「開発・設計職基幹労働者」の現行の賃金水準を1万3,000円以上引き上げることを統一要求基準に/電機連合の中央委員会

2024年1月31日 調査部

電機連合(神保政史委員長、約56万5,000人)は1月25日、都内で中央委員会を開き、今春闘に向けた2024年総合労働条件改善闘争方針を決定した。「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の賃金水準について、現行水準から1万3,000円以上引き上げることを、産別統一闘争の統一要求基準に掲げた。産別統一闘争を展開するパナソニックや日立製作所の組合などで構成する中闘組合の賃金体系維持分の平均は7,000円程度であることから、賃金体系維持分も含めた賃上げ要求の総額は2万円以上となる。

中闘組合は12組織で昨年と同じ顔ぶれ

電機連合では、大手で構成する中闘組合が、闘争行動を背景に、要求、交渉日程から妥結まで足並みを揃えて経営側と交渉・協議する「産別統一闘争」という交渉スタイルをとっている。今次闘争での中闘組合は、パナソニックグループ労連、日立グループ連合、全富士通労連、東芝グループ連合、三菱電機労連、NECグループ連合、シャープグループ労連、村田製作所グループ労連、富士電機グループ連合、OKIグループ連合、安川グループユニオン、明電舎の12組織で、昨年と同じ顔ぶれ。

「産別統一闘争」の対象とする労働条件項目を「統一要求基準」と位置づけており、今年も、「開発・設計職基幹労働者」(年齢要素としては30歳相当)の個別ポイントでの賃金水準改善と、産業別最低賃金(18歳見合い)の改善、一時金を同基準として取り組むことにした。

物価上昇で家計への影響を懸念

電機連合では、賃金を決定する要素として、「生産性」「労働市場」「生計費」という3つの要素を掲げている。今回決定した2024闘争方針は、「生産性」について、2023年度の実質GDPが2023年7月の見通しから上方修正されたことなどをあげて、「国内景気は当面緩やかに回復。電機関連企業の景況感、生産、輸出入については全般として悪化傾向にあるものの、在庫が減少に転じ今後の回復に期待」と評価した。

「労働市場」については、「直近の完全失業率、有効求人倍率は横ばい傾向にあるものの、人材の不足感は依然として継続」と指摘するとともに、OECD加盟国の平均賃金(実質)で日本は2015年からほぼ横ばいであり、かつ、額がOECD平均を下回っている状況にも言及。「生計費」については、10月の企業物価指数、全国消費者物価指数の総合指数が前年同月比でそれぞれ2.0%、3.0%のプラスとなっていることなどをあげて、「家計への影響が懸念される」との見方を示した。

営業利益が前年を上回るなか、現行賃金は生活維持に不十分

中闘組合の会社の2023年度通期の業績見通しをみると、12社合計の中間決算時点の売上高は39兆6,900億円と、前年度実績を3.4%下回るものの、12社合計の営業利益は2兆6,020億円で、前年度実績を8.8%上回っている。

ただ、電機連合組合員を対象に行っている「2023年生活実態調査」をみると、前年と比べ月例賃金(時間外手当を除く)が「増えた」とする割合は60.6%で、2022年調査から6ポイント増加したものの、賃上げ額の生活水準に対する評価は、「生活水準維持にはやや不十分」が23.0%、「生活水準維持にはかなり不十分」が11.3%。両者を合わせた不十分と考えている人の割合が34.3%と3割を超える結果となり、2022年調査を6ポイント上回った。

電機連合が重視する賃金決定の3要素や、加盟組合の企業業績、組合員の生活状況をふまえ、2024闘争方針は、「2023年闘争では大幅な賃金水準引き上げを実現することができたが、物価上昇が続く影響から実質賃金を改善するまでには至っていない」と指摘。「2023年闘争の大幅な賃金水準引き上げを一過性のものとしない継続した賃金水準が必要」と結論付けた。なお、2023年闘争では、「開発・設計職基幹労働者」の賃金水準を7,000円以上改善することを統一要求基準に掲げ、12中闘組合すべてで満額を獲得した。

労務費の適正な価格転嫁の必要性も強調

また、2024闘争方針は、中堅・中小も含めた電機連合全体で継続的に賃金水準引き上げを行うため、「エネルギー価格や原材料費、労務費の適正な価格転嫁を進めるなど、賃金水準引き上げを実施するための環境整備に取り組む必要がある」とも言及。人手不足が深刻化し、人材獲得競争が激化していることから、これまで継続して取り組んできた賃金水準の引き上げを基軸とした「人への投資」をより一層強化し、モチベーションの維持・向上などを図ることが必要だと強調した。

そのうえで、「今次闘争における賃金水準引き上げは、経済への好循環に結び付ける、まさに正念場の取り組みと言える」と訴え、「電機連合は今次闘争の意義を、『積極的な「人への投資」により実質賃金の向上を図るとともに、経済の好循環への転換を着実なものとする』と位置づけ、賃金水準引き上げに対する組合員の大きな期待に応えるとともに、日本を牽引するリーディング産業としての役割を果たすべく、働くすべての労働者への社会的な波及と経済への好循環に向けて、昨年を上回る積極的な賃金水準の引き上げに取り組む」と明記した。

1万3,000円は「おおよそ4%」に相当

具体的な要求基準をみると、賃金では、「開発・設計職基幹労働者」(年齢要素としては30歳相当)の個別ポイントの賃金について、賃金体系の維持(現行個別賃金水準の確保)を図ったうえで、賃金水準の改善を行うとし、水準改善額(引き上げ額)を1万3,000円以上と設定した。電機連合によると、中闘組合の賃金体系維持分の平均は7,000円程度であることから、賃金体系維持分も含めると2万円以上の要求となる。また、率に換算すると、1万3,000円は「おおよそ4%」、7,000円は「おおよそ2%」に相当すると説明する。

水準改善額1万3,000円という水準は、水準改善のみの個別要求方式を取り入れた年であり、比較可能な1998年以降でみると、最も高い要求水準となっている。

同日に行われた記者会見で神保委員長は、今回の要求水準について「3つの要素と現下の状況を総合的に考えるとともに、1万3,000円以上プラス7,000円で2万円以上という水準が、組合員のみなさんに対してわれわれの思いが伝わりやすい」と説明するとともに、「結果的に物価上昇を上回り、生活が厳しくなっていることもわれわれが要求案を検討するときの要素の1つに入っているので、そういったものを考えたときに、1万3,000円以上プラス7,000円の2万円以上が組合員のみなさんの期待に応えられるのではないか」と述べた。また、「昨年を上回るということがキーワードだ」とし、「確実に妥結につなげて組合員の期待に応えたい」と話した。

産業別最低賃金では18万4,500円以上への改善をめざす

統一要求基準である産業別最低賃金(18歳見合い)については、18万4,500円以上に改善することを掲げた。これは、現行水準に対して、1万1,000円の引き上げを念頭に置いたもの。なお、電機連合では、昨年、電経連との労使共有事項として、2023年闘争以降、おおむね3年かけて産業別最低賃金(18歳見合い)の水準を高校初任給の水準に準拠させていくことを確認しており、今次闘争は2年目の取り組みの位置づけとなる。

産別統一闘争の対象とはならないが、統一的な達成をめざす統一目標基準の項目では、「製品組立職基幹労働者」(35歳相当)の賃金水準改善と年齢別最低賃金、高卒および大卒初任給などを掲げた。「製品組立職基幹労働者」(35歳相当)の賃金水準改善については、賃金体系の維持(現行個別賃金水準の確保)を図ったうえで、「各社の賃金体系をふまえ、『開発・設計職基幹労働者』の水準に見合った額」とするとした。

年齢別最低賃金については、25歳最低賃金と40歳最低賃金の2つの年齢ポイントで要求基準を設定し、25歳最低賃金については19万8,000円以上の水準に改善すると掲げ、40歳最低賃金については24万5,000円以上の水準に改善するとした。いずれの年齢ポイントも、現行水準に対して1万1,000円以上の引き上げを念頭に置いている。

高卒初任給については、現行水準に対して9,000円引き上げることを念頭に、18万5,000円以上の水準に改善すると掲げ、大卒初任給についても現行水準に対して9,000円引き上げることを念頭にして、24万1,000円以上の水準に改善するとした。

一時金は「平均で年間5カ月分を中心とする」とし、生計費の固定的支出分に該当する部分として最低でも確保すべき月数と考える「産別ミニマム基準」として年間4カ月分を確保するとした。

労働協約は適正な労働時間や誰もが活躍できる環境の実現などが柱

電機連合では、2年ごとに賃上げ交渉と並行して労働協約改定交渉・協議を行っており、今年は改定の年にあたる。取り組みの柱は、「適正な総実労働時間の実現」や「誰もが活躍できる職場環境の実現」など。

このうち、「誰もが活躍できる職場環境の実現」では、リスキリングを含むキャリア形成支援の取り組みを強化。具体的には、 ① 自律的なキャリア形成につながる意識改革 ② リスキリングを含む能力開発環境の整備 ③ 習得した能力を発揮できる機会の提供 ④ 学びに必要な時間や費用の確保――に取り組み、 ① ~③ は統一目標基準に位置付けた。

自律的なキャリア形成につながる意識改革では、1on1ミーティングの実施などによって育成方針や必要なスキルなどを共有するとともに、労働者のキャリアプランなどとすり合わせを行い、労働者一人ひとりの意識改革につなげる。学びに必要な時間や費用の確保では、キャリア形成のための休暇・休職制度などの導入や環境整備を行う。

SOGⅠに関する差別を禁止する方針を規則や協約に明記する

ジェンダー平等の実現に向け、新たに、SOGI(性的指向・性自認)に関する理解促進と職場環境整備に取り組むことを盛り込んだ(統一目標基準)。具体的には、SOGIに関する差別を禁止する旨の方針を策定し、就業規則や労働協約に明記するようにする。また、理解促進を目的として、管理職を含む全従業員を対象とした研修や教育を実施する。トイレや服装、健康診断への配慮などの職場環境整備について検討を行う。

障がい児や医療的ケアが必要な子などをもつ家族など個別事情をふまえた両立支援の取り組みにも新たに一歩踏み出す。そうした労働者に対して定期的かつ効果的なタイミングで両立支援制度・福利厚生制度などの周知や情報提供を行う。また、障がい児や医療的ケアが必要な子がいる場合やひとり親であるなどの個別事情に関する本人の意向を確認し、その意向をふまえて、制度を柔軟に適用・運用するなどの配慮を行う。

ヘルスリテラシー向上の取り組みも新規項目。更年期症状や障害で離職する労働者もおり、ライフステージを通じて直面しうる健康課題などの情報を入手、理解して適切な対応をすることが重要であることから、ライフステージにおける健康課題などに関する情報の提供、セミナー・研修などを実施する。相談体制の整備や、休暇制度・柔軟な働き方の適用の検討も行う。

労務費の価格転嫁は産別労使交渉での議論テーマに

今年は賃金で高い水準の要求基準を設定したこともあり、中堅・中小についても大幅賃上げを実現できる環境を整えるとともに、中闘組合が引き出す回答の相場波及効果を最大化するため、価格転嫁の取り組みについては一層力を入れるとしている。昨年11月に、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(内閣官房・公正取引委員会)が発表されたが、これを活用し、指針の理解促進を図るとともに、労使協議などで発注者および受注者として採るべき行動・求められる行動についての理解が各加盟組合企業のサプライチェーン全体に波及するよう、会社への働きかけに努める。

電機連合では現在、加盟組合を対象に、労務費の価格転嫁に関するアンケート調査を行っており、交渉期間中に行う電経連との産別労使交渉での議論にも、その結果を活用したいとしている。

交渉スケジュールについては、要求提出を2月15日(木)までとした。中闘組合などは、スト権の確立を2月29日(木)までに行う。