働き方改革の実現に向けて発展的かつ柔軟な対応をはかる/JP労組定期全国大会

2017年6月21日 調査部

[労使]

日本最大の単一労組である日本郵政グループ労働組合(JP労組、約24万1,000人)は14日から16日までの3日間、広島県広島市で定期全国大会を開き、向こう2年間の新運動方針を決定した。新方針は、同一労働同一賃金の実現や長時間労働の是正等の働き方改革について、「高位平準化による解決は見通しにくく、非常に難しい判断が迫られることも想定される」として、「すべての働く者の立場に立って、発展的かつ柔軟な対応をはかっていく」ことを明記している。役員改選では、新委員長に増田光儀副委員長を選出。新書記長には石川幸徳書記次長が就任した。

働く者の目線で中期経営計画へ意見提起

2007年の民営分社化とJP労組結成から10年――。郵政事業はこの間、IT化の進展で郵便物の減少傾向に歯止めがかからず、コンビニでの振替サービスやATMでの送金が一般化することで郵便局窓口の来客数も減少している。また、日本銀行のマイナス金利政策の導入により、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社の資金運用の困難性も極めて高くなっている。各関連子会社も環境の変化にあわせて課題を抱える一方、M&Aで子会社化したオーストラリアのトール社は減損損失が計上されている。

新方針はこうした取り巻く環境を説明するとともに、「金融サービスを含めたユニバーサルサービスを維持していくための受委託の仕組みについて検証し、今後のあり方について検討する時期を迎えている」ことを指摘。今後、日本郵政株式の二次売却に向けて市場の関心が高まるなかでの2018年度以降の中期経営計画の策定について、JP労組として「会社の検討状況を十分注視し、働く者の目線から積極的に意見提起を行っていく」とした。トール社に関しても、「国際物流事業の成長に向けて、確かなビジネス戦略の構築を引き続き求めていく」とした。

そのうえで、JP労組の「真に組合員の幸せ実現」を追求する運動の基本スタンスは、こうした社会情勢や市場の現状を踏まえつつも、「いささかもぶれることはなく、その社会的使命や責任は今後も変わることはない」と強調。この先5年程度を時代に合った多様な働き方や新たな事業展開を創造する期間として位置付けて、新たな運動の創造に向けて中期的な運動の基本方針と具体的な活動の方向性を示している。

安心社会の実現と企業価値と処遇の向上を

方針によると、JP労組が目指すべき社会像は、連合が掲げる「働く人を軸とする安心社会」の理念と政策を共有し、「安心して暮らせる公正な社会形成と、平和で豊かな社会の実現を追究していく」とした。並行して、「事業の成長・発展を展望し、その成果の適正な配分の実現をはかることを前提に、一時金のみならず、トータル的な処遇や労働条件の維持・向上につなげていく」構え。全国一律のユニバーサルサービスを提供している事業の公共性や全国ネットワークを活用した利便性の向上によって社会への貢献度を高め、社会的な企業価値の向上と処遇や労働条件と連動させて、グループで働く全ての仲間の処遇を向上させていく考え方で、「グループ全体の処遇改善を求めるに当たっては、基本的な処遇については共通のプラットフォームを維持しつつ、各事業の特性や働き方の違いに基づいた付加的な処遇改善の検討を行っていく」としている。

働き方改革の実現に向けたきめ細かな往復運動の徹底を/小俣委員長

一方、方針はいわゆる「働き方改革」にも言及している。「同一労働同一賃金の実現や長時間労働の是正等を目指していく」ことを明記。その一方で、働き方改革に関する労使協議について、「見込まれる法整備のスピード感からすると、経営見通しの不透明感が漂っているなかでの議論になる」と予測し、「現状においては高位平準化による解決は見通しにくく、非常に難しい判断が迫られることも想定される」とした。このため、「事業構造の改革等の成果を早期に実らせていけるよう取り組みつつ、相当の緊張感を持って慎重に議論に望んでいかなければならない」として、「すべての働く者の立場に立った『働き方改革』の実現に向けて、発展的かつ柔軟な対応をはかっていく」方向性を打ち出した。

小俣委員長はあいさつで、働き方改革について「当然、その基本スタンスは、処遇の底上げによる不合理な処遇差の解消を目指すもの。しかし、営業黒字の確保に困難性が伴うような状況下では、高位平準化による解決を見通すことは容易ではなく、非常に難しい判断が迫られることも想定しておく必要がある」などと説明。「すべての働く者の立場に立った働き方改革の実現に向けて、よりきめ細かな往復運動を徹底していかなければならない」と述べ、丁寧な労使協議の必要性を訴えた。

目指す姿に向けた「五つの創造の扉」を設定

方針は「具体的な目指す姿」に向けて、①安心して暮らせる社会の実現 ②労使関係の高度化によるチェック機能の向上とユニオン・ショップ協定の実現 ③職場課題の解決をはかり、働きやすい職場の実現につなげる ④組合員がイキイキと活動できる組織の構築 ⑤未来を担う人材の発掘と育成――の「五つの創造の扉」を提起。さらに、その扉を開く具体的な活動として五つの〝鍵〟を示し、「一つの鍵だけでは扉は開かず、五つの鍵を組み合わせてこそ、一つひとつの扉を開くことができる」との考え方を示している。

30万組織の実現や福祉型運動の推進を

「五つの〝鍵〟」となる具体的な活動については、まず「組織の活性化には、組織に対する求心力の向上が不可欠であり、組織の求心力の向上は、職場課題の解決に向けた取り組みが重要な要素になる」として、「組合員と組織のつながり創り」と「職場課題の解決に向けた取り組み」の徹底をはかることを掲げた。

2つ目には、「労働組合の最大の任務は団体交渉を通じて組合員の雇用確保と労働条件の維持向上をはかることにあり、その交渉力は組織の数に裏付けられる」として、改めて30万人組織の早期達成を目指していくことを提起。3つ目は、全国に存在する職場で働く組合員が、一市民としての立場から地域特性に合わせた地域貢献活動を展開する「福祉型労働運動の推進」により、組合員一人ひとりの自己実現のステージにもなり、安心・安全な社会づくりにもつながっていくとした。

来夏参院選での組織内候補擁立も

4つ目の鍵は、大きな曲がり角を抱えている郵政事業の再構築をはかりながら、格差是正や中高年になってもイキイキと働ける環境構築等を目指す「政策立案・実現力の向上」を掲げ、最後には民進党との連携のもと、民主リベラルな政治勢力の結集を追求していく「政治的影響力の拡大」を挙げた。なお、方針は、2019年夏の参院選での組織内候補擁立準備を進めて行く考えも示している。

増田委員長、石川書記長を選出

大会では役員改選を行い、小俣利通委員長の後任に増田光儀副委員長が就任し、書記長には、石川幸徳書記次長が就いた。