物価上昇から働く者の生活を守る観点も強調/自動車総連の中央委員会

2024年1月17日 調査部

自動車総連(金子晃浩会長、約79万9,000人)は11日、京都市で中央委員会を開催し、今春の賃上げ交渉に向けた取り組み方針(「2024年総合生活改善の取り組み」)を決定した。各組合が目指すべき賃金水準の達成を目指す「絶対額を重視した取り組み」を今年も継続。物価上昇に対して実質賃金が追いついていないとして、働く者の生活を守る観点も強調した。

絶対額を重視した方針に変更なし

自動車総連は、2019年の賃上げ交渉から、賃金の引き上げ幅ではなく、「絶対額を重視した取り組み」に転換。そのため、2019年の方針以降は、具体的な額や率での引き上げ幅による賃上げ要求基準を示していない。今回の方針は、「自らが目指すべき賃金水準の実現に向けた『絶対額を重視した取り組み』により、各組合が訴求力のある要求を構築し、成果に結び付ける流れが着実に進展している」とし、今年の取り組みでも「絶対額を重視した取り組み」を継続するとした。

また、「現在の状況は、物価上昇に対して実質賃金が追いついておらず、組合員の生活に直接影響を与えている」と言及し、「昨年から継続している物価上昇や実質賃金の低下から組合員の生活を守るためにも、賃金引き上げの流れを一過性のものとすることなく、継続的な賃金引き上げを実現させるとともに、中小含む全ての組合で賃金引き上げに向けて取り組まなければならない」と強調。価格転嫁を含む企業間取引の適正化についても、さらに浸透させ、総合生活改善の取り組みに向けた環境整備を行うとした。

物価上昇から働く者の生活を守ると明記

こうした考え方の下、取り組みの方向性では、「自動車産業は我が国の基幹産業であり、総合生活改善の取り組み結果が日本経済に与える影響は大きい」として、「自動車総連に集う全ての組合が日本経済の牽引に向けて取り組みを進める」と明記。「足元の物価上昇を踏まえれば、働く者の生活を守ることは喫緊の課題」とも記述し、実質賃金維持の必要性を強く訴えた。さらに、「全ての組合で認識を合わせ、積極的な賃金引き上げを行い、役割と責任を果たす」と、昨年に引き続き積極的に賃上げに取り組む姿勢も明確にした。

「根元からの絶対額」で要求額を決める

具体的な取り組みの内容をみると、絶対額を重視した取り組みでは、「各組合の自ら取り組むべき賃金水準の実現に向け、引き続き『個別ポイント賃金の取り組み』と『平均賃金の取り組み』を併せ持った『絶対額を重視した取り組み』を進めていく」とした。個別ポイント賃金の取り組みでは具体的に、単組は標準労働者の現行の賃金水準を把握したうえで、目指すべき賃金水準を設定し、それに向けた「根元からの絶対額」で要求額を決める。平均賃金の取り組みを併行して掲げているのは、賃金データを入手できていなかったり、賃金実態の分析がまだできていない単組もあるため。

自動車総連では、絶対額を重視した取り組みを進めるうえでのステップを加盟単組に提示している。ステップは、①賃金データの入手 ② 賃金実態の分析・課題の検証 ③ 賃金カーブ維持分の算出・労使確認 ④ 賃金課題の明確化・目指す水準の設定・改善計画の立案 ⑤ 具体的な取り組み⑥配分への関与・検証――の6段階となっている。自動車総連によると、2023年交渉を終えた時点でのデータで、ステップ1とステップ3ができている単組はそれぞれ89%、81%と8割以上に及び、ステップ2とステップ4はそれぞれ63%、64%と6割以上、ステップ6は75%に達している。

取り組み基準については、「中小含む全ての組合で賃金引き上げに向けて取り組み、自ら目指すべき賃金水準の実現・課題の解決と、実質生活および労働の価値の維持・向上を目指す」と掲げた。

賃金センサスプレミアなど多くの個別銘柄の参考額を引き上げ

方針は、個別ポイント賃金で要求する際の、目指すべき絶対額の参考とするため、「賃金センサスプレミア」「自動車産業プレミア」「自動車産業アドバンス」「自動車産業目標」「自動車産業スタンダード」「自動車産業ミニマム」という6つの基準額(それぞれ技能職若手労働者と技能職中堅労働者の2銘柄で設定)を設定している。今回は、実質賃金が低下していることも意識し、「賃金センサスプレミア」の両銘柄、「自動車産業アドバンス」「自動車産業目標」「自動車産業スタンダード」それぞれの若手銘柄、「自動車産業ミニマム」の両銘柄の額を見直して引き上げた。

これにより、「賃金センサスプレミア」は若手:34万1,400円、中堅:39万6,900円、「自動車産業プレミア」が同順(以降同じ)で28万2,000円、32万8,000円、「自動車産業アドバンス」が27万円、30万8,000円、「自動車産業目標」が25万3,000円、28万4,000円、「自動車産業スタンダード」が23万2,000円、26万2,000円、「自動車産業ミニマム」が22万3,000円、24万7,000円となった。

企業内最低賃金では18歳で18万円以上を目指す

企業内最低賃金については、取り組み基準を「① 協定未締結の全ての組合は、必ず新規締結に向けて要求を行う ② 既に締結している組合は、それぞれの状況を踏まえ着実に取り組みの前進を図る」とし、締結額について、18歳の最低賃金要求を「18万円以上」とし、18万円以上の目標設定が困難な場合は、17万3,000円以上を目指して取り組むこととするとした。なお、現在の達成状況は、16万8,000円の組合が61.2%で、17万3,000円以上の組合が33.7%となっている。

年齢別最低保障賃金の協定化にも取り組む。これまでは20歳から45歳まで5歳刻みで取り組み基準を示していたが、高齢者の雇用確保の観点から、50歳と55歳の基準を追加した。具体額は、20歳:18万3,000円、25歳:20万1,500円、30歳:22万3,000円、35歳:24万7,000円、40歳:26万500円、45歳:26万5,500円、50歳:27万3,000円、55歳:27万5,000円とした。

年間一時金については、昨年同様、「年間5カ月を基準」とした。非正規雇用で働く従業員のための取り組み基準としては、正社員に見合った賃上げ・労働諸条件改善を求めるとし、直接雇用の従業員については、一般組合員との関連性を強く意識し、自ら取り組むべき賃金水準を設定し要求するなどとした。

価格転嫁に向けては明示的な協議の確実な実施などを実行

価格転嫁を含む企業間取引の適正化の取り組みでは、企業規模が小さい中小組合ほど、賃金引き上げの獲得に至らなかった組合や要求から大きく乖離した回答になった組合があったことを踏まえ、「明示的な協議の確実な実施や労務費の価格転嫁が行える環境整備や課題解決に積極的に取り組む」などとした。労連では、メーカー(車体部品などのティア1も含む)に対して、購買・調達部門との意見交換などを通じた実態の洗い出しも行うとしている。各組合では、企業内で、日本自動車工業会や日本自動車部品工業会の活動が適切に行われているのかの実態把握などを行う。

昨年の賃上げでも生活環境を改善するに至らず

中央委員会で挨拶した金子会長は、「各労連・単組の尽力で昨年まで着実に継続した賃上げが図られ、一定の成果を上げることができたと認識している。したがって、本年の取り組みにおいても基本的スタンスすなわち絶対額を重視した取り組みは変えるべきではないと考えている。しかしながら、昨年の1年間だけを見れば、実質賃金を上回る賃上げ水準には届かず、生活環境を改善するには至っていない。現に全国でも実質賃金は昨年10月まで19カ月連続マイナスで推移している状況にあり、依然として中長期的な労働分配率の低下や主要先進国の中では最も低い賃金水準などといった課題解決も図られていない」と指摘。そのうえで、「今年はこうした状況を何としても打破し、閉塞しきっている世の中に風穴を通す、風穴を開ける取り組みとしていかなければならない。そのためには、まずは各組織での目指すべき賃金水準を上方修正する必要がある。そのうえで、引き上げ幅についてはそこに到達されるに足りる水準として、また単年で見ても必要十分な水準を確保することを念頭 に、昨年以上に強力に押し進めていきたい」と強調した。

労務費を含めた価格転嫁も自動車産業ではまだ不十分

また金子会長は、賃上げに取り組むにあたって、特に意識する必要がある点として、① 自動車の日本経済の牽引役としての役割 ② 自動車産業の魅力の維持向上 ③ 働く者の生活と労働価値を守るということ――の3点をあげた。このうち、自動車産業の魅力の維持向上については、中小企業が賃上げによる人への投資を行うため、適正な価格転嫁を確実に進めていく必要があると指摘。

「(適正な価格転嫁は)自動車産業内では労務費を含め全体としては十分に進んでいるとは言えず、依然として中小企業の収益を圧迫している状況にある。昨年11月末に公正取引委員会から労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針が公表され、違反の厳罰化や価格交渉促進などにより、労務費の価格転嫁が進展するよう働きかけを強化していることから、我々としても現場でしっかりこの指針に基づいた行動が取られているのか確認をしていく必要がある」と述べた。

働く者の生活と労働価値を守るとの観点では、「物価上昇率が昨年から現在至るまで継続的に3%程度で推移しており、生活者としての負担の蓄積は相当なものになってきている。これは組合員だけでなく同じ職場の非正規雇用で働く仲間も含めたすべての者で同じだということも認識する必要がある。したがって、全ての働く者の生活を守るためには、物価上昇分を上回る賃上げと企業内最低賃金協定の引き上げなどによって、実質賃金の低下を早期に改善する必要がある。逆に言えば、それができなければいつまでもこの負担感は解消されない」と強調した。

方針は、要求提出日については、2月末日までと設定し、大手メーカーなどの主要単組の統一要求提出日については、2月14日(水)までとした。主要組合の統一交渉日は、2月21日(水)、2月28日(水)、3月6日(水)の3回設ける。