定昇相当分含め6%の賃上げに取り組む/JEC連合闘争方針

2024年1月17日 調査部

化学・エネルギー関連産業の労組でつくるJEC連合(堀谷俊志会長、約12万5,000人)は11日、都内で中央委員会を開き、2024春季生活闘争方針を決めた。闘争方針は、24春闘で昨年を上回る賃上げに取り組む必要性を明記したうえで、定期昇給相当分(JEC連合では約2%)の確保を大前提に、平均所定内賃金4%のベア要求を示した。堀谷会長は、中小の賃金引き上げに向けて「大手労組が先行組合として世間相場を形成すること」と「原資が捻出できるよう取引先に対して適正な価格を支払うこと、あるいは値上げ交渉に真摯に向き合うことを要求書に書き込む」取り組みの必要性を強調した。

先行組合が積極的な賃上げに取り組むことで全体の底上げを図る(堀谷会長)

方針は、2024春季生活闘争の考え方を、「2024春闘では昨年以上の賃上げに取り組む必要がある」ことを指摘したうえで、「物価上昇分、生活向上分も加味し『底上げ』に重点をおいた交渉を行う」姿勢を打ち出した。23春闘で獲得した賃上げ額に大手と中小の間で差が生じたことから「全体として、加盟する中小組合の底上げの取り組みを行う」などと整理している。

冒頭、堀谷会長はあいさつで、大手をはじめとする先行組合が積極的な賃上げに取り組むことで全体の底上げを図る必要性を指摘。「『自分のところはそれなりに賃金が高いからベアしなくても大丈夫』ではダメ。世の中には自助努力だけで賃金を上げることができない組織や働く仲間がたくさんいて、彼らの賃金を引き上げるには大手労組や業績の良いところが先行組合として世間相場を形成することが必要だ」などと訴えた。

さらに24春闘では、「中小にその原資が捻出できるよう、大手を中心に取引先に対して適正な価格を支払うこと、あるいは値上げ交渉に真摯に向き合うことなどを具体的に要求書に書き込んでいく取り組みも行う」ことを付言。「モノを安く売りすぎているなかで、賃金だけを上げていくのは無理がある」と述べたうえで、「デフレ下のなかで染みついてしまった『良いモノを安く』ではなく、『良いモノをそれなりの値段で』という考え方・マインドに変えていくことも労働組合として訴えていく責任がある」と強調した。

定昇相当分の確保を前提に所定内賃金4%のベア要求を

具体的な賃上げ要求について方針は、「社会全体の賃金の底上げを行う観点から、定期昇給相当分(JEC連合では約2%)の確保を大前提とし、平均所定内賃金の4%のベースアップ要求とする」ことを掲げた。賃金全体では6%の要求になる。ベア4%要求の根拠は、① 2023春闘後においても実質賃金はマイナス ② 消費者物価と生産性向上分・生活向上分(物価+α) ③ 産別としての相場形成による社会的責任 ④ 中小組合の引き上げ――を示している。

堀谷会長はあいさつで4点の根拠について、「一つは23春闘で30年ぶりの高水準の賃上げが実現したものの実質賃金は下がっていて、対前年同月比19カ月連続でマイナスとなっている。二つ目は消費者物価が直近で対前年同期比プラス2.8%だが、物価上昇相当分の賃上げだけでは実質的な生活の向上にはつながらず、例えば経済成長分とか生産性向上分などを加味する必要がある。三点目は産業別組織の役割と社会的責任として、24春闘の相場形成・牽引、経済の好循環に向けて責任を持って対応する。そして四点目だが、JEC連合の約75%は300人未満の中小労組。その引き上げには、大手労組や業績の良いところが率先して世間相場を引き上げる。そのうえで、中小労組が積極的な賃上げに取り組む環境を構築し、中小を含めた全体の底上げに取り組みたい」などと説明した。

定昇制度のない組合は1万8,000円を要求

また、方針はJEC連合の水準に照らして「到達水準額(中位数)」に既に達していて、「経営環境等を鑑み労使関係維持に影響を及ぼすことが懸念される」組合は、連合方針(賃上げ3%以上、定昇相当分を含め5%以上)を基軸とした要求を組むこととする一方、「ミニマム水準(第1四分位)」に達していない組合は、ベア要求にさらに1%を目安に上乗せすることも明記した。

定期昇給制度を持たない加盟組合は、「平均定期昇給額の5,500円を定期昇給相当分、賃上げ要求額は平均所定内賃金の4%分にあたる1万2,500円の合計1万8,000円を要求し取り組む」。

初任給や企業内最賃の水準達成も目指す

関連・グループ会社も含めた初任給の点検も実施。各社の初任給が、① 高校(18歳):18万円 ② 大学(22歳):21万5,000円③修士(24歳):23万5,000円――の水準を下回る場合は、その到達を目指し、要求として取り組む。

「底支え」についても、「企業内のすべての労働者を対象とした企業内最低賃金協定の締結を行う」こととし、締結水準は生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、「時給1,200円以上」を目指す。

基本給の年齢別要求水準クリアで格差是正を

方針は、「格差是正」の取り組みとして、加盟組合が関連・グループ会社も含めた企業の賃金を点検することも求めている。具体的には、25~55歳までの5歳刻みでの基本給の「年齢別要求水準」を提示。実態調査のモデル賃金における基本賃金水準を、ミニマム水準(第1四分位)→到達水準(中位数)→目標水準(第3四分位)のステップでクリアしていくことで格差を縮めていく。

なお、方針はいわゆる「ジョブ型雇用(職務主義型)制度」を導入している加盟組合の対応についても触れ、「賃金カーブがない等の制度の性質を十分に理解したうえで、生計費としての必要水準を意識した職務給設定や職務につけるための教育を労使で検討する」としている。

男女間の格差是正に関しても、「男女の賃金の差異」の把握の重要性や男女別賃金調査結果を踏まえ、① 基本給ベースでの各人賃金 ②手当付与状況 ③ 産休・育休の取得状況及び取得後の賃金――に注意しながら、「男女別賃金実態の把握と分析を行うとともに、不合理な格差がある場合は、改善・格差是正に向けた取り組みを進める」考えだ。

一時金は年間4カ月をミニマム基準に

一時金は、「生活に必要な年収確保の観点」から、ミニマム基準を年間4カ月に設定。業績連動型一時金制度が導入されている組合は、算定式の下限月数を4カ月以上へ引き上げることを目指す。また、「企業業績や付加価値が適正に分配されている制度設計になっているか点検・検証し必要に応じて改善を求める」。

仕事と生活の調和実現に向けた取り組みも

方針は、仕事と生活の調和の実現に向けて「年間所定内労働時間・年間総実労働時間1,800時間」を目指す取り組みも明記。「労使間で十分な話し合いのできる場を設置する」ことや、段階的な労働時間短縮を図るために、「まずは全ての加盟組合が2024年度年間総実労働時間を1,900時間未満となるように取り組む」ことを掲げている。

年次有給休暇は初年度付与日数が15日以上となるよう取り組むとともに、「完全取得を目指し、1人当たりの取得日数10日未満とならないよう」にする。あわせて、取得日数5日未満の従業員がいないことも確認する。

時間外労働割増率の引き上げでは、企業規模にかかわらず、全ての加盟組合で、①1カ月45時間未満の時間外労働割増率35% ② 特別条項付き協定の締結を前提に45時間超の時間外労働割増率50% ③ 深夜および休日労働の割増率50%――などの実現に努める。

労使でテレワーク制度の導入・再点検の協議を

方針は、テレワークの導入と制度の再点検も行うこととしており、その際には ① 実施の目的・手続き、対象者、労働諸条件の変更等、労使協議を行い、労使協定を締結したうえで就業規則に規定する ② 情報セキュリティ対策や費用負担のルールなどについても明確に規定する ③ 適正な労働時間の把握、長時間労働の未然防止策と厚生労働省作成のガイドラインを意識しながら、作業環境管理や健康管理を適切に行うための方策を労使で検討する ④ メンタルヘルスを含めた健康管理について労使で協議する――などの視点を示した。

65歳定年延長基軸の取り組みを継続

60歳以降の雇用に向けた取り組みにも言及。65歳定年延長を取り組みの基軸とした「60歳以降の雇用に関する基本方針」(2022年1月の中央委員会で確認)に則った対応を図る。 具体的には、60~65歳までの雇用確保について、「希望者全員が65歳まで安心して働き続けることができるよう取り組む」としたうえで、「賃金、一時金、福利厚生等の労働条件が60歳以前よりも大幅に落ち込む状況、また雇用と年金の接続を確実に行う観点から、65歳定年延長に取り組む」方針。再雇用制度の場合も、「実質的に定年延長と同様の効果が得られるような制度の検討を行い、将来的な65歳定年延長に向けた検討を行う」としている。

さらに、65歳以降の雇用(就労)確保に関しても、改正高年齢者雇用安定法を踏まえ、原則、「希望者全員が『雇用されて就労』できるように取り組む」構え。ただし、労働者の体力や健康状態などの課題も出てくることから、「個々の労働者の意思が反映されるよう、働き方の選択肢を整備する」ことも求めていく。

このほか、方針はジェンダー平等の推進に向けた取り組みや、労災付加給付の要求水準なども示している。

共闘会議で業種別部会間の情報共有を

闘争の進め方については、連合の共闘連絡会議に参加・連携するとともに、JEC連合として業種別部会間の情報共有のための「共闘会議」も設ける。

要求書は原則、2月28日までに提出。連合方針に基づき、3月11日~15日を「先行組合回答ゾーン」とし、3月12~14日を「回答ゾーンの山場」とする。そのうえで、交渉が難航する場合でも、4月内での決着を目指す。

なお、中央委員会では、4回の共闘会議の開催を予定していることも明らかにした。「第1・2回は3月4日12時と17時にそれぞれ開催し、この2回の会議で要求状況の共有を図る。第3回は山場初日の3月12日に開き、集中回答日(とみられる13日の)前日に最終交渉に向けた情報共有を図っていく。そして、第4回は山場最終日の3月14日17時から開催し、先行グループの回答状況を共有する」(寺田正人事務局長)考えだ。