パネルディスカッション:第49回労働政策フォーラム
変化する若者へ向きあうキャリア・ガイダンス
(2010年10月21日)

パネリスト
二村英幸
文教大学人間科学部心理学科教授
新田 仲
東京労働局渋谷公共職業安定所事業所第一部門就職促進指導官上席
剱持 勝
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
高崎大介
大阪市若者自立支援事業コネクションズおおさか所長
室山晴美
JILPT主任研究員
コーディネーター
西村公子
JILPT統括研究員
パネルディスカッション/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

西村

本日のテーマは「変化する若者へ向き合うキャリア・ガイダンス」ですが、その対象となる「若者」は高校生、大学生、それからフリーター、ニートと広い範囲に及びます。

パネルディスカッション:西村公子 JILPT統括研究員/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

また本日、会場にお集まりの皆様も学校関係者、若者を支援する機関の方、企業、行政機関の方とさまざまです。ただ、共通しているのは、現場に視点を置いて、各々の立場から、若者にどう向かい合っていけばいいのかという問題意識ではないかと思います。

そこで、パネルディスカッションでは論点を2つに絞りたいと思います。

第1の論点として、対象とする若者をいくつかの段階に分けて、それぞれの若者の特徴と、それを踏まえ、段階に応じて、就職に向けどのようなキャリア支援が必要なのか、パネリストの皆様から具体例や提案をいただきたいと思います。

第2の論点は若者を支援する組織同士の連携についてです。若者に対するキャリア・ガイダンスは、若者が現在いるポジションから次のポジションへ円滑に移行できるように支援することだと言えます。そのためには様々な組織間の連携が必要であることは言うまでもありません。では具体的に、他の組織にどのように働きかけ、どのように連携していくのかについて、議論を深めたいと思います。

論点1 若者の各段階に応じたキャリア支援

まず、第1の論点に進みたいと思います。高校生に対する支援については、先ほど新田さんから事例報告がありましたが、その中で、高校生は就職活動の準備や就職に対する心構えが不足しているのではないかという指摘がありました。それは、具体的にどういうところから感じているのか、それに対してハローワークはどんな支援を行っているのかからお話をお願いします。

世の中の職業を知らない高校生

新田

私が今年4月から支援を行ってきた高校生のほとんどは3年生です。高校生の就職先として人気がある職種は販売や事務など身近に想像できる職業ばかりです。ハローワークを訪れた高校生に「キャリア・インサイト」という職業適性検査を受けていただくのですが、「どちらの職業をやりたいですか」という二者択一の設問で、大半の生徒が職業の名前から仕事の内容を想像できず、回答の都度、職業の内容を表示するボタンを押しています。就職を間近に控えた3年生が世の中にどういった職業があるのか知らないという状況はやはり就職に対する心構えの不足につながっているのではないかと感じています。

パネルディスカッション:新田仲 東京労働局渋谷公共職業安定所事業所第一部門就職促進指導官上席 /労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

このような準備不足を改善するためには、本来であれば、学校で、1年生、2年生の段階から世の中にどのような職業があるのかを学べる場を設けてほしいという思いはあります。

毎年、6月くらいから高校3年生がハローワークに姿を見せ始めます。彼らに「高校生活でどんなことを頑張ってきましたか」と尋ねても答えられない生徒が非常に多いです。

面接のトレーニングなどはハローワークでも短期間でお手伝いできるのですが、3年生の6月になって、企業にPRできるものがない場合、そこから何かPRできるものを身につけるには、少々遅いのです。

保護者や先生方には、得意な科目をこんな風に頑張ったとか、文化祭などの実行委員をしたなど何かを達成したことが得られるようお子さんたちを支援して欲しいと思っています。

社会的なことを想像以上に知らない高校生

高崎

高校生と接していて、感じることは「彼らは社会的なことを私たちが想像する以上に知らない」ということです。社会を知らないまま社会に出てしまう若者も非常に多く見受けられます。

パネルディスカッション:大阪市若者自立支援事業コネクションズおおさか所長/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

そんな中、私たちの取り組みの1つとして、新生フィナンシャル株式会社とコネクションズおおさかの運営受託法人であるNPO法人「育て上げ」ネット新しいウィンドウが共同で開発した「マネーコネクション新しいウィンドウ」というプログラムを開催しています。ニート予防の観点で開発されたプログラムで、生きていくためにはお金がかかること、お金を稼ぐための働き方も様々であること、正社員、派遣、フリーターごとに働き方の特徴を伝えて、将来を考える機会を提供しています。

実際、支援現場で若者に「1カ月どれくらいで生活できるか」とたずねると、7、8万円といった答えが返ってくる。「その額だと家賃分を超えるんじゃないの」と言うと「橋の下で寝るから大丈夫です」と答える人もいる。「確かに暖かい季節なら暮らせるかもしれないけど、冬は大変じゃないの」と聞くと「そう言われてみると確かにそうですね」と納得する。こうしたケースから、自分と現実をつなげて考える経験が不足しているのではないかと感じることがあります

西村

新田さん、高崎さんのお話を伺っていますと、先ほど室山さんから報告のあった企業の中で働くことに対するレディネスが低下しているという点と関係があるのではないかと感じます。

必要な職業の世界を知る機会

室山

職業に対する興味や自信を高めるためには、職業について、色々な情報を取り込んでいく必要があると思っています。

現在多くの中学校や高校では、職場体験の実習によって職業に関する理解を深める機会を与えています。1つの職業の特性を理解させることももちろん必要ですが、全体的に職業の世界を知るような機会を与えることも重要ではないでしょうか。さまざまな仕事に対する興味を比較して、その中から選べるような機会を与えることが非常に重要だと思います。

西村

大学生についてはどうでしょうか。

剱持

大学生に対するキャリア・コンサルティングにおいて質問のベースになっているのは、私のカウンセラーとしての意識だと思います。答えは学生の中にある。思いも学生の中にある。それをカウンセラーとしてどう引き出すかということが前提になっています。その前段階として、カウンセリングの場で学生との間でいかにラ・ポール(相手を受け止め、相手とのあいだに信頼感を創り出すこと)を形成するかが重要です。

話をする上で、一番の聞き手は実は話している本人です。それをうまく助けるのもカウンセラーとして大切な役割だと思います。ですから、学生がどこまで自分の課題を詰めているのかによって、質問の仕方は変わってきます。

語るなかで気づきを深める

自信を喪失している人の場合はまず、彼の長所や周囲の人が彼をどのように認めているのかという点を聞き出します。やはり、自分のいいところにどう気づいてもらうかという点に尽きると思います。長所を自覚している学生には「じゃあ、君の課題はどこにあるの」と質問する展開になります。私の役割は、学生が語る中で、それを自分で聞いて気づきを深めてもらうのを支援することだと意識しています。

まず、語るための場をどうつくるかということが第一歩です。

二村

私自身、あの実習がどう就職へ繋がっているかはわかりません。「わからない」と申し上げるのは、自分では「繋がっているはずだ」と信じることはできても、実際につながっていることを立証できないからです。

先ほどの剱持先生のお話にあった「いかに学生に気づいてもらうか」という感覚は、おそらくカウンセラーとしての立場からのものだと思いますが、教員の立場からすると、「気づくはずだ」と信じて経験の場を提供するということだと思います。そして、気づきだと思われるかすかな反応が現れるのを楽しみに待っているというのが正直なところです。実習の最後では学生に1分間のスピーチをさせるのですが、なかには大変感動的なスピーチをする学生もいて、私たちはそれに勇気づけられたりもしています。

「気づき」のための仕掛け

仕掛けという意味では、先ほどご説明した「自己管理の経験」「自律的な目標設定と課題解決の経験」「友人などとの人間関係を拡げる経験」「クラス・グループ活動に参画する経験」「社会や家族との関係を深める経験」はすべて実習の中に何らかのかたちで組み込むようにしています。たとえば、「友人などとの人間関係を拡げる経験」では、実習などで嫌いな人と同じグループになって、その中でうまくつきあう方法を学ばせるといった具合です。

西村

ニート、フリーターなど学校を離れた若者についてはどうでしょうか。

高崎

彼らがニート、フリーターとなった要因に関しては私もよくわかりません。もちろん、就職氷河期の影響などで新卒一括採用の波に乗れなかったり、ブランクがあったためにどの企業からも面接に呼んでもらえないといったことは要因の1つとしてあると思います。

彼らを支援する際のコツとしては、「若者に変化を起こす」ために、どう関わるかだと思います。

若者は自分のやりたい事や得意なこと、苦手なことを言葉にうまく表せません。志望動機をなかなか書いてくれないのもその1つで、こちらが例をみせると、それを丸写ししようとする人もいます。なぜみなこれほどまでに書けないのかと思うこともあります。こうしたことは私たちの支援機関だけではなく、他の所でも起こりつつあることで、何か大きな問題の予兆のような気もしています。

多い志望動機を書けない若者

新田

高校生にも同じようなことがありますね。先ほどお話したとおり、高校生はたぶん大学生以上に自分の長所をわかっていないので、それを書く以前の段階で、もっと自分を見つめてみることを教えなければなりません。

各支援機関に様々な役割がある中で、ハローワークの立場としては、保護者や学校の先生に志望動機の書き方や書くために自分を見つめて考えることの教育をして欲しいと思います。

ハローワークに来てくれた生徒には、いろいろなアドバイスをさせていただいておりますが、書く力や考える力は日頃から養っておくことが必要だと思います。

西村

フォーラムに先立ち、参加者から事前に頂いた問題意識として「若者に対して、大人である私たち(支援者)がどうコミュニケーションしていったらいいのか」ということが多くありました。

この点についてはパネリストの皆様のお考えはいかがでしょうか。

カードの活用でコミュニケーション促す

室山

VRTカードを開発する段階で、これが現場でどの程度活用できるのか、若者を前に試してみました。私のようにカウンセリングのトレーニングを受けていない者は、若者を目の前にしても何を話していいのかわからない。ただ、カードを使ったテストの結果について、やりとりすることによってすごく話が弾みました。

発達障害の方や軽度の知的障害の方との面接でも自分の興味が目の前に展開されたのを見ながら、これまでどんな仕事をしてきて、これからはこういった方向に進みたいんだということを具体的に話してくれました。ですから、どうやって若者とのコミュニケーションを取ればいいのかわからない場合は、カードなどのガイダンス・ツールを使ってみるのも1つの手ではないでしょうか。

声かけが出発点に

剱持

先ほども申し上げたとおり、コミュニケーションで大切なのは聞くことです。それから、自分の言葉で意見を言うこと。さらには、やはりどう「場」をつくるかということだと思います。その「場」をつくるにはやはり挨拶などの声かけが出発点になります。若者が声をかけてくれるのを待つのではなく、こちらから声をかけることが必要です。声をかける相手は知っている人だけでなく、たとえば、キャンパスでたまたま私の目の前に来た人にも必ず声をかけるようにしています。それが何かのきっかけになると思います。コミュニケーションは、「私はここにいます」「あなたはそこにいますね」ということを互いに確認しあうことがスタートだと思っており、それを実践することを心がけております。ぜひ皆さんにも先輩の立場として自分から声をかけてもらいたいですね。

いい意味で裏切る

高崎

意識していることは、「いい意味で裏切る」ことです。もし、自分が若者の立場で、大人と接するとしたら、どんな人とだったら話してみたいか。それはいい意味で「裏切られた」と感じさせる人でした。私自身、2001年に最初の就職先に入社して、1年半くらいで辞めていますが、その頃はまだ「会社は辞めてはいけないもの」とされている時期でした。それが今では「転職力」などとも言われる時代になっている。世間の考え方、価値観が変わってきているように感じます。ですから、今まで固定化された価値観がある中で、その価値観を持ってない大人に出会えると何かほっとするというか、「この人だったら話そうかな」と思うものです。

西村

違う価値観をぶつけても大丈夫なんですか。

高崎

私自身、若者から実際よく言われるのは「高崎さん、それで大丈夫なんですか」と。「固い事業をしているのに、それでいいんですか?」みたいなことも言われます。

論点2 若者の移行を支援するための異なる組織間の連携

西村

次の論点に移りたいと思います。若者の支援が次のポジションへ移行するための支援だとしたら、現在いるポジションの支援機関と次のポジションの支援機関との間で連携が必要です。また、連携とまではいかないまでも、ある機関から別の機関への働きかけが必要になってきます。この連携や働きかけをどうやって行うかお話を伺いたいと思います。

先ほどの新田さんのお話では、ハローワークは、企業に対しては就職のためのコンサルティングをしているそうですが、具体的にはどのようなことを行っているのですか。

若者を育てることの必要性を啓発

新田

企業の方々が「即戦力が欲しい」「新人を育てるコストや時間はない」という現状にあることも理解できます。しかし、ハローワークとしては、やはり若い方を採用して育てていくことは、その会社や業界の技術や風土を継承していく上で必要だと思います。そのことを地道に企業に啓発しています。

また、毎年高校生を採用している企業の方に高校生を採用するメリットをお伺いすると、「大学生や専門学校で専門的なことを学んできた学生よりも真っさらな上、若いので吸収力が違う」という答えが返ってきます。ですから、高校生もきちんと育てていけば戦力になるという情報をたくさんの企業に提供していこうと思います。

高校生の就職支援は、高校の先生と企業の担当者がどれだけ密な関係でいられるかが重要です。今年初めて渋谷ハローワークで開催した合同学校説明会では実際に就職に結びついた例もあったので、これからも両者が密接な関係を築いていけるよう、ハローワークが両者をつなぐ役割を担っていきたいと思っています。

西村

大学については、大学設置基準が改正され、来年度から大学内の教育課程と職業指導の組織間の連携を図ることが謳われています。剱持さんは、大学の就職支援センターのキャリアコンサルタントであると同時に、非常勤講師として大学で授業も行っておられますが、大学内での連携、大学外との組織間との連携について伺いたいと思います。

キャリアセンターで多様な会合

剱持

ではA大学の事例をお話します。A大学にもキャリアセンターがありますが、センター主催で毎月各学部の就職担当の先生たちと情報交換しています。たとえば、各学部で学生の意識を高めるために行っているプログラムや4年生でまだ就職の決まってない人の個別支援をどのように進めていくかをテーマに定期的な会合を設けています。

パネルディスカッション:剱持 勝 産業カウンセラー・キャリアコンサルタント /労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

さらに11月に入ると、来年度に向けて、大学3年生、大学院修士課程の1年生を主な対象に「キャリア・フェスティバル」を開催します。そこでは日本を代表するような大手企業約10社に参加いただいて、企業が今どういう状況にあるのか、どういう学生を求めているのかを個別にお話しいただき、それに対して学生が質問できる場を設けています。12月に入ると、全国130社にご参加いただき、4日間にわたって合同企業説明会を開催します。こうしたことにより、学生に情報を提供しています。

それらをバックアップするため、各学部共通で何年生でも受講できるキャリアデザインの授業を行っています。加えて、自己理解セミナーや面接対策のためのセミナーも用意しています。

西村

学校外の組織と学校とのネットワークを維持、発展させるという観点ではいかがですか。

大きい行政の力

高崎

維持、発展というと大変おこがましいのですが、それなりにネットワークが機能しているとすれば、行政の力が非常に大きいと思います。学校関係の方も就業体験の場を開拓するのに大変苦労されているという話を聞きますが、私たちが持っている60カ所以上の体験場所も大半は大阪市のネットワークから紹介していただいたものです。

パネルディスカッション:室山晴美 JILPT主任研究員/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

また、仕事体験先で何かトラブルがあった場合、たとえば約束の時間に若者が訪れなかった等の理由で、受け入れ企業を怒らせてしまうことがあります。当然、私たちはすぐ謝りに行くのですが、大阪市の方も一緒に来て下さったのは1度や2度ではありません。こういった現場でのつながりが大事なのではないかと考えています。

室山

研究者である私たちがつくっているガイダンスツールは現場で使ってもらわないと何の意味もありません。ですから、実際に使ってもらうためには、ハローワークの職業相談や学校でのキャリア教育の中でツールを試していただきながら、データを取得したり、利用者の意見を聞いて改良する必要があります。

西村

各パネリストから二村先生がおっしゃった「『こぞって若者を育て、支援する』努力の積み重ねが必要」につながるお話をいただきましたが。

「こぞって」支援する

二村

私が「こぞって」という表現を使ったのは、家庭を含め、小学校、中学校、高校、大学、そして企業とそれぞれが「こぞって支援する」という意味です。その間の連携は先ほどそれぞれの立場からお話いただきましたが、まさにそれぞれが繋がれる範囲でつながるということではないでしょうか。

パネルディスカッション:二村英幸 文教大学人間科学部心理学科教授/労働政策フォーラム開催報告(2010年10月21日)

「こぞって」には、「あらゆる場面を使って」という意味も込められています。つまり、ハローワーク、小学校、中学校、高校、大学とあらゆる場面を使って、社会として若者を育て上げていく意識を持つことが必要です。

新田

ある高校の先生から聞いた話ですが、生徒にとって、これまで自分たちとはあまり関係のないと思っていたハローワークの職員や企業の方々といった別の大人が関わってくれることは心強いということでした。自分に関わってくれる大人は保護者や先生だけだと思っている生徒たちに、いろいろな場面で関わることは重要だと感じました。

今、個人情報の保護に関してさまざまな規制がある中、ハローワーク渋谷では、ジョブサポーターを中心に先生方と信頼関係を築いて、その中で生徒の連絡先を教えていただくなどして、できるだけ生徒個人と直接関わっていけるよう働きかけているところです。今後も私たち大人同士で信頼関係に基づくネットワークを築いて維持していくことを続けていきたいと思っています。

一緒に試行錯誤できる関係も

高崎

二村先生がおっしゃっていた「こぞって努力を積み重ねる」はいい言葉だと思いました。それに私なりに感じたことをつけ加えるなら、やはり「信頼できる関係」も「こぞって」の意味に入ってくると感じています。

これは私が所属する「育て上げ」ネットの同僚が実践していることですが、連携している機関を回るとき、必ず「3回までチャンスをください」とあらかじめお願いするのだそうです。要は「2回は失敗しますが、それでも3回目に挑戦させてください」ということです。失敗しても一緒に試行錯誤できる関係も必要ではないでしょうか。

剱持

私も「こぞって」という言葉には共感しています。例えば宇都宮大学のキャリアセンターでは、学内や地域、企業との連携もできる体制になってきている。体制ができているとなると、ここで一番大事なのは携わる人の意識ではないかと思います。そういう意味では、私自身、キャリアアドバイザーとして、キャリアセンターのスタッフに対する働きかけがもっと必要だと感じています。意識を向上させ、かたちになってきたものを活かして、学生を支援していくことも「こぞって」に含まれるのではないでしょうか。

西村

今日は色々な立場の方々からお話を伺いました。最後にパネリストの皆様から会場に向けて一言ずつメッセージをいただけないでしょうか。

室山

私は研究者の立場から発表させていただきました。他のパネリストの方々のお話を伺って、ひとくちに若者といっても、対象者によって必要な支援は異なるということがわかりました。また、その異なる支援に適応できるようなツールの開発のあり方、今後の研究のあり方について、多くのヒントを得ることができました。今後もさまざまな組織の方と連携を取りつつ研究を進めていきたいと思います。

剱持

私は、家庭で始まり、地域や学校でも支えるという広義のキャリア教育の大切さを痛感しました。そういう意味でも若者を支える活動を実践していきたいと思います。

新田

私は4月から今のポジションで働いていますが、高校生の就職をハローワークが心から支援していることを身をもって感じています。しかし、世の中の学生はおそらく、ハローワークが学生の就職に関わっていることをあまり知らないのではないでしょうか。会場の皆様も皆様のお子様だけでなく、身近にいらっしゃるお子さんで、将来のお仕事について悩んでおられる方がいれば、ぜひお近くのハローワークまでお連れください。

高崎

「働く」と一言でいっても、働き方は色々だと思います。会社人と社会人はイコールにはなりません。たとえば、「自立」といった場合、経済的自立だけが自立ではありません。他にも色々な自立のかたちがあると思います。私たちが行う支援は、社会人になるための支援という色合いが強いのですが、今後は経済的自立の意味も含めて根本的な部分を考える時期に来ていると感じています。

教師は学びを促す存在に

二村

パネルディスカッションが始まる前に高崎さんが「今日のパネリストの方々は、立場は全然違うけれど、共通しているところがありますよね」とおっしゃられていました。私はその言葉にピンとこなかったのですが、パネルディスカッションが進むにつれ、その意味が理解できました。

今の社会はリアルとバーチャルの境目が曖昧です。バーチャルな世界で生きているようでリアルになっている、あるいはリアルの世界で生きているようでバーチャルになっている。こうした事実をしっかり受けとめて、どういう社会を築いていくべきか、また、どういう子どもを育てればいいか、それぞれの立場で問われている意味で「共通」しているのではないかと実感しています。

その方法として、教師は、上から教えるのではなく、メンバー同士のコミュニケーションを活発化し、学びを深めることを促す存在としての位置にいることが必要ではないかと感じました。時には形式を壊したり、失敗を許したりすることも含めて、若者を下から支えていく存在としての我々の役割を改めて実感しました。

西村

ありがとうございました。最後に私からも一言申し上げて締めくくりたいと思います。

社会の変化を促す次の段階のキャリア・ガイダンスへ

キャリア・ガイダンスに対する考え方は、社会が求めている人材像に適材適所で当てはめていくという考え方から出発して、個人の変化に合わせて、自己実現を支援していくという段階を経て、現在は社会の変化をきちんと認識して、個人の変化を促していくという段階に来ていると思います。

では、その社会の変化が何かといった場合、顕著にみられるのは、二村先生がおっしゃったようにリアルとバーチャルの境目が曖昧になってきているという点です。その世界を踏まえて若者をどう支援していくのか。その1つとして、支援者側が若者に対して上から目線で向き合わないことが重要であるということが、皆さんのお話に共通していたと思います。また、ピアカウンセリング(何らかの共通点を持つ者が集まるグループ内で対等な立場で行われるカウンセリングのこと)のように対等の立場で支援していく方法もあるのではないかと思いました。

さらにパネリストのお話を聞いて思ったことは、支援する一人ひとりが支援に関する色々な情報を共有しながら、やれる部分を相互乗り入れのかたちで行っていくこと、本日話し合われた「こぞって支援する」ことが、今後のキャリア・ガイダンスのあり方ではないかと感じました。

こうした活動を続けていけば、社会の変化を促すようなキャリア・ガイダンスという、次の段階につながっていくことになると考えます。

私は、キャリア・ガイダンスの研究者という立場にありますが、キャリア・ガイダンス実践者や若者の情報と社会の変化に関する情報を整理、分析して、発信していく責任の重さを強く感じました。

今日、さまざまな立場の方にお集まりいただいて、色々な情報を共有できました。これは、次の段階のキャリア・ガイダンスに向けた一歩となるのではないでしょうか。

プロフィール(五十音順)

剱持 勝(けんもち・まさる) 産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

1968年3月慶應義塾大学経済学部卒業。同年4月メーカー(一部上場・その他製造業)入社。「人事・営業・商品企画・経営企画」と幅広く担当者・管理者及び関連企業経営者として携わる。2005年3月定年退職。同年4月より企業における「キャリア研修」講師、日本産業カウンセラー協会東京支部スタッフ、7月よりIT企業「なんでも相談室」カウンセラー。2007年5月よりA大学非常勤講師として「キャリアデザイン授業・自己理解セミナー・進路相談」を担当。

高崎大介(たかさき・だいすけ) 大阪市若者自立支援事業コネクションズおおさか所長

1978年大阪市生まれ。京都工芸繊維大学を卒業し、富士通関西中部ネットテック株式会社へ入社。システムエンジニアとして勤務。2002年に退職後、広告代理店を3社転々としながら就職支援セミナーの企画運営や、採用コンサルティングに従事。2007年株式会社B.E.E.T.プランニングへ入社。若年者対象の人材紹介事業に従事。翌年、同社取締役に就任。2008年よりNPO法人「育て上げ」ネットへ入職。

新田 仲(にった・なか)東京労働局渋谷公共職業安定所事業所第一部門就職促進指導官上席

1994年青山学院大学法学部卒、同年労働省(現、厚生労働省)入省。富山婦人少年室(現、富山労働局雇用均等室)、厚労省大臣官房国会連絡室、雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課勤務を経て2005年より東京労働局、2010年4月より現職。

二村英幸(にむら・ひでゆき) 文教大学人間科学部心理学科教授

1969年名古屋大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルート入社。89年(株)人事測定研究所の分社・設立にともない転籍、取締役就任。2002年取締役退任、理事研究主幹就任。その後、2004年リクルートの教育事業と統合された(株)リクルートマネジメントソリューションズにて理事、組織行動研究所長。06年同社退職後、近畿大学経営学部教授を経て、09年より現職。著書に『人事アセスメント論』(ミネルヴァ書房)、『個と組織を生かすキャリア発達の心理学』(金子書房)などがある。


西村公子(にしむら・きみこ)JILPT統括研究員

1978年広島大学教育学部心理学科卒業後、労働省(当時)入省。以後女性、高年齢者、障害者などの労働対策や労働経済分析、国民生活政策(経済企画庁(当時))などに携わる。2008年6月から現職。

室山晴美(むろやま・はるみ)JILPT主任研究員

学習院大学人文科学研究科博士後期課程を経て、1991年、日本労働研究機構(現JILPT)に勤務、現在に至る。博士(学術)。専門分野は心理学(職業適性、キャリアガイダンス)。主な成果としては、職業適性診断システム「キャリア・インサイト」、「VPI 職業興味検査(第3版)」「職業レディネス・テスト(第3版)」等のガイダンス・ツールの開発のほか、『中学生、高校生の職業レディネスの発達―職業レディネス・テスト標準化調査の分析を通して』(労働政策研究報告書No.87、2007)、『若年求職者の適性評価―キャリア・インサイトの利用記録を用いて』(JILPT資料シリーズNo.73、2010)等がある。