「月例賃金の引き上げ」にこだわった結果、賃上げの流れが継続/連合中央委員会

2017年6月2日 調査部

[労使]

連合(神津里季生会長、約675万3,000人)は1日、熊本県熊本市で中央委員会を開き、「2017春季生活闘争 中間まとめ」を確認した。中間まとめは、現時点までの結果について、「2014春季生活闘争以降4年間継続して『月例賃金の引き上げ』にこだわる方針を打ち出し続けた結果、賃上げの流れは継続している」などと評価した。

中小組合の健闘が昨年にも増して目立っている/神津会長

あいさつした神津会長は、「いわゆる『春闘』は、1955年にスタートし、折々の時代背景を踏まえながら取り組みを進め、今年で62年を迎えた。そのなかで、2014闘争からは、長年の慣行や惰性での取り組みとなっていないか、という課題提起をした。その一つの解決策として2016闘争で『底上げ春闘』を掲げ、今年が2年目の取り組みとなっている」と、近年の春季生活闘争のスタンスの変化を説明。そのうえで、今季の回答について、「4月末の状況を見ると、要求提出組合、年度内決着組合の数はともに増加し、中小組合における主体的な取り組みによって、大手を明確に上回る回答を引き出すなど、健闘が昨年にも増して目立っている」、「パートタイム、有期契約、派遣労働で働く労働者にかかわる取り組みでも、雇用の安定化を含む処遇改善の進展、『働き方改革』に向けた取り組みの進展などが見られる」などと評価するとともに、「賃金の引き上げ率をベースとした社会相場の形成から、賃金の絶対水準を重視する運動に変えていくことを提起した1995年以降、経済社会の変化のなかで十分実現できなかった取り組みが、この2年で着実に前進している」と強調した。

企業規模間格差の是正に向けた進展が

中央委員会で確認した中間まとめは、「2017春季生活闘争全般に対する現時点(5月9日時点)の受け止め」として、「2014春季生活闘争以降4年間継続して『月例賃金の引き上げ』にこだわる方針を打ち出し続けた結果、賃上げの流れは継続している」と強調。特に、「中小組合の健闘により『企業規模間格差の是正』に向けて進展があった」と評価し、「中小企業における賃上げ原資確保のためには、サプライチェーン内で生み出された付加価値を適正に分配することが必要であり、そのためには企業間取引の適正化が必須であるという点について、中小企業労使のみならず、社会全体にも認識が浸透しつつある」とした。「雇用形態間格差の是正」に関しても、「いわゆる『非正規労働者』の処遇改善が進展した」と述べている。

賃上げ分の額・率ともに300人未満が300人以上を上回る

こうした受け止めの根拠となる5月9日時点での第5回回答集計結果によると、平均賃金方式での賃金引き上げの状況(3,978組合、約242万1,415人)は、定昇相当込みの賃上げ平均額(加重平均)で5,806円、率は1.99%で、前年同期に比べ、額で109円、率でも0.03ポイント下回った。ただし、賃上げ分が明確にわかる1.851組合の集計での賃上げ分は、加重平均で1,332円、0.46%となっており、昨年同時期(1,612組合)の882円、0.30%を上回っている。

また、平均賃金方式での定昇相当込み賃上げ額を規模別で見ると、300人以上の組合の定昇相当込みの賃上げ平均額(同)が、額で5,960円、率では2.01%と、前年同期に比べ、額でマイナス132円、率もマイナス0.03ポイントだったのに対し、300人未満の組合の定昇相当込みの賃上げ平均額(同)は、額が4,598円、率は1.90%で、こちらは前年同期に比べて額で84円、率でも0.04ポイント上回った。

賃上げが明確にわかる組合での賃上げ分についても、300人以上が1,327円、0.45%なのに対し、300人未満は1,382円、0.58%と、額・率ともに300人未満が300人以上を上回った。

一方、非正規労働者の賃金引き上げは、時給(291組合、62万4,498人)で、賃上げ額の単純平均が20.27円、加重平均が21.44円で、昨年同期比で単純平均は2.17円、加重平均も3.23円増えている。

大手準拠・大手追従の構造を転換する運動が前進

集計内容を踏まえて、各要求項目への回答状況に対する受け止めをみると、賃上げでは、平均賃金方式での賃上げ額、率ともに昨年同時期を下回っているものの、「賃上げ分が明確にわかる組合の集計では昨年同時期を上回っているなど、「賃金改善を継続して実現しえたことは、今後の運動に大きな意味を持つ」と強調した。また、300人未満の中小労組が「賃上げ分」「定昇相当分込み」とも昨年同時期比でプラスになっていることに加え、「賃上げ分」で300人以上の大手労組を上回っていることから、「『大手準拠・大手追従などの構造を転換する運動』が前進している表れであり、企業規模間格差の是正に繋がるものと高く評価する」と総括した。

非正規の労働条件改善やワーク・ライフ・バランスの取り組みも

非正規労働者の労働条件改善については、賃上げ回答の結果とともに、「正社員や無期雇用契約への転換等に関する取り組みは要求・回答件数とも昨年同時期を上回っている」として、「雇用安定に向けた取り組みに進展がうかがえる」と評価した。

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みでは、「要求はのべ4,023件で、昨年同時期の3,752件を大幅に上回った。うち1,035件の回答が引き出された(昨年同時期比354件増)」と指摘。加えて、「ライフスタイルに応じた働き方と処遇に関する検討の提起」も大幅に増え、育児・介護等両立支援の進展も昨年同時期を上回っているなどと評価した。

労働者の立場に立った「働き方改革」実現の取り組みが必要

今後の主な検討課題としては、「底上げ・底支え」「格差是正」に重点を置いた賃金の社会的水準確保を重視する取り組みや、「大手追従・大手準拠などの構造の転換」と「サプライチェーン全体出生み出した付加価値の適正配分」などの考え方を維持した運動を継続していくことが重要だと強調。そのうえで、「今後の通年的な取り組みとして、法改正等の内容を先取りしていくと同時に、企業の存続に不可欠な『人財』確保のために労働者の立場に立った本来の意味での『働き方改革』を職場から実現する取り組みが必要」と主張している。

将来に向けた春闘の構造転換を

春闘に関する議論では、自動車総連が「中小組合を中心に取引関係を過度に意識することなく、自分たちの課題に労使で向き合い賃上げをはじめとした労働条件の向上や働き方の改善に結びつけるなど、全体として賃上げ継続と総合生活改善の構造転換が進みつつあるが、その背景には個別企業労使および社会全体で一定の理解が進んだことに加え、人手不足に対する経営側の危機感が表出した」と説明。今後もこうした環境が続くことを踏まえ、「本年の成果と課題をしっかり総括し、将来に向けた春闘の構造転換を進めて行くことが肝要だ」とした。

個別賃金の取り組み強化を求める声も

一方、JAMは、5月12日時点での賃上げ集計で、賃金改善分は規模別で300人未満(1,367円)が1,000人以上(1,099円)を大きく上回っているものの、平均賃上げ方式で見ると300人未満(4,824円)と大手(6,414円)の違いがあることを報告したうえで。「JAMでは差が縮まったとは言い難い状況が展開されている」と発言。そのうえで、「1995年から絶対水準にこだわる個別賃金要求を展開しているが、JAMではなかなかその運動が定着・広がりを見せない。ただ、少なくとも現行水準の開示はできるだろうということで、(前年の約2.5倍にあたる)518単組が現行の30歳ポイントの水準を開示することができた。絶対水準にこだわった春闘の議論を深めながら、個別賃金の取り組みを強化して欲しい」と要望した。

均等均衡待遇原則の法制化などの早期実現をめざす

中央委員会ではこのほか、向こう2年間の「政策・制度 要求と提言」と「2018年度重点政策」を確認した。要求と提言は、働くことを軸とする安心社会の実現のために必要な政策課題等をまとめたもの。重点政策は、要求と提言で掲げた政策課題を中心に、2017年7月~2018年6月の1年間で、「実現をめざす重要度の高いもの」「早期の実現は難しいが重要度合いが非常に高く、重点的に取り組みを進める必要があるもの」を抽出し、策定した。

重点政策には、①東日本大震災からの復興・再生の着実な推進②経済・産業政策と雇用政策の一体的推進および中小企業・地域産業への支援強化③「公平・連帯・納得」の税制改革の実現④長時間労働是正に向けた法整備と労働者保護ルールの堅持・強化⑤すべての労働者の雇用の安定と公正処遇の確保⑥すべての世代が安心できる社会保障制度の確率とワーク・ライフ・バランス社会の早期実現⑦「子どもの貧困」の解消に向けた政策の推進――の7項目を最重点課題に据え、時間外労働の上限規制の法制化や解雇規制の緩和反対、均等均衡待遇原則の法制化などの具体策を盛り込んでいる。

なお、中央委員会では連合が行う「国際活動戦略―世界を良くする労働運動をめざして―」が報告された。今後、運動方針や政策・制度要求などに同戦略の行動計画を反映させていく考えだ。