「例年を大きく上回る回答引き出しと産業全体への波及を図れた」と今春の賃上げ交渉を総括/自動車総連の定期大会

2023年9月13日 調査部

自動車総連(金子晃浩会長、約79万6,000人)は7、8日の両日、都内で定期大会を開催し、2023年春季生活闘争(「2023年総合生活改善の取り組み」)の総括を確認した。今春の取り組みでは、賃金改善分の平均獲得額が5,050円、獲得した組合の割合が89%となり、ともに賃上げが復活した2014年以降で最高を記録。総括は全体の結果について「自社・産業の魅力向上に向け労使で真摯に論議し、例年を大きく上回る回答引き出しと産業全体への波及を図れた」などと評価した。

賃上げでは自らの賃金課題に物価上昇の観点も加え取り組む

自動車総連は今春の総合生活改善の取り組み方針で、「自動車産業、各企業、そして働く者の課題解決に向け、労使で徹底した議論を行うことで、産業・企業・職場の競争力向上と働く者の総合的な底上げ・底支え、格差是正及び働きがいの向上を図り、自動車産業全体の魅力向上と永続的な発展に繋げていく」ことなどを方向性として掲げた。

なかでも賃上げの取り組みについては、「絶対額」を重視した取り組みを前提に、すべての単組が自らの賃金課題の解決や物価上昇の観点、働く者の総合的な底上げ・底支え、格差是正に向けて、労使で議論を重ね自ら取り組むべき賃金水準の実現に取り組むなどとした。

絶対額重視の取り組みでは6つのステップが「着実に定着」と評価

大会では、東矢孝朗・事務局次長が、今春の取り組み総括を報告した。それによると、「絶対額」を重視した取り組みでは、① 賃金データの入手 ② 賃金実態の分析・課題の検証 ③ 賃金カーブ維持分の算出・労使確認 ④ 賃金課題の明確化・目指す水準の設定・改善計画の立案 ⑤ 具体的な取り組み ⑥ 配分への関与・検証――という自動車総連が定める取り組みの6つのステップに沿って「着実に定着」しつつあると評価。目指すべき賃金水準の実現や賃金課題の解決に向けた「自らの要求」が浸透しているとした。具体的な進捗状況をみると、ステップ5である「具体的な取り組み」まで進んでいる組合の割合は64%(昨年は62%)、ステップ6である「配分への関与・検証」まで進んでいる組合の割合は75%(同74%)に達している。

一方、課題としては、「規模間や業種間の十分な賃金格差是正には至っておらず、継続した取り組みが必要」だとした。

個別賃金の要求・回答状況をみると、要求単組数は631組合で昨年から21組合増加。回答単組数も増加し、昨年の172組合から195組合に増えた。この結果については「目指すべき賃金水準の実現に向けて取り組みを継続できた」と評価する一方、要求根拠の設定や、会社の納得性の観点から取り組みの難しさがあるとして、「組合の状況に合わせた効果的な取り組みが必要」と振り返った。

最終的な賃金改善分の平均獲得額は5,050円で2014年以降での最高

平均賃金の賃上げの最終結果をみると、賃金改善分の平均獲得額は5,050円で、昨年の1,518円から大幅に増加。獲得した組合の割合は89%で昨年の63%から20ポイント以上増加した。これについては「労使が真摯な議論を行った結果、2014年以降最大の成果を獲得することができた」と評価。課題としては、11%の単組が賃金改善分を獲得できなかったことや、獲得額が1,000円未満の組合もあったことなどをあげた。

賃金改善分の平均獲得額を規模別にみると、「3,000人以上」が6,402円、「1,000人~2,999人」が5,964円、「500人~999人」が5,663円、「300人~499人」が5,473円、「299人以下」が4,642円となった。

一方、未獲得割合は「299人以下」の組合が14.7%と最も高くなっている。中小のほうが大手に比べ低額にとどまったことについて総括は、「半導体不足による計画未達や原材料価格の高騰、また価格転嫁が進んでいないことによる業績悪化が主な理由」だとした。

年間一時金の平均獲得月数は4.45カ月

企業内最低賃金協定締結の取り組みでは、締結割合は80%で、平均締結額は16万9,331円と昨年の16万4,556円から大幅アップした。年間一時金は、平均獲得月数が4.45カ月となり、昨年の4.33カ月を大幅に上回った。非正規雇用で働く労働者の時給引き上げ額の平均は33.1円で、昨年の17.1円を大きく上回った。

価格転嫁など企業間取引に関する取り組みでは、受発注双方における取引実態の共有や、具体的な取り組みに結び付けるために何ができるのか論議が行われ、「サプライチェーン全体の発展に向けた取り組みを進めることができた」と総括した。

「産業全体への波及を図れた」と総括

総括は、2023年の取り組み全体の受け止めについて、「自社・産業の魅力向上に向け労使で真摯に論議し、例年を大きく上回る回答引き出しと産業全体への波及を図れた」などとし、「自動車産業の魅力向上に向けた取り組みを一定程度進めることができた」と評価。課題としては、「底上げ・底支え、格差是正の取り組みは未だ途上」である点と、サプライチェーン全体の発展に向けた取り組みを加速させる必要性をあげた。

来春に向けて「今年単発で終わらせてはいけない」と金子会長

金子会長はあいさつで、今春の取り組み結果について「(産業に発展に向けた取り組みとして)労働条件の優先順位は依然として高い。今次春の取り組みでは、企業での深刻な人手不足、物価上昇による生活毀損への対応が労使の共通認識となり、結果全体としては、ここ数年にない大幅な賃上げを獲得するなど非常に大きな成果をあげることができた。また、こうした取り組みを通じて、非正規雇用で働く仲間や未組織取引先の従業員への波及、さらには日本経済好転への機運づくりにも一定程度貢献できたものと考える」と評価。

そのうえで来春に向け、「来春の方針策定は年明けになろうかと思うが、少なくともここで共有しておきたいのは、こうした取り組みを決して今年単発で終わらせてはいけないということだ。すべての仲間の賃金水準をさらに引き上げていくことで、日本経済の好循環に寄与し、産業内での人材を確保し、国際競争力を維持・向上させていく必要がある。そのためには今年の交渉を通じて労使で共有できた認識や価値観を引き続き持てるような経営環境を作り、職場での成果を上げ、お互いの理解が深まるように取り組んでいかなければならない」と強調した。

EVに対する新たな課税には断固反対

大会ではまた、向こう2年間の新運動方針を決定した。主な内容をみると、持続可能な魅力ある自動車産業の実現に向けては、自動車関係諸税の取り組みにおいて「走行距離課税やモーター出力課税、EV/FCVに対する自動車税のみなし課税の増税や新たな課税には、断行反対」であることを表明。中小の体質強化に向けては、中小企業もカーボンニュートラルやデジタル化を進め、生産性を向上していくことが必要不可欠だとして、「業種別部会を中心に、各労連・単組と連携してこれらの課題の本質を捉え、経営者団体との議論を深め、組合のない中小企業を含めた産業全体の環境改善・体質強化に向けた流れを生み出していく」とした。

安心して活躍できる職場づくりに向けては、労働災害が減らない現状を鑑み、安全衛生の取り組みを「重点方針」に格上げした。重大災害・休業災害の発生傾向を分析し、代表事例を含めて各労連と共有することで、類似災害の未然防止に努めるなどとしている。このほかの重点方針としては、総労働時間短縮の取り組みや、ジェンダー平等・多様性に対する取り組み、絶対額を重視した取り組みの推進などを掲げた。ジェンダー関連では、「女性が組合活動に参画しやすい環境整備」と「女性組合役員の拡大」に取り組むことなども盛り込んでいる。

運動方針の討議では、各労連が本部への要望と決意表明を行った。発言のなかでは、総実労働時間短縮の取り組みについて、「労連での取り組みだけでは前に進めることが難しい」として、総連全体をあげての取り組みを要望する声も目立った。

役員改選を行い、金子会長(全トヨタ労連)、並木泰宗・事務局長(日産労連)は再選された。