金属労協主要組合の賃金改善額は昨年をわずかに上回る/2021春季労使交渉

2021年3月24日 調査部

[労使]

金属労協(JCM)が集中回答日に設定した17日までに、金属大手各社の賃上げ回答が一斉に労働組合側に示された。金属労協主要組合の賃金改善分の平均獲得額は、昨年の最終額をわずかに上回り、JCMの髙倉明議長は「全体として賃上げをはじめとする人への投資の流れを途切れさすことなく継続できた」と評価した。

賃金改善分の平均獲得額は1,138円

JCMがまとめた19日現在の回答集計では、集中回答日までに回答を引き出す相場牽引役の「集計対象組合」54組合のうち、39組合が賃金改善分を要求した。賃金改善分の要求組合数は前年よりも17組合少ない。

賃金についての回答を引き出したのは51組合で、すべてで賃金構造維持分を確保。賃金改善分を要求した39組合のうち32組合が獲得を果たした。

賃金改善分要求額の平均は2,452円で、前年の最終結果(3,118円)を600円以上下回ったが、賃金改善分の平均獲得額は1,138円で、前年の最終結果(1,060円)を若干上回る結果となった。

一時金は2014年以降で初めて5カ月割れ

一時金については、54組合のうち要求したのが31組合で、業績連動方式を採用している組合が23組合となっている。要求した31組合すべてで回答を受け、平均月数は4.94カ月と前年(5.05カ月)を下回るとともに、2014年以降でみると初めて5カ月を割った。

企業内最低賃金協定については、35組合が協定額の引き上げを要求し、24組合が引き上げを果たした。平均引き上げ額は1,213円となっている。

経営側は先行き不透明感を強調

集中回答日である17日昼に本部で会見した髙倉JCM議長(自動車総連会長)は、今次交渉での経営側の姿勢について「1年以上にわたるコロナ禍のなかで、各企業で行われてきた施策を理解し協力してきた組合員に対して感謝を示し、人への投資の必要性は認識するとしながらも、先行き不透明感を強調し、特に賃金改善に対してはきわめて慎重な姿勢に終始し、交渉は難航した」と振り返った。

先行組合の回答結果については「多くの組合で賃上げを獲得することができ、厳しい交渉環境のなかで、JC共闘の相乗効果を発揮できた。金属産業にふさわしい賃金水準の実現に向け、継続的な賃上げの獲得にこだわり交渉を行った結果であり、新型コロナ禍や大変革に伴う先行き不透明感が強いなかにおいても、全体として賃上げをはじめとする人への投資の流れを途切れさすことなく継続できた」と前向きに評価した。

トヨタの一時金は満額

各業界の賃金・一時金の回答状況をみると、自動車総連の主要組合では、トヨタが一時金で要求満額の6.0カ月を獲得。日産(5.0カ月)、本田(5.0+0.3カ月)も満額回答となった。賃金については、個別賃金水準ではトヨタ、本田などは要求した個別水準の確保を確認。トヨタでは、組合側の要求が「賃金引き上げ・人への投資全組合員一人平均9,200円」となっており、月例賃金だけでみた要求額が非公表であるものの、同社の豊田章男社長は「組合員の皆さんの頑張りに感謝し、賃金・賞与については、要求どおりとする」(同社HP「トヨタイムズ」)との回答を組合側に伝えた。定期昇給相当分を切り分けることができない、個人の成果に応じた賃金制度を採用している日産は、組合側が要求した「平均賃金改定原資7,000円」で妥結した。

自動車総連では絶対額を重視した取り組みとして「個別賃金要求」を進めているが、17日現在での個別賃金要求単組数は中堅労働者ポイントで615、若手労働者ポイントで337となっている。平均賃金要求の平均は5,985円で、賃金改善分を要求した単組の要求提出組合に占める割合は92.2%(926単組)。

髙倉会長は主要メーカーの賃金についての回答結果について「たいへん厳しい交渉環境となるなかで、自らの要求の必要性と、組合員が果たしてきた労働の質の向上、自動車産業の変革期やコロナ禍を乗り越えるという強い決意をもって、すべての単組で回答日ギリギリまで交渉を追い込んだ。要求・回答の内容は各単組の状況により異なるが、各単組のふんばりによって、それぞれの最大限の回答を引き出すことができ、賃上げを軸とした人への投資の流れを継続できたことは、最大限の成果と受け止める」と、総連本部での会見で語った。

日立は1,200円の水準改善を獲得

産別統一闘争を展開する電機連合では、13の中央闘争組合すべてが、15日の中央闘争委員会で確認した闘争行動の回避基準(いわゆる歯止め基準)である「1,000円以上」(開発・設計職基幹労働者の個別ポイントでの水準引き上げ)をクリアする賃上げ回答を会社側から引き出した(統一要求基準は2,000円以上)。日立が1,200円、村田製作所が1,100円で、パナソニック、富士通、東芝、三菱電機、NECなど11組合は1,000円で決着した。

要求方式をとる組合の一時金妥結結果は、日立が「5.75カ月+特別加算3万円」、三菱電機が「5.7カ月」などとなっている。電機連合が他の産業に比べ低位にあるとみている初任給では、日立をはじめ、大卒で1,500円の引き上げ(21万7,000円)、高卒で1,000円の引き上げ(16万9,000円)を獲得した。

神保政史委員長はJCM本部での会見で、「新型コロナウイルス感染の産業・企業への影響が大きく、また、企業・業種ごと業績の違いが鮮明となるなかで、かなり厳しい交渉となった」と振り返りながら、中闘組合の引き出した回答について「電機産業労使、各企業労使が真摯に協議・交渉して導き出した解であると素直に受け止める。電機産業労使の役割を果たすことができた」と述べた。

中小の賃金改善分の平均額が大手を上回る

機械、金属関連の中小を多く抱えるJAMでは、19日までで、1,020組合が賃金に関する要求を提出し、そのうち437組合が回答を得て、211組合が妥結に至った。平均賃金で要求した1,000組合の平均賃上げ要求額の平均は7,497円で、回答額が5,031円、妥結額は5,308円となっている。比較できる同一の単組でみた前年比は要求額が692円マイナスで、妥結額は32円マイナスとなっている。

賃金構造維持分を明示して要求している単組(746組合)のうち331組合が回答を引き出しており、そのうち、獲得した賃金改善分が明確となっている138組合での改善分の平均額は1,212円。これを規模別にみると、3,000人以上の大手では1,052円だが、300人未満では1,301円と大手を上回るとともに、全体平均をも上回る結果となっている。3,000円以上や4,000円以上の賃金改善を獲得した組合も出ている。安河内賢弘会長は17日のJCM本部での会見で「中小の大手追従からの脱却の動きが続いている」とコメントした。

一方、JAMに加盟する大手の先行組合の回答状況をみると、島津は平均賃金で1,300円、アズビルが1,413円、クボタ労連が1,075円相当、浜松ホトニクスが1,000円、CKDが1,402円の賃金改善分を獲得した。安河内会長は「大手がベアや賃金改善分を獲得してくれたことで、後続の中小の交渉の後押しになる」と評価した。賃金以外でも、テレワーク手当の獲得や定年後再雇用者の処遇改善などで成果がみられた。

JX金属は3,390円の賃金改善を獲得

基幹労連では、総合重工などの大手組合が賃金改善の要求を断念し、非鉄総合で住友金属鉱山、三井金属、DOWA、JX金属が3,000円の賃金改善を要求したが、住友金属鉱山とDOWAでは獲得ならず、三井金属では671円、JX金属では3,390円で決着した。

全電線では、古河電工、住友電工、フジクラ、昭和電線の大手4組合が「賃金原資の増額を伴う賃金改善」を要求し、住友電工(300円)と昭和電線(1,512円)が賃金原資を獲得。古河電工では介護離職防止の支援策の導入で折り合った。