開催報告:第63回労働政策フォーラム(大阪開催)
経営資源としての労使コミュニケーション
(2012年11月9日)

壇上写真

2012年11月9日に大阪市で「経営資源としての労使コミュニケーション」と題した労働政策フォーラムを開催した。フォーラムでは、当機構研究員の報告や労使の事例紹介の後、参加者によるパネルディスカッションを行った。パネルディスカッションと質疑応答の一部を紹介する。

パネルディスカッションの論点は、「労使コミュニケーションの経営資源性について」と「非正規労働者に対する取り組みについて」の2つであった。ここでは第一の論点での議論に絞ってその概要を述べることにする。

労組は会社の中で物をいえる存在

まず、赤塚一・資生堂労働組合中央執行委員長は、「会社側が経営判断をする際に、現場の声を汲み上げる必要があります。その役割を担う労働組合は、だからこそ活動する意義があります。経営環境が厳しくなると会社側は利益重視に陥りがちとなりますが、その雰囲気が現場まで落ちていって、あっという間に物をいわない体質に変わっていきます。そうなったときに、会社の中で物をいえる存在は労働組合しかないと思います」と語った。

グループ全体でコミュニケーションを

次に、恩田茂・ケンウッドグループユニオン中央執行委員長は、「部分最適の合計が全体最適になるわけではありません。例えば、生産子会社にしてみれば生産を絞るということはその子会社の業績を悪化させることに他ならないし、またアフターサービスを行う子会社は品質改善を行うことによって自社の仕事が減少することになります。たとえ子会社の業績が悪化しても、グループ全体としての業績に貢献することになったら、それをきちんと評価することが必要です。このような評価をする仕組みを作るために、会社とグループユニオンでコミュニケーションをとることが、まさに『経営資源としての労使コミュニケーション』ではないでしょうか」と述べた。

労使の信頼関係の醸成が経営の根幹

続いて、山田茂・株式会社山田製作所代表取締役社長は、「私の経営のテーマは、『労使の信頼関係』です。社長に就任する際に2つのことを宣言しました。1つは公私混同をしないこと、もう1つは経理公開をすることです。後に、基本給を下げなければならない、賞与を払えないという事態が発生した際に、従業員も納得してくれて、経営危機を脱することができました。労使の信頼関係を醸成することが経営の一番の根幹にあります」と述べた。

会社の発展に労使コミュニケーションは不可欠

さらに、呉学殊・JILPT主任研究員は、「労使コミュニケーションの失敗によって倒産した企業の事例があります。失敗した原因は、第一に毎年執行部が代わる単年度組合であったこと、第二に社外の労働組合や自己の組合員とのつながりが欠如しており、組合としての存在意義を見いだせなかったこと、第三におざなりな半儀式的な色合いの強い労使交渉が行われていたことです。会社を存続させる、発展させるにあたって労使コミュニケーションは絶対必要です。労使コミュニケーションは経営資源であると確信しています」と主張した。

トップダウンで行かざるを得ない場合は

パネルディスカッションを終えた後、聴衆から質問をとり、それにパネリストが回答した。

まず、聴衆から「このフォーラムを聞いていると、パネリストの皆さんはボトムアップを重視していると思われますが、経営者としては成果が出ないとトップダウンで行かざるを得ない側面があるのではないでしょうか」という質問が山田社長に対してなされた。

これについて山田社長は、「『やれ』というトップダウンではなく、『一緒にやるぞ』という姿勢でトップダウンを続けていくとボトムアップが自然と生まれてきます。」と答えた。また、「成果にはいろいろな意味があり、例えば性格の暗い社員が山田製作所に入社して1年後に『おはようございます』と大きな声で挨拶ができるようになったというのも成果です。そうしたことをすべて含めて経営です」と述べた。

有期契約労働者の無期転換をどう捉えるか

次に、「労働契約法の改正で有期雇用の無期労働契約への転換のルールができましたが、経営資源として無期転換をどのように捉えますか」という質問がなされた。

恩田委員長は、自らの組合が有期労働契約の社員も組織化している立場から、「企業が有期雇用の期間を試用期間のように考え、有期雇用という働き方を導入していき、雇用が増えるのであれば、有期雇用という働き方を否定する必要はないと思っています。契約期限がきたから解雇権の乱用のような形で切るとか安い処遇の代名詞にするところに問題があると思います。われわれは、そういうところにメスを入れていかなければいけません。われわれの組合は今、公正処遇という観点で有期も正社員も評価制度を導入し、それに応じた配分をやろうということで取り組みを始めています」と回答した。

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質疑応答を終え、最後に、コーディネーターの濱口桂一郎・JILPT統括研究員は各パネリストに一言ずつコメントを促した。取りを務めた赤塚委員長は、「1つの会社は社会全体の縮図です。自分たちの会社の課題に対して精一杯取り組むことが大事です。そうやって困難を乗り越えていく組織・企業が増えれば社会に対する影響力も出てきます。どうかみなさんもそれぞれ精一杯取り組んでいただけないでしょうか。ぜひお願いいたします。このお願いのために大阪に参りました」と締めくくった。