事例報告4 東京ニュース通信社の新卒採用の取り組み:
第69回労働政策フォーラム

大学新卒者の就職問題を考える
(2013年9月10日)

奥山 卓
株式会社東京ニュース通信社代表取締役社長

写真:奥山氏

学生の就職や大学に関しては、こうあってほしいと常日頃考えていたので、今回のような機会をいただいて大変ありがたく思っています。

私からは、出版業界全体の動向と、一中小企業の代表として、採用に関するお話をさせていただきます。

1人採用するかしないかは大問題

就職人気企業の上位100社に出版社は4社入っています。講談社、集英社、小学館、角川書店です。1万人以上の応募があるであろう、こうした大手出版社でさえ、例年8~15人程度しか新卒は採用しません。

弊社への応募者は毎年800人ほどです。いちばん多く採用した年で12人。2013年度は6人でした。

私がいつも新卒募集で言うのは「私どもも選びますが、学生さんも選んでいただかないと困ります」。

しっかりと選考し、この会社にしようと決めていただかないと、内定辞退や、入社してすぐ辞めてしまうのは困る、と。学生さんは内定辞退できますが、企業は内定取消をすると社会的信用をなくしてしまいます。

社員250人前後の弊社にとって、採用人数を1人増やすかどうかは大変な問題で、いつも役員会で侃々諤々の議論になります。内定辞退が1人でもあると採用計画が大幅に狂い、事業に支障をきたします。中小企業はどこも皆さん、そうだと思います。

出版プラスα部分の事業収入が拡大

東京ニュース通信社は、『TVガイド』をはじめとするテレビ情報誌の発行、日本全国の新聞社へのテレビ番組情報配信事業、ウェブサイト運営・アプリ開発・電子書籍などのデジタルコンテンツ事業を手がけています。

学生さんがもっとも志望するのは雑誌部門ですが、弊社に限らず、今はどこの出版社も、出版プラスαの部分の事業収入が大きくなっています。プラスα部分とは、出版社や雑誌のブランドを軸にしたネット通販、キャラクターグッズ展開、イベント事業などです。

これはテレビ局もそうで、マスコミ全般に共通する傾向といえます(図表1)。

図表1 東京ニュース通信社の「デジタルコンテンツ事業」

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図表1テキスト情報

新卒採用は成長と活性化に不可欠

弊社が定期的に新卒採用を実施しているのには、いくつか理由があります。

まずは成長戦略上、不可欠なこと。新卒で入社した社員には、仕事に対する固定観念がありません。したがって社員教育がしやすく、理念が浸透しやすいので、ゆくゆくは会社の中核を担う人材になることが期待できます。新卒者は中途採用者に比べ離職率が低く、長く働いてくれる傾向も高いです。

組織、従業員の活性化の観点からも新卒採用は欠かせません。先輩・後輩の教育体制が確立し、若手社員の成長が促されます。新陳代謝も図られ、会社全体が活気づきます。

効率的に優秀な人材を確保できるのも新卒採用の利点です。一括採用すると相対評価で人材の選抜ができるため、より優秀な社員が採用可能です。また、集中投資によって採用活動費も抑制できます。

引き出しをためる作業をしてほしい

弊社では最後の役員面接まで、面接官には学生の学校名や家族関係などは一切伏せてあります。つまり人物評価に徹底するということです。

不思議なことに、筆記試験で上位5位くらいまでの人は面接で落ちることが多いです。これはつまり、勉強ができるだけの学生さんは要らない、ということです。

とはいえ、トッパン・フォームズの坂田さんも話されたように、学生の本分は勉強。本当にその通りです。内定が決まった人たちに私はまずこう言います。

「働くことは来年4月からいくらでもできます。アルバイトに精を出すよりも、お願いだから、今やるべきことをやってください。社会人になったらしばらくは、学生のときにためた引き出しからものを取り出すだけになります。ですから、どうか今は引き出しにものをためる作業を続けてください」と。

自己分析は大学入学時に終えてほしい

引き出しに何をためこむか決めるには、自己分析に基づく目標の設定が必要です。企業側からすると、自己分析を大学3、4年から始められても困る、というのが正直なところです。

このところずっと就職状況が悪いのは、わかりきったこと。したがって理想的なことをいえば、大学に入学するときに、自己分析し終わっていてほしいです。この業界に就職したいからこの勉強をする、だからこの大学のこの学部を選んだ、という目標を明確にしておいてほしいと思います。

そうすればおのずと、大学生活でどんな引き出しに、どんなものをためればよいのか、わかるはずです。

「社員の仕事」に特化した説明会に

図表2 2014年度の採用活動で変更した点

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図表3 新卒採用のテーマ

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出版業界は圧倒的に女子学生に人気があります。弊社でも8人採用すると5人が女性です。また男性はなかなか定着してくれないのも困っています。

そうした状況下で優秀な学生を獲得するため、2014年度の採用から自社説明会の内容を変更しました(図表2)。26回の説明会すべてにおいて、編集、営業、配信、デジタルコンテンツ事業と、主力事業に関わる社員に参加してもらい、社員1人対学生6人程度の座談会を設けました。「社員の仕事」に特化した内容にしたのです。この場での質問は選考に一切関係ない旨を学生には伝えていたので、核心をついた忌憚ない意見も多く出ました。

会社説明会には企業研究をきちんとして臨んでほしいです。たとえば「TVガイドのような雑誌は、これから売れないのでは?どうするつもりですか」くらいの疑問をぶつけてもらってかまいません。この会社に入ったら20年後、自分はどうなるのか。そこまで見据えた企業研究を望みます。

新卒採用のテーマは「お見合い」

2014年度から新卒採用のテーマは「お見合い」としました。採用する学生には、長く連れ添う夫婦のように、長く会社に勤めてほしいからです。

会社説明会で日々の仕事を学生に良く理解してもらい、面接を重視して、入社後のミスマッチがないよう、企業研究のできた学生を選んでいく方針を明確に打ち出しました。

弊社が学生に求めるのは、次のような人材です。

他人とは違う考えをもっている人。同じ考えを持った人だけが集まる会社はつまらない。いろいろな考えがあるから会社はおもしろいのです。

これだけは「誰にも負けない」という強みを持っている人。自分が誇れる強みを持っている人は素敵です。

“イイ”顔をしている人。美人やイケメンのことではありません。「この人と一緒に働いたらおもしろいだろうな」と思わせるような顔の人です。自分のやりたいことがあれば、自然と顔に出てくるもので、そんな輝きが顔に出ている人を求めています(図表3)。

長く働く意思のある人材を

今後とも、1人でも多くの学生に会うことで、人材の多様性を意識した採用活動を実施したいと考えています。

また、会社説明会では社員との対話の機会を設けることで、具体的な仕事内容をイメージしてもらい、入社後のミスマッチを防止していきます。

長く働く意思のある人材を確保するためには、弊社をよく理解し、好きになってもらうことが大切です。

就活はできるだけ短くコンパクトに、効率的に。そうなるべきだと思います。就活を大変にしているのは、もちろん企業側の責任もあります。一方で、大学の就職関係者の方々には、学生に企業研究や志望業種の絞り込みを促して、「無駄撃ち」をしないように導いていただくことをお願いしたいです。