長期雇用を前提とした賃金制度を/基幹労連定期大会

2023年9月13日 調査部

鉄鋼、造船重機、非鉄関連などの労働組合で構成する基幹労連(神田健一委員長、約26万8,000人)は9月7日から2日間、都内で定期大会を開き、新運動方針を確認した。春季取り組みの評価と課題では、過去との比較で前進回答率や平均獲得額が向上したことを「大いに評価できる」とした一方で、企業規模間での賃金格差や賃金カーブの歪みなどを今後の課題にあげて、長期雇用を前提とした賃金制度の必要性を強調した。役員改選では、津村正男事務局長(三菱重工グループ労連・神船地本)を新委員長に選出。新事務局長には石橋学氏(日本製鉄鹿島労組)を選んだ。

単年度交渉した総合重工と非鉄総合で満額や満額を上回る回答が

基幹労連の春季労使交渉は、「働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出す」との考え方の下、2006年の労使交渉から2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)で統一要求を掲げる形をとっている。1年目は「総合改善年度」と位置付け、大手が中心になって賃金などの主要労働条件を集中的に交渉。2年目は「個別改善年度」として、企業・業種間の格差是正などを主要交渉項目とする。が、2016年のAP16からは業種・部会による単年度の要求・交渉を容認。同年の労使交渉からは、総合(大手)でも総合重工や非鉄総合の労組が単年度の要求・交渉を行っている。

AP22・23春季取り組みのサイクルでは、2022年が「総合改善年度」にあたり、「2022年度3,500円、2023年度3,500円以上を基本」とする方針を設定した。そのうえで、「具体的には部門・部会のまとまりを重視して要求を行う」ことも明記し、産業・企業で業績にバラツキがみられるなか、2022年度の個別年度で部門・部会の判断ができるように柔軟性も持たせた。

その結果、大手では鉄鋼総合各社が2年分の賃金改善に取り組み、AP22で「2022年度3,000円、2023年度2,000円」の賃金改善で決着していた。

一方、2022年度には単年度の交渉を行った総合重工各社と非鉄総合各社は、今次交渉で2023年度分の賃金改善を要求。総合重工は1万4,000円、非鉄総合は3,500円~1万円の賃金改善に取り組み、総合重工は三井E&S(マシナリー)を除く6社が満額で決着。満額に届かなかった三井E&S(マシナリー)も1万円の賃金改善を獲得した。

非鉄総合では、3,500円の賃金改善を求めた三菱マテリアルとDOWAが満額回答。4,000円の賃金改善要求を行った三井金属も要求通りの回答を得たうえに、生活順応手当(4,000円)の追加回答もあった。組合側が物価上昇手当として6,000円以上を求めていた住友金属鉱山は、経営側が要求を上回る1万円の手当を回答。JX金属では、「インフレ手当支給および直長手当増額(1万円)」の組合要求に対し、6,543円の「特別支援手当・直長手当」の回答となった。

AP23では208組合が前進回答を獲得

こうした状況について、大会で報告された「AP23春季取り組みの評価と課題」は、208組合が前進回答(前進回答率91.6%)を引き出し、回答額の平均が6,339円となったことなどを指摘して「過去との比較において前進回答率、平均獲得額が向上したことは、大いに評価できる」とした。その一方で、賃金改善面での今後の課題として、「ここ数年、業種別組合の格差改善の取り組み成果が表れてはいるものの、総合組合と業種別組合の賃金格差が依然として大きい実態にある」ことを指摘。また、「法定最賃の引き上げに対応した若年層への重点配分や、雇用年齢の引き上げによるシニア層への配分などにより、組合によっては賃金カーブに歪が生じている懸念がある」として、長期雇用を前提とした賃金制度の構築を訴えた。

年金支給開始年齢を踏まえた「65歳現役社会」の実現に向けた取り組みも

基幹労連では、「65歳現役社会」の実現に向けた労働環境の構築に取り組み、労使話し合いの場の設置などの基盤整備をいち早く推進してきている。23春季取り組みでも、83組合が要求し、50組合が前進回答(前進回答率58.8%)を引き出した。回答の主な内訳は、65歳定年の制度導入(5組合)、労使話し合いの場(19組合)、65歳定年の制度改善(10組合)、再雇用制度の改善(25組合)となっている。

「評価と課題」は、「この間、既に制度導入している組合に加え、定年年齢を65歳へ延長した組合や『労使話し合いの場』での議論をふまえ、会社提案を受ける組合があるなど、着実に前進がはかられている」と評価する一方で、「経営状況の悪化や議論不足などによって2021年度からの制度導入が出来なかった組合が多々あるのも事実」だと指摘。2021年度の60歳到達者から年金支給開始年齢が65歳となっていることを踏まえ、早急に取り組む必要性を強調した。

優秀な人材の確保・定着のため継続した「人への投資」を

AP24・25春季取り組みに向けて新運動方針は、「物価上昇局面での取り組みとなったAP23春季取り組みの経過と結果もふまえ、高技能・長期能力蓄積型産業として必要不可欠な『優秀な人材の確保・定着』に資する継続した『人への投資』を求めていかなければならない」とした。総合改善年度となるAP24春季取り組みでは、「取り巻く情勢等を精査し、基幹労連としての一体感を堅持して部門・部会のまとまりを持って最も効果的な取り組みとなるよう検討する」構え。65歳現役社会の実現に関しても、「65歳定年制度の迅速な導入と、既に65歳定年制度を導入している組織においてもさらなる制度の充実に向け、情報の収集・提供とフォローを行う」などの考えを示している。

「2年サイクルの好循環運動の方向性のもとで変化への対応力を磨き続ける」(神田委員長)

神田委員長はあいさつで、労働諸条件の改善に向けた労働政策や産業政策などを2年サイクルで取り組んできたことに言及。「2年サイクルの好循環運動は、運動のエネルギーを最適配分することで、主要な政策をより密度の濃い取り組みとするためのものとして進めてきたものだ」などと述べたうえで、「歴史が積み上げてきた成果を振り返れば、その方向性に間違いはない。そのもとで取り巻く環境を見極めながら、個別課題において変化への対応力を磨き続けていかなければならない」と強調した。

また、65歳現役社会の実現の取り組みについても触れ、「私たちがめざしたものは、年金受給開始年齢の引き上げへの対処だけではない。入社から65歳までの一貫した定年制度の構築は、技術・技能の伝承という課題対処と優秀な人材の確保とともに、女性や高齢者の活躍が企業運営を大きく変えるという視点からの取り組みでもある」などと訴えた。

津村新委員長、石橋新事務局長を選出

役員改選では、神田委員長が退任し、後任に津村正男事務局長を選出。津村事務局長の後任には、日本製鉄鹿島労組の石橋学氏が選ばれた。