<ワーク・ライフ・バランス>報告1 出産・育児期の就業継続
―2005年以降の動向に着目して:
第55回労働政策フォーラム
非正規雇用とワーク・ライフ・バランスのこれから
—JILPT平成22年度調査研究成果報告会—
(2011年10月3日、4日)

池田心豪(副主任研究員)/2011/10/3,4労働政策フォーラム

池田心豪 就業環境・ワークライフバランス部門副主任研究員 配付資料(PDF:108KB)

今日は今年6月に公表しました、『労働政策研究報告書』No.136「出産・育児期の就業継続―2005年以降の動向に着目して―」という報告書の要点をご説明したいと思います。副題に「2005年以降」とありますが、この年は次世代育成支援対策推進法(略称:次世代法)と改正育児・介護休業法が施行された年です。

2004年以前の状況

その前、2004年以前はどうだったかというと、1992年に育児休業法が施行され、育児休業制度を設ける企業は増えていました。女性の育児休業取得率も、取得しづらいという声はありますが、上昇していました。しかし、JILPTが第一期の中期計画期間中に実施したプロジェクト研究の分析結果から、出産・育児期に就業継続する女性は増えていないことが明らかになりました。類似の傾向は、同時期に国立社会保障・人口問題研究所が行った調査でも報告されています。育児休業制度に出産・育児期の就業継続を高める効果があることは、われわれの分析も含めて、さまざまな研究で言われています。しかし、実際は就業継続が増えていない。つまり、両立支援が拡充しているのに就業継続は増えていないという、悩ましい状況がありました。

その後の変化の可能性

しかしその後、状況が変化している可能性が指摘されています。1つは、先ほども話しました改正育児・介護休業法と次世代法が2005年に同時に施行され、両立支援に対する取り組みが一段と強化されたことです。もう1つ、景気の影響があります。今はまた景気が悪くなっていますが、2005年前後はちょうどリーマン・ショック前までの景気が比較的良かった時期に相当します。バブル崩壊後の長い景気低迷のなかで、企業はなかなか雇用に前向きになれませんでしたが、ようやく前向きになり、女性の活用にも積極的になってきているという指摘がされるようになってきた頃でした。他にもさまざまな要因がありますが、主にこの2つの要因により、2005年以降、就業継続率は上昇している可能性があります。

正規・非正規とも就業継続率は上昇

そこで昨年、個人を対象とする経歴調査を全国規模で実施しました。その結果、2005年以降、第1子出産時点の雇用率は上昇傾向にある。つまり、就業継続率が上昇に転じていることが明らかになりました。

この傾向は正規雇用と非正規雇用の双方に見られます。非正規雇用に関しては、2005年施行の改正育児・介護休業法で、有期契約労働者にも育児休業の対象が拡大されました。すべての有期契約が対象になったわけではありませんが、まず非正規雇用でも育児休業を取れるという社会的な認識が広がってきたことに意味があります。実際、非正規労働者が育児休業を取得する割合は上昇しています。しかし、就業継続率を大きく押し上げるほどの割合かというと、まだそれほどではない状況です。

一方、正規雇用はもともと育児休業制度が適用されていました。しかし、働き方の問題として、労働時間の面で子育てとの両立が困難であるということが指摘されていました。では、実際に労働時間との関係がどうなっているのかというと、ちょっと意外かも知れませんが、妊娠時点の労働時間が長い女性の退職率は高いと必ずしも言えない結果が出ています。

背景に女性の活躍

では、どういう要因が就業継続率を上げているか。一言で言えば、女性の活躍の広がりです。正規雇用では男女の職域統合が進んできましたが、これによる「やりがい・働きがい」が就業継続率を引き上げているようです。加えて、非正規雇用でも働き方が正社員に近づいてきていて、簡単に辞めてもいいといえる仕事ではなくなっている。関連する結果として、1つの企業にある程度長く勤め、企業に定着した状態で妊娠・出産期を迎える女性が正規・非正規ともに増えていることも明らかになっています。こうした背景から、出産・育児期に就業継続する女性が増えていると考えられます。

企業による制度周知の効果

また、次世代法と関連しますが、両立支援制度の運用に取り組む企業が近年増えています。その制度運用の柱として、企業が従業員に対して制度を周知することの効果が大きい、ということが明らかになりました。1つの企業の中でも、学歴、職種、労働時間など、人びとの働き方はさまざまですが、制度周知によって、そうした違いにかかわらず就業継続率は上昇することが明らかになりました。

第1子出産前後の雇用率が上昇

図1 第1子出産前後雇用率
 ―出産年代別―

図1 第1子出産前後雇用率―出産年代別―/

それでは、分析結果について少し詳しくお話したいと思います。

まず就業継続率が上昇しているという結果です。図1は、第1子の出産1年前、出産時点、出産1年後、出産2年後の各時期に雇用就業していた比率を表しています。出産1年前は7割ぐらいの女性が雇用就業していますが、出産時点までの1年間で大きく下がっています。この期間は妊娠・出産期に当たるので、いわゆる「出産退職」で雇用率が低下したと言えます。しかし、1998年以前に子どもを産んだ女性、99年~2004年の間に産んだ女性、05年以降に産んだ女性に分けて、時系列比較してみると、出産時点の雇用率は上昇傾向を示しています。特に05年以降は、はっきりと上昇しています。出産退職が減って就業継続が増えているといえます。

出産退職と育児休業の関係

図2 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
―出産年代・雇用形態別―

図2 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―出産年代・雇用形態別―

その出産退職に対して、育児休業がどう関係しているのかを示したのが図2です。黄色い帯は、妊娠がわかった時点から出産時点までに辞めた比率です。そして、出産退職せずに育児休業を取った比率を示したのが右側の青い帯です。正規雇用と非正規雇用にわけて、それぞれ時系列推移を示していますが、正規雇用は黄色い帯の退職率が低くなり、青い帯の育児休業取得割合が伸びています。つまり、育児休業を取る女性が増え、出産退職は減っていると言えます。

一方、非正規雇用の退職率は、正規雇用より高いのですが、時系列で比較すると低下しています。育児休業取得割合も、2005年以降は少し上昇しています。法改正によって育児休業制度が適用される人が増えてきている様子がうかがえます。ですが、ここでの問題は、白い帯の「育児休業を取得せずに継続」した比率の方が上昇していることです。育児休業を取る人も増えてきているけれど、それとは別の要因で継続する人が増えてきていることがうかがえます。

少しの残業でも退職率は上がる

図3 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
 ―妊娠時週実労働時間別―(正規雇用・育児休業制度あり)

図3 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―妊娠時週実労働時間別―(正規雇用・育児休業制度あり)

正規雇用についても、育児休業とは別の要因が影響している可能性はあります。この後、黄色い帯の退職率と青い帯の育児休業取得割合を対比して見ていきますが、正規雇用は、もともと育児休業取得率が上昇傾向にありました。しかし、退職率は低くなっていませんでした。その主な要因として、復職後の労働時間の問題が指摘されていました。そのために、短時間勤務制度や所定外労働免除が制度化されているわけです。そこで、正規雇用について妊娠時点の労働時間との関係をみたのが図3です。法定労働時間に収まる範囲(40時間以内)の女性と40~ 50時間以内の女性を比べると、やはり労働時間が長い方が退職率は高いという結果になっています。週50時間以内を1日に換算すると1、2時間の残業です。その範囲でも辞めてしまう女性は少なくない状況があります。

女性が企業の重要な戦力に

しかし、それ以上働いている女性はどうかというと、意外なことに50時間超の退職率は逆に少し低くなっています。そして、育児休業取得割合が高い。 「妊娠前は目いっぱい働くけど、 その後は両立支援制度を利用して就業継続している」という割合が高いと言えます。では、なぜ物理的にきついはずなのに働き続ける女性が増えてきているのか。

図4は妊娠時点での職務が男性の正社員と同じだった割合です。正規雇用に関しては、以前から7割ぐらいあったのですが、2005年以降、もう一段階伸びて8割ぐらいになっています。もう1つ注目して欲しいのが、非正規雇用でも、男性正社員と同じ職務を担っていたという割合が上昇してきていることです。そこで、職務が男性正社員と同じであったかどうかで、先ほどの退職率と育児休業取得割合を比較すると、男性と同じ職務を担っていた場合は、退職率が相対的に低くなっています(図5)。正規・非正規双方において、女性が企業にとって簡単に辞めてもらっては困る戦力になっている、そして、女性の方も簡単に辞めていい仕事ではないと考えるようになってきている。そのことが、出産・育児期の就業継続を後押ししているのではないかと思われます。

図4 第1子妊娠時に男性と同じ職務を担っていた割合
 ―出産年代・雇用形態別―

図4 第1子妊娠時に男性と同じ職務を担っていた割合―出産年代・雇用形態別―/

図5 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
―雇用形態・職務別―

図5 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―雇用形態・職務別―/

妊娠前の企業定着も増加

その就業継続についてもう1点、正規・非正規ともに、1つの企業に長く勤めて妊娠・出産期を迎える女性が増えてきていることを指摘できます。

図6をみると、正規雇用は5年以上の割合が上昇しています。一方、非正規雇用は 「3年以上」 が上昇している。正規雇用と非正規雇用では、そもそも労働契約期間や期待されている勤続年数が違うので、同じレンジで比較はできませんが、どちらも時系列で比較すると、1つの企業に定着するようになってきている傾向がうかがえます。

図6 第1子妊娠時勤続年数
―出産年代・雇用形態別―

図6 第1子妊娠時勤続年数―出産年代・雇用形態別―/

図7 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
―勤続年数・出産年齢別―

図7 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―勤続年数・出産年齢別―/

では、勤続年数で妊娠・出産期の退職率の違いがあるか。勤続年数「3年未満」と「3年以上」で比較し、加えて、年齢をコントロールするために、29歳以下で出産した女性と30歳以上で出産した女性にわけてみました(図7)。正規雇用をみると、比較的若い年齢で出産した場合でも、3年以上1つの企業に勤めて妊娠・出産期を迎えている人の退職率は低く、育児休業を取る割合が高い傾向にあります。非正規雇用についても類似の傾向が指摘できます。ここでいう「3年以上」は、労働契約期間が3年という意味ではなく、例えば1年契約を繰り返し更新していることも含めて3年以上ということですが、やはり3年以上勤めている人の退職率は低くなる傾向があります。女性が企業にとって重要な戦力になってきていることが、女性の企業定着を促し、出産・育児期の就業継続を後押ししていると考えられます。

両立支援制度の運用強化

では、両立支援制度自体にどういう変化があったかというと、先に述べた運用面の強化を指摘できます。「第1子妊娠時点の勤務先で、勤務先から両立支援制度について説明を受けたこと」(制度周知)があったかどうかを尋ねたところ、2005年以降、「制度周知があった」とする割合が伸びています。それ以前も企業は、「制度は設けています」「就業規則に書いてあります」「人事に来たら教えています」などと言っていました。しかしこれだと、「制度はあるけど、もしかしたら取れないかもしれない」といった不安は残ります。そうではなく、企業側から制度の利用について働きかけを行うようになったのが大きな変化です。

次世代法との関係

図8 第1子妊娠時勤務先での両立支援制度周知有無
―出産年代・企業規模別―

図8 第1子妊娠時勤務先での両立支援制度周知有無
―出産年代・企業規模別―/

この制度周知について、次世代法が規定している規模別の違いがあることを指摘しておきたいと思います。次世代法で最初から行動計画の策定が義務づけられている規模に相当する「300人以上」と、今年から計画策定が義務になっている規模に相当する「100~299人」、そして、改正次世代法でも義務になっていない100人未満で比較してみます(図8)。

300人以上からみると、2004年以前は「制度周知あり」を示す緑の帯が18.8%から23.5%に微増していますが、その後の2005年以降はぐんと上昇しています。100~299人も、少しずつ伸びています。100人未満は横ばい状態で、規模ごとに差があります。

制度周知による社内のばらつき解消

図9 第1 子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
―妊娠時勤務先育児休業取得の前例有無・制度周知の有無別―
(育児休業制度あり)

図9 第1 子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―妊娠時勤務先育児休業取得の前例有無・制度周知の有無別―(育児休業制度あり)/

制度周知の有無による差について、少し細かくお話します。

300人以上の大企業で「制度周知あり」の割合が上昇しているという話をしましたが、その前も、大企業には育児休業を取った人がいました。図9で勤務先に育児休業取得者の前例があったところで妊娠した人と、そうではなく自分が初めてという場合でどういう違いがあるかをみると、 制度周知がない場合は、育児休業制度があっても退職率にあまり違いがありません。その背景として、この後で詳しく説明しますが、もともと就業継続しやすい働き方の人は育児休業を取るけれども、そうではない人は辞めてしまう、ということがあるようです。しかし、制度周知がある場合は「前例あり」で育児休業取得割合が上昇して退職率が低くなる。働き方によるばらつきが制度周知によってかなり縮小する可能性があるといえます。

働き方との関係

育児休業制度がある女性を対象に、制度周知の有無による違いを学歴別にみると、制度周知がない場合は、学歴による退職率や育児休業の取得状況に大きな違いはありません。ただし、制度周知があると、高学歴層の退職率が大きく下がる傾向がみられます(図10)。

図10 第1 子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
―最終学歴・知の制度周有無別―
(育児休業制度あり)

図10 第1 子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―最終学歴・知の制度周有無別―(育児休業制度あり)

次に職種との関係ですが、職種別に就業継続状況に違いがあることは、よく指摘されてきました。図11の「制度周知なし」をみてください。伝統的な継続職種といわれる教師・保育士・看護師の退職率は36.8%です。かたや、就業継続率の低い職種の典型といわれる事務職は50.0%が退職していて、職種による差が明確にあります。しかし、「制度周知あり」をみると、教師・保育士・看護師と事務職の差は、小さくなっています。

労働時間との関係では、「制度周知なし」のところは、先ほど見ました労働時間別の図と同じ結果が出ています(図12)。40~50時間以内の退職率が高く、少しの残業でも子育てとの両立は難しい状況がうかがえます。しかし、制度周知ありでは、やはりこの差がなくなっていて、労働時間が長い人も短い人も就業継続率が上昇し、育児休業取得割合も上昇しています。

図11 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合
―妊娠時職種・制度周知の有無別―
(育児休業制度あり)

図11 第1子妊娠・出産期の退職率と育児休業取得割合―妊娠時職種・制度周知の有無別―(育児休業制度あり)

図12 第1子妊娠・出産期の退職と育児休業取得割合
―妊娠時週実労働時間・勤務先制度周知の有無別―
(妊娠時正規雇用・育児休業制度あり)

図12 第1子妊娠・出産期の退職と育児休業取得割合―妊娠時週実労働時間・勤務先制度周知の有無別―(妊娠時正規雇用・育児休業制度あり)/

参考までに、一昨年に実施したヒアリング調査の結果を少しご紹介します。いくつかの大企業に両立支援の取り組み状況を聞いたところ、2004年以前も両立支援制度はあったし、制度の利用者もいましたが、個々の職場ごとにばらつきがあって、同じ企業の中でも両立支援制度を利用できる職場とできない職場があったということを、多くの人事担当者が指摘していました。そうしたばらつきをなくし、どの職場でも育児休業を取れる環境をつくるために、近年は、例えばパンフレットを配ったり、イントラで両立支援の情報を提供したり、管理職に周知したりすることに取り組んでいました。そうした取り組みの効果が、今話した制度周知の数字に表れていると言えます。

非正規雇用と中小企業の支援強化が課題

しかし、繰り返しになりますが、そのようにして就業継続できるようになってきているのは、端的にいって「大企業の正社員」です。かつては大企業の正社員もそれほど就業継続していたわけではありません。大企業、中小企業、正規、非正規それぞれに課題があり、どの層でも就業継続は難しい状況でした。それがまず、大企業の正社員において就業継続しやすい環境が徐々に整いつつあることが、分析結果からうかがえます。

非正規雇用でも確かに就業継続率は上がっています。しかし、育児休業を取る割合はまだ低い。非正規雇用の働き方は変化してきているのに、制度の適用や利用しやすさがまだ追いついていない状況がうかがえます。もう1つ、中小企業においては、取り組みの進捗が横ばいという状況で、それが就業継続率にも表れています。今後、働き方や勤務先にかかわらず出産・育児期に就業継続しやすい社会をつくるには、非正規労働者と中小企業を対象にした支援の強化が重要な課題といえます。

非正規雇用の育休取得と企業定着の促進を

具体的には、非正規労働者に関しては、やはり両立支援の柱である育児休業の取得促進が改めて強調すべき課題になります。徐々に育児休業を取れるようになってきてはいますが、まだ「浸透しつつある」という段階を脱していません。

それから2点目に、非正規雇用でも、1つの企業に長く勤める労働者が増えていることを踏まえて、企業に定着し、企業の中でのキャリア形成を支援することも重要です。例えば、均衡処遇や正社員への転換を進めていく。そういう部分の積極的な施策が、出産・育児期の就業継続を高める意味でも重要なのではないかということです。

中小企業の制度運用強化を

もう1つ、両立支援制度の運用にはいろいろな課題があるので、企業の人事担当の方は本当に頭が痛いと思いますが、まず「わが社にはこういう制度がありますよ」ということを従業員に対し、メッセージとして伝える。この制度周知を柱に両立支援の運用強化を図っていく。 そういったことを中小企業にも広げていくことが重要ではないかと思われます。

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