<非正規雇用>報告3 短時間労働者の雇用管理の現状と課題
―改正パートタイム労働法で職場はどう変わったか:
第55回労働政策フォーラム

非正規雇用とワーク・ライフ・バランスのこれから
—JILPT平成22年度調査研究成果報告会—
(2011年10月3日、4日)

渡辺木綿子 調査・解析部主任調査員補佐配付資料(PDF:1,065KB)

労働政策研究・研修機構の調査・解析部の渡辺と申します。本日は「短時間労働者の雇用管理の現状と課題」をテーマに、先月発刊させていただきました調査シリーズNo.88 『短時間労働者実態調査結果』より、概要を抜粋してご報告申し上げたいと存じます。このような機会を賜りまして感謝を申し上げますとともに、何卒宜しくお願い申し上げる次第です。

調査の背景(PDF:1,065KB)から入って参りたいと存じます。「短時間労働者」には統計調査で幾つかの定義がございまして、例えば「労働力調査」の「週35時間未満の雇用者」数で見て参りますと、短時間労働という働き方が労働政策上、注目され始めました1980年代中頃には470万人程度であったものが、1993年のパートタイム労働法制定時になると929万人と、この間10年足らずで2倍に膨らんでおります。その後、同法は2007年に改正され、翌年4月より施行されましたけれどもこの間、緩急をつけながら15年かけてさらに1.5倍と、直近では1,414万人・総数に占める割合で26.6%まで、趨勢的に増大してきたところでございます。

制定当初のパートタイム労働法は、事業主の努力義務を規定した上で必要な指針を定め、都道府県労働局の助言・指導等を通じ、事業所における雇用管理の改善等の自主的な取り組みを促してゆくという法構造を採っておりました。これに対しまして、短時間労働者の数も経済に果たす役割も、看過できなくなって参りました中で行われた同法の改正では、事業主の行為規範が大幅に強化され、義務事項が盛り込まれますとともに、当事者の納得性を高めていくための社会的な仕組みも、新たに導入されたところでございます。

改正パートタイム労働法の内容(PDF:1,065KB)を簡単に見て参りますと、例えば第6条はすべての短時間労働者を対象に、雇入れ時における労働条件の特定事項――すなわち昇給、退職手当、賞与の有無の、文書交付等による明示を新たに義務づけ、さらに第47条で、これに違反した場合の過料も設けたところでございます。短時間労働者の待遇に関しましては、第9条1項に職務内容や能力、経験、成果等に応じ、均衡待遇を確保する努力義務が盛り込まれますとともに、第13条では待遇の決定に当たり、考慮した事項の説明義務が課せられたところでございます。福利厚生につきましては第11条で、食堂、休憩室、更衣室の限定列挙ではございますが、施設の利用機会における配慮義務が規定され、第12条では通常労働者への転換推進の措置義務が課されたところであり、第19条には短時間労働者から苦情の申し出を受けた場合に、自主的な解決を図る努力義務も規定されたところでございます。

一方、短時間労働者と通常労働者を職務、人材活用の仕組み・実態等、契約期間の定めの異同で比較致しまして、「同視すべき」と判断された短時間労働者に対しましては、通常労働者とあらゆる待遇面での差別的待遇を、禁止する義務規定(第8条)が新設されますとともに、職務かつ人材活用の仕組み・実態等が少なくとも同じ期間につきましては、通常労働者と同様の方法で賃金を決定する努力義務(第9条2項)や、職務が同じ短時間労働者に対し、職務遂行に必要な能力を付与する教育訓練の実施義務(第10条1項)等が盛り込まれたところでございます。

このように多岐に渡りまして、実効性が大幅に高められました改正パートタイム労働法が、事業所における短時間労働者の雇用管理のあり方ですとか、短時間労働者自身の働き方にどのような効果・変化をもたらしたのか――これを把握することが、本調査の目的(PDF:1,065KB)でございました。調査のフレームでございますけれども、16産業分類における全国の常用労働者5人以上の事業所を母集団とし、産業規模別に層化無作為抽出した1万社と、そこに就業していらっしゃる短時間労働者――ここで申しますのは、同法第2条の定義に基づきます「呼称に係わらず1週間の所定労働時間が通常労働者より短い労働者」を対象に調査票を配付させていただき、有効回収されました事業所票3,040(うち短時間労働者を雇用している割合は58.0%に相当する1,764)と個人票6,208について集計分析させていただいたところでございます。

なお本年2月、厚生労働省内に「パートタイム労働対策に関する研究会」が設置され、先頃9月15日に報告書がとりまとめられたところでございます。同研究会におきまして、本『短時間労働者実態調査結果』は、現状把握のための基礎資料として参照されますとともに、報告書にも引用されているところでございます。

調査結果(PDF:1,065KB)に入って参りたいと存じます。まず、改正パートタイム労働法を事業所や短時間労働者がどう受けとめたかという、全体的な傾向でございます。事業所に対しまして、同法の施行を機に実施した雇用管理の改善等見直し事項があったかを問いましたところ、62.6%が「実施したものがあった」と回答致しました。実施内容(複数回答)でございますが、過料を伴う義務事項として規定されました、「労働条件の特定事項の明示」(45.6%)がやはりもっとも多く、次いで同法の法構造にも関連致しますけれども、「通常労働者と短時間労働者の職務区分を明確化」(14.1%)、他には福利厚生ですとか、正社員転換推進措置、均等・均衡に配慮した賃金等の処遇改善などが、10~12%の範囲で上がっております。なお同法の制定に際しまして、国会審議や附帯決議で危惧されました、「短時間労働者と職務等が同じ場合はむしろ正社員側の賃金等処遇を見直した」や、「短時間労働者の所定労働時間を正社員と同じにした」といった事業所の回避行動は、全体としてみれば多くなかったということも確認されたところでございます。

一方、短時間労働者に対しまして、同法の施行に伴い職場に何か変化はあったかと問いましたところ、「変化があった」とする割合は17.2%に留まりました。変化の内容(複数回答)につきましては、事業所の調査結果と概ね同じような傾向で、「労働条件が文書等で明示されるようになった」が10.9%などとなっておりますが、これ以外はいずれも僅少でございます。逆に、もっとも多かったのは「とくに変化はない」の41.5%で、「分からない」も24.5%などとなっております。

以下、改正パートタイム労働法の各規定に沿いながら、「短時間労働者実態調査結果」に読み取れる現状と、あくまでご参考でございますけれども、厚生労働省「パートタイム労働実態調査」――これは5年に1回の調査でございますので、直近はまさに本年度、公表される見通しでございますけれども、同法の施行前の直近ということで2006年の同調査と比較しながら、ご覧いただければと存じます。ただ、比較してご覧いただきます際にはこの間、いわゆる非正規切り問題が惹起致しましたリーマンショックという経済危機を経験しておりますこと、また、労働分野に限りましても列挙させていただいたように多様な施策が同時並行的に実施されておりますため、改正パートタイム労働法のみの効果であると強調して申し上げることはなかなか難しい点などにご留意いただければと存じます。

その上でまず、第6条関係で労働条件の明示状況でございます。事業所調査では明示している割合が97.3%、個人調査で明示された割合は95.7%となっておりまして、明示自体は非常に高い割合で行われている様子が見て取れようかと存じます。むしろご注目いただきたいのは明示方法でございまして、「主に口頭で説明」が低減される一方、「労働条件通知書等文書の交付」が高まっており、より客観的な方法による明示が浸透してきたことが分かります。

なお、労働条件を明示(PDF:1,065KB)すること自体が、短時間労働者の雇用管理上、どのような意味合いを持つかということでございますけれども、個人調査で、雇入れ時に労働条件を明示されたか・されていないかで比較してみますと、明示されていると職務が同じ正社員がいる場合でも賃金水準の納得性が高まる傾向ですとか、あるいは仕事、会社全般に対します不満・不安が低減される可能性があるといったところで、労働条件明示の重要性が指摘できようかと存じます。その上で、ここで取り上げております労働条件の明示は、同法が求めるあくまで雇入れ時のものでございますが、事業所調査では短時間労働者が、一定程度常用的に活用されている実態も浮き彫りになっておりますので、労働条件明示を例えば契約更新時ですとか、定期的な面談時等にも行いますことで、同様の効果を享受できる可能性があると言えようかと存じます。

続きまして、処遇状況に入って参りたいのですが、改正パートタイム労働法は、短時間労働者と通常労働者を職務や人材活用の仕組み・実態等、契約期間の定めの異同で比較(PDF:1,065KB)して、一致する場合はそれぞれのタイプをさらに掘り下げて、必要な方策を求めるといった法構造を採っておりますため、そもそもそうした異同の状況がどうなっているかを見ておきたいと存じます。

今回の調査では、事業所においてもっとも一般的な短時間労働者と致しまして、まず短時間労働者の中でもっとも人数が多い職種を聴き、その上で同職種に就いている正社員がいるかを問うておりますけれども、その結果84.0%の事業所にそうした両者が「いる」ことが分かりました。この中で、さらに職務すなわち業務の内容かつ責任の程度とも同じ短時間労働者と通常労働者が「いる」という事業所が24.4%。さらに、人材活用の仕組み等すなわち転勤や配転の有無まで、全雇用期間を通じて同じである両者が「いる」という事業所が13.3%。このうちさらに、実質的にを含めて無期契約の短時間労働者が「いる」とする事業所が39.6%となったところでございます。

上の円グラフの連なりは事業所の割合でございまして、下の一連の円グラフは同事業所に雇用されております短時間労働者の人数割合を示しております。総じますと、(PDF:1,065KB)通常労働者と職務がほとんど同じ短時間労働者がいる事業所の存在割合は20.5%、人材活用の仕組み等まで同じ短時間労働者がいるは2.7%、さらに(実質)無期契約がいるは1.1%。一方、短時間労働者全体に占める人数割合で申しますと、同順に2.9%、0.3%、0.1%と算出されることになりまして、こうした現状を踏まえますと各要件が、短時間労働者を分類する要件として果たして合理性を有しているのか、ネガティブ・チェックリストとして機能している恐れはないのか、また、図のDの領域でございますけれども、改正パートタイム労働法第8条の差別的待遇禁止義務規定の対象となる当該短時間労働者は、極めて僅少と言えようかと存じますので、このままの規定であればさらにこれを利用して、当該・短時間労働者の雇用管理等の改善を進める余地は、小さいのではないかといったことが指摘できるところでございます。

短時間労働者と通常労働者のこのような活用状況を踏まえました上で、短時間労働者の処遇状況でございます。はじめに第9条1項関係と致しまして、短時間労働者全般の賃金決定時の勘案要素(PDF:1,065KB)でございます。2006年調査では同じ地域、職種のパートの賃金相場を勘案されている事業所が7割を超えており、仕事の困難度(31.4%)や経験年数(26.1%)等を大きく上回っておりました。一方、今回の調査におきましては、地域での賃金相場(43.5%)や最低賃金(30.8%)を勘案する事業所割合を上回る形で、能力・経験(59.6%)ですとか、職務の内容(55.7%)を加味している事業所が見られたところでございます。また、通常労働者と職務が同じ短時間労働者がいる事業所では、さらに地域での賃金相場(35.4%)や最低賃金(25.0%)を勘案する事業所割合が相対的に少なくなり、一方で能力・経験(63.9%)や職務の内容(59.7%)、職務の成果(37.6%)、さらには年齢(17.5%)まで含める格好で、勘案する割合が多くなる傾向も見られたところでございます。

なお、改正パートタイム労働法は賃金水準云々には言及しておりませんけれども、ご参考までに職務が同じ短時間労働者の、1時間当たりの賃金割合についてお示しさせていただいたのが右のグラフとなっております。

続きまして第9条2項関係、職務関連賃金等の算定方法(PDF:1,065KB)でございます。通常労働者と職務かつ人材活用の仕組み・実態等が、少なくとも一定の期間に関しましては、通常労働者と同様の方法すなわち決め方で、賃金を決定する努力義務が設けられておりますけれども、それに対する取り組み状況がどうなっているかでございます。ただ、ご覧いただいて明らかなように、この設問は無回答割合が非常に高くなっており、恐らく事業所にとりまして、非常に回答し難かったろうと推測されます。その点、ご注意いただきながら、上から2段目の基本賃金を見てみますと、通常労働者と職務及び人材活用等が同じ短時間労働者に対しまして、「通常労働者と同様の算定方法(制度・基準)に基づき支払っている」割合は12.3%、「算定方法は異なるが、共通する算定要素で支払っている」割合は18.5%と、合わせましても約3割でございます。また、下から3段目の賞与を見ますと、同様の順で6.2%、15.4%で合わせて約2割でございますので、通常労働者と賃金の決め方を合わせていく形での、均衡待遇確保の努力義務につきましては、必ずしも充分進展していない状況にあると言えようかと存じます。

次は、賃金以外の手当等各種制度の実施状況(PDF:1,065KB)について見たグラフになっております。これに依りますと、通勤手当(80.7%)や健康診断(79.8%)のように、通常労働者の実施割合(同順に92.3%、94.0%)に非常に近い、比較的高い割合で実施されるようになっているものがある一方、例えば家族手当(短時間労働者の支給割合は2.1%に対し、通常労働者では55.8%)ですとか、住宅手当(同順に1.7%、37.8%)や、退職手当(8.4%、69.4%)のようにまだ大きな開きがございますもの、また賞与(48.6%、92.2%)ですとか、人事評価・考課(42.5%、83.9%)や、定期昇給(32.7%、80.5%)のように、実施されているか否かだけを見ても、実施率が通常労働者の半分程度となっているものが見られるということでございます。なお、通常労働者に対してのみ実施し、短時間労働者には実施していない理由と致しましては、人材活用の仕組み等が異なるから等々が一定割合で見られております。

それでは、こうした処遇の現状を、短時間労働者はどのように受けとめているのでしょうか。まず、通常労働者との職務の異同状況(PDF:1,065KB)でございます。2006年調査では同じ仕事と大括りに聴いておりましたけれども、今回の調査では業務の内容と責任の程度に因子分解し、それらの組み合わせで聴いております。結果、「業務かつ責任が同じ正社員がいる」と回答された短時間労働者が15.9%、「責任は異なるが業務は同じ正社員がいる」が38.9%となり、合わせまして半数超(54.8%)が、責任を問わなければ少なくとも業務が同じ正社員はいる、と回答しているところでございます。

そこでこの層を対象に、同正社員と比較した賃金水準の納得性を聴きましたところ、「賃金水準は低いが納得している」が53.1%、「賃金水準は低く納得していない」が28.1%となり、2006年調査と比較していずれも増えているところでございます。一方、減ったのは何かと申しますと、「わからない・考えたことがない」ということでございまして、ほぼ半減している状況が見て取れます。すなわち、改正パートタイム労働法やそれにまつわる社会論議等がアナウンス効果となって、短時間労働者の自身の処遇につき正社員と比較する形で、見つめ直してみる機会になったのではないか、と考えられるところでございます。

同層に対しまして、今度は賃金以外の処遇等で納得できないもの(複数回答)(PDF:1,065KB)を聴きましたところ、賞与(45.8%)や定期的な昇給(29.1%)、退職金・企業年金(24.7%)等の順に多く上がって参りました。これには、先述した事業所調査でみた、実施の有無に加え、実施されていてもその内容が納得できないといった場合も含まれておりますので、ご留意いただければと存じます。また、正社員と業務・責任とも同じ場合に、納得できる賃金水準も聴いておりますけれども、これは「8割程度」(26.6%)が4分の1超でございまして、次いで「正社員と同じ(差がない)」(19.5%)が2割弱、「7割程度」(15.6%)、「9割程度」(10.9%)といった順になっております。

続きまして第10条関係、教育訓練の実施状況(PDF:1,065KB)でございます。2006年調査では設問内容が限られていたために、なかなか比較は難しいところでございますけれども、もっとも多く行われていた「計画的なOJT」でも28.7%という状況でございました。一方、今回の調査では、短時間労働者に何らかの教育訓練を「実施している」事業所割合が76.7%、さらに通常労働者と職務が同じ短時間労働者がいる事業所で、その方たちに実施している割合は88.0%となっております。内容につきましては、「日常的業務を通じた計画的OJT」を、短時間労働者全般に対して実施している割合が57.1%(通常労働者と職務が同じ短時間労働者に対してが66.2%)。次いで、「入職時のガイダンス(OFF−JT)」が54.2%(58.9%)、「職務遂行に必要な能力を付与するOFF−JT」が38.2%(46.2%)――などとなり、通常労働者と職務が同じ短時間労働者がいらっしゃる事業所では、さらに実施割合が高まるところでございます。

一方、キャリアアップにつながるような教育訓練は17.6%(24.2%)、自己啓発費用の補助は15.8%(17.8%)で、たとえ職務が同じ短時間労働者であれ通常労働者の実施割合の半分にも満たない状況となっており、今後の課題になろうかと存じます。

次に第12条関係、正社員転換推進措置の実施状況(PDF:1,065KB)でございます。今回の調査で、正社員転換推進措置を実施している事業所割合は48.6%と、2006年調査(45.8%)と比較して大きな伸びはみられませんでした。ただ、過去3年間における正社員転換実績「あり」が約4割(39.9%)と、2006年調査(30.5%)を上回っておりますので、正社員転換推進措置の実施の質的な違いはあると言えようかと存じます。正社員転換推進措置を実施している場合の措置内容につきましては、「募集内容を短時間労働者にも周知」(51.0%)、「試験など転換制度を導入」(45.6%)、「正社員ポストの公募機会を付与」(38.5%)――の順で多くなっておりました。また、中間形態につきましては、「設けていない」事業所が約6割(59.4%)に対し、「設けている」場合は「フルタイム有期契約労働者」を経由する事業所が約3割(29.8%)でございます。

一方、第12条は義務事項であることを思い起こすと、半数弱の事業所が実施していないことは、大きな課題であるところでございます。その理由を見て参りますと、「その他」(43.4%)がもっとも多く、次いで「正社員としてのポストが少ない」(32.8%)などとなっております。残念ながら、「その他」に自由回答欄を設けませんでしたので、詳細は分かりません。とはいえ、定年再雇用からの再転換がございませんので、その影響を除いて試算しますと、正社員転換推進措置の実施割合は上昇致しますけれども、それでも2ポイント程度でございます。また、後に出て参りますけれども、短時間労働者に今後の働き方ニーズを聴くと、引き続き「短時間労働者を続けたい」割合が高くなっておりますため、短時間労働者自身にニーズがないのでやっていないということも、事業所の言い分としてあろうかと存じます。そこで、事業所・個人の各調査のマッチング集計を行い、少なくとも「正社員になりたい」としている短時間労働者がいる事業所のみにおける、正社員転換推進措置の実施割合を算出してみましたが、それでも6割程度(59.9%)に留まるということでございまして、やはり改正パートタイム労働法の義務事項の履行の確保が、重要であると言えようかと存じます。

関連して、正社員転換推進措置は、教育訓練ですとか、それによって促されるだろう短時間労働者の戦力化の進展度合い等と、密接な関係があるのではないかとする結果もお示しさせていただいております。すなわち、教育訓練を実施している事業所における正社員転換推進措置の実施率あるいは優先採用(PDF:1,065KB)経験は、教育訓練を実施していない事業所のそれをそれぞれ2倍程度上回っている様子が見て取れます。また、正社員転換推進措置の実施割合は、教育訓練を通じて促されるだろう戦力化の進展度合いとの相関でも、密接な関係にあることが分かります。先ほど正社員転換推進措置の実施の伸び悩みが課題であると申し上げ、また、各都道府県労働局の雇用均等室でも引き続き、相談・指導等に取り組まれているところでございますけれども、さらに労働政策上、何ができるかで申し上げれば、事業所が教育訓練を行いやすい環境の整備を通じ、短時間労働者に有効に能力を発揮していただくことで、ひいては短時間労働者をどの程度、質的に基幹化し、さらに正社員へ吸い上げていくかという、事業所の経営戦略に働き掛けることが可能になるのではないかと存じます。

短時間労働者に聴きました今後の働き方ニーズ(PDF:1,065KB)でございますけれども、これは2006年調査の結果と非常に似ておりまして、「短時間労働者を続けたい」が約7割(69.9%)、「正社員になりたい」が2割弱(18.8%)となっております。正社員になりたい場合に、仮に多様な正社員区分が仮にあったら選択したいかを併せて聴きましたところ、「短時間正社員」「勤務地限定正社員」とも、選択志向は高くなっております。とはいえ、今回の調査から把握できる現状を、事業所調査で見て参りますと、短時間正社員を「制度として導入」「運用のみ」を合わせまして33.6%。このうち「正社員以外からの転換」に利用できる割合は11.8%となっておりまして、掛け合わせて4%程度と、そこはやはりニーズと現実の間に、まだかなりの乖離があるところでございます。

次に、第13条関係でございます。パートタイム労働法の施行後、2年経過時点で実施した調査でございますので、過去2年間として短時間労働者から処遇に係る説明(PDF:1,065KB)を求められた経験の有無を問いましたところ、約2割(22.3%)の事業所で「求められたことがある」ということでございました。そして、求められた場合は「説明している」割合が98.5%と大半であると。一方、第19条関係につきまして、短時間労働者から苦情の申し出があった場合に「自主的な解決に努めている」割合は92.4%で、その時には「人事担当者等が窓口になっている」(80.7%)ということでございます。総じて少なくとも事業所の受け止めでは、説明義務や自主的解決の努力義務はかなりの程度、実施されているようでございます。

第7条関係・就業規則の作成時の意見の聴取状況(PDF:1,065KB)についても聴いております。短時間労働者に就業規則が「適用される」事業所(85.1%)のうち、「何らかの方法で短時間労働者の意見を聴いている」割合は82.6%で、2006年調査の59.1%と比較しても高まっております。ただ、組合等を通じ組織的に意見を上げやすい環境は、まだ半数弱(「過半数が加入の組合等から意見を聴いている」「同・過半数以下」を合わせて44.1%)に留まるところでございます。

短時間労働者に現在の会社や仕事に対する不満・不安(PDF:1,065KB)を聴きますと、6割弱(59.0%)が「ある」と回答。その内容(複数回答)は、「賃金が安い」(52.4%)、「雇用が不安定」(26.1%)、「正社員になれない」(23.6%)などとなり、「勤続が長いのに有期契約である」(17.9%)も関係して参りますが、引き続き賃金と雇用のあり方が、課題の焦点になっているところでございます。

こうした不満・不安を相談した経験(PDF:1,065KB)でございますけれども、「相談したことがある」割合が3割超(31.1%)で、その相手先は「事業主や職場の上司等」が7割弱(67.9%)。相談した結果の納得度につきましては、「納得した」が約3割(30.4%)、「相談を聴くだけで説明がなかった」が約3割(30.1%)で、「説明はあったが納得しなかった」が37.0%となっております。納得するまで説明を尽くすのは容易ではないにしろ、紛争の未然防止等を考えれば、少なくとも説明をしていない部分について、改善の余地があるのではないかと考えられるところでございます。

今後の相談意向でございますけれども、事業主や職場の上司等に「相談する」が20.3%、「内容によっては相談する」が42.6%と6割超に相談意向がありまして、事業主や職場の上司等の相談相手としての役割の重要性は、引き続き高いと言えようかと存じます。その上で、事業主や職場の上司等には「相談しない」(20.3%)理由と致しましては、「相談しても聴いてもらえない」(24.9%)、「周りに配慮して相談できない」(19.2%)、「不利益な取扱いをされるのが怖い」(17.2%)――の順に多くなっており、短時間労働者の契約上の地位の弱さを勘案すれば、より相談しやすい環境の整備に向けた取り組みが求められるところでございます。

駆け足になってしまい恐縮に存じますけれども、まとめ(PDF:1,065KB)に入ります。今回、調査致しました限りでも、改正パートタイム労働法の施行前後で、職場にさまざまな変化を生じており、同法は施行から3年目を迎えておりますけれども、そのさらなる普及・定着により、引き続きの効果発揮が期待されるところでございます。半面、短時間労働者のいっそう処遇改善を進める上では、例えば第8条関係(差別的待遇の禁止義務)や第12条関係(正社員転換推進の措置義務)をはじめ、幾つかの課題も浮き彫りになっており、パートタイム労働対策に関する研究会の提起を受け、労働政策審議会雇用均等分科会が議論をスタートさせておりますけれども、今後の検討が求められるところでございます。

その上で、短時間労働と一口に申しましてもこの間、その量的増大に伴い実に多様な就労事情を内包して参りました中で、今回は配布させていただいておりませんが、事業所が短時間労働者を雇用する理由として、2006年調査では8.2%に留まっていた「定年社員の再雇用のため」が、今回の調査では27.2%にのぼっており、短時間労働という働き方が、高齢者雇用問題としての意味合いも、色濃く帯びるようになりつつあるところでございます。こうしたなか、年金や税制、社会保険、最低賃金の引上げや有期契約のあり方の問題など、短時間労働の今後のありように密接に係わる環境変化が見込まれているところでございます。厚生労働省内ではまた、非正規雇用全般にわたるビジョンを策定する懇談会ですとか、非正社員と正社員の接合部分に当たる、多様な形態の正社員のあり方に関する研究会も設けられております。当に非正規雇用のありようをめぐって、労働政策上でも1つの転換点を迎えようとしている中にあると言えようかと存じますが、この短時間労働を今後、多様な働き方の一類型として社会的にどう位置づけていくのかの総合的な議論が、求められているところでございます。

雑駁となりましたが、他に調査シリーズNo.88の中でも、いろいろと考察させていただいております。ご関心ございましたら、ご高覧賜れば幸いに存じます。ご清聴、どうも有り難うございました。

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