3年連続で3,000円以上の賃上げ要求基準/自動車総連の方針決定

2018年1月17日 調査部

[労使]

自動車総連(髙倉明会長、約77万人)は11日、兵庫県神戸市で中央委員会を開催し、今年の春季労使交渉に向けた「2018年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。平均賃金要求方式での要求基準は「3,000円以上の賃金改善分を設定する」と、2017年方針と同じ内容としたものの、髙倉会長は「昨年以上に『以上』に込めた思いは強い」と強調した。直接雇用の非正規労働者の賃金については、初めて要求基準の中で具体額を示し、「時給20円を目安とした賃金改善分を設定する」とした。

直接雇用の非正規労働者の賃金改善分について「原則として時給20円」の目安を明示

方針は、平均賃金要求方式での要求基準について「全ての単組は、求める経済・社会の実現、現下の産業情勢を踏まえた上で、労働の質の向上に対する成果の適正配分と人への投資、及び賃金格差・体系の是正を求めるべく、3,000円以上の賃金改善分を設定する」とした。

直接雇用の非正規労働者の賃金については、「原則として、時給20円を目安とした賃金改善分を設定する」と明記。要求基準の中で直接雇用の非正規労働者の賃金改善分を設定し始めたのは2016年方針からだが、具体的な改善分の金額を明示したのは今回が初めて。

要求基準3,000円以上の「『以上』に込めた思いは昨年以上に強い」(髙倉会長)

中央委員会であいさつした髙倉会長は、現在の経済に対する認識について「景気回復が継続していかにも安倍政権の経済政策が功を奏しているように見えるが、個人消費や設備投資などは伸び悩み、内閣府の調査でも、国民の生活満足度は右肩下がりの傾向にあるなど、我々国民にとっては実感なき経済成長が続いている」と指摘。「生活が良くなれば経済が良くなるボトムアップ型の状況を早急に構築する必要がある。そのためにも、自動車産業労使の果たすべき役割と責任として、今次総合生活改善の取り組みを通じ、働く者の将来不安の払拭と日本経済の自律的成長に向けた道筋を確固たるものとしていかなければならない」と強調した。

方針の内容については、「とりわけ、各単組、特に中堅・中小が自ら目指す賃金のあり方を強く訴求するなど、真の意味での構造改革を推し進め、全体の底上げ・格差是正の前進を果たしていく」と述べるとともに、「格差是正を有効的に進めていくためには賃金の上げ幅中心の共闘では限界があり、目指すべき賃金水準・根っこからの高さ、この水準到達に向けた要求根拠の組立ての方が労使間での論議になりやすい側面もある。上げ幅だけでなく、絶対額を重視する『個別賃金』による要求・回答の引き出しにも積極的に取り組んでほしい」と強調し、個別賃金要求の積極的な取り組みも加盟労組に要請した。

また、髙倉会長は、要求基準を3,000円以上と設定したことについて「ゼロベースから論議し、産業情勢・成果の適正配分・格差是正や、一体となって取り組める水準などの観点を総合的に勘案して決定した」と説明。さらに、「昨年同様に『以上』が(3,000円の後に)ついているが、格差是正や日本経済の自律的成長を実現させていくためにも、今年は昨年以上に、この『以上』に込めた思いは強く、各単組における具体的要求水準に明確な意思を込めて積極的に反映してほしい」と訴えた。

「プレミア」から「ミニマム」まで5段階の賃金到達目標水準を設定

方針は個別ポイント絶対水準要求での要求基準について、「技能職中堅労働者(中堅技能職)の現行水準を維持し、水準向上や格差・体系是正を図るべく、各単組の判断により賃金改善分を設定する」と記述し、「賃金センサスプレミア」(37万円)~「自動車産業ミニマム」(24万円)まで5段階で到達目標水準を設定した。

企業内最低賃金協定の締結に関する取り組み基準は、「全ての未締結単組は新規締結に必ず取り組む」とし、すでに締結している単組については「着実に取り組みの前進を図る」として、要求基準に定めた締結額に未達の組合は締結額の引き上げを図ると定めた。要求基準は、18歳の最低賃金要求について昨年の水準より2,000円高い16万円以上と設定。基準を達成している組合については、今年新たに、金属労協が目標基準に設定する16万4,000円以上での協定化を目指すことを付け加えた。正規従業員のみを対象とした協定を締結している単組は、非正規労働者への締結対象の拡大を目指すことも盛り込んだ。

年間一時金については、2017方針と同様、「年間5カ月を基準とし、最低でも昨年獲得実績以上とする」とした。

「働き方の改善」について抑制的な36協定の締結などに取り組む

自動車総連では、今年の総合生活改善の取り組みについて、賃金引き上げを始めとした「労働諸条件の改善」だけでなく、「働き方の改善」と、自動車産業の付加価値をメーカーから販売、輸送にまで至る産業全体に循環させることを目指す2016年からスタートさせた「付加価値のWIN-WIN 最適循環運動」の取り組みを連動させることで「全体の底上げ・格差是正の前進」を実現すると強調する。方針は「働き方の改善」については、抑制的な36協定の締結などを取り組みの柱に掲げた。具体的には、直近に締結した36協定で、特別延長時間が年720時間以下及び月80時間以下に至っていない単組は、年720時間以下及び月80時間以下での締結を目指す。なお、特別延長時間の上限が年間720時間超または月80時間超となっている単組は現在、総連全体で171組合あるという(自動車総連全体の単組数は約1,100)。

「付加価値のWIN-WIN 最適循環運動」の取り組みについては、中央委員会の中で本部から、活動の進捗に関する報告があった。自動車メーカーと車体メーカーでは、操業カレンダーについて自動車総連のモデルカレンダーをもとに各労使で協定を結んでいるが、カレンダー変更時の手続きを再徹底したという。また、販売部門も含めて産業内でカレンダーを統一していくことを目指し、正月やお盆などのコアな連休期間については可能な限り、販売部会もカレンダーを合わせていくことの検討を開始したという。

車体・部品、販売、輸送など大手メーカー以外の各部会も意見表明

中央委員会では、本部による方針の提案に合わせて、各部会が検討経過を報告し、決意表明をする時間も設けられた。車体・部品部会は「2017年は賃金改善分の獲得組合数が増えたものの、改善分の金額は他部門より低かった」と前回の取り組みを振り返り、今回も部会独自の個別ポイント賃金の補完基準を設けて取り組むと発言。また、メーカーを超える賃金改善分を獲得できた組合数が部会で100を超えるなど、取り組みに前進が見られることから、本部に対しても格差是正に向けた一層の取り組みを要望した。

販売部会は、2017年では賃金改善分を獲得した単組数、割合、平均額も16年を大きく上回ったものの、「1割を超える単組は4年連続で改善分を獲得できていないなどの課題がある」とする一方、販売各社の賃金は地域色が強いことから、同地域の他産別の賃金データも入手しながら交渉に当たっていきたいと話した。

輸送部会は、2017年は賃金改善分の獲得組合が「5割に満たなかった」と振り返り、「単組はそれぞれ現状に応じたステップアップを確実に図っていく」と述べた。また、輸送業界では長時間労働が特に課題となっていることから、36協定の取り組みと「付加価値のWIN-WIN 最適循環運動」の合わせ技が必要不可欠だと強調した。

メーカー部会は、すべての単組の取り組みが前進できる交渉環境づくりに向けた議論を重ねてきたと報告するとともに、メーカーは直接雇用の非正規社員に支えられていることから、「一歩でも二歩でも非正規労働者の取り組みを前進させなくてはならない」と意気込みを語った。

討議では、独立系の部品メーカー労組で構成する部品労連に所属する単組から「(自らの組合で)賃金改善分を獲得できなかったことが人材流出の一因になったことは否めない」「技能を高めたい社員の声がある中で、3,000円以上の賃金改善分を要求することが必要なことを痛感した」などの発言があった。また、部品労連として今回、賃金改善分として3,000円を超える要求基準を設定する予定であることも報告した。