パネルディスカッション:第53回労働政策フォーラム
高齢者雇用のこれから —更なる戦力化を目指して—
(2011年6月3日)

写真:パネルディスカッション
パネリスト
土田浩史
厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部高齢者雇用対策課長
藤本 真
JILPT 副主任研究員
神部雅之
ニッケ執行役員研究開発センター長(前経営戦略センター人財戦略室長)
加茂田信則
財団法人深川高年齢者職業経験活用センター常務理事,前川製作所顧問
中川荘一郎
髙島屋人事部人事政策担当次長
コーディネーター
八代充史
慶應義塾大学商学部教授

八代

それでは、パネルディスカッションを始めたいと思います。ご案内のように2006年4月から、改正高年齢者雇用安定法によって企業は60歳以降の雇用延長に取り組むということになりました。厚生労働省の土田課長のご報告にありましたように、日本は60歳台前半の労働意欲が非常に高く、労働力率も高い。こういう高齢者の方々の気持ちを尊重し、また、社会保障給付の支給の引き上げに伴って、なるべく現役で働いてもらう社会を実現するために、どのような施策あるいは対応が必要かについて議論していきたいと思います。

土田課長による報告では、支える世代と支えられる世代の関係が明快に示され、なるべく現役世代が減らないようにする施策が必要であることが指摘されました。JILPT藤本研究員の報告は、高齢者雇用を突き詰めていくと、脱高齢者雇用になるのではないかというパラドキシカル(逆説的)な結論の報告でした。仕事と賃金の関係は悩ましい問題ですが、高齢者のモチベーション維持は高齢者雇用では非常に重要な側面です。

ニッケの神部センター長から65歳定年制という先進的な事例の報告をうかがいました。65歳定年というのはすばらしいと思う反面、いったん定年年齢を引き上げてしまうと簡単にはもとに戻せない。就業規則の不利益変更という判例法理上の制約があります。そういうなかで、65歳定年を決断されたことは勇気が必要であったと思います。

前川製作所の加茂田顧問の報告では、含蓄のある「静の世代」と「動の世代」という概念が示され、いずれも組織の中で重要なウエートを占めることが示されました。今後、静の世代と動の世代の組み合わせがどの様になるかについて強い関心を持ちました。髙島屋の中川次長の報告では、ワークシェアという話がありました。私は、継続雇用というのは、定年延長に比べて同じ原資でより多くの人を雇用できるという意味では、一種のワークシェアリングであると思っていたので、中川さんの報告で、その点に関する精緻な説明をお聞きして大変勉強になりました。

さて、以上のパネリストの重要な問題提起を受け、私の方から論点を3つ提示したいと思います。1つめは「60歳定年以降の雇用延長の成果と問題点」についてです。まず企業の方々にお話をうかがい、それから、行政、研究者の方々に意見をうかがいます。ニッケの神部センター長から、お願いします。

論点1:60歳以降の雇用延長の成果と問題点

やってはいけない60歳での賃下げ

神部

弊社の場合は、60歳手前の年齢層が非常に少ないという特殊事情があり、正直やりやすかったのですが、会社風土を大きく変えていくという位置づけのなかで導入し、従業員の心のなかに導入の理念を入りこませることができたのが、もっとも大きな成果だと思っています。

写真:神部 雅之氏

神部雅之氏

もちろん課題も何点かあります。正直、60歳という年齢で賃金を下げるというのは本当にやってはいかんと思っています。モチベーションという点でも、理屈という面からも、なぜ60歳になったら給料が下がるんだということに対する答えはありません。企業としては人件費という問題から逃れられないと説明しても、それは本人のキャリアとは基本的には関係ないことですから。

八代

役職に就いている人は、60歳になっても給料はそのままですか。

神部

そうです。ライン管理職については下げないという決断をしてよかったと思っています。

今後は「静」の機能の充実が

八代

それでは加茂田顧問、会社から見た成果あるいは、解決すべき問題点といったものがあればお聞かせください。

加茂田

前川製作所では「定年ゼロ」と言ってはいますが、昭和30年代からずっと定年制はありました。しかし、定年でやめる人がほとんどいなかったのです。定年ゼロによって、社員が気軽に冒険できるようになりました。自分たちの活動する市場や、製品をどんどん広げていくことができました。もともとは産業用冷凍機の製造が中心だったのですが、食品関係ではロボットの製作まで発展し、仕事の幅が広がり、また深まったというのが大きな成果だと思っています。

問題点をあえて言えば、会社にも社員にも甘えが出てくることではないかと思いますが、それを懸念して社員に対するヒアリングやカウンセリングを実施しています。

八代

加茂田さんの事例報告では、静の世代と動の世代の比率について、7対3だったのが将来6対4ぐらいになるのではないかという予測がありました。雇用延長の上限がないのであれば、今後の静と動の世代の比率もかなり変わってくるのではないかと思います。会社として、それに対する考えなどございますか、それとも、それぞれがきちんと役割を果たせば比率などは関係ないということになるのでしょうか。

加茂田

どちらかというと、後者です。今後は、やはり静の機能を充実させていかなければなりません。営業でも、動の営業があれば、静の営業があり、世代に合った役割がある。

知識・技能の伝承面で成果が

八代

髙島屋の中川次長、いかがですか。

中川

百貨店という業態では、やはりお客様とコミュニケーションをとりながら販売・接客していくことが基本ですので、再雇用後、役割は少し変わったとしても接客・販売での仕事がベースとなります。

写真:中川荘一郎氏

中川荘一郎氏

2001年に制度を入れたとき、当社では昭和40年代後半に出店を多く行ったので、その時の採用組の大量退職が5年後に控えるという状況がありました。また、オイルショックを挟みバブル期に向けて、採用は女性8割、男性2割という比率で進められてきました。そのため、50代の社員の山が抜けると同時に、女性比率が6割強まで高まるなかで、女性も管理職を担わなければならなくなった。そんななか、円滑に世代交代していくには、男性が担っていた仕事でも、女性をメインに据えていかなければいけないということで、再雇用制度は、その際の知識や経験の伝承という観点で非常に成果があったと思っています。

再雇用された社員の役割としては、やはり培ってきた経験を生かし、成果を出してもらうのが第一義ですが、次の世代に知識を伝承したり、販売担当や外商でお客様を持っている社員については、そのお客様を引き継いでいくという重要な役割も担っています。

難しい面としては、そうはいっても、「やはりこの人でないとだめだ」というお客様も多くいらっしゃいますし、伝承が難しい仕事もある。いざ、その社員がいなくなったときに、困ってしまうということも現実にはあります。

八代

髙島屋では、役職者で雇用継続する場合、60歳定年をもって役職は離脱するのですか。

中川

はい。基本的に役職は終了し、再雇用後はマネジメントの仕事に就くことはありません。

能力を生かす環境整備を

八代

それでは、今度は行政、研究者の方々に話をうかがいます。厚労省の土田課長、65歳までの雇用確保について、行政から見た達成状況や評価について所見をお聞かせください。

土田

高齢者の雇用確保措置の達成状況をみると、31人以上の規模の企業では96.6%となっており、かなり高い割合で実施済みとなっています。労使でいろいろ話し合って取り組んできた成果ではないかと思いますが、未だ3.4%の未実施企業が残っているのは行政として当然課題だと思っています。

希望者全員が65歳まで働けるよう、施策を展開している理由ですが、年金の定額部分の支給開始年齢が2013年に65歳に引き上げられ、同時に、報酬比例部分が同時期に61歳に引き上げられます。そうなると、60歳で定年退職し継続雇用の対象にならなかった人は、1年間の空白ができてしまう。2025年には、完全に65歳に厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられますから、無就業かつ無年金という空白期間をどうすべきか考えていかなくてはならないということで、現在、厚労省の研究会で検討をしてもらっているところです。

研究会では、希望者全員の65歳までの雇用確保に向け、65歳定年制を法律上位置づけるのか、あるいは継続雇用制度を続けていくにしても、対象者の基準をどうしていくかなどについて、議論してもらっています。併せて、厚労省では65歳を超えても年齢にかかわりなく働いてもらい、高年齢者の能力を生かしていきたいと考えていますので、そのための環境整備をどう進めていくかについても議論してもらっています。6月中には、何らかの方向性を持った報告がとりまとめられる予定です。

処遇に見合う仕事の準備が問題

八代

最後に藤本研究員。企業としては、定年到達前と同じ仕事をしてもらったほうがよいに決まっているし、しかし、賃金は下げたいというのが本音でもある。同一労働、同一賃金の問題や高齢者のモチベーションといった課題について、JILPT調査の結果も踏まえ、所見をお聞かせください。

藤本

賃金を下げないで働いてもらおうと思ったら、やはりそれなりの仕事はしてもらわないといけないというのが、企業の本音でしょう。そうでないと、処遇を変えない形での雇用延長は定着するのが難しいのではないでしょうか。処遇をどうするかよりも、処遇に見合った仕事をどうやって準備するのかというのが、企業にとって大変な問題だと思っています。

継続雇用の成果を企業に聞くと、皆さん、教育の効果は指摘します。ただ、効果をあげるには、教育する側(高齢者)と、される側(現役社員)のキャリア形成をうまくかみ合わせないといけない。もう1つの問題は、日本企業では上司が部下に指導するというのが普通のスタイルですが、上司でない人が指導すると現役の上司とバッティングしないかということがあります。

個々の従業員の配置や処遇を考えていくときに、個人差にどうやって対応していくのかも問題と言えます。高齢者は、若い世代に比べ健康面でも個人差があり、キャリアの違いも大きい。私が調査した事例では、高齢者の場合、足りない能力を教育訓練で穴埋めしていくことはもはや難しいので、能力がやや劣る人でもきちんと業務が回るように、オペレーションのところで対応していくという話がありました。

八代

能力などに個人差が出てくるというのは、高齢者雇用について昔からよくある話で、定年延長は一律に雇用を確保するという点ではもっとも効果がありますが、個人差との兼ね合いは重要な問題だと言えるでしょう。

論点2:定年延長か継続雇用か?

八代

では、2番目の論点に移ります。

写真:八代充史氏

八代充史氏

企業は、定年延長、継続雇用、定年の廃止という選択を、さまざま勘案したうえで決定していると思います。同業他社の動きを見て、先に定年延長というカードを切る場合もあるでしょうし、同業他社が導入していないから導入しないなどというケースもあるかもしれません。

私も、ゼミの学生とチェーンストアで定年延長している会社を取材したことがあります。わかったことは、役職定年制を設けているから定年延長ができるとか、役職定年制がないから定年延長ができないなどと一概には言えない。おそらく複雑な要因が絡まって、決定されているのでしょう。

さてそこで、現在、自分の会社は継続雇用制度だが他社の話を聞いてみたらやっぱり定年延長のほうがいいなどという感想がありましたら、お聞かせください。

人事考課がモチベーション維持に有効

中川

髙島屋では、2006年の雇用確保措置の義務化の5年前に、すでに再雇用制度を導入しており、比較的うまく運用できていました。だから、短絡的に継続雇用のままいこうと。

定年延長という議論もありましたが、労務コストや要員構成の状況、また、定年延長する場合の会社経営上のリスクも考慮し、継続雇用を選択したという背景もあります。ただ、あと5、6年したら従業員の大きな山が少し抜ける。そうすると、定年延長も1つの選択肢として大きくなってくるかもしれません。

継続雇用制度のメリットは、再雇用基準を設けますから、弊社では人事考課の評定を基準にしますが58歳、59歳のときに手を抜けなくなるんですね。そこで頑張らないと、再雇用がされないということで、モチベーション維持につながる要素があります。

この1、2年の間に今後の議論を

加茂田

前川製作所では、制度にこだわって運営していませんが、義務化される前から、60歳定年の下、60歳以降は毎年1年に1回、社員にどうするかを聞いています。(2006年の前後で)制度はあまり変わっていません。

八代

定年を延長するという議論は、これまで社内でありませんでしたか。

加茂田

ええ。あまり検討されてきませんでした。ただ、個人的には、1、2年後までに今後どうするのかについて議論をしなければいけないと思っています。

年齢を感じさせない風土に

神部

年齢構成は、当社の場合は髙島屋さんとは逆で、当時の人事からすると、今がチャンスだという感じがありました。ほかの企業でも、たしか上場企業では1社か2社しか65歳定年は取り入れていなかったものですから、比較などはしていません。

写真:パネルディスカッション

私は5年ほど前に本社の人事に帰ってくるまで、約10年ずっと子会社に出向したりしていました。そのなかで、どうも30代、20代がえらい内向きで元気がないなと思いました。本社に戻ってきたとき、当時私はまだ40代でしたが、50代の方がアグレッシブで、かつての日本企業の元気さをまだ持っているなと感じました。この元気さを生かさなければならないと考えました。

実は、製造現場の技能伝承のために、もう10年ほど前から継続雇用を実施しており、定年延長を実施する前の時点ですでに再雇用率が7割を超えていました。ですから、年齢をあまり感じさせないような人事・会社の風土にしていったほうがいいだろうと判断しました。また、定年延長のほうが20代、30代の刺激になるのではないかと逆の発想もしました。

総額人件費が読めない定年延長

藤本

調査のなかで、定年後の継続雇用制度を導入している企業で、社員が60歳を超えても現役時代と同じように働いていて、同じ賃金をもらっているところがいくつかありました。この企業に、どうして定年延長しないのですかと聞くと、よく返ってきた答えが、「怖い」というものでした。

病気でいつ倒れられるかわからないし、いつやる気を失うかもわからない。そうした場合に同じ賃金を保証していくのは難しいので、やはり1年ごとに雇用期間を定めていくという説明でした。

定年延長の導入を左右する1つの要素として、神部さんも述べられていたように、総額人件費の見通しが読めるか読めないかというのは結構大きい要素だと思っています。調査した小売業の会社のなかに、1年間、継続雇用を運用したあとに65歳定年に変更したという会社がありますが、会社の担当者は、「この会社は60歳に達した個々の従業員が、どのぐらい仕事ができて、どのぐらいの賃金を払うことになるのかがある程度読める」とおっしゃっていました。

写真:土田浩史氏

土田浩史氏

どれを選択するかは労使自治で

八代

土田課長、行政としては希望者全員の継続雇用か、65歳定年延長がお勧めなのかもしれませんが、いかがですか。

土田

どちらを選択するかは、それぞれ労使で話し合って決めてもらう。行政としては、3つの選択肢がある以上、どれを選択してもらってもよいという立場です。昨年6月1日時点での状況を紹介しますと、定年の引き上げによって雇用確保措置を実施している企業は13.9%、継続雇用制度の導入が83.3%、定年の定めを廃止しているのが2.8%となっています。

論点3:60歳以降の雇用延長と対象者の下の世代への対応

避けられない現役世代への影響

八代

それでは、3番目の論点に進みたいと思います。定年延長でも、継続雇用でも、60歳定年到達以前の現役世代に何らかの影響を及ぼさざるを得ないというふうに考えられます。

1980年代になりますが、私がまだ大学院生だった頃、 当時の雇用審議会の答申で、一貫した人事管理という言葉が出てきたことを先生から教えてもらった記憶があります。すなわち採用から退職に至る人事管理の流れのなかで継続雇用か定年延長かが決まると。

現役世代への影響、例えば新卒採用とかそういうものに対しての影響とか、人事制度への影響などについてお話いただければと思います。

写真:加茂田信則氏

加茂田信則氏

共同体で付加価値を生み出す

加茂田

企業というのは、人の集団であるととらえています。企業が生き続けるには、そこに集まっている人たち、動から静まで、いかに協力して、共同体になって、付加価値を生み出していくかが課題です。動の持ち味、静の持ち味を統合して、一番いい状態の持ち味を出していこうというのがわれわれの考え方です。

人事制度を変更して対応を

神部

ニッケでは、それにより人事制度面では、賃金制度、職能資格制度を大きく変更しました。65歳まで年功序列という考え方は、払拭しなければいけないと考えました。賃金制度では、能力に応じた賃金になるように、モデル賃金もないような、成長を評価するという制度になっています。

WLBの観点で施策を

中川

髙島屋では、高齢者雇用と単独に考えるのではなく、例えば育児・介護などの制約を抱える社員、また、パートなど働き方に制約を抱える社員も含めて、ダイバーシティ、またはワーク・ライフ・バランスといった観点で全体の施策の一体感を醸成しています。

八代

土田課長はこの点についていかがでしょうか。

両論ある若年雇用への影響

土田

当然、総人件費の枠などの問題は出てくるでしょう。そこは、各企業の事情に合わせて、労使でよく話し合って、一番適切なものを選んでいただければいいと思います。

若年雇用に与える影響ですが、研究会でも議論がありまして、影響がある・ないの両方の先行研究があるようです。おそらく、企業が置かれている状況や経済状況、どういう人事管理制度をとっているかなどが影響しているのではないかと思います。ただ、ヨーロッパはかつて若年層の失業率が非常に高く、高年齢者の早期引退を促進するような施策を講じたのですが、結局、若年者の失業率の高止まりの解消にはつながらなかったという経験があるようです。

年功賃金を弱める定年延長

藤本

若年・中堅層への影響ですが、われわれが2007年に実施した高齢者雇用に関するアンケート調査があるのですが、嘱託として継続雇用している企業と、正社員のまま継続雇用している企業それぞれについて、賃金カーブをつくってみると、明らかに正社員として継続雇用している企業での賃金カーブの方が寝ていた。やはり、正社員としての継続雇用を進めようとすれば、年功賃金の度合いはどうしても緩めざるを得なくなると思います。

長期的雇用の見直しにも

八代

日本の年功賃金は、賃金の後払いであるというのが研究者の間では1つの仮説になっていますから、若いうちに企業に預けた分を後年期に返してもらうという仕組みが、職業生涯の終わりが長くなると維持できなくなるのではないかというインプリケーションでした。継続雇用の問題は、日本企業の賃金体系のあり方や、従業員との長期的雇用関係のあり方の見直しの議論につながっていくということを改めて認識しました。

では最後に、パネルディスカッションを通じて議論が深まった点など、簡単にコメントをいただければと思います。

土田

やはり意欲と能力を持って働いていただくということがいかに大事なのかということを、改めて重く受けとめました。

神部

賃金の問題については、要は、働いているだけのお給料をちゃんともらっていれば下げる必要はないんです。人事労務としては、どんな人材であってほしいのか、そのために、どういう労働条件、制度が必要なのかということを一貫して考えるべきだなと、きょうは実感しました。

加茂田

21世紀の社会問題に対応していくには、やはり長年の経験を持ち、勘も働くような静の世代がかかわってこないと解決の道はなかなか見出しにくい。ますます静の世代の「企業化」を進めていきたいと考えています。

中川

今の再雇用制度の設計が、そもそも賃金と年金の支給を合わせた設計になっている現実が、おそらく皆さん方の企業にもあるのではないかと思います。実際に賃金部分を増やしても、もらう側は年金と合わせると額が変わらないという現状もあります。だったら、企業としてそんなに賃金を出す必要はないのではないか、という議論があるのも事実です。その点も含めて、厚生労働省で検討を進めていただいていると思いますが、こうした点も含めて弊社でも見直しを検討していきたいと思っています。

藤本 真 :写真

藤本 真氏

藤本

フォーラムのサブタイトルである「更なる戦力化を目指して」を本当に追求すると、そもそもの賃金決定のあり方や、キャリア形成のあり方などについて、相当変更を加えないといけなくなる。そうなると、日本企業もかなり変わらざるを得ないだろうなと改めて思いました。

八代

では司会から最後に、何点か感想めいたことをお話しして終わりたいと思います。加茂田さんの、静と動それぞれの持ち味を生かすという考え方は、高齢者雇用の理念としてとても大事なことではないかと感銘を受けました。高齢者のモチベーションの問題では、藤本さんが指摘した個別の対応が非常に重要になる。高齢者雇用は、年功賃金など日本の雇用慣行の問題と密接に関係してきます。年功序列賃金ではだめというのは正論ですが、ただ、その議論は10年も20年も前からされていることでもあります。われわれは、まだその答えを見いだしていないように感じました。本日は長時間ご参加いただき、ありがとうございました。

〈プロフィール〉

加茂田信則(かもだ・のぶのり)

財団法人深川高年齢者職業経験活用センター常務理事、株式会社前川製作所顧問

1970年株式会社前川製作所入社。81年同社取締役守谷工場長就任。87年関係法人である財団法人和敬塾専務理事に就任し主に大学生の人材育成を行なってきた。97年より現職に就き高齢者を主とした幅広い人材育成を担当している。

神部雅之(かんべ・まさゆき)

ニッケ(日本毛織株式会社)執行役員研究開発センター長(前経営戦略センター人財戦略室長)

1981年早稲田大学を卒業、同年4月日本毛織株式会社へ入社。国内製造拠点の人事労務、営業、海外事業、不動産開発などを経て、2004年2月にグッドライフ事業本部市川コルトンプラザ事業部長、08年2月にグッドライフ事業本部乗馬ペット用品事業グループ長、06年12月より人事部へ異動し人事部長、08年経営戦略センター人財戦略室長を務める。11年2月より現職。

土田浩史(つちだ・ひろし)

厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部高齢者雇用対策課長

1986年労働省入省。京都府職業安定課長、厚生労働省大臣官房人事課人事企画官、公共職業安定所運営企画室長、内閣法制局参事官を経て、2010年8月から現職。

中川荘一郎(なかがわ・そういちろう)

株式会社髙島屋人事部人事政策担当次長

1991年株式会社髙島屋に入社。大宮店営業第四部(食料品)に配属後、総務部にて経理、人事、総務を担当。2000年3月百貨店事業本部関東事業部企画室にて店舗政策等を担当。03年3月より現職。全社の人事政策(各種人事制度、要員採用計画、ワーク・ワイフ・バランス等)の立案・推進を行う。社外においても「女性の活用」、「パートの活用」、「ワーク・ライフ・バランス」等のセミナー・フォーラムでの講演や寄稿を行う。

八代充史(やしろ・あつし)

慶應義塾大学商学部教授

1987年3月慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。同年5月雇用促進事業団雇用職業総合研究所(現、労働政策研究・研修機構)研究員。96年4月慶應義塾大学商学部助教授。2003年4月から現職。博士(商学)。主要著書に『大企業ホワイトカラーのキャリアー異動と昇進の実証分析』(日本労働研究機構、1995年)、『管理職層の人的資源管理―労働市場論的アプローチ』(有斐閣、2002年)、『人的資源管理論―理論と制度』(中央経済社、2009年)がある。

藤本真(ふじもと・まこと)

労働政策研究・研修機構副主任研究員

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程を経て、2004年より労働政策研究・研修機構に勤務。専門は産業社会学、人的資源管理論。近年の主な調査研究成果には『高齢者継続雇用に向けた人事労務管理の現状と課題』、(労働政策研究報告書No.83、2007年)、『継続雇用等をめぐる高齢者就業の現状と課題』(労働政策研究報告書No.120、2010年)、『ものづくり現場における技能者育成方法の変化』(PDF:382KB)(共著、『日本労働研究雑誌』595号(2010年特別号)所収)などがある。

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