賃金体系維持分を含め6%程度の引き上げを要求する闘争方針を決定/UAゼンセンの中央委員会

2023年1月20日 調査部

化学・繊維などの製造業からスーパーマーケットなどの流通業、また、サービス業に至るまで、幅広い業種をカバーするUAゼンセン(松浦昭彦会長、186万7,000人)は18日、大阪市で中央委員会を開催し、2023労働条件闘争方針を決定した。物価上昇分を確保するだけでなく、他産業との格差是正も意識し、賃金体系維持分を含めた引き上げ要求基準は連合方針よりも1%高い6%程度と設定した。パートタイマーの組合員の時給引き上げについては、5%以上の引き上げにさらに積極的に1%程度を上積み要求する内容とした。

上昇する物価の負担を補うには月例賃金の引き上げが欠かせず

方針は、2023闘争の基本姿勢について、① 組合員の生活を守り実質賃金が向上する賃上げに取り組む ② 物価上昇に負けない社会的な賃上げを実現するため統一的運動の力を発揮する ③ 人への投資として労働条件改善を生産性向上につなげる ④ すべての加盟組合が共闘に参加し交渉力強化に取り組む ⑤ 労働条件交渉を促進する社会環境づくりに取り組む――の5本に整理。特に実質賃金向上を目指す賃上げへの取り組みに向けて、「上昇する物価の負担を補うためには、一時金や一時的な手当ではなく月例賃金の引き上げが欠かせない」と強調している。

労働条件闘争のうち、賃金闘争については、要求の考え方を3つに整理した。1つめは、「すべての組合員の生活を守り、生活向上を実感できる実質賃金の引き上げをめざす」。消費者物価の上昇や労働分配率の低下などを踏まえ、「個人消費を支え、経済の安定的な成長を実現し、組合員の生活の向上をはかるため、生産性の向上をふまえた実質賃金の向上が必要」とするとともに、「賃金を積極的に引き上げ、人材を確保し、人への投資をしていかなくては企業の継続的成長は成し得ない」と強調。「組合員の期待に応え、社会的な賃上げの流れをつくるため、制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%程度、合計6%程度の賃金引き上げを目ざす」として、連合の2023春季生活闘争方針が設定する賃上げ要求目安、5%程度を上回る要求に取り組んでいく姿勢を掲げた。

2つめは「産業間、規模間、雇用形態間の格差是正に積極的に取り組む」。賃金水準を把握し、格差を明確化して取り組み、パートタイム労働者を指す短時間組合員については「同一労働同一賃金」の考え方を踏まえて正社員組合員との格差是正を意識した基準を提示するとしている。

3つめには「企業内最低賃金の引き上げ、協定化を必須とする」、3つめには「賃金体系維持分を明確にした要求を行う」との考え方を掲げた。

ミニマム未達なら体系維持分+5%+格差是正分1%程度で要求

こうした考えに沿った具体的な要求基準(平均賃金引き上げ)を正社員組合員からみていくと、【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合】【到達水準未達の組合】【到達水準以上の組合】の3つの水準別に基準を設定。なお、ミニマム水準は「高卒35歳・勤続17年」「大卒30歳・勤続8年」の両銘柄ともに24万円、到達水準については両銘柄ともに「25万5,000円を基本に部門ごとに設定」とし、目標水準については両銘柄ともに「部門ごとに設定」とした。部門は、医薬、化学、繊維などの産業ごとに各メーカー組合が所属する「製造産業」、スーパーマーケットや百貨店、ドラッグストアなどの組合が所属する「流通」、フードサービス、ホテル・レジャーなどの組合が集まる「総合サービス」の3つに分かれている。

【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合】については、「賃金体系維持分に加え、3%以上賃金を引き上げる。賃金体系が維持されていない組合は、賃金体系維持分を含め5%以上賃金を引き上げる。加えて、人への投資、人材不足への対応、産業間・規模間格差是正へ向け、積極的に1%程度の上積み要求に取り組む」とした。

【到達水準未達の組合】については、「実質賃金の向上と格差是正の必要性をふまえ、部門ごとに各部会・業種の置かれた環境に応じた要求基準を設定する」とし、【到達水準以上の組合】については、「実質賃金の向上を目ざすという要求趣旨をふまえながら、目標水準へ向け部門ごとに要求基準を設定する」とした。

短時間組合員は5%以上に1%程度を積極的に上積みする

短時間組合員(パートタイム労働者)の要求基準については、「制度昇給分に加え、時間額を3%以上引き上げる。制度昇給分が明確でない場合は、時間額を制度昇給分を含めた総率として5%以上、総額50円を目安に引き上げる。加えて、人への投資、人材不足への対応として積極的に1%程度の上積み要求に取り組む」とし、雇用形態間の格差是正が必要な場合は、「正社員組合員以上の要求を行う」とした。

企業内最低賃金(18歳以上)の要求基準については、「月額17万9,000円、時間額1,100円をもとに、消費者物価の地域差を勘案して各都道府県別に算出した金額以上とする」とした。正社員組合員の初任賃金の要求基準については、高卒で17万9,000円、大卒で22万円を基準とするとした。

2023年期末一時金闘争については、正社員組合員については「年間5カ月を基準に各部門で決定」とし、短時間組合員については「年間2カ月以上とし各部門で決定」などとした。

「賃上げが低位なら内需型産業にはさらなる打撃に」(松浦会長)

松浦会長はあいさつで、「多くの産業・業種で賃金水準が社会水準を下回るUAゼンセンとしては、まずこの物価上昇分を賃金引き上げ分として確保し、そのうえで格差是正を進めるために、4%程度の賃金引上げ、体系維持分込みで6%程度の賃上げを目指すこととした」と要求基準の考え方を説明。

「今回の物価上昇は多くの内需型産業にとって収益の増加を伴わないものであり、交渉は極めて厳しいものになると思う。しかし、厳しいからといって今次賃上げが低位にとどまれば、消費は冷え込み、内需型産業はさらなる打撃を受けることになる」と述べるとともに、「これからを担う人材確保のためにも社会水準並みの賃金水準が必要だ。短時間組合員についても、最低賃金が大きく上昇するなかで、経験や能力を適正に評価した賃金の高さ、正社員との格差是正を追い求めていく必要がある。こうした点を労使間で徹底的に議論し、組合員の生活安定と企業の持続的発展のために賃上げを含む人への投資が何より重要であることについて、経営に理解を求めていかねばならない」と訴えた。

賃金以外では外国人労働者の人権尊重などを盛り込む

賃金関係以外の取り組みでは、労働時間の短縮・改善、退職金改定、労災付加給付改定、65歳への定年延長、外国人労働者の就業環境の整備、職場のハラスメント対策などを項目として掲げた。外国人労働者については、加盟組合で外国人組合員を多く抱えるところもあり、人権尊重を一層意識した環境整備に向けて、労働協約などの規則・規定の点検や、就業規則などの多言語化、法令順守や企業の講ずべき措置に関する協議、多文化が共生する職場づくりに取り組む。

闘争の進め方については、原則、すべての加盟組合が闘争に参加するとし、要求書の提出は2月20日(月)までを基本とするとした。

流通のミニマム未達では1人平均1万4,500円以上で要求

中央委員会の翌19日には、各部門が評議員会を開き、部門方針を決定した。賃金闘争方針に限って内容をみると、製造産業部門では、全体の基準としては「賃金体系維持分に加え、3%以上の賃金引き上げを要求し、格差是正に向けた積極的な上積み要求に取り組む」とし、【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合】ではおおむね、賃金体系維持分+3%以上の賃金引き上げ+「格差是正に向けた積極的な上積み」、【到達水準未達の組合】ではおおむね、賃金体系維持分+3%基準の賃金引き上げ+「格差是正に向けた積極的な上積み」、【到達水準以上の組合】ではおおむね、賃金体系維持分+3%基準の賃金引き上げ――を内容とする要求基準とした。

流通部門では、【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合】については「賃金体系維持とベースアップ含む賃金引き上げ」で「1人平均1万4,500円以上」とした。賃金体系維持が2%、物価上昇分が3%、格差是正分が1%という組み立てだ。

【到達水準未達の組合】については、賃金体系維持分が明確な組合は「賃金体系維持分に加え、ベースアップを含む賃金引き上げ1人平均8,750円(3.5%)以上」とし、賃金体系維持分が明確でない組合は「総額1万3,250円(5.5%以上)」とした。【到達水準以上の組合】については、賃金体系維持分が明確な組合は「賃金体系維持分に加え、ベースアップを含む賃金引き上げ1人平均7,500円(3.0%)以上」とし、賃金体系維持分が明確でない組合は「総額1万2,000円(5.0%以上)」とした。

短時間組合員については、「正社員組合員の要求水準同等もしくは、それ以上を要求する」を基本とし、正社員と職務の内容が異なる・職務の内容が同じ場合で、定昇などの制度昇給がある組合員は「4.0%以上の賃金引き上げ」、制度昇給がない組合員は「60円(6.0%)以上の賃金引き上げ」と設定。正社員と同視すべき短時間組合員の場合は「正社員の賃金水準と均等になるよう、賃金引き上げを要求する」と設定した。

総合サービスは体系維持分+4%基準が基本

総合サービス部門では、「賃金体系維持分に加え4.0%基準で賃金を引き上げること」を基本とし、【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合、社会水準未達の組合】については「4,500円(賃金体系維持相当分)に加え賃金引き上げ4.0%基準、または1人平均6.0%基準を要求する。なお、本部方針に鑑みて実質賃金の向上と格差是正を目指し、少なくとも1人平均1万2,000円以上を要求する」と設定。【社会水準到達および目標水準到達の組合】については「賃金体系維持相当分に加え賃金引き上げ3.0%以上、または1人平均5.0%以上を要求する。一定部分については総合的な労働条件の改善分も要求としてみなすものとする」とした。

短時間組合員については「制度昇給分に加え、4%基準の時間額を引き上げる」とし、制度昇給分が明確でない場合は「制度昇給分を含めた要求総率として6%基準、総額として時間あたり60円を目安に引き上げる」などと設定した。