賃金体系維持のうえ3,000円以上の水準改善を/電機連合の闘争方針

2017年2月1日 調査部

[労使]

電機各社の労働組合で構成する電機連合(野中孝泰委員長、約61万人)は1月26、27の両日、横浜市で中央委員会を開き、開発・設計職基幹労働者を要求ポイントに位置づける賃金水準引き上げの統一要求基準について、昨年と同じ3,000円以上とする2017闘争方針を決定した。シャープ労組が5年連続で統一闘争から離脱する見通しであることも報告された。

生活実態アンケートで月例賃金が「増えた」とする割合が低下

電機産業の動向をみると、電機・電子産業の2016年4月~9月累計の国内生産高は前年同期比で4.1%の減少となっている。ストライキ権を中央闘争委員会に委譲し、要求から回答まで足並みを揃えて統一闘争する中闘組合企業13社の中間決算期時点における2016年度業績見通しでは、売上高合計が2012年度以来、4年ぶりに40兆円を割り込む見通し。うち9社が売上高の下方修正を行っている。

一方、電機連合が組合員に対して行った生活実態アンケートによると、3年連続で賃金水準の引き上げを獲得したにもかかわらず、月例賃金が増えたとする回答割合が低下している。電機連合ではこうした背景について、「多くの労働者が雇用不安、生活不安、将来不安を抱えており、賃上げ分が貯蓄に回っている」(野中委員長)と分析。そのため、方針は今次闘争について、「『生活不安、雇用不安、将来不安』の払拭とともに、電機産業の持続的な発展をめざし、継続した『人への投資』に取り組む」と位置付けた。そのうえで、生活不安の払拭につなげる観点から賃金体系を図ったうえで賃金水準の改善を求めることや、長時間労働の是正など適正な総実労働時間の実現、非正規労働者を含むすべての労働者の労働条件の底上げ、有期契約労働者の雇用安定と処遇改善など8項目に取り組むことを基本方針とした。

「生活の維持・改善を図るための継続した賃金水準改善の実施を」(野中委員長)

あいさつした野中委員長は2017闘争に向けて、「働く側が抱える3つの不安の払拭を着実に進めることが重要だ」と強調。「この3年間の取り組みを通じ、賃上げが日本経済に直結する問題であることを政労使で共有できたことは極めて大事な視点だ」と述べる一方、「しかし、賃上げ論議を経済との関係のみではなく、働く者の実態にもっと目を向ける必要がある。可処分所得が増えておらず、実質生活が改善していないという実態を踏まえ、その解決に向け多面的な取り組みをやっていかなければならない」と述べた。さらに、「電機労使が主体的に取り組めることとして、電機産業で働く全ての人の生活の維持・改善を図るための継続した賃金水準改善の実施を強く訴えていく必要がある。加えて、電機産業の持続的な発展と魅力ある電機産業をめざした『人への投資』の重要性を強調したい」と述べた。

産別最低賃金の2,000円の引き上げを要求

具体的な要求内容をみると、賃金では「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)における賃金水準の引き上げを、統一闘争の対象とする統一要求基準に設定。要求基準は、賃金体系の維持(現行個別賃金水準の確保)を図ったうえで、3,000円以上の水準改善を行うとした。また、産業別最低賃金(18歳見合い)も統一要求基準の対象に設定し、直接雇用の非正規労働者の公正処遇をめざすとともに、水準格差がある高卒初任給との差を埋めていく観点から、16万2,000円への引き上げを求める(現行水準から2,000円の引き上げ)。

もう1つの統一要求基準項目である年間一時金は、「賃金所得の一部としての〔安定的確保要素〕と企業業績による〔成果配分要素〕を総合的に勘案し、平均で年間5カ月分を中心とする」とし、産別ミニマム基準を例年どおり、年間4カ月分確保に設定した。

一方、統一的に取り組むものの、ストライキの行使を背景とはしない「統一目標基準」では、製品組立職基幹労働者(35歳相当)の賃金の水準引き上げや、年齢別の最低賃金、高卒・大卒の初任給、技能職群(35歳相当)のミニマム基準で、それぞれ要求基準を設定した。製品組立職基幹労働者賃金の水準引き上げは、具体的な金額で設定することはせず、「開発・設計職の水準改善額に見合った額」とした。

電機連合は2015闘争から、統一闘争を強化する目的で、「何としても守るべき領域」と「各組合が業績や処遇実態を踏まえ、主体的に処遇改善に取り組む領域」の2つの領域を設定している。「何としても守るべき領域」は、賃金の引き上げや一時金、最低賃金が該当し、2017年闘争でもこれまでどおり、「不退転の決意で取りきらねばならない」要求項目に位置付けるとしている。一方、「主体的に処遇改善に取り組む領域」では、各組合が「達成プログラム」を立てて、それに向かって交渉を推進する。各組合が自らの労働条件の立ち位置を把握できるようにするための指標である「ベンチマーク指標」と、労働条件の達成の目標数値である「政策指標」を本部が作成し、提示する。なお、現行の開発・設計職基幹労働者賃金の「政策指標」は、「必達基準」が25万円、「到達基準」が27万円、「目標基準」が31万円、「中期的にめざす目標基準」が35万円となっている。

36協定特別条項の限度時間の引き下げも

総実労働時間の短縮に向けた取り組みでは、まず、電機連合の「労働時間対策指針」をもとに、適正な時間管理が行われているかどうか、各組合で労使協議する。36協定に関しては、電機連合が政策指標に設定している「特別条項における臨時的業務の限度時間 1カ月:80時間以下、1年:700時間以下」を実現していない組合は積極的に限度時間の引き下げに取り組むとしている。

労働契約法第18条に基づく有期契約労働者の無期転換への対応について、無期転換への対応状況を確認、把握したうえで、無期転換者を正社員とするよう求め、やむを得ず多様な正社員区分を設定する場合は、不合理な労働条件としないことを確認する。

シャープ労組が統一闘争からの離脱を申出

闘争体制では大手13組合で中央闘争組合(中闘組合)を構成。中闘組合は産別方針にしたがい、統一要求基準に設定された同一の水準改善額を会社側に要求し、ストライキの行使を背景に統一決着に向けて交渉を進める。

2016闘争では、東芝労組が業績悪化を理由に、シャープ労組は会社再建中であることを理由にそれぞれ統一闘争から離脱した。シャープについては冒頭、野中委員長があいさつで触れ、「シャープ労組委員長から、再建に向けて職場一丸となって取り組んでおり、社会との約束である早期回復に向けたプログラムの実行を最優先したいとの申出があった」などと述べた。さらに、2017闘争方針の提起のなかで、神保書記長が改めて事情を説明。シャープ労組の統一闘争の対応について、同社労使が経営再建の途上にあることを踏まえ、 ① 2017年闘争でも中闘組合の使命を果たすべく中闘組合の指名は行う ② そのうえで、2017年闘争においては、中闘組合としての役割・責任を凍結する ③ 正式には2月20日の第1回中央闘争委員会で(その旨を)確認する――ことを報告した。

東芝労組の動向については、野中委員長は事前の会見で、「第3四半期決算をみてみないと何とも言えない」とするとともに、「何とか社会の信頼を取り戻そうと構造改革を行い、純利益の通期見通しが1,450億円まで回復した。組合員も昨年、がまんしてやっとここまできて、それに何とか報いたいという気持ちは会社も組合も同じだろう。複雑な感情が入り交じって協議しているのだと思う。東芝労組の決断を第1に考えたい」と説明した。

働き方改革への対応や職場環境改善に向けた意見が

闘争方針の質疑では、長時間労働の是正などの働き方改革への対応や職場環境改善に労組が積極的に関わる姿勢を示す発言が目立った。政府が進める「働き方改革実現会議」の議論について、全富士通労連は「政治が果たす役割は、社会の仕組みにある問題を解消すること」と前置きしたうえで、「職場で労使が知恵を出し合いながら制度をつくり運用してきている労使の立場を担保されるとともに、働く者の代表である私たちの意向が最優先に議論に反映されるよう連合や組織内議員、協力議員を通じた電機連合の力の発揮をお願いしたい」と要請した。

NECグループ連合は「働き方改革は、様々な角度からアプローチをしないと実現できず、文化や慣習、個人の意識といった目に見えないものを変えていかなくてはならない」としながら、「労働の大切さや働くことの喜びを広く伝えていくことも労働組合の役割。働くことがネガティブなイメージにならないよう活動していかねばならない」と強調。パナソニックグループ労連も、「(自分たちの)仕事を進めていくに当たって、自信が持てていない」ことに言及しながら、「仕事や人間関係を通じて成長していく実感があったり、自分の仕事をやり遂げることが会社や自分にとって良いことにつながるようにできているかが問題だ」と指摘した。

一方、日立グループ連合は、昨年来掲げているサプライチェーンの各プロセス・分野の企業で適切な付加価値が確保されることを目指す「付加価値の適正循環」の取り組みについて、「この取り組みは働き方や賃金格差の圧縮、非正規労働者の処遇改善にもつながるベースとなるものだ」と評価したうえで、「単に企業グループ内だけでなく、できればユーザー・消費者に対してもメッセージとなるよう社会的なアピールをお願いしたい」と訴えた。

なお、加盟組合は2月16日までに要求書を経営側に提出し、本格的な交渉がスタートする。