の回答結果をクロス集計すると、頻繁に日常会話・おしゃべりをする人は、仕事上の相談も上司とよくしているし、全くしない人はしない。職場の中でしゃべれる雰囲気があるか、ないかということも非常に大きいのではないかと思います。

シート7 職場のコミュニケーションの状況
(上司)

参考:配布資料14ページ(PDF:655KB)

まとめると、精神的不調は、セクハラ・パワハラといった精神的負荷が大きい状態と、仕事量が増大するとか長時間労働などの物理的な負荷が大きい状態の両方にその要因がある。ただし、離職につながる根源は、長時間労働と、セクハラ・パワハラでは異なります。また、精神的負荷が離職につながる傾向が、他要因よりも強いということが分かりました。

対策としては、精神的負荷と物理的負荷は、同じ精神的不調の症状が出たとしても病根が異なることから、対策は別に立てなければなりません。さらに、入職前に正しい職場情報を得られることが、離職を減らすでしょう。

また、相談しやすい職場、愚痴が言える職場の雰囲気づくりが重要と言えます。職場の労働組合にも重要な役割があるのではないでしょうか。

プロフィール

小野 晶子(おの・あきこ)

労働政策研究・研修機構主任研究員

2003年日本労働研究機構(現JILPT)に入職、2010年より現職。専門分野は、NPOの労働、非正規労働(パート、派遣労働)、労働経済。NPOやボランティアに関連した最近の研究成果として、『NPO法人の活動と働き方に関する調査(団体調査・個人調査)─東日本大震災復興支援活動も視野に入れて─』(調査シリーズNo.139,2015年5月)、『正社員の労働負荷と職場の現状に関する調査』(調査シリーズNo.136,2015年3月)などがある。

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